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187話 喜怒哀楽を共に

 俺は改めて、窓から飛び込んできたアドワゼルを見る。

 魔人の特徴である褐色の肌で、額には立派な二本の角を持っている。

 スッと一本引かれた眉は軽く吊り上がっていて、その迫力のある瞳と相まって豪胆な性格を感じさせた。


「お妃さま、お帰りなさいませ」

「定時連絡ありがとう。私がいない間、よくやってくれたわね」

「褒めていただき光栄です」


 秘書と軽く会話を交わしつつ、アドワゼルは俺たちのほうへと近づいてくる。

 おっと、さっき自己紹介されたんだし、俺たちも自己紹介しておいたほうがいいな。


「ユーリだ、よろしく頼む」

「フィーリアです、初めまして」


 挨拶をすると、握手を求められたので応じる。

 握った手にキュッと軽く力を込められ顔を上げれば、そこには微笑むアドワゼルの顔があった。


「ユーリ君は精悍でフィーリアさんは可憐ね。二人ともとても華があって素敵よ」

「……おいガルガドル。本当はアドワゼルが国王なんじゃないか?」

「たしかに我よりも向いてそうではあるが、国王は我だぞ。なぜそんなことを言う?」

「第一印象って大きいですもんね。ガルガドルさんの最初のイメージって、その、『親ばかな人』ですし」

「フィーリアの言う通りだな」

「ぐ……反論できぬ……」


 最初の印象が親ばかだったからな。ロリロリにデレデレだったし。

 それに引き換えアドワゼルはきちんとしているし、どっちが国王に見えるかは語るべくもない。

 窓から飛び込んできたのは驚いたが、そのくらいのほうが行動力ありそうだしな。


「軽口も言い合えるところまでガルガドルも心を開いてるのね。ロリロリの友人って聞いてたからどんな人かと思ってたけど、いい人たちみたいで安心したわ」

「うむ、いいヤツらだぞ。たまに常識外れではあるが」

「フィーリア、言われてるぞ」

「絶対ユーリさんです。だって私完璧ですもん」

「二人ともこういうところがある」


 こういうところってどういうところだ。


「なるほど。ガルガドルの言ってること、なんとなくわかったわ」


 何がわかったんだ。教えてくれ。


 とそこで、アドワゼルの元にロリロリが走り寄る。

 そしてそのままジャンプして、勢いよく胸元に抱き着いた。


「母上! ぎゅ~! ぎゅ~!」

「はいはい、ぎゅ~っ。いい子にしてたみたいね、えらいわよロリロリ」


 抱き着くのはいつものことのようで、アドワゼルはうろたえることなく優しくロリロリを抱きとめる。


「……あら、ロリロリあなた、ちょっと見ない間にまた大きくなったんじゃない?」

「その通り! ロリロリは日々成長を続けている!」

「ロリロリは私の見ていないところでもどんどん大きくなっていくのね。……あなたの成長をこの目で見れないことが、お母さんちょっと寂しいわ」

「案ずるな我が妻よ。お前が外交に行ってからのロリロリの様子は、我がぬかりなく写真に収めている」

「さすがあなたね!」

「うむ、そうであろう」

「ロリロリも! 母上、ロリロリもさすがになりたい!」

「ロリロリもさすがね!」

「やったぁー!」


 そんな家族の光景を目を細めてみていると、その視線に気が付いたらしいフィーリアが声をかけてくる。


「仲良し家族って感じで心温まる光景ですよねー」

「ロリロリにあれだけの勢いで抱き着かれてバランスを崩さないあの体幹……アドワゼル、大したヤツだ」

「そこじゃない、今見るべきは絶対そこじゃないです」

「いい家族だよな」

「……なんだ、ちゃんと見てるじゃないですか」


 そう言うフィーリアは何故かにんまりと嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 そして俺を見たままウンウンと何度かうなづく。


「ユーリさんが家族の大切さに気付いたようで何よりです」

「家族はもちろん、そうじゃなくてもいつも傍で喜怒哀楽を共に出来る存在っていうのは大切だよな」

「ユーリさんで言うと? ユーリさんで言うと誰ですか?」

「筋肉とフィーリア」

「筋肉手ごわすぎません? いつになったら私勝てます?」

「むしろ並んだことを誇れ」


 フィーリアは「えー」と納得できなそうな声をあげているが、何が不満なのかわからない。

 筋肉と並べるなんてこの上なく凄いことじゃないか。

 俺の中で筋肉に並んだのはお前が初めてだぞ。


「……初めてって言われると、悪い気はしませんね」


 ナチュラルに心を読むな。

 でもまあ、不満は解消されたようなので良かった。


 そんな話をしている間も、ロリロリたちの会話は続いている。

 あちらはあちらで盛り上がっているようだ。家族水入らずの時間を邪魔するほど野暮ではないので、その間トレーニングをして待っていることにする。

 ちょうどフィーリアも暇そうだし……ちょうどいい。


「なあフィーリア。ロリロリたちはもう少し時間がかかりそうだし、ちょっくら俺に魔法を撃ってきてくれないか?」


 明日の大会には俺は参加しないが、あの口笛男がお祭り騒ぎに乗じて何かを企んでいる可能性はある。万が一戦闘になったときのために、フィーリアの魔法を受けて最終調整をしておきたい。


「ユーリさん、時と場所をわきまえましょう。フィーリアお姉さんとの約束です」

「おかしいな、わきまえた上での判断だったんだが」

「怖い話は苦手なんです、やめてください」


 怖い話をしたつもりはないぞ。

 フィーリアがいる時に広い場所ですることと言ったら、魔法を受けるトレーニングだろ。


「国のツートップが目の前にいる時に王の間で魔法をぶっ放す馬鹿がどこにいるんですか!」

「ああ、なるほど……フィーリア、やっぱお前って頭いいなぁ」


 一度トレーニングしたくなったら、普通そんなところまで気が回るか? いや、回らない人間がほとんどだ。

 それなのにフィーリアは。自分がトレーニングしたい気持ちを必死に抑え、王の前だからと礼儀正しくあろうとする。

 とても俺には真似できん。俺はお前を人として尊敬するぞ、フィーリア!

 よしわかった。そんな素晴らしい人間であるフィーリアのために、ここは俺が一肌脱ぐとしようじゃないか。


「フィーリアの言う通り、ここでは我慢する。その代わり、このあと修練場で好きなだけ俺に魔法撃っていいからな。俺の体のことなんて気にせず、お前の気が済むまで好きにやってくれていいから。な?」

「なんか私が凄い荒くれ者みたいになってません!? 人聞き悪いんでやめてほしいんですけど!」


 首をブンブンと横に振るフィーリアだが、俺は知っている。フィーリアは照れ屋なのだ。

 つまり態度にこそださないが、本心では喜んでいるということだろう。喜んでもらえて何よりだ。


「ありがとなフィーリア。そんなに喜んでもらえて俺もうれしいよ」

「!? 私のどこが喜んでるように見えるんですか!?」

「喜んでるように見えないからこそ喜んでるんだろ?」

「なんですかそれ、訳が分かりませんけど!?」


 あれ、俺に魔法撃ちたかったんじゃないのか? どういうことだ?


「フィーリアの考えてることはよくわからん……」

「それって絶対私のセリフなはずなんです。とらないでください」


 結局フィーリアは魔法が撃ちたかったわけではなかったようだが、なんだかんだこの後修練場に行って俺に魔法を撃ってくれた。

 フィーリアって意外とこういう優しいとこあるんだよな。

次話は10月3日に投稿します!


コミカライズ5話も公開されてます!

良ければそちらもどうぞ!

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