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176話 時には視点を変えてみる

「魔法をカッコ良くする方法か……」

「どうだ、思いつくか? ロリロリは悩んだが駄目だった! 頭の回転が足りなかった!」

「フッ……ロリロリ、俺を誰だと思っている。ハイパー筋肉ムキムキインテリマッスルマンのユーリ様だぞ」


 俺にかかればやってできないことはないのだ。


「肩書長すぎません?」


 おいフィーリア、うるさいぞ。

 ……まあいい、すでに俺は解決策を思い当たっている。

 それを享受してやろうではないか。


「ロリロリ……お前は魔法に注意を向けすぎるあまり、ひとつ大事なことを見落としてるようだな」

「なに!? それはなんだ!?」

「『魔法のカッコよさには、使い手も重要』だってことだ。例えば……そうだな。ひょろひょろで今にも倒れ込んでしまいそうな人間が使う魔法と、逞しくてどっしりとした人間が使う魔法。たとえ同じ魔法だったとしても後者の方がカッコいいだろう?」

「おぉ!? な、なんかそれっぽい!」


 ロリロリのテンションが上がる。

 うむうむ、俺の考えに賛同してくれたようで何より。


「じゃあロリロリはどうなればいいんだ!?」

「案ずるな、それも考えてある」

「ユーリ、凄いぞ! ロリロリは今猛烈に感動している!」

「当然だ。俺はインテリマッスルだからな」

「早く教えてくれ! お願いだユーリ!」


 俺の腕にしがみつき、ピョンピョンと跳ねるロリロリ。

 そこまでされては仕方がない。

 もう少し引っ張るつもりだったが、今すぐに教えてやろう。


「つまりだ。ロリロリに足りないもの――それは筋肉だ」

「!?」


 ロリロリが息を呑む音が聞こえる。

 完全に意表を突かれたようだな。

 俺の考えはそれだけ斬新だということだ。

 ロリロリの反応に気を良くした俺は、したり顔で解説した。


「使い手に筋肉がつけば、魔法も自然とカッコ良くなる。これはどんな魔法でも一緒だ。ロリロリ、お前はまだまだ華奢すぎる。もっと筋肉をつけろ。俺の様に素晴らしい質の筋肉を手に入れることが出来れば、お前のさきほどの魔法はさらなるカッコよさを手に入れることができるだろうよ」


 どうだロリロリ? 参考になっただろ?


「うーん……」


 ……おい、なんで納得いかないような顔をしている。


「ロリロリ、強くはなりたいけどユーリみたいにムキムキにはなりたくないぞ?」


 なんでだ。なりたがれ。


「だからその方法は却下!」

「嘘だろ……? 俺の完璧な考えが……!」

「でも、考えてくれてありがとな! 嬉しかったぞ!」


 そう屈託のない笑顔を向けられれば、それ以上何か言うこともできない。

 ロリロリの太陽のような性格は、俺から反論する気概を奪っていった。


 ……仕方ない、今回は大人しく引き下がるとするか。

 ここで争っても何の意味もないからな。

 こうなれば、俺がさらに身に纏う筋肉を増してもっとカッコ良くなることで証明するしかない。

 待ってろよロリロリ、必ずお前に筋肉の魅力を伝えてやるからな!

 そう決意する俺の横で、フィーリアが小さく手を上げた。


「あ、じゃあ私も思いついたこと言っていいですか?」

「うん! なんでも言ってくれ!」

「多分、地味に見えるのは凍らせる時の形が問題だと思うんですよね。ほら、没個性的といいますか」


 ほう……。

 たしかにロリロリの創った氷はただの氷の塊という感じで、寒い地域なら海に浮かんでいても特に気にも止められなさそうな形だ。

 そこに着目するとは、フィーリア……コイツ、やはり侮れん。


「氷の花とかをイメージすれば、派手になるんじゃないかなーと思ったんですけど、どうですか? かわいいし、綺麗ですし」


 そんな改善案を聞いたロリロリは、俺の時とは打って変わって口を大きく開けて反応する。

 どうやらしっくりきたようだ。


「おぉー! お花か! それはいい、採用! フィーリアは良いことを言う!」

「それほどでもありませんよぅ!」


 満更でもなさそうに頬に手を当て、腰をくねらせるフィーリア。

 今回は俺よりフィーリアの方が活躍したな。だが、このままいつまでも負けてばかりの俺じゃないぞ。

 自分に足りないところはすぐに補う。

 まずは……そうだな。俺もフィーリアを見習って、少し発想を変えてみる必要があるかもしれない。

 発想を変えるにはまず視点を変えること、つまり一転倒立だ。

 俺はその場で飛び跳ね、頭で床に着地した。

 訓練場にゴンッと鈍い音が響く。


「……ユーリさん!? だ、大丈夫ですか!?」

「安心しろ、こういう訓練だ。上下逆になることにより、発想力を高める」

「なら前もって言ってくださいよ! 突然隣の人が頭から床にダイブし始めた私の恐怖わかります!?」

「すまん、気づかなかった」


 俺は頭で全身を支えたまま、フィーリアに謝る。

 たしかに俺もフィーリアが唐突に一転倒立を始めたら正直距離をとりたくなる。

 前もって話しておくべきだったかもしれない。


「すまんフィーリア。床に頭をつけるほど謝ってるんだ。許してはくれないか」

「床に頭をつけるほどというか、頭しか床についてないですよね。まあ許しますけど」


 許してもらえたみたいで何より。

 ……ん? どうした、ロリロリ? 俺の方に近寄ってきて。


「ユーリ霜柱みたい! ユーリ霜柱みたい! なあユーリ、触っていいか!?」

「触るどころか押してもいいぞ。俺の体幹は押されたくらいではびくともしないからな」

「じゃあタックルする! うおおお! ……あはは、すごい! びくともしねーぞ!」


 おお、この凄さをわかってくれるか! 良いヤツだなお前!

 よし、お礼にとっておきの技も見せてやろう。


「このまま空中に浮くこともできるぞ? ほら」


 頭を支点とし、高速でスピンする。

 それにより上昇気流を発生させ、俺は空へと飛んだ。


「ユーリさんが竹とんぼみたいになってる……」


 フィーリアの呆然とした声を聞きながら、俺はくるくると回り続けた。




「楽しかったぁ!」


 俺が地面に降りてくると、ロリロリはそう言って笑ってくれる。

 楽しんでもらえて嬉しい限りだ。


「あ、そうだ! 聞きたいことあったの忘れてた!」

「なんだ?」

「アシュリーとロリロリ、どっちが強い?」


 ああ、そうか。

 ロリロリにとってアシュリーはライバルだからな。気になるのも無理はない。

 アシュリーの炎魔法とロリロリの氷魔法の対決か……うーむ。


「難しいな……。こればっかりは俺でも判断がつかん。多分五分五分だとは思うが」


 どっちもちゃんと強くなってるし、直接やり合わない限りわからんな。

 少なくとも、その日のコンディションによって勝敗が変わってくるくらいの実力差であることは確かだ。

 ロリロリとアシュリーの成長速度には俺も頑張らなきゃなと思わされる。


「むむむ……! じゃあもっと強くなる! ユーリ、フィーリア、しゅぎょーだ!」


 修業! まさかロリロリから言い出してくれるとはな!


「そりゃいい。丁度やりたかったところだ」

「え、ちょっと待ってください、私もですか!?」

「フィーリアはロリロリと一緒にしゅぎょーするの、嫌か……?」


 寂しそうな目で下からフィーリアを覗き込むロリロリ。

 フィーリアはそれに耐えきれず、すぐに首をブンブンと横に振った。


「い、いや、もちろんそんなことないですよっ!?」

「よし、じゃあやろっ!」


 ロリロリは一転元気になり、フィーリアの腕を取る。

 よし、これで全員参加だな。


「……なんだか上手く乗せられてしまったような……」

「諦めろ。例えロリロリを上手く言いくるめられていたとしても、俺は最初からお前を逃がす気はなかった」

「ひぃぃ……!」


 おい、なんで幽霊を見るような目で俺を見る?

 そんなに怖がるなよ、俺たちパートナーだろ?


「ほ、ほどほどにしましょうね? くれぐれもほどほどに――」

「よーっし、ロリロリは120パーセントの力でやるぞー! ユーリとフィーリアはどうする!?」

「俺ももちろん120パーセントだ」

「おお、仲間か!」

「ああ、そうだな。で、フィーリアはどうなんだ?」


 俺とロリロリの視線がフィーリアに注がれる。

 フィーリアは難しい顔をしながら交互に俺たちに目線を合わせ、そしてふっきれた。


「ぐ、ぐぬぬ……。わ、わかりましたよ、全力でやります! こうなったら全力の全力でやってやりますよ!」


 おお、いいぞフィーリア! その調子だ!


「じゃあ、まずは眼球を左右別々に動かして視野を広げるトレーニングからいくぞ!」

「最初のトレーニングから他では一回も聞いたことない内容なんですけど!?」

「やるやる! はやくやろ!」


 この日の訓練はぶっ続けで夜遅くまで続いた。

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