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177話 国の問題点

 翌日。

 俺とフィーリアはロリロリの部屋に御呼ばれしていた。

 自室の真ん中に陣取り、ロリロリは声高らかに自分のエピソードを語っている。


「ロリロリはそこで言ってやった! 『ロリロリがロリロリなのだとしたら、ロリロリもまたロリロリなのだ……』ってな!」

「そうかー、すごいなー」

「おいユーリ、ちゃんとロリロリの話を聞け!」


 ロリロリが俺の顔を小さな両手で挟んで思い切り揺らす。


「聞くって言わないとやめてやらないからな! 覚悟するといい!」

「ロリロリ、お前これ……中々いいぞ! 良い訓練になる。頼む、もっと強く揺らしてくれ!」

「楽しんじゃ駄目! これは罰のつもりなのに!」


 そんなに頬を膨らませられても、訓練になるものは訓練になるのだ。

 だからもっとぐりんぐりん激しくやっていいぞ。……っておい、頬をつねるのはやめろ!


「ユーリさんもロリロリちゃんも元気ですねー。私なんて昨日の疲れで一歩も動きたくありませんよ」


 争い合う俺たちを見ながら、フィーリアは魂の抜けたような顔で呟く。

 その声色には一切の覇気が感じられない。


「フィーリアって体力ないな! なんかお婆さんみたいだ!」

「……っ!? お、お婆さん……!? わ、私ってお婆さんなんですか!?」

「ああ、たしかに言われてみればお婆さん並の体力の無さだな」

「そ、そんな……!」


 フィーリアはブルブルと震えながら己の手を見つめる。


「私、まだ、十七歳、なの、に……ガクッ」

「あ、フィーリアが死んだ!」

「はかない命だったな」


 陸にあげられた魚のようにビチビチと床を跳ねるフィーリアを、俺とロリロリはジッと眺める。


「……」


 そのまま無言でいると、フィーリアはその動きを止めた。

 そして無言でムクリと立ち上がる。


「あれ? 起きてきたぞ?」

「ああ、あれはきっと演技を始めたはいいが、やってるうちに恥ずかしくなっちゃったんだな。フィーリアは今凄く恥ずかしい思いをしてるから、あんまり触れちゃ駄目だぞ?」

「その説明される方がよっぽど恥ずかしいんですけど!?」


 真っ赤な顔で抗議してくるフィーリア。

 そうなのか、気づかなかった。


 と、ロリロリの部屋の扉がノックされた。

 中に入って来たのは、この城の主である魔王ガルガドルだ。


「ユーリ君、フィーリア君、少し時間いいかね」

「あ、はい、なんでしょう?」


 瞬時にフィーリアが対応を変える。

 この猫かぶりのスキルを目の当たりにする度、俺がどれだけ努力しても追いつける気がしないといつも思う。……あ、もちろんいい意味でな。


「話がしたいのだが、付いてきてくれるか?」

「わかった」


 そのままガルガドルの後ろについて部屋を出ようとしたところで、甲高い声がそれを制止した。


「父上! ロリロリも! ロリロリも!」


 声の主はロリロリだ。

 ガルガドルの足元でピョンピョンと跳ねている。

 あ、ガルガドルがその可愛さに悶絶してる。


「て、天使……!」


 魔王が褒め言葉に天使って使っていいのか?

 その辺の事情がよくわからん。


「ろ、ロリロリは駄目だ。パパは今から真面目な話をしたいんだ。わかってくれロリロリ」


 なんとか立ち直ったガルガドルは、沈痛この上ない表情でロリロリに告げる。

 どれだけ断腸の思いなんだ。


「むぅ……仕方がない! ロリロリはまだ子供なので!」


 そう言うと、ロリロリは魔王にニカッと笑った。


「昨日はずっと二人と一緒にいたから、今日は我慢する! ロリロリは大人なので!」

「ロリロリ、また一歩大人になったのだな……。パパは嬉しいぞ……」


 つうと涙を流したガルガドルは、後ろに控えていた秘書の方を振り返る。


「秘書よ、我は決めたぞ。今日を国民の祝日として制定するっ! 『ロリロリがまた一歩大人になった記念日』だ!」

「それを認めるといずれ毎日が祝日になってしまうのが目に見えているので却下です」

「ぐ、ぐぬ……魔王になっても好き放題はできぬということか……」


 当たり前だろ。

 そんな祝日を作っちゃいけないことくらい俺だってわかるぞ。


「ロリロリ様、私と一緒に遊びましょうね。お妃様もあと数日で帰っていらっしゃいますから」

「うん、わかった! ロリロリは秘書と遊ぶ!」


 そういうわけで秘書とロリロリを残し、俺たちはガルガドルの後をついていくことになった。




 案内されたのはガルガドルの自室のようだった。

 目につく物全てが高級そうではあるが、必要最低限の物しか置いていない部屋だ。


「座ってくれ。茶を入れよう」


 そう言うと、魔王自ら俺たちに茶を注いでくれる。中々ない体験だな。

 入れてもらった茶を一口啜ってから、俺たちは世間話を始めた。

 本題に入る前のアイドリングトークというやつだ。


 俺たちは今までしてきた冒険について話した。外交以外ではこの国を出たことがないという魔王は、俺たちの話を興味深そうに聞いてくれた。

 それが終わると、今度は魔王が魔国について語ってくれる。

 重厚な声で語られるその内容は国の歴史やら文化やら少々堅苦しいものではあったが、話し口が上手いのか不思議と飽きることはなかった。ただし、ロリロリの話になると途端に口数が増して頬が緩みきっていた。ギャップがすげえ。


「……とまあ、ここからが本題なんだがな」


 そう前置きして、ガルガドルが僅かに身を乗り出す。


「外部の知恵を持つ君たちに、我から助言を乞いたい。国が少し困ったことになっておってな。少しだけでも協力してはもらえぬか?」


 どうやら真面目な話のようだ。

 まあ、そうじゃなきゃあんなに溺愛している娘の同行を拒否したりはしないよな。

 ガルガドルの頼みを聞いて、フィーリアは迷わずに首を縦に振る。


「そういうことならもちろん協力します。ね、ユーリさん」

「まあ、大抵の問題は筋肉があれば解決するしな」

「国家レベルの問題を膂力だけで解決しようとするところがさすがです」

「褒めてるのか褒めてねえのか判断が難しいところだが……いや、これは褒めてるな!」

「残念、外れでした」


 褒めてなかったのか、残念だ。

 ……というか、思い返せばコイツに「さすが」って言われて褒められたことってあったっけか?

 なんか全部皮肉だったような気がしてきたぞ……?


「でもまあ、皮肉なんて筋肉みたいなもんか。そう考えれば悪くねえな」

「ユーリさんって何かを筋肉へ結び付ける時だけ恐ろしく柔軟な思考回路してますよね。脳が独自の進化を遂げてそうです」


 そんなことを言っていると、前からクックッと笑い声が聞こえた。ガルガドルだ。


「仲が良いな。ロリロリが君たちを好むのもわかる」

「あ、す、すみません……。お話の続きを窺わせてもらいます」


「うむ、では……」と言って、魔王は話しだす。


「他国には知る者は少ないのだが、実は魔人には二種類いるのだ。一つ目が魔人から生まれた生まれながらの魔人。こちらが魔人の大多数……およそ八割から九割を占める。そして二つ目は、魔物が力を持つことによって人型になった魔人だ」

「魔物が人型に……? そ、そんなことあるんですか!?」


 フィーリアが驚きの声を上げる。

 たしかに俺も初めて聞いた。

 フィーリアがこれだけ驚くくらいだから、前置きの通り世間的にもあまり知られていない内容なんだろう。


「魔物と魔人は同じ暗黒神から生まれた者同士、おそらく同じような身体の造りをしているのだろう。人型になった魔物は例外なく魔人と同じ二本の角と褐色の肌を持つのだよ」


 そこまで言ったところで、ガルガドルは声のトーンを一段下げる。


「で、今我が頭を悩ませているのは魔物から進化した魔人たちについてなのだ。そもそも、魔物から魔人になれるような魔物はほんの一握りのみ。大概は魔物の姿のままで生涯を終えていく。――言い換えれば、魔物時代に類まれな闘争本能を持っていた魔物たちだけが魔人になるのだ。そしてそういった魔人の多くは人型になっても魔物の時の感覚が抜けきらず、有り余る破壊衝動を周囲にぶちまけてしまう。それが治安が良くならない一番の原因となっているのだが……この問題を解決するために、何か思いついたことはあるだろうか」


 思ったより話のスケールがでかかった。本当に国レベルの話じゃねえか。

 そんな大事なことを俺たちに相談してくるってことは、話し合いも煮詰まって猫の手も借りたいような状況なんだろうか。


「さ、さすがに一介の冒険者である私たちに、そんな問題の解決策はおいそれとは出てきませんね……」

「そうか……いや、そうであろうな。無理を言った、すまぬ。だがもし何か思いついたら我か秘書に伝えてくれ」


 そして話を切り上げようとするガルガドルに、俺は言う。


「なあ。その元魔物の魔人たちに話を聞きに行きたいんだが、いいか?」

「ゆ、ユーリさん!?」

「いや、俺に解決できるとも思わねえが、話くらいは聞いてもいいだろ? そんでこういうのは当事者に聞くのが一番手っ取り早い」


 せっかく魔国にいるのに城の中にいてばかりでも退屈だしな。

 いっちょソイツラの話を聞きに行こうぜ。

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