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181話 解決策

 ザゾルに諸々の礼を言って別れ、俺たちは再び魔王城へと帰ってきた。

 そしてロリロリとガルガドルのいる部屋で、今日会ったことについて洗いざらい説明する。

 魔物から魔人化した魔人の多くが多かれ少なかれフラストレーションを溜めていることについて。そして口笛を吹いて暴動を煽っていたと思われる灰色の髪の男について。


「ふぅむ、そんなことが……」


 俺たちの話を聞いたガルガドルは数度誰にともなく頷きながら内容を咀嚼している。


「結構皆フラストレーション溜まってるみたいだったぞ。政治とかよくわからねえが、あのままだとヤバそうなのは伝わってきた」

「それはわかっておるのだが……しかし国民を危険に晒したくはないし、かといって他国の人間を襲うというのも困る。せっかく外交が上手くいきつつあるのにそれがパーになる可能性があるからな」


 ふぅむ、とガルガドルはもう一度唸った。

 国王となると考えるべきことは多いのだろう。俺にはよくわからんが。


「だが、たしかに由々しき問題だ。暴力を取り締まることによるデメリットに、暴動を煽る者の存在……現状がわかっただけでもありがたい。国王となると、中々気軽に話を聞きに行くわけにもいかんのでな。助かったぞ、二人とも」


 とりあえず、ガルガドルも現状の認識は出来たようだ。

 なら俺たちがわざわざ足を運んだ甲斐もあったってもんだな。


「ユーリさんは自分が戦いたかっただけですよね……?」


 うるさいうるさい、心を読むんじゃない。


「話は終わったか? 終わったなら遊ぼ!」


 部屋の端の方で大人しくしていたロリロリが、雰囲気が変わったのを感じ取ってぴょんぴょんと元気そうに飛び跳ねながら俺たちの元へとやってくる。

 それを見て、ピクリと反応したのはガルガドルだ。

 反応は徐々に大きくなり、数秒もせずにわなわなと肩を震わせだす。


「我ではなく二人の方へ……? ロリロリ……なんでだロリロリぃぃぃ……っ」

「父上が変な顔して泣いてる! あはは、おもしろーい!」


 無邪気って時に残酷だよな。

 泣き顔を見た娘にケラケラ笑われるなんて、ガルガドルもかわいそうに――


「ロリロリが笑ってくれた……! 我の胸は嬉しさでいっぱいだ」


 おい魔王、それでいいのか。


「じゃあロリロリちゃん、私と積み木で遊びましょうか」

「えー! フィーリアと遊ぶのは楽しいけど、積み木はもう飽きた! ロリロリはもっと高尚な遊びがしたい!」


 積み木を用意したフィーリアに対し、ロリロリは気が進まない様子だ。

 口を尖らせながら、腰を捻って身体ごと左右に揺らしている。


「フィーリア君、すまないね。ロリロリは少々飽きっぽいというか、新しいもの好きなところがあってな」

「もう五歳ですもんね、積み木はちょっと子供っぽすぎたかもしれません」


 積み木……積み木か。

 たしかに子供の遊び道具だが、使いようによっては……そうだ、あれならどうだろうか。


「ロリロリ、積み木砕きってのはどうだ?」

「おお!? 面白そう!」


 俺の提案にすぐさま食いついてくるロリロリ。

 やっぱりな。お前なら必ず食いついてくると思ったぜ。


「ユーリ君は凄いな。うちの娘の興味を引くようなことを即座に思いつくなんて。我は彼に多大に嫉妬してしまいそうだ……」

「ガルガドルさん、気にしない方がいいですよ。ユーリさんは精神年齢がロリロリちゃんと近いだけですから」


 おい、端の方で小声で喋っても俺の鍛え上げた耳にはちゃんと聞こえてるんだからな?

 注意の意味でフィーリアの方を向くと、フィーリアはチロリと舌を出してきた。

 聞こえてるのがわかって言ってたのかよ。なんだ、それなら問題ないな。

 ……いや待てよ? むしろなおさら性質悪いんじゃねえか?


「なあなあユーリ、はやくはやく!」


 意識をフィーリアの方へやっていると、ロリロリが俺の服を掴みながら待ちきれないといった様子でぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 目を輝かせて俺に近寄ってくるその様はまるで餌付けされた子犬みたいだ。

 軽く微笑ましさを覚えながら積み木を一つ手に取った。


「よし、じゃあこの積み木を良く見て種も仕掛けもないのを確認してくれ」

「なんだ!? 手品か!? いいぞ、ロリロリの目は騙せないからな!」


 そう言うとロリロリは俺から積み木を受け取り、むぅむぅと唸りながらゆっくりと回転させてゆく。

 三回転させたところで納得したのか、ロリロリは笑顔で俺に積み木を返してきた。


「……うん、特に問題はなし! はなまる!」

「じゃあこれを今から粉々に砕く。いいか、よく見てろよ?」


 ロリロリにそう言い、俺は軽く力を込めて積み木を握る。


「ふんっ!」


 膨張する筋肉。

 はち切れる上着。

 破裂する積み木。


 軽い破裂音の後に開かれた俺の掌に残っていたのは、積み木の残骸だった。


「どうだ、ロリロリ?」

「うおおお!? 積み木が粉々になった! どんな仕掛けだ!? 驚きが止まらない!」


 目を丸くして俺の掌を見つめるロリロリに、鼻をこすりながら俺は言う。


「驚くなかれ――これがかの有名なマッスルイリュージョンだ」

「初耳ですけど」


 フィーリア、勉強が足りないぞ。

 もっと筋肉魔法について勉強すると良い。


「すごいすごい、ロリロリも積み木砕きやる! ユーリ、コツはなんだ? 教えてほしい!」

「コツか……そうだな。ズバリ、腕力を鍛えることだな」


 そう答えるとすぐに「イリュージョンとは思えぬコツですね」なんて声がどこからか聞こえた気がしたが、無視だ無視。肉体派イリュージョンには腕力が必要不可欠なのだ。


「わんりょく! ぬぬぬ、ロリロリの苦手科目だ……! だけどやらねば! ロリロリは積み木を砕かねば!」

「ロリロリちゃんはなんでそんなに意気込んでるんですか……?」


 ロリロリにも伝わったのだろうよ。俺のソウルってやつがな。

 生憎とフィーリアには伝わらないことが残念だ。こんなにいつも一緒にいるのにな。


「腕力を鍛えるために、ロリロリはさっそく特訓してくる! じゃーな!」


 使命感に燃えるロリロリはそう言い残し部屋を後にした。

 地下の修練場に向かったのだろう。いいことだ。

 うんうん、と満足から頷く俺。それとは対照的に、首を捻るフィーリア。


「高尚さの欠片もない遊びだと思うんですけど、いいんでしょうか……」

「ロリロリはあの遊びに隠れた高尚さに気が付いているんだろう。フィーリアよりも先を行っていると言ってもいいな」

「つまり我が娘は天才だということか!? フハハ、やはりそうであったか!」


 ガルガドルが途端に上機嫌になる。

 大きく口を開いたその顔を見て、俺は一つ伝え忘れていることに気が付いた。


「ああそうだ、ガルガドル。さっきの話だが、解決策を一つ思いついたぞ」

「む? さっきの話というと……我が国の治安の話か? その解決策を思いついただと?」

「ああ。まあ、受け入れるかどうかはガルガドル次第だがな」

「案を採用するかどうかはともかく、何か思いついたならば教えてくれると助かる」


 ガルガドルは父親としての顔から国王としての真面目な顔に戻る。

 ガバッと身を乗り出し、興味津々な様子だ。

 もちろん教えるさ。隠すつもりもないからな。


「闘技場を作ればいいんじゃないかと思うんだ」


 闘技場。この場合の闘技場は、魔人と魔人が好きなだけ戦える場所のことだ。

 悪くない提案だと思うのだが、どうだろうか。

 そう伝えると、ガルガドルは不思議そうに首を捻った。


「闘技場……?」

「知らないか? 人間の国には稀にある。大会なんかが開かれたりして結構賑わってるぞ。俺も一度参加したことがあるしな」


 魔闘大会のことを思い返してみる。

 あの時はウォルテミアとも戦ったんだったか。今ではいい思い出だ。


「戦いたいヤツらはそこに集めて、好き勝手戦わせる。間違いなくストレス発散になるだろう」

「魔人同士の戦いなら今後観光資源としても利用できるかもしれませんね。エルフの私にはよくわかりませんけど、そういう強者同士の戦闘を見たい人って多いみたいですし」


 フィーリアも俺の案の利点を捕捉してくれた。

 フィーリアが認めてくれるってことは、そんなに的外れなことは言ってないってことだな。一安心だ。


「ふむ……なるほどな」


 ガルガドルは顎に触れる。

 そして何やら思案した後、勢いよく立ち上がる。


「よし、とりあえずその闘技場とやらを作ってみようと思う。感謝するぞ二人とも、良い案を貰った」


 そしてガルガドルは意気込みながら部屋を出て行く。

 廊下で独り言を言っているのが部屋の中まで聞こえてきた。


「我が直々に手伝えば五日……いや、四日で作れる! 二人の出立の日に間に合うよう、急ぎに急いで作り上げようではないか!」


 俺とフィーリアは互いに顔を見合わせ笑い合う。

 力になれたのならよかった。

次回更新日は3月7日(水)予定です。

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