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171話 魔国

「あ、見えてきたぞ! あれが魔国! 父上の国!」

「へぇ、あれが……」


 ロリロリが甲高い声を上げながら前を指差す。

 そこに見えたのは、おどろおどろしい……わけではなく、ほとんど普通の街と変わらない街並みがだった。

 ただ、やはり空から見ているだけでもところどころ違いが見える。

 もちろん褐色の魔人が街中を普通に歩いていることもそうだが、建物自体にもいくつか。

 種族的な特徴なのか、色は暗目が多い。黒や灰色、赤茶色などが主だ。

 また、一軒一軒の大きさが王都よりも大きい。

 この辺は人口密度の差だろうか。王都には国中から多くの人が集まって来るけど、魔人は数自体が少ないらしいしな。

 そして中でも一番大きな違いは……。


 屋根の左右両端に、大きな角が付いていた。

 色や形は様々だが、どれも空から視認できる程度には大きく、存在感がある。

 パッと見た限りでは、全ての家に付いているように見えた。

 あれはなんだろうか。

 ロリロリなら知っているかもしれない。

 まだ幼いから知っているとも限らないが、聞いてみて損はないだろう。


「なあロリロリ」

「なんだ?」

「魔国の家には、屋根に角みたいなのが二本生えてるんだな。あれはなんだ?」

「あれは角だ!」


 そういうことじゃないぞ。


「えっとロリロリちゃん、あの角はどういう意味があってついているんですか?」


 おお、ナイス通訳だフィーリア。

 こういう時、俺の意図を汲んで適切な言葉に言い換えてくれるのは助かるな。

 フィーリアの質問を聞いたロリロリはニュッと顔の中心にパーツが集まる。


「むむむー? 難問だなー。でも、父上に習った気もする……あ、ヒントはまだいらない! いらないからな!」


 俺たちに向かって腕を振り、ヒントをださないようにと伝えるロリロリ。

 ヒントは出せねえよ、だって答え知らねえもん。


「……思い出した! 魔人にも角生えてるだろ? 魔人は家を仲間みたいに思うから、それで角が生えてる!」

「ほぉ」


 そうなのか、勉強になった。

 意外と自分の国の風土とか歴史とか、知ってるんだな。

 ……まあ姫様だし、当然なのかもしれんが。




「じゃあ、そろそろ降りるぞ!」


 そんなロリロリの言葉に従い、俺たちは魔国の地に降りる。

 地面は普通の地面だ。とくに変わったところは一つもない。


「とうちゃーく! ここがロリロリたちの住んでる魔国とゆーところ! ひじょーにおもむきがある国です! よろしく!」


 ロリロリが言葉を発すると、途端に周囲がざわめきだす。

 まあ、そりゃそうか。

 自分たちの国の姫が、突然見知らぬ人間たちと共に街中に降りてきたのだ。パニックになるのも当然だろう。


「え、あれロリロリ様だよな?」

「まーたなんか変なことしてるのか?」

「人間たちを困らせようとしてるんじゃねえか? ロリロリ様だし」

「さすがロリロリ様だよな、本当」


 ……パニックではないな、これは。

 ロリロリ、お前絶対普段から色々問題起こしてるだろ。

 半目で見つめると、ロリロリはくるりと背中を向けて、国民の方へと向きなおった。

 そして小さな腕を目一杯にぶんぶんと振り、大声を出す。


「皆! 今日もおはよう、ロリロリが来た!」

「おはようございます、ロリロリ様!」

「うん、おはよう! 皆のおかげでロリロリは今日も元気いっぱいだ!」


 ……まあ、人気はあるみたいだから俺が口出しすることじゃないか。

 うらやましいくらいの人気だ。見える限りの人々が、ロリロリに向け笑顔を浮かべている。

 筋肉もこれだけ人気になる時がくるのだろうか。是非来てほしいものだが。


「こうしてみると、ロリロリちゃんがお姫様っていうのも意外と受け入れられる気がしますね」


 街の人々に一生懸命に手を振るロリロリを見ながら、フィーリアがしみじみと呟く。

 たしかにこの光景だけ見ると、献身的に国民に尽くすお姫様に見えなくもない。

 こういう振る舞いを見るに、普段の態度には全く現れないが、ロリロリの根底には姫としての自覚もすでに芽生えているのだろう。


「ロリロリちゃんは可愛くて人気もあってお姫様で、完璧ですし。その点私には可愛さと人気はありますけど、地位はありません。まだまだ精進ですね」

「いや、お前人気あったのか?」

「あ、ありますよ!?」


 フィーリアが、ぎゅんっ、と目を見開いて俺を見てくる。

 まあ、人気ある……か?

 よくわからないが、本人があると思っているならいいだろう。

 俺が口を出すことじゃない。


「思ってることバレバレですからね?」

「言わないようにしたんだから、わざわざ心読まなくていいだろうに」

「だって、気になるじゃないですか! どう思ってくれてるのかな~って!」

「大体、他人からの評価なんて気にしてないから覚えてねえ。ましてや他人からのフィーリアへの評価なんてなおさらだ」

「それじゃ駄目です!」

「なんでだよ」

「嫉妬してほしい! 私が他の人にちやほやされるのを見て、『で、でも俺が一番フィーリアと親しいんだからな!』って思ってほしい!」


 なんだそりゃ、意味が分からねえ。


「まあともかく。周りからの人気は知らないけど、お前は良いヤツだと思うぞ」

「ふーん……? だんだん私の扱い方を覚えてきましたねユーリさん。いいでしょう、合格です」

「何に合格したんだよ」


 コイツ本当わけがわからん。




 数分かかって挨拶が一段落したところで、ロリロリは再び氷の翼をはためかせた。


「ユーリ、フィーリア、さっそく父上のところに行こう! あとちょっとだぞ! しゅっぱーつ!」


 そう言って、大地を飛び立つ。


「また飛ぶのか? せっかく降りたのに?」

「また飛ぶ! 魔王城はもう少しあっちだからな! 一回降りたのは、大地が懐かしく感じたから!」


 なんだその理由は。

 兎にも角にも、俺たちは魔王城目指して再び飛び始めた。

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