158話 立ち直りが早すぎるのもどうかと思う
「昨日は迷惑かけてしまってすみませんでした……!」
開口一番、フィーリアが俺に謝る。
ベッドの上で頭をつけて、見事な土下座を俺に披露していた。
朝になり、正気に戻ったところで改めて昨日の痴態を思い出したらしい。
「アイツらも優しいからな。笑ってくれてたし多分大丈夫だろ」
「ユーリさんにはおぶってもらってみたいですし、色々とご迷惑を……」
そう言って深々と頭を下げる。
垂れた髪の間から覗く肌はほんのり赤くなっていて、恥ずかしさも相応に感じているのがわかる。
反省してくれているならあまり追及はしないでやろう。
あんまり思いつめさせすぎるのもよくないからな。
フィーリアの肩に手を置く。
「気にするな、俺とお前はパートナーなんだから」
「はい、じゃあ気にしません!」
「立ち直りの早さ尋常じゃねえな」
即座に顔を上げたフィーリアに、ヒクッと頬が引きつる俺。
フィーリアはそんな俺の表情を上目遣いで確認し、キョロキョロと所在なさげに視線を散らした。
「あ……ま、まだ立ち直らない方がいいですか……?」
「いや、立ち直ったんなら別に立ち直ってくれていいぞ。この切り替えの早さもフィーリアの長所っちゃあ長所だし」
「そうですよね、さすが私!」
下手に褒めるとすぐ調子乗るな。
なんでコイツはこんなにチョロいんだ。
先ほどの土下座など影も形もなく、ベッドの縁に座って渾身のドヤ顔を決めるフィーリア。
なんというか……ぽんこつ感があふれ出てるなぁ。
「あ、今失礼なこと考えませんでした?」
そんなことを考えていると、フィーリアが尋ねてきた。
その口調からして透心を使ってはいないのだろうが、よく俺の考えていることがわかるな。
華奢な身体からさながら警備隊並の雰囲気を漂わせ、探りを入れてくるフィーリア。
この追及を躱すのは骨が折れそうだ。
……いや、躱そうとしなければいいのか?
「ユーリさん、どうなんです?」
「いや? フィーリアは可愛いなーって」
ぽんこつだけど、実際可愛らしいとは思う。ぽんこつだけどな。
「あっ、その……そうですか」
それを聞いたフィーリアは追及の手をピタリと止め、今度は黙って睨んできた。
見ている分には面白いが、くるくる表情が変わって忙しいヤツだ。
「なんで睨む?」
「不意打ちは卑怯だと思います」
? 意味がわからない。
どういうことだ?
「こういうのは準備が必要なんですよ。……そうだ! 昨日の一回を今使います」
フィーリアがポンッと手を叩く。
昨日の一回?
……ああ、なんでも一回だけ言うこと聞くってやつか。
あんなにデロンデロンだったのに覚えているとは……。
とはいえ約束した以上はそれを破る訳にもいかない。俺はジェントルマッスル、約束は違えない男なのだ。
「……何だよ」
警戒しながら少しぶっきらぼうに聞いてみると、フィーリアはぐへへと邪悪な笑みを浮かべた。具体的に言うと、かませ感満載の邪悪な笑みだ。
「私の後に続いて同じ言葉を言ってください」
「同じ言葉? ああ、わかった」
なんだ、意外と簡単そうな頼みだったな。
拍子抜けする俺に、なぜか乙女のような表情を向けるフィーリア。
「リピートアフターミー。『私は可愛い』」
「私は可愛い」
「ちっがいますよ! なんでユーリさんが自画自賛してるんですか!」
「だって同じ言葉を言えって」
何を急に怒ってるんだフィーリア。
ボスボスとベッドを叩いて、意味が分からんぞ。
俺の言葉にぐうの音も出なかったのか、フィーリアは剥き出しにしていた白い歯を口に収め「うぐう」と唸る。
「そ、そうでした。……じゃ、じゃあ『フィーリアは可愛い』でもう一回お願いします!」
「いや、今ので一回分の頼みは終わったからもう無理だな」
「酷いっ! 人でなしっ!」
ぽこぽこと胸を叩かれるが、全く持って動じない。
これが筋肉の頑丈さだ。恐れ入ったか。
「フィーリアはぽんこつだなぁ」
「ぐぬぬぅ……。一生の不覚です……!」
悔しそうな顔のフィーリアが面白くて俺は笑う。
フィーリアもプイッと顔を背けた後、ふふ、と我慢できずに笑うのだった。
今回いつもの半分くらいですすみません!




