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173話 父上登場

 俺たちは魔王の用事が済むまでロリロリの部屋で待っていることにした。

 さすが魔王の娘の部屋だけあって、豪華である。

 俺たちが泊まってる宿の部屋の何倍もでけえ。いい暮らししてるな。

 こんな部屋が与えられるなら、並のヤツならいくらでも大人しく生活しそうだが……ロリロリだからなぁ。

 コイツにとっちゃ部屋がいくら大きくても外に出れなきゃ意味がないんだろう。

 気持ちは分かる。

 俺もまた、高い家具が取り揃えられた部屋より魔物が棲みつくジャングルに魅力を感じる人種だからな。

 親近感を覚えるぜ。

 まあ、その分フォローする側の人間は大変そうだけどな。

 壁際に控えて立っているさっきの秘書なんて、常日頃からロリロリと魔王のスケジュール管理で大変らしい。

 フィーリアが「あの人に親近感を覚えます」と言っていたのもまあわからないでもない。


「おいユーリ、聞いてるか!? 頭は働いてるかー!?」

「おう、聞いてるぞ」


 頭をグシャグシャと撫でてやりながら答える。

 最初はフィーリアに話していたロリロリだったが、いつの間にか俺の膝の上に陣取って俺に話をする形になってしまった。

 手持無沙汰になったフィーリアは秘書と話しはじめ、予想通り気があったようで、壁際で話し込んでいる。

 個人的には話を聞きながらトレーニングの一つでもしたいところだが、ロリロリの部屋の私物を壊してしまうと泣かれそうなのでグッと我慢する。

 トレーニングを我慢できるようになるとは、俺もつくづく大人になったものだ。


「あのな、あのな! ロリロリは大きくなるにはどうすればいいかを考えた! 空気を一杯吸い込んで、吐き出さなければ、ロリロリは大きくなれると思う!」

「風船みたいになりそうだな」


 ぷっくりと身体が膨らんだロリロリを想像する。

 なんだか少し面白い。


「あはは、ユーリは面白いな! ロリロリは風船じゃないぞ?」

「いや、知ってるけどさ」


 と、そんな話をしていると。

 部屋の扉がキィと鳴り、部屋に何者かがのっそりと入って来た。


「あっ、父上!」


 トタトタと駆け寄ったロリロリは、そのままの勢いでぼふんと衝突する。

 大男はそれを優しく受け止め、そのまま抱き上げてロリロリに頬ずりした。


「おまたせ~。ごめんね、パパ遅れちゃったけど許ちて? それで、どうちたのかなぁ、ロリロリちゅわぁ~んっ」

「……」


 ゴツい格好の大男が赤ちゃん言葉を口にしながらロリロリを抱きかかえている。

 およそ地獄のような光景だな。


「ん~? どちたのどちたの~?」

「父上、今日は友達を連れてきたんだ! ほらそこ!」

「え? ……あ。……ゴホンッ」


 そこでようやく俺たちの存在に気付いたらしい大男は、瞬時にスッと厳しい目つきに戻った。


「……なんだ、貴様らは」


 貴様がなんだ。

 俺たちは今何を見せられた。


「ロリロリちゃん、この人がお父様……なんですか?」


 フィーリアが目を白黒させながら尋ねる。さすがのフィーリアも目の前の現実を認めたくないらしい。

 しかし、ロリロリは勢いよく頷いた。


「うん、父上!」

「いかにも。そして我こそが、この魔国を統治する王――魔王、ガルガドル・ルキス・イーサレットである」


 どうやら目の前のガルガドルという男は、正真正銘の魔王であるらしい。

 たしかに見た目は魔王といわれても不思議には思わないような雰囲気のある風貌だが……。


「厳かな雰囲気出してるところ悪いんだが、第一印象が頭から離れねえ」

「あれは忘れてくれ。お願いである」


 いきなり下手に出てきたぞ。

 キッと射抜くような鋭い眼光の割に、発言がちっとも伴ってねえ。


「お願いである……!」

「わかった。わかったから凄むな」


 頼むときは申し訳なさそうな顔をして頼め。

 そんな険しい顔をされると戦いたくなるだろ。

 魔王というだけあって鋭い雰囲気をしているし、相当強いのは間違いない。

 王都に帰る前にぜひ一度拳を交えてみたいところだ。


「助かる……。この親馬鹿ぶりを万が一国民たちに知られたら、恥ずかしくて街を歩けなくなってしまうからな」

「父上は恥ずかしがり屋だなー!」


 抱き上げられながら笑うロリロリ。

 それを見て、ガルガドルの厳つい顔がほわりと綻んだ。


「ああぁ、我が愛娘がケラケラと、まるで女神のような笑みを浮かべておるぞ! 見よ、そこの二人! ……いや、見るな、この笑顔は我だけに向けられたもの! ……いや、でもこれだけ心安らぐ笑顔、やっぱり皆に見て欲しい! おい秘書、我はどうすればよい!?」

「もう手遅れでは?」

「父上父上、見て見て! グーとチョキでカタツムリ! これロリロリが考えた!」

「て、天才である……! 秘書よ、我が娘はやはり天才であったぞ!」

「それはそれはおめでとうございます」


 ……なんだ、この状況は。


「ユーリさん、私たちは何を見せられてるんでしょうか」

「俺に聞くな。わからん」


 俺とフィーリアは少し離れた場所で、よくわからないことになっているロリロリとガルガドルと秘書を眺める。


「言っちゃなんですけど、魔王様ってすごい親馬鹿みたいですね」

「ああ……。というか、ババンドンガスといいそこの魔王といい、俺の周りには身内を異常なほど溺愛するやつが多くないか?」

「でもユーリさんも、意外と子ども出来たら溺愛しそうですけどねー。ほら、想像してみてくださいよ。もし私とユーリさんの間に子供が生まれたとしたら……」

「……子供?」

「はい、こど……も……」


 そこで言葉が途切れ。

 かぁぁっ。フィーリアの顔が真っ赤になる。

 そしてわたわたと、急に落ち着きをなくして慌てだした。


「……い、いや、今のはその、ほんのたとえ話ですよ!? そ、そう、たとえ話!」

「あっ、フィーリアが顔真っ赤になってるぞ! トマトみたいだ!」


 ロリロリの言う通り、その顔は確かにトマトのようだ。

 そんなフィーリアは俺に恨めしげな視線をくれる。


「うぐぐ、からかおうとしたら墓穴を掘りました……。許すまじユーリさん……!」

「俺が悪いのか……?」


 恨み節を言うフィーリアに、戸惑うことしかできない俺だった。

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