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152話 やってきた少女

 ある日、依頼を終えて帰ってきた俺とフィーリアは宿へと帰るため王都を歩く。


「そういえば、最近この辺りに二人組の連続放火犯がいるらしいですよ。物騒ですよねー」


 新聞か何かで仕入れたのだろうフィーリアの言葉を聞きながら、俺はなんとなく道の先を見る。

 そこには物陰に隠れるようにして、ゴーシュが立っていた。

 久しぶりの再会だ。まさか街中で再会できるとは思っていなかった分、俺は少しテンションが上がる。


「ゴーシュ、久しぶりだな! 元気だったか?」

「あ、ユーリ君ちょっと待って! 今は……!」


 俺が若干離れた場所から声をかけると、ゴーシュは慌てて俺を見た。

 あんなに慌てて、どうしたんだ?

 その答えはすぐにわかった。


「ゴーシュって、騎士団のあのゴーシュか!?」

「やべえぞ、逃げろ!」


 突然、ゴーシュの前にいた二人の男が散り散りになって走り始める。

 一人はゴーシュが捉えたが、もう一人は捉えきれずにこちらへと接近してきた。


「ユーリ君、フィーリアさん! その男は放火事件の犯人だ、捕まえてくれ!」


 通りにゴーシュの鋭い声が響く。

 なるほど、だからあんなにコソコソしてたってわけか。

 どうやら俺はかなり余計なことをしてしまったらしい。

 なんとか埋め合わせしねえとな。


「クソが! 捕まるか!」


 狂乱状態の男が両手に炎を構え、それを無差別に撃ち放つ。

 突然の凶行に王都の街はパニック状態だ。

 しかし、放たれた炎は誰にも直撃することはなかった。


「本当に物騒ですね」


 ふぅと安心したように息を吐くフィーリア。

 透心で男が誰を狙うかを読み取り、風神でその人を守ったのだ。

 さすがフィーリアだ。

 俺はいつも頼れるパートナーに感謝しながら、男に接近する。

 俺はあまり守るのは得意じゃない。素早く倒すのが、俺が他人を守るためにできる最善の方法だ。


「おらあっ!」


 犯人の男をぶん殴る。

 地面にめり込んだ男はピクピクと四肢を震わせた。

 最低限の手加減はしたおかげで、命はあるようだ。

 ともあれ、なんとか犯人を確保することはできたのだった。




「おかげで結果的には楽が出来たよ。ありがとう」


 二人を縄で縛り上げたゴーシュが俺たちに言う。


「いや、迷惑かけちまって悪かったな」


 俺はゴーシュに頭を下げた。

 仕事中だと気付かなかったとはいえ、ゴーシュの邪魔をしてしまった。

 悪いことしちまったな、と思う。

 しかし、ゴーシュはそんな俺の謝罪に手を振る。


「君のせいじゃないし、むしろ助かったよ。たまたま昼食休憩中で僕一人だったし、二人同時には確保できなかったかもしれないしね。フィーリアさんもありがとう」

「いえいえ、それほどでもー」


「じゃあ、僕はこれで。またいつか冒険の話でも聞かせてくれると嬉しいな」と言って、ゴーシュは詰所の方へと去って行った。



「助かったよフィーリア。ありがとな」


 フィーリアにも礼を言っておかなきゃな。

 フィーリアが炎を防いでくれなかったら、俺のせいで怪我人が出るところだった。

 そんな俺の感謝の言葉を、フィーリアは微笑と共に受け入れる。


「ふふ、素直にお礼言える人は好きですよ。その素直さに免じて、すらいむぜりぃ一個で許してあげます」


 すらいむぜりぃか。あそこの店、いつも混んでるんだよなぁ……。

 フィーリアには本当に感謝している。本当に感謝しているのだが、できれば他の方法で埋め合わせは出来ないものか……。


「……本当にフィーリアはすげえよ。俺はいつも尊敬してるんだ」

「えへへ」


 フィーリアは少し照れたように笑う。

 だが、俺はやめない。

 普段は恥ずかしくてなかなか伝えられない本心を、この機会に伝えていく。


「こんなに良いパートナーに巡り合えて、俺は世界一の幸せ者だぜ。ありがとう、フィーリア」

「ほ、褒めすぎですよぅ! 照れるじゃないですか、にひひ!」


 フィーリアはそわそわと時折頬を押さえたりしながら俺の言葉を聞いていた。

 しばらくはもじもじと悶えていたフィーリアだが、やがて自慢げに自分を指差す。


「それにしても、やっとユーリさんも私の魅力に気づいてくれたんですね?」

「いや、褒めまくればすらいむぜりぃを奢るのは無しにならないかなと思ったんだ」

「……!?!?」

「褒められて嬉しかっただろ? 奢るのなしになったりしないか?」

「なりませんっ! 絶~っ対に奢ってもらいます! というかもう、今から行きます!」


 そう言うと、フィーリアはドンドンと歩き出してしまう。

 どうやら怒らせてしまったようだ。まあ、今回は俺が悪いな。

 俺は観念し、すらいむぜりぃを奢りに店へと歩き始めた。






 そして、その日の夜。

 すらいむぜりぃを食べて帰ってきた俺たちは、各々時間を過ごしていた。

 フィーリアは机に向かって魔法理論の勉強、俺は座禅を組んで無心になる練習。

 そんな俺たちがいる部屋の扉を、不意に誰かがノックする。

 丁度無心状態から解けたばかりだった俺はフィーリアを手で制止、ドアの方へと向かう。

 そこに立っていたのは涼しげな目の少女、ウォルテミアだった。


「おお、ウォルテミアじゃねえか。どうした、珍しいな。フィーリアに何か用か?」

「いえ、お二人に」


 ウォルテミアはぱっちりとした目で告げる。

 俺とウォルテミアの間にはそこまで接点はない。だから用があるならフィーリアの方にかと思ったのだが、ウォルテミアは俺たち両方に用があるようだ。


「俺にも? まあいいや、とりあえず入ってくれ」


 部屋に歓迎すると、ウォルテミアは小さくぺこりと一礼してから部屋に上がった。


「いらっしゃいウォルテミアちゃん。飲み物何がいいですか?」

「お水を……」


 部屋ではフィーリアがウォルテミアを出迎えた。

 子供のころから友達が少なかったフィーリアは、誰かが自分を訪ねてきてくれると途端に上機嫌になる。

 少しそわそわしながらウォルテミアのためにコップに水を注ぐ様子は微笑ましい。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます、フィーリアさん」


 ウォルテミアはフィーリアに礼を言った後、コップの水をちびりと一口飲みこんだ。

 こくん、と小さく喉が動く。

 そしてぷはっと息を吐いた後、ウォルテミアは俺たちに話を切り出した。


「今日はお二人に、依頼をお願いに来ました」

おかげさまで二巻も発売できました!

これからも頑張ります!

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