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149話 受け取り方が大切

 突如飛び出してきたキンググッチー。

 だが、フィーリアはすぐに余裕の笑みを見せた。


「ユーリさん、たしかキンググッチーって、『相手の見た目や挙動を見て、瞬時に言われていそうな悪口を割り出し、それによって精神攻撃を仕掛けてくる』って習性でしたよね? なら、ここは私に任せてください」

「どうした、突然やる気になったな」

「気づいてしまったんですよ。超絶美少女エルフである私のような、見た目も挙動も完璧な相手に対しては、キンググッチーは悪口を言えないってことに。……ふふふ、ユーリさんはキンググッチーが黙り込む貴重な瞬間を目撃します」


 フィーリアはこれまでにないくらい強気だ。かなり確信を持っているらしい。

 ……なんかフィーリアのドヤ顔見ると、逆に不安になってくるな。

 コイツが調子に乗って上手くいった試しがない気がするんだが。


 そんな俺の不安を余所に、フィーリアは自信満々でキンググッチーの前に立つ。

 俺はそれを後ろから観戦する。

 果たしてキンググッチーは、フィーリアの見た目や行動からどんな悪口を仕掛けてくるのだろうか。

 それともフィーリアの言う通り、何も言えないのだろうか。


「さあ、私に向かって悪口を言えるなら言ってみてくださ――」

「ポンコツ!」

「……え?」

「ポンコツ! ポンコツ!」


 おお、すげえなキンググッチー。大正解だ。

 的確にフィーリアの短所を見抜きやがった。


「ポンコツ! ポンコツ!」

「だ、誰がポンコツですか……うぅ……」


 先程の強気はどこへやら、フィーリアはめちゃくちゃ押され気味だ。

 すでに目尻には輝くものが溜まってきている。


「大丈夫かフィーリア、泣きそうだぞ」

「うぅ……ぐすっ……」

「貧乳! 貧乳!」


 ここに来て、キンググッチーが追い打ちをかけてきた。

 その言葉に、フィーリアはガクリと膝から崩れ落ちる。


「うぅ~っ! ぐすっ! ひぐっ!」

「大号泣じゃねえか」

「だって、だってぇ~!」


 駄目だ、くっそダメージを受けてやがる。

 こりゃ、俺がなんとかするしかねえな。


「さあ、キンググッチー。今度は俺が相手だぜ」


 黒い身体のキンググッチーの前に立ちはだかる。

 どんな悪口だってどんと来いだ。何でも言ってこいよ。

 悪口に対し万全な準備をした俺に向け、キンググッチーは口を開いた。


「マッチョ! マッチョ!」

「……ん?」


 おかしいな、聞き間違いか?


「マッチョ! マッチョ!」


 いや、やはり聞き間違いではないな。


「お、おお。……なんというか、照れるぜ」


 俺は頭をガシガシとかいた。

 キンググッチーは続けざまにドンドン言葉をぶつけてくる。


「筋肉! 筋肉!」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」

「ムキムキ! ムキムキ!」

「おお、わかるかキンググッチー! この筋肉の美しさがお前にも! ……ハッ!?」


 いつの間にか敵の前で満面の笑みを浮かべている自分に気付き、俺は戦慄した。

 敵に対して気の抜けた笑顔を向けてしまうなんて、こんなことは初めての経験だ。


「……クソッ、強敵だぞコイツ! ここまで褒め殺しにされると、倒したくなくなってきちまう……!」

「ちょっと待ってください! 苦戦する理由がおかしくないですか!? あなたも、もっとユーリさんが嫌がりそうな言葉を言ってくださいよ!」


 フィーリアがキンググッチーにつっかかる。


「貧乳! 貧乳!」

「うぅっ! な、なんで私にばっかりぃ……! は、早く倒してくださいユーリさん。じゃないと私の心がバッキバキです……」


 フィーリアは一瞬で語気を失い、慎ましやかな自身の胸を押さえながら再び倒れ込む。

 たしかにこのままだとフィーリアが可哀想だ。


「……仕方ない、わかった」


 俺は断腸の思いで頷いた。

 そして、キンググッチーの方へと一歩ずつ近づく。


「筋肉! マッチョ! ムキムキ!」

「……悪いな。いくら褒められても、俺はお前を逃がすわけにはいかないんだ」


 俺は殴る。

 キンググッチーは破裂した。






「過去一番の強敵でした……ひっく、ぐすっ……」


 魔物を倒して素材を入手できたにもかかわらず、フィーリアは地面に倒れて泣いているままだ。

 小さく丸まった背中が、どれだけの傷を負ったかを語っていた。

 パートナーが心に傷を負ったら、励ましてやるのが俺の役目だ。

 俺は背中をポンポンと優しく叩いてやる。


「そんなに落ち込むな。お前はたしかにポンコツだけど、いい意味のポンコツだぞ」

「ポンコツにいい意味なんてないんですよ」

「それに、胸も小さい方がいいと思うし」

「……本当ですか?」


 お、こっちを向いたな。

 どの言葉が心の琴線に触れたのだろうか。

 それはわからないが、俺は笑顔で言ってやる。


「ああ。胸が小さければ、戦うときに邪魔にならないだろ?」

「そういう話じゃあっ! ないんですよ今はっ!」


 あれ、なんで怒った?

 わけのわからない事態に混乱する俺の前で、フィーリアはごろんと体勢を変えた。


「もう駄目です、私は感情を失いました……」


 死んだ魚のような目でそう告げるフィーリア。

 ならばと、俺は腋をくすぐる。こちょこちょー。


「……ぷひゃひゃ! や、やめてください……!」

「なんだ、怒れるじゃないか」


 その姿の一体どこが感情を失っているというのだろうか。


「……私は感情を失いました。ただしくすぐりは禁止です」

「都合のいいルールが追加されたな」


 俺は少し呆れる。

 だが、フィーリアがショックを受けているのは本当だろう。


「なあフィーリア、元気出せって」

「無理です……ぐすっ」

「しおらしいお前を見てるとなんか落ち着かないしな。やっぱりフィーリアには人を馬鹿にしたような笑顔が似合う」

「……それはいくらなんでも酷くありませんか?」


 フィーリアは上体を起こすと、むぅと眉を寄せる。

 しかし俺は発言を撤回することはしない。


「実際そうだろ。だから、早く元気になって元のお前に戻ってくれ」

「そういう時はただ単に笑顔が似合うって言ってくれればいいんですよ。まったく、これだからデリカシーなさ男は……」

「誰がデリカシーなさ男だ!」


 俺が声を荒げるのを見ながら、フィーリアは立ち上がり服をパンパンと払った。


「……まあ、ユーリさんが望んでいるなら仕方ないですね。超絶美少女エルフのフィーリアさんはこれからもユーリさんをからかいまくります」


「腕が鳴りますよぉ……!」と言ってフィーリアは拳を鳴らす。

 どうにか元のフィーリアに戻ってくれたようだ。

 しかし、からかわれるのは困る。


「俺以外をからかえ。俺は馬鹿にされるのは嫌だぞ」

「ユーリさんが一番からかい甲斐がありますし、ユーリさんをからかいます。光栄に思ってください!」

「全っ然嬉しくねえ……」


 げんなりした俺を見て「ふふふっ」と笑うフィーリアの顔は、小癪なほど可憐なものだった。

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