163話 任された仕事はきちんとこなしましょう
くんくんと鼻を動かし、フィーリアの居場所を探る。
なるほどなるほど……集合時間にはまだ大分早いが、フィーリアは約束の砂浜にすでにやってきているようだ。
それがわかったところで、俺は魔物を背負って砂浜へと向かった。
視界が開ける。
白い砂浜にぽつんと座り込んでいたフィーリアは、こちらの姿を確認すると立ち上がった。
「お帰りなさいユーリさん……って、後ろに魔物引き連れてません!?」
「ああ、友達になった」
ギョッと身を固めるフィーリアにそう言って、俺は背中の魔物を地面に下ろす。
魔物は「グルルル!」と威勢の良い声を出した。とても手負いとは思えぬ迫力だ。
きっと俺に背負われて上機嫌になったのだろう、可愛いヤツめ。
頭を撫でてやると手を伸ばすと、魔物は素早く頭を動かし俺の手の平に噛みついた。
「グルルルルッッ!」
「見ろ、甘噛みしてる。俺も結構懐かれたみたいだな」
「どう見ても本気で噛んでるようにしか見えないんですけど……」
なに? おかしいな。どうやらフィーリアと俺では見えている景色が違うらしい。
「まあ、とりあえず回復魔法をかけてやってくれ。あ、ついでにコイツにもな」
カンガルーのような魔物に続き、ウサギ型の魔物もフィーリアに預ける。
「いいですけど、襲われても知りませんからね?」と言いながらもフィーリアは回復魔法をかけた。
二匹の身体が白い光に包まれ、傷ついていた箇所が見る見るうちに治っていく。
回復魔法を見たのが初めてなのか、二匹の魔物はぽかんとまぬけな表情を浮かべながら、鳴き声も忘れて口を半開きにしていた。
その間に、俺は二匹の行いについてフィーリアに話す。
仲間を守ろうとするその熱い心に胸を撃たれただけあって、俺の口調も熱くなってしまった。
治療を行いながらも全て聞き終えたフィーリアは、呆けながらも互いを守るように座り込む二匹を見る。透心で心の中を覗いたのか、フィーリアは納得したような顔をした。
「……たしかに凄く情の厚い魔物たちみたいですね」
「だろ? こいつらは男の中の男だ!」
「あ、でもウサギの子の方は女の子みたいですけど」
「なに? そうだったのか」
てっきり男かと思ってたぜ。
「こりゃ筋繊維一本とられたな」
「普通に一本とられてください」
しばらくすると、ふっ、と二匹の周りの白い光が消える。
「はい、治りましたよ」
フィーリアは二匹に向かってそう言った。
治療が終わると、ボーっとしていた二匹はようやく正気を取り戻す。
「グルル……」
「ピャア……」
二匹でしばし向き合うと、今度は俺たちの方に身体を向けた。
でかい方の魔物が俺に近寄り、小さい方がフィーリアに近寄ってくる。
何をされるかと思えば、魔物は腹についたポケットからどんぐりを取り出した。
「くれるってことか?」
「グルル!」
ここまで連れてきて回復魔法をかけてやったことへのお礼、といったところだろうか。
隣を見れば、小さい魔物は背に生えた翼でパタパタと飛び、小さな舌でチロチロとフィーリアの手の平を舐めている。
「か、かわいい……! 私、この島に来てよかった……!」
あ、フィーリアがオチてる。
「しっかりしろフィーリア、正気に戻れ」
「ハッ! あ、危ないところでした……! 一番可愛いのは私だというのに、あやうくこの魔物の可愛さに負けてしまうところでしたよ」
「しっかりしろフィーリア、正気に戻れ」
「もう戻ってます」
「戻ってそれなのか……」
「はい、戻ってこれなんです」
ナルシスト具合が留まるところをしらねえな。
「でも、この二匹も私たちのことを認めてくれたみたいですね」
二匹は俺たちに対する警戒を解いたようだ。
回復魔法を受ける前までのピリピリとした空気はどこへやら、親しげにこちらに寄ってきているし、なにより透心で心が読めるフィーリアが言っているのだから間違いない。
「ああ。まあグルとピャアは俺のことは最初から認めてただろうけどな」
「そういうことにしておいてあげます……って、もしかしてグルとピャアってこの子たちの名前ですか?」
「ああ、こいつらの鳴き声をもじってつけてみた」
「これ以上なく直球ドストレートですけどね。一体どの部分をもじったんでしょうか」
不思議そうな顔をしながらも、特に反対意見はないようだ。
魔物たちも特に不服そうではないので、名前はグルとピャアに決まった。
まさか俺が生き物の名付け親になる日が来るとは思わなかった。感慨深い。
「あ、そういえば夜を過ごせそうな場所見つけましたよ。運よく洞窟がありました。二人分には十分な広さもありましたし、他の生物がすんでいる形跡も見当たりませんでした。あそこなら安全だと思います」
「おお、良く見つけたなフィーリア」
フィーリアは割り振られた仕事をきちんとこなしてくれる。
そういうところはパートナーとして信用できる点だ。
「えへへ、まあ当然ですけどね!」
「じゃあ、早速その洞窟とやらに行くとするか」
褒められて上機嫌になる相変わらずのちょろさのフィーリアと共に、俺たちは歩き出す。
時間的にはまだ昼過ぎくらいだろうが、日が落ちる前によく中を確認しておきたいしな。
にしても、案外順風満帆にいってるな。
俺としてはもうちょっと困難とかが襲ってきてもいいのだが。
宇宙人が押し寄せてきたりとかしねえかな、と空を見上げる。
憎いくらいに青い空には、鳥が飛んでいるだけだ。
心が洗われる光景だが、宇宙人は来てくれそうにねえな。
そんなことを考えていると、フィーリアが声をかけてくる。
「そういえば、ユーリさんの方はどうなったんですか? 食糧見つかりました?」
「え……? ……あっ」
「ちょっと!? 『あっ』じゃないですよ、『あっ』じゃ! 忘れてたんですか?」
コクリと頷く。
そうだった、俺は食糧探し担当だったんだった。
通りでなんか忘れてると思ったんだよな。
だが仕方ない、インテリマッスルにも物忘れくらいある。
自分の仕事を放っぽりなげてしまった俺に、ジトッと半目を向けてくるフィーリア。
「このままだと死活問題ですよ。聞いてくださいユーリさん」
そう言うと、唇に指を当てて「しー」と合図をした。
言われた通りに口を閉じると、くるるるる……と音がする。
音の発生源はフィーリアの腹部だ。
「聞きましたかユーリさん、私のお腹が悲鳴を上げてます」
どうやらフィーリアは相当な空腹のようだ。
「悪い悪い。ごめんな」
「まったくもう、一つに夢中になるとすぐ他のこと忘れちゃうんですから……」
「今から一狩り行ってくるわ。俺も腹減ったしな」
軽く腹を擦る。
慣れない環境で食事を抜いてしまうと、パフォーマンスに影響がでてしまうかもしれない。
俺はどんな状況でも最高の筋肉魔法を放つための訓練を欠かしていないが、フィーリアは違うからな。
洞窟に行く前にちょっくら魔物を狩ってこよう――と思ったところで「グルッ!」とグルの声がした。
見ると、ピャアを腹のポケットに入れたグルがこちらを向いている。
「ん? なんだ、グル?」
「グラアッ!」
グルは発達した後脚でピョンピョンと地面の上を跳ねながら、俺の前へと歩み出る。
そしてクイクイっと頭を動かした。
「『ついて来い』って言ってるみたいですけど……」
「じゃあ、行ってみるか」
島のドンであるグルと友という関係になった以上、この島で危険に巻き込まれることはまずない。
気楽な心持ちでグルとピャアの後をついて行く。
しばらく歩くと、生えている植物の種類が変わってきた。
足元に並ぶのは、街でも見られるような野菜の葉。
「ピャア!」
ピャアが声を上げ、グルが立ち止まる。
軽く地面を掘ると、中からはでっぷりとした根菜が姿を見せた。
それを見て、隣のフィーリアが目を輝かせながら涎を拭う。
「や、野菜がいっぱい……! こ、これ、私たちにくれるんですか!?」
「グルッ!」
「ありがとうございます! ありがとうございます! グルくん、ピャアちゃん、本当にありがとうございますっ!」
「グ、グル……」
「ピャ、ピャア……」
フィーリアの感謝の勢いに、二匹は一歩後ずさる。
必死すぎだろフィーリア。どんだけ腹減ってたんだよ。
「魔物に引かれる人間ってなかなかレアだよな」
「う、うるさいですね、元はと言えばユーリさんのせいじゃないですか。それに、感謝はしっかり伝えないと駄目なんですよ」
「まあ、言っていることは正論だ」
迷わず案内してくれたということは、普段からこれを食料にしているのかもしれない。
自分たちの命綱である食糧を分けてくれたという事実には感謝するべきだ。
「ありがとな、グル、ピャア」
「グルッ!」
「ピャアッ!」
感謝を伝え、俺とフィーリアはぼりぼりと根菜に齧りつくのだった。




