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182話 性格診断テスト

 翌日。

 ガルガドルが闘技場を作ろうと息巻いているのを横目に、俺たちは魔王城の一室でのんびりしていた。

 力仕事はトレーニングにもなるから本当は作業を手伝いたいところなのだが、「さすがにそこまではさせられない」って断られちまったからな。やることがないのだ。


「うーん……」


 俺はベッドの上で唸る。

 暇なのはあんまり好きじゃないんだよな……何をしていいのかわからん。

 とりあえず腕立て伏せとかスクワットとか岩石一気食いとかそういう類の基本的なトレーニングでもしようかと思っていると、ベッドに寝転んでいたフィーリアが突然ガバッと顔を上げた。


「ユーリさん、突然ですがテストです!」

「本当に突然だな」


 今の今までベッドに突っ伏してたから髪の毛ぼさぼさだぞ。

 ……好きなだけ寝てていいからってお昼直前のこの時間まで寝ていられるのはある意味才能なのかもしれない。少なくとも俺には真似できないからな。

 そんなことを考えながら、フィーリアの話を聞いてみる。


「このお城の図書館をブラブラしてたらたまたまこの『性格診断テスト』って冊子を見つけちゃいまして。面白そうかなーと思って。どうです?」


 そう言って見せてきたのは薄い冊子だった。

 ページ数も少ないし、なんとなく手作りっぽい雰囲気のする代物だ。


「ふぅん。じゃあやるか」


 まあ、丁度やることもなくて手持無沙汰だったしな。

 こんなチャチなもので本当に性格が分かるとも思えないが、暇つぶしくらいにはなりそうだ。


「えーっと、ユーリさんは人間だから、人間用のテストですね。……はい、これです!」


 ぺらりと冊子をめくり、フィーリアが俺に冊子を手渡してくる。


『あなたは洞窟で迷ってしまいました。どうしますか?』


 どうやら質問に対する答えをいくつかの選択肢から選ぶ形のようだ。

『うろうろする』『大声を出す』『体力を消耗しないようジッと待つ』などの選択肢が並んでいる。

 俺はその中から『壁を殴って脱出する』を選び、先に進んだ。


『あなたの目の前に見たこともない魔物がいます。どうしますか?』

「殴る」

『あなたの目の前に恐ろしく強そうな魔人がいます。どうしますか?』

「殴る」

「ユーリさんそればっかですね」

「どんな時にでも使える万能の選択肢だからな」


 そのまま全ての選択肢に『殴る』を選び、サクサク進んでいく。

 ……おっ、これで質問は終わりか。

 結果は次のページに書いてあるらしい。

 一枚ページをめくり、診断結果を読んでみる。

 一緒に眺めていたフィーリアが診断結果を口に出した。


「えーと、なになに? 『真面目に答えてください、そんな人間は存在しません。もし真面目に答えたのだとしたら、あなたはきっとお馬鹿さんなんだと思います。もう少し頭を使ってみましょうね』……ですって。大当たりですね」

「当たってるのか?」


 俺はインテリマッスルだぞ?

 常に頭を使っているのだが……。これ以上どうやって頭を使えというんだ? むぅ……。


「……ああ、そういえば途中の選択肢で『頭突きする』ってのがあったな。あれを選ぶべきだったのか」

「ユーリさん、そういうとこですよ」


 そういうとこってどういうとこだよ。

 さっぱりわからん。


「まあいい。フィーリアはやってみたのか?」

「まだなので、今からやってみます」


 そう言うと、今度はフィーリアが性格診断テストを受け始める。


「……はいっ。終わりましたー」


 手早く一連の質問に回答し、そして結果のページに移った。


「えーっと……『かわいすぎます! あなた様のかわいさはこの世の宝と言っても過言ではありません。並ぶ者のないそのかわいさで、今後もあなたの人生は幸福に満ち溢れているでしょう。羨ましい限りです』だそうです」

「どんな選択肢を選べばそうなるんだよ」


 おかしいだろ。インチキしてないか?

 フィーリアには色々前科があるからな、コイツならあり得るぞ。

 疑惑の視線を向ける俺に気付かず、フィーリアは診断結果に鼻を高くしている。


「ふふん、これが私の実力ってことですよ。さすがは超絶美少女エルフのフィーリアさんです。いやー、それにしてもこの性格診断テストを作成した人は素晴らしいですね。人のことをよくわかっています。きっととても素晴らしい外見と知性を兼ね備えた人が作成者なんでしょうね! えへへ、照れます!」


 なんでお前が照れるんだよ。


「……このテスト、もしかしてお前が自作したんじゃねえだろうな?」

「な、ななな何言ってるんですか!? しょ、しょんなこと、するわけにゃいにゃにゃいにぇにゅにゃ!」


 動揺具合が半端ねえなおい。

 もうほとんど自白したようなもんだぞ。

 よし、あと一押ししてみるか。


「……」

「ぐぬ……っ」

「……」

「……はいそうですよ! 自分でちまちま作ってましたよ!」


 無言のまま半目で見つめていると、ついにフィーリアが折れた。

 やっぱりな。そうじゃないかと思ったよ。

 そう、そうじゃないかとは思っていたが……誰にも見られないように隠れながらこの冊子を作っていたフィーリアの姿をいざ想像すると、なんか可哀想な気持ちにもなってくるな……。怒りより憐みの感情の方が強く感じられるぞ。


「これ、作るのにすごい時間かかったんですよ? 褒めてくれたっていいと思います!」


 もはや開き直ったのか、フィーリアはそんなことを言ってくる。

 圧倒的に不利な状況でも開き直るその根性は、今じゃなくて戦いの時に是非見せて欲しいんだが。


「褒めろったって、何を褒めればいいんだよ」

「うーん……『今日も可愛いね』とかですかね?」

「冊子作ったのと全然関係ないじゃねえか」

「関係あるかと言われればないですけど、言われれば無条件で喜びます」

「……フィーリア、お前ちょろすぎないか?」


 心配になってくるぞ。

 あまりの扱いやすさに将来を憂いている俺に対して、フィーリアはあかんべーと舌を出した。


「ちょろいって言う人がちょろいんですよーだ。ばーかばーか」


 ほぅ……言うじゃないかフィーリア。

 今のは俺も少しばかりカチンと来たぞ? 言い返してやる。


「そんなこと言ったら馬鹿っていう方が馬鹿だろ! ばかばか!」

「あ、言いましたね! ばかばかばか!」


 むむむ、とにらみ合う俺とフィーリア。

 こうなりゃ徹底的に喧嘩だ。白黒はっきりつけてやる!




 数分後。


「ロリロリが遊びに来たぞ! ユーリ、フィーリア、あーそーぼっ!」


 どたどたと賑やかな足音で、ロリロリが俺たちの部屋を訪れた。

 おおロリロリ、よく来たな。

 だが今は少し待っていてくれ。真剣勝負の最中なんだ。

 俺とフィーリアは互いに向かい合い、息を吸いこむ。そして同時に口を開いた。


「ばかばかばかばか! ばかばかばかばかばか! ぜーはーぜーはー……ど、どうですか。恐れ入ったでしょう」

「ばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばか」

「な……!? い、一度にそんなに言えるなんて……!」

「ふん、これが肺活量の差だ。悪いがこの勝負、俺の勝ちみたいだな」

「ぐ、ぐぬぬ……!」


 ガクリと膝から崩れ落ちたフィーリアと、勝ち誇る俺。

 勝者と敗者がはっきりしたな。

 やはり俺は馬鹿ではなかったという訳だ。


「なあなあ二人とも、何してるんだー?」


 不思議そうな顔のロリロリ。

 まあそうだろう、いきなり来て今の状況は理解しにくい。

 俺は首をかしげているロリロリに説明してやる。


「ああ、今ちょうど『馬鹿っていっぱい言えた方が勝ちゲーム』をしてたところなんだ」

「あはは、馬鹿みたいだな! 全然面白くなさそう!」

「!?」


 な、なんだと……!?

 今しがた勝ったばかりだというのに、それでも馬鹿にされてしまうというのか……!?

 驚きの事実に、目の前がぐにゃりと歪む。


「……なあフィーリア」

「……なんでしょう」

「勝負に勝ったはずなのに、全然嬉しくないのはなんでなんだろうな」

「……ど、どんまいです。どんまい」


 揃って五歳児に馬鹿らしいと一蹴され、俺たちは互いに慰め合うのだった。

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