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161話 謎の場所

「……ん?」


 目を覚ますと、何故か俺は砂浜に寝転がっていた。

 こんなところに来たような記憶はないのだが……。

 何があったのかと記憶を思い返してみて、ようやく思い当たる。

 そう言えば、フィーリアが転移の魔道具とかなんとか言っていた気がする。

 つまり俺はここに転移してきた、と考えるのが自然だろう。

 一日のうち二十時間を筋トレに費やすくらいには自然だ。


「と、すると……。フィーリア! いたら返事しろ、フィーリアあああああっ!」

「み、耳が壊れますっ!」


 おお、後ろにいたか。細いから木の棒かと思っていたらフィーリアだった。


「なんか、大変なことになったみたいだな」

「はい。この転移の魔道具、使用者をランダムに世界のどこかに飛ばすものだったみたいです。深海や空の上なんてところじゃなかっただけ、まだマシかもしれませんが……」


 フィーリアは手元の黒い箱を見ながら渋い顔だ。

 なるほど、たしかに意識を失った上に海や空に投げ出されていたら、さしもの俺でも命の危険はあったかもしれない。

 そう考えると、中々凶悪な魔道具だな。


「ユーリさん、ごめんなさい……」


 俺を巻き込んでしまったことにか、軽率な行動についてか、あるいは両方にか。

 フィーリアは俺に頭を下げる。

 俺は謝るフィーリアの頭をクシャクシャと撫でた。


「あんなことになるとは俺も想像がつかなかったし、仕方ないだろ。あんまり自分を責めるな」

「ありがとうございます。……でも、無理に優しくしないで良いですよ?」


 俺が許してもまだ罪悪感を抱えたままのようだ。

 これはあれだな、自分が自分を許せないってやつだな。

 なら、俺がいくら許すといってところで意味もないか。


「ユーリさんはいつも、肝心な時は優しくなりますよね。そういうところはとても素敵だと思いますけど、でもたまに、こういう申し訳ない気持ちをどうしたらいいのかわからなくなります……」


 フィーリアが眉を下げてしょぼくれる。

 そんなに申し訳なさそうにされると、こっちがどうしていいかわからない。

 ……いや、優しくされるとどうしたらいいかわからないのなら、責めればいいんじゃないか? なるほどこれは名案だ、早速実践してみるとしよう。


「じゃあ言わせてもらうが、流石に不用心すぎだな。直す前に誰かに鑑定でもしてもらっていれば、その魔道具が転移の魔道具であることはわかったはずだ。それに、転移の魔道具だとわかった後の行動もいただけない。どう考えても一人より二人の方が生き残る確率は高くなるはずなんだし、むしろ俺に助けを求めるべきだった。あとお前には筋肉が足りない」


 とりあえず思いついたことを口に出してみる。

 どうだろうか、元気になってくれるだろうか。

 お、プルプルと震えだしたぞ? なんだ? 進化するのか?

 俯いて肩を震わせていたフィーリアは、カッと勢いよく顔を上げた。


「そ、そこまで言うことないじゃないですか! あと筋肉は関係ありません!」

「お前がやさしくするなって言ったんだろ」

「私はか弱いんですから優しくしてくださいよ! しまいには泣きますからね!」

「お前さっきから言ってることめちゃくちゃだぞ」


 フィーリアは「自分でもわかってますよ!」とよくわからない怒り方をしながらも、その口元には笑みが浮かんでいる。

 よくわからないが、作戦は成功したようだ。結果オーライだったような気もするが仕方ない。俺は人づきあいは苦手なのだ。


「……まあ、ユーリさんも私の可愛さに免じて許してくれたってことですかね。じゃあ本題に入りましょうか」

「お前本当に俺と話してるんだよな? 不安になって来るんだが」

「不安にならないで良いです、私はユーリさんとしか話してません」


 じゃあどこから可愛さ云々がでてくるんだよ、と半目を向けるが、フィーリアは指で頬を持ち上げてニッコリ笑顔を向けてきた。

 こんなところで謎のメンタルの強さを発揮するな。


「とまあ、現実逃避は本当にこれくらいにして。……ここ、どこなんでしょうね」


 なるほど、たしかにそれは本題だな。

 いの一番に話し合わなければいけないことだろう。

 今いる場所は海岸線のようだが……ここは大陸なのか、それとも島なのか。

 島だとしたら、周りに国はあるのか。そして食料はあるのか。

 考えなければならないことは山ほどある。だが、現状の俺には何もわからない。


「さあな、皆目見当もつかん。ドキドキするぜ」

「ハラハラしてくださいよ。……もし、もしですよ? ……無人島とかだったらどうしましょう」

「ドキドキするぜ!」

「なんでさらにテンション上がってるんですか」


 あれ、そんなにおかしいこと言ったか?

 むしろフィーリアがドキドキしろ。

 そんなことを思っていると、フィーリアが今回の騒動の元凶となった魔道具を俺に手渡してくる。


「とりあえず、これは壊しておいてくれませんか? また私たちのような犠牲者を出さないためにも」


 それを受け取る。

 小さな黒い箱……金属製のようだが、俺なら問題なく破壊できるだろう。

 と、見ているうちにある考えが湧いてくる。


「そうだ、これをもう一回使えば帰ることはできないのか?」

「んー……残念ながら無理ですね。これはランダムに転移させるだけなようなので、もう一度使ったらまた別のところに転移させられます。場所の指定はできないので、今度こそ海の底とか空の上とか、もしかしたら石の中に移動してしまうかもしれません」

「そうか、わかった」


 まあ、俺が考え付くようなことはフィーリアもすでに考えているか。

 フィーリアって結構頭いいからな。筋肉はないくせに。

 インテリマッスルの風上にも置けないインテリだ。


 とりあえず、転移の魔道具をぶっ壊す。

 一発思い切り殴ると、ゴシャリという音と共に魔道具は粉々になった。

 ハラハラと風に舞い、小さな破片が飛んでいく。

 手元に残った魔道具の欠片は、フィーリアにもう機能しないことを確認してもらってから砂浜に穴を掘って埋めた。

 五メートルは掘ったから、あれで怪我をする危険はまずないだろう。

 パンパンと手を叩きながら、埋まった魔道具のある場所を見つめる。


「使えたらお前だけでも帰れると思ったんだが、現実はそう甘くないみたいだな」

「ユーリさんはどうあっても自力で王都まで帰る気なんですね……」

「いや、別にそういうわけじゃないぞ? ただ……」


 俺は目線を上げる。

 空と雲。海と砂浜。

 青と白の光景が、俺の前に広がっていた。


「この景色見てると、ワクワクしてくるだろ? こんな広い海岸独り占めなんて、普通は出来ないぞ」


 見渡す限り広がる白い砂浜と青い海。

 海は水平線で空と溶け合い、境目もわからない。

 こんな絶景に誰もいないなんて、王都じゃ考えられないことだ。

 どこにも人の気配がしない、俺とフィーリアだけの空間。

 それに納得してくれたのか、フィーリアは小さく頷く。


「……まあ、それはたしかにそうですね。二人きりって考えると、ちょっとロマンチックかも……」

「つまり、ここでどんな強大な魔物が出ても、横槍は入りっこないってことだ」

「私が感じたロマンティックを返してください」

「探すぞフィーリア、未知の強敵を!」

「探しませんよ。それより人を探しましょう人を」


 ちぇっ、魔物は探さないのか。

 まあこういう時の司令塔はフィーリアに任せている。

 俺がやると危険なところに進み続けてしまうからな。

 そういうわけで、俺たちは未知の場所を人を求めてさまよい始めた。

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