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184話 反射的にね

 翌日。

 俺とフィーリアは訓練場へとやってきていた。


「本当は私はここでロリロリちゃんと遊ぶはずだったんですけどね……」

「壺を壊して反省中らしいからな。少なくとも一時間はかかるだろう」


 ロリロリは廊下をビュンビュン飛んでいたら、飾ってあった壺にぶつかって壊してしまったため、しっかり反省するまで自室から出ては駄目だと言いつけられたらしい。

 別に壺が高いものというわけではなかったが、まあ廊下を飛び回るという行為自体へのお仕置きということだろう。

 部屋まで迎えに行ったところ、「ロリロリやらかした! ロリロリは置いて先に行け!」という声が中から聞こえてきた。同じく聞こえてきたカリカリという小気味良い音からして、反省文でも書いているようだ。


「ロリロリは自らの行いを内省しなければならない! 心配するな、遅れて行く! いま正座しながら反省文を書いてるので!」

「頑張ってくださいロリロリ様。反省文もあと用紙十枚分ですよ」

「ぐえー! 多い! 廊下でふざけなきゃよかった! ロリロリはバカタレだ!」


 そんな声が部屋の外まで聞こえてきたので、俺たちはロリロリを置いて地下にある訓練場にやってきたのである。


 ロリロリもお姫様だからって甘やかされてるだけじゃないんだな。まあ、悪いことをしたら怒られるのは誰でも当たり前か。

 ガルガドルも時にはロリロリを叱ったりしているのだろう。あれほど愛情たっぷりなのに教育が全て秘書と母親任せというのも考えにくいし。

 ああ、ちなみにロリロリの母親は今外交で魔国にいないらしい。近々帰ってくるらしいから、もしかしたら出発前にチラリと会うことくらいはできるかもしれないが。


「ユーリさーん? もしもーし」


 少し思考の渦に深く入り込み過ぎていたようだ。

 気が付くと、目の前にフィーリアの顔があった。

 背伸びしても尚少し背丈は届いていないが、それでも充分至近距離だ。

 目と鼻の先でフィーリアの瞳がパチパチと瞬きする。


「うおっ」


 突然のことに少し虚を突かれ、俺の上着がはじけ飛ぶ。


「うひゃっ!?」

「俺を驚かせるとは、やるじゃないかフィーリア。おかげで上半身の服がはじけ飛んじまった」

「ぜ、絶対私の方が驚かされてるんですけどっ! なんで驚いたら筋肉ムキムキになっちゃうんですか」


 驚いてしゃがみこんでしまったフィーリアが恨ましげな目線を送ってくる。

 なんでって、予想外のことが起きたら身体が勝手に戦闘態勢に入って筋肉が解放されるんだよ。日ごろの訓練の成果だよな。

 脊髄反射ってヤツだ。

 そんなことを思いながら、しゃがみこむフィーリアに手を差し伸べる。


「ほら」

「ありがとうございます」


 立ち上がったフィーリアはパンパンと軽く尻を叩き、そして俺をジッと見つめてくる。

 大きな目を少し細めているところからして、少し呆れているようだ。

 どうやら立ち上がる際に『読心』で俺の思考を読んだ様だが……何か言いたいことでもあるのだろうか。


「……ユーリさんって、そのうち脊髄反射で腕立て伏せとか無茶なこと始めそうですよね」

「無茶なことなのか? もうやってるが」

「え?」

「ここを押してみろ」


 右ひじの内側を指した後、俺はだらりと身体の力を抜く。

「こ、ここですか?」と言って細い指でおそるおそる俺の身体に触れるフィーリア。

 すると次の瞬間、俺の身体は勝手に腕立て伏せを始めた。

 無論俺がやろうと意識したわけではない。度重なる訓練によって、『右ひじの内側を押されたら腕立て伏せ』という脊髄反射が出来上がっているのだ。つまりは修行の賜物だな。


「えぇ……」

「おいフィーリア、ドン引きした声を出すな」


 不服だぞ。もっとプラスの感情を抱け。

 腕立て伏せをやめ、俺は立ち上がる。

 まったく……目の前で人体の凄さを目の当たりにしたんだから、もっと感動するべきじゃないか? フィーリアは相変わらずズレてるなぁ。


「なんというか……脊髄反射のレベル超えてませんか?」

「そう羨むな。お前でも訓練すればできるようになる」

「そうじゃなくてですね。……でもユーリさんの場合、脳より脊髄の方が賢そうですよね」


 脳より脊髄の方が賢そうだと?

 そんなわけあるか、俺は筋肉と同等の賢さを持ってるんだぞ。

 俺と筋肉は文字通り一心同体だからな。そこに脊髄が入り込む隙はない。

 落ち込むな脊髄、俺と筋肉が賢すぎるだけの話だ。お前は悪くないさ。

 ……ん? 筋肉と同等の賢さ……そうか!


「なーんちゃって。さすがに冗談ですよ、冗だ――」

「わかったぞフィーリアっ!」


 ガッとフィーリアの手を掴む。

 ビクン、と一瞬肩を跳ねさせ、すぐに不思議そうな顔でこちらを見るフィーリア。


「……何がですか? よくわからないんですけど……?」

「よくやった、お手柄だ! おかげで新技が思いつきそうだぞ!」


 そのままフィーリアの頭を乱暴に撫でまわす。

 ふわふわと甘い匂いがするが、それも気にならないほど今の俺は興奮していた。


「あわわ、頭くしゃくしゃしないでください! 可愛い可愛いフィーリアさんの頭ですよっ!?」

「おお、そうかそうか! いつもならドン引きするそのナルシストぶりも今なら許せるぞ、フィーリア!」

「え、いつもドン引きしてたんですかっ!? 結構ショックなんですけど!?」


 ギャーギャーなにやら喚いているフィーリアの言葉を聞き流しながら考える。

 思いついてさえしまえば、後はもうすぐに形にできそうだな。

 よし、早速実践だ!

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