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172話 魔王城へ

 それから数分後。

 俺たちは再び大地を踏みしめた。


「ついたー!」


 ロリロリの声が辺りに響き渡る。

 魔王城を守るように立っていた魔族たちは一瞬何事かと身体を固くしたが、その声の主を見てすぐさまに警戒を解いた。ロリロリが大声を出すのは日常茶飯事らしい。


「ここですか。でっかいお城ですねー。さすが魔王の城」

「だろ!? 大きすぎて、ロリロリたまに中で迷う! 困ったことだ!」


 眉をしかめて腕を組むロリロリに、苦笑するフィーリア。

 たしかに城の大きさは大したものだ。

 権力の象徴ということもあるのだろうが、とにかく大きい。高さ五十メートルはあろうかという城の壁は堅牢な瓦で覆われ、見る者に威圧感を覚えさせる。

 屋根には例に漏れず雄々しい二本の角が生えており、まるで城自体が一匹の巨大な魔物のようだ。とすると今俺たちが立っている門はさしずめ魔物の口といったところだろうか。

 こんなでけえ魔物と戦えたら、さぞかし楽しいだろうなぁ……!


「なんだユーリ、ビビってるのか?」

「いいや、ちょっと城と一戦交えたくなってきてな」

「ユーリさん、お願いですからお城を急に殴り始めるとかそういう無茶なことはやめてくださいね。いくら隣に天に愛されたがごとき美貌をもつ私がいるとしても、許されない不敬はあるんですから」

「大丈夫だフィーリア。今のお前の一言で冷静になれたからな。俺以上にまともじゃない発言をして俺に正気を取り戻させるとは、見上げたヤツだ」

「ちょっと待ってください、私まともじゃない発言をした覚えがないんですけど……?」


 嘘つけ。天に愛されたがごとき美貌とか、まともな神経じゃ言えないだろ。

 しかし、俺の目の前のフィーリアはぽかんとした顔をして首をかしげるばかりだ。

 まさか、本気で今の発言をしたってことか……?

 いや、そんなわけがない。いくらなんでもそりゃないだろう。

 ……なるほど、わかったぞ!

 俺を止めたのは自分だと、そう声高に主張するつもりはないってことだな!

 なんてヤツだ、自身の功績でさえ知らぬふりをするとは……!


「フィーリア、お前は本当に出来た人間だな」

「なんだか釈然としませんけど……褒められたので、よしとします。いぇーい」


 フィーリアはやる気なさげに歓声を上げ、喜びをアピールした。

 そんな俺たちの会話が一段落したところで、ロリロリが城を指差し意気揚々と宣言する。


「よし、そろそろ城の中へと向かう! 二人とも、ロリロリについてこい! ついてこないと……ついてこないと、んーと……そうだっ! ついてこないと鼻がもげるぞ!」


 恐ろしいことを言うな。


「鼻がもげるのは嫌ですし、ロリロリちゃんの後に続きましょう」

「ああ、そうだな。鼻がもげるのは俺も嫌だ」


 すぐさまロリロリの後をついて行く俺たち。

 小さい歩幅で歩くロリロリを先頭にして、俺たちは城へと入る。

 自分がリーダーになったみたいで嬉しかったのか、ロリロリは上機嫌になって鼻の取れ方の解説を始めた。


「あのな、ボロンッて! ボロンッてもげる! ……可哀想に……ひどすぎる……」


 と思ったら悲しみはじめた。情緒が不安定すぎないか。

「こんな残酷な世界でも、ロリロリは生きてゆく……! 死んだら負けだ……!」とかカッコよく覚悟を固めているが、そもそも大抵のことじゃ鼻はもげない。安心しろ。


 ロリロリに導かれるように入城した城の内部は、豪華な装飾で彩られていた。

 珍しそうな魔物の全身のはく製だったり、廊下に数メートルおきに高そうな壺が置かれていたり。

 そしてその中でも一際絢爛な部屋の前に辿り着くと、ロリロリはくるりと俺たちの方を振り返る。


「ここが父上の部屋! 父上は偉くて優しくて凄い! どのくらい凄いのかとゆーと、それはもうかなりのもの!」


 キラキラと目を輝かせるのはいいんだが、肝心の凄さがイマイチ伝わってこねえな。

 気持ちだけ空回りしている様子が微笑ましかったようで、隣のフィーリアがクスリと笑う。


 とその時、「あ、ロリロリ様。お帰りでしたか」と声がかかる。

 部屋の前に控えている魔人からだった。

 凛とした佇まいの女性。格好からすると秘書のような立場だろうか。


「うんっ! あのな、父上に会いに来た!」

「ああ、そうでしたか。しかしながら今魔王様は重要なお話の最中ゆえ、少し待っていただくことになるかと……」


 申し訳なさそうに告げる魔人。

 それを聞いたロリロリは、むっすー、と頬をパンパンに膨らませた。


「せっかくユーリとフィーリアとゆー友達を父上に紹介しようと思ったのに! ロリロリは悲しみに暮れた!」


 プンスカ怒るロリロリ。

 頭から湯気がでてきそうな勢いだ。


「まあまあ、ロリロリちゃん」


 今すぐ地団駄でも踏みはじめそうな彼女を、フィーリアが優しく慰める。

 金の髪をサラサラと梳くようにして頭を撫で、尖らせた口をむにゅむにゅと弄って。


「きっとお父様も忙しいんですよ。魔王様なんてとっても大変なお仕事でしょうし」

「それは分かるけど……でも……」

「待っている間、お話でもしてましょう?」

「お話? うんっ、するする!」


 フィーリアの言葉で、ロリロリは笑顔を取り戻した。

 今の今まで怒っていたとは思えないほどの満面の笑みを携え、ロリロリはフィーリアと手を繋ぐ。


「フィーリアは優しいな! ロリロリはフィーリアのこと好きだ! だからロリロリの鼻をもぐ権利をやろう!」

「そ、それはいらないかなぁー。あはは……」

「……ちらっ! ……ちらっ!」

「俺もいらんぞ」


 そんなチラチラ見られても。


「まあ、ロリロリを好きに鍛えていい権利なら欲しいがな。どうだ、ロリロリ? お前も俺のような美しい筋肉が欲しくは――」

「いらないいらないいらないっっっ!」


 拒絶の意思が強すぎるだろ。

 せめて最後まで聞いてくれよ。

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