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162話 男気

 とりあえず、海岸沿いを歩いてみる。

 海岸の内側は密林のように木々がたくさん生えていて、見通しが悪いからだ。

 本当に何もない場所で、一時間近く歩いてみても何も変わらない。

 左には密林、右には海。

 代わり映えのしない光景が、このままいつまでも続きそうだ。


「……なんか、飽きてきたな」

「いやいやいや。まだ一時間くらいですよ?」

「飽きたものは飽きた。退屈だ」


 青と白の光景はたしかに綺麗だが、さすがに一時間は長い。

 海より空より魔物が見たい。俺は戦いたいぞ、フィーリア。

 そう目線で告げると、フィーリアは諦めたようにため息を吐いた。


「……じゃあ、一緒に上から見てみましょうか。もし敵意を持った人たちがいたら狙われちゃいますけど、その時はお願いしますね?」

「おお、任せろ!」

「急に元気になりましたね……」


 戦えるかもしれない。その可能性に頬がほころぶ。

 こんな人気のない場所に来たら、まず考えるのは戦える敵がいるかどうかだもんな。

 そういうわけで、フィーリアに先んじて俺は跳んだ。

 空気を蹴り、空気を蹴り、上空へと上がっていく。


「もう、先行かないでくださいよ~」


 フィーリアも風魔法で俺に追随してくる。

 そして俺たちは揃って下を見下ろした。

 転移してきてから一時間と少し。

 俺とフィーリアは、ようやく転移してきた場所の詳細を知ることになった。


「……島、ですね」


 眼下には島があった。

 四方を青い海に囲まれた島。

 直径五キロほどの円形をした島だ。


「島だな」


 軽く周りを見渡してみる。

 この島以外に陸地は見当たらない。

 さしずめここは絶海の孤島というわけだろうか。

 とりあえず、上空の俺たちを狙ってくるような敵はいなそうだな。


「……これ、帰れるんでしょうか」


 フィーリアがポツリとつぶやく。

 帰れるかどうかなんてわからん。もっとも、答えを求めて聞いてる訳でもないだろうが。

 しかし、まさか島だとはな。

 俺もフィーリアも飛ぶことはできるが、一日中飛んでいることは無理だ。

 近くに陸地が無い場合、そのまま海に落ちてしまうことになる。

 これはあれだな、サバイバルってやつだな。


「まあ、なんとかなるだろ」


 見る限り、陸地は緑で埋め尽くされている。

 これだけ密林が広がっているなら、動植物もいるだろう。

 食糧面の心配はそこまでない。

 それなら生きてるうちになんとかなるだろ。


「……こういう時、ポジティブな人がいると少し楽になりますね」

「まあ、俺は元々森の奥で一人で暮らしてたわけだしな」


 サバイバルには物心ついたときから慣れっこだ。

 昔に戻ったような気がして少し懐かしくなる。

 それに、良く考えればフィーリアだって森の中の里で暮らしていたわけだし……。


「意外と楽勝な気がしてきた」

「本当ですか? 信じますよ?」

「おう、信じろ!」


 俺は胸を張る。


「じゃあ、信じます」


 フィーリアも信じてくれたことだし、これから頑張らないとな!




 再び砂浜に降り立った俺たちは、これからどう動くかを決める。


「周囲に他の陸地も見当たらない以上、人がいる可能性は極めて低そうです。なので、食料を集めましょう……で、いいですよね?」

「いいと思うぞ。だけど食料探しと同時に寝どこも探さねえと」


 俺は砂浜に寝転んで寝るのでも構わないが、砂浜は夜は寒い。

 フィーリアがそれをするともれなく風邪を引くだろう。

 つまり、寝どこも探さなきゃならないってことだ。


「あ、じゃあそっちは私がやります。さっき上から見たとき、反対側の砂浜に岩っぽいところが見えたのでもしかしたら洞窟とかあるかもしれませんし。なかったら魔法でなんとかします」


 なるほど、やっぱり魔法は便利だな。

 だが、俺の筋肉魔法も負けちゃいねえぞ。


「なら俺は筋肉魔法で食料を持ち帰る。よし、決まりだな。互いの魔法を駆使して頑張ろうぜ」

「ユーリさんのは魔法じゃないですけどね……」


 そんな声を無視し、一時間後に反対側の砂浜で集合することを取り決めて別行動をとることにした。


 密林へ踏み込むと、途端に視界が狭まる。

 先ほどまで視界を遮るものがなく、鍛えた俺の目にはほぼ三百六十度の視界があったことを踏まえると、この落差は中々強烈だ。


「ドジを踏まないようにしねえとな」


 自分を戒めるように呟き、一歩ずつ進む。

 地面は腐葉土のようにぶよぶよと柔らかい感触で、多分フィーリアがここを歩いたらまず間違いなく気持ち悪がって悲鳴を上げそうだ。

 木々は細く、そして茶色よりも少し濃いこげ茶色をしている。

 緑色をした葉は針のように鋭いが、強度からして殺傷性はなさそうだ。


「ん?」


 ザッと観察していると、ふと何かの気配を感じ取る。

 ……いるな。魔物か?

 音を立てないよう、そちらに近づく。

 そこにはウサギのような白い体毛をした魔物がいた。

 草を食べていて、どうやら食事中のようだ。

 魔物はこちらに気付くと、背中から白い羽を生やして一目散に逃げ出す。

 だが、こちらとしても逃がすわけにはいかない。

 食わなければ死んでしまう。


「悪く思うなよ」


 俺は魔物を追いかけはじめた。

 小柄な魔物は密集した木々の隙間を縫いながら器用に逃げる。

 俺はそれらの木々をへし折りながら猪突猛進追いかける。

 段々と距離が縮まっていき、あともう少しで捉えられる、というところまでいった時。


「グルルルルッ!」


 前方から、他の魔物の鳴き声がした。

 一瞬警戒して立ち止まる俺を余所に、ウサギのような魔物はそちらに一目散に逃げてゆく。

 ドシン、ドシン、と地が震える。音が段々とこちらに近づいてくる。

 どうやらこの森には、予想外の大物がいたようだ。


「グルルウララァァァァッッ!」


 現れたのは、二足歩行の魔物だった。

 異常に発達した後脚で百キロはありそうな体重を支え切り、そして人間と同じく自由となった前脚には、得物を仕留めるためだけに進化したような凶悪なかぎ爪が備えられている。

 腹部には大きなポケットのようなものもついていた。

 全身赤色のカンガルーのような魔物は、背後に怯える白いウサギ型の魔物を匿っている……ように見えた。

 どうやら襲われた白い魔物を守ろうとしているようだ。


「一目見て分かったぜ。お前がこの島のテッペンだな」

「グルルルウ!」


 紅い魔物が身体を縮こませる。

 それが跳躍の前準備だと気付いたときには、すでに魔物は地面を蹴った後だった。

 発達した四本の脚が一気に開かれ、俺に襲い来る。

 速えっ!

 すんでのところでそれを避ける。

 胸を鋭いかぎ爪で引っ掻かれ、薄く痕が残る。


「まあ、出血する程じゃないけどな」

「グルルル!?」

「そう驚くな、今度はこっちの番だ」


 拳を構える。

 魔物は再度俺に身体を縮めこんだ。

 それが一番自信のある攻撃ってことか。いいぜ、受けて立つ。


「グルルルルルッ!」

「おらあっ!」


 飛び込んできた魔物に、カウンターで拳を合わせる。

 拳は魔物の鼻面に直撃した。

 自身の勢いで倍加した拳の威力に、魔物は溜まらず吹き飛ぶ。


「ガハッ! グ……グルッ……!」


 地に転がった魔物は吐血しながら苦しそうな声を出す。

 ほぅ、あれで爆散しないとは……。

 やはりコイツ、中々の強者だったようだ。

 だがしかし、勝ったのは俺。悪いがお前には俺たちの食料になってもらう。

 魔物へと一歩ずつ近づいていく。

 そして、目の前まで来た時だった。


「ピャアッ!」


 俺の足を何かが引っ掻いた。


「ピャアッ! ピャアッ!」


 見ると、それは先程の白いウサギのような魔物だった。


「……そんなのが効くと思うか?」


 お前のボスであるコイツの攻撃で出血しなかった俺が、今更お前のその柔い攻撃で足を止めると思っているのか?

 見下ろす俺に、魔物は怯まない。

 ……いや、怯んではいるのだろう。だが、攻撃は決して止めない。


「ピ、ピャア! ピャァァッ……!」


 そして、倒れた魔物を守るように俺と魔物の間に立ち、精一杯の威嚇をして見せた。


「……慕われてるんだな、お前」

「グル……!」


 紅い魔物は、真っ赤な眼で俺を睨む。

 その目はまるで、「俺には何をしてもいいからソイツには手を出すな」と言っているように思えた。

 なるほどなるほど……。


「……感動した」


 俺は敵意を引っ込める。

 そして白い魔物を手の平の上に乗せた。


「ピャアッ!?」


 驚く白い魔物を無視して、紅い魔物も背中に背負う。

 これほどの男気を見せられたら、もう戦うことなんて出来やしない。

 人間でも中々いないぞ。本当に感動した。お前らは漢だ!


「俺とお前らは今日から友達だ! 今回復魔法が使えるヤツのところに連れて行くからジッとしててくれ」

「グル!? グルグルルル!」


 紅い魔物はどうも照れているようで、ガリガリと背中を引っ掻いてくる。

 ははは、ヒリヒリするぞ。


「おいおい、じゃれるなじゃれるな」

「グルルル! グルルルッ!」


 こうして、俺は島で初めての友人を手に入れた。

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