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133話 親友

 昨日に続いて俺たちは依頼を受けていた。

 今日受けているのは水中ジャングルに棲む魔物退治の依頼だ。

 思い出の場所に住みついてしまった魔物を倒してほしいという依頼である。


 依頼書によると依頼主は腕に覚えがあるらしく、わらわらと湧くD、Eランクだけ倒してくれればあとは自分でやるから問題ないという話だった。

 しかしそれでは納得できないのは俺たちだ。


「目の前に強そうな魔物がいる状況でそれを見逃すことが出来ようか。いや、できまい!」


 反語という高等技術を駆使しながら、俺はでかい魔物にピストル拳を撃ち込む。

 やっぱり地上に比べると威力が落ちるな。

 ただ、もっと水中用に最適化した動きにすればもう少し威力は出そうだ。


 八割ほどの威力のピストル拳を受けた魔物は逆上し、俺に襲い掛かってきた。

 受け止めてもいいが、動きの確認のために避けることにする。

 水を蹴りだし、魔物の突進を避ける。この時細かく方向転換するのがコツだ。


 背後に回った俺は魔物を直接殴る。魔物は爆散した。

 Eランクの魔物を倒しながら一部始終を見ていた二人が呆れた様子で俺を見る。


「ユーリさんってペース配分とか考えたことあります? 依頼主が来るまでまだ三時間はありますよ」

「『常に全力!』って感じよね、ユーリって」

「このくらいじゃ全然全力じゃねえぞ」


 全力だったら最初のピストル拳の時点で勝ってるからな。

 これでも三時間くらいは余裕で持つペースで動いているのだ。

 二人もちょくちょく高ランクの魔物と戦ってはいるが、そこまで積極的には狩りに行っていない。

 あくまで動きの確認レベルに留めて、本番のSランク任務に備えて怪我をしないようにしているようだ。

 個人的にはもう少し冒険してもいいと思う。まあ下手したら死ぬが。


「というか、これぐらいじゃ魔物が足りなくて張り合いがねえな……。魔物を呼ぶ魔法とか、そんな感じの魔法は使えないのか?」

「そんな魔法ありませんし、あっても使いませんよ」


 残念だ……。

 依頼主が来るまでの数時間、俺は水中ジャングルを高速で動き回っては魔物を爆散させていった。






 そして数時間後。


「おっ、お前は……!」


 俺は目の前の人物を見て乾いた口で言葉を発する。

 動悸が激しくなっていくのがわかる。


 俺の前に立っていたのは、昨日の白い肌の男だった。

 昨日と同じ唐草模様の着物を着た男は軽く目を見開く。周囲に魔物が一匹も見当たらないことに驚いたようだ。


「まさかここまでやってくれるとは……嬉しい誤算だ。報酬を少し弾もう」


 どうやら男は俺に気が付いていないらしい。

 次元袋から財布を出そうとする男に、思わず声をかける。


「なああんた! 昨日会ったよな。覚えてるか?」

「ん? ……ああ、あの店の前の。ただでさえ非魚人で、さらにこれほど強そうな気配の者らは水都全体でも珍しいからな。印象に残っていた。……外から来たのか?」

「ああ、観光でな」


 一応観光目的ってことになってるからな。

 こんな時でもちゃんと依頼の条件を覚えている。やはり俺はインテリだった。


「そうか。ならこちらからも一つ聞きたいことがある。貴殿ら、『死神』という名に心当たりはないか? 刀を持っていた痩せた男なのだが」


 男の発した『死神』と言う言葉に心当たりがあった俺は、確認のためにフィーリアの方を向く。


「『死神』……って言えば」

「ユーリさんがアスタートで戦った相手が、たしかそう名乗っていたと記憶してますけど」


 やっぱりそうだったか。

 アイツは強かったからなぁ。顔まで覚えてるぜ。


「……貴殿か?」

「? 何がだ?」

「死神を殺したのは、貴殿か?」

「ああ、俺だ。アイツも強かったけどな」


 今思うと、魔法も能力も使われなかったしな。

 純粋な剣技だけであれだけの強さというのは、相当な強さだろう。


 それを聞いた男は「ふむ……」と顎に手を置いた。

 情報を頭に少しずつ理解させるかのように、小さく何度も頷く。

 数秒そうした後、男は俺の顔を真っ直ぐに見据えた。


「貴殿に依頼がある。明日、私と戦ってはくれぬか? なに、軽く力量を知りたいだけだ。金ならいくらでも払おう」

「おお、いいぞ!」


 ありがてえ。

 むしろこっちからどう勝負を持ちかけようかと脳みそフルに使って考えてたとこだ。

 それをわざわざあっちから持ちかけてくれるなんて、こんなにありがたいことはない。


「ちょっ、ちょっと待ってください! なんで突然そんなことに……」

「死神と名乗っていた男は私の親友だからな」

「うぇええ!? ……ゆ、ユーリさん、下がってくださいっ! 危ないですよっ!」


 フィーリアは俺を守るように前に立つ。

 顔をこわばらせるフィーリアを見て、事情が掴めないながらアシュリーも戦闘態勢をとった。


 二人を見た男は、敵意がないことを証明するように両手を天高く上げる。


「ああ、勘違いしないでくれ。別に命をとってやろうとか親友の弔い合戦だとかそんな気は一切ない。全力でなく、軽く流して戦ってくれるだけでいいんだ。ただ我が友を殺した相手がどのくらい強いのか、純粋に疑問に思ってな」


そう語る男の顔を改めて見て、俺は素朴な疑問を持つ。


「親友っていうが、アイツは人間でお前は魚人だろ? どこで会うんだ?」

「アイツは人間と魚人のハーフだからな。人間の方の形質がでただけで、子供の頃は水都でよく遊んでいた。もっとも、ヤツは適応石を手放せずそれなりに難儀していたようだが」


 俺の疑問を氷解させた男はそこで一度言葉を区切り、付け加えるように再度口を開く。


「もう一度言っておくが、私には敵討ちだとか復讐だとか、そういった気は一切ない。むしろ親友のこれ以上の凶行を止めてくれたことに感謝しているくらいだ。騎士団経由でヤツが死んだこと、そしてヤツのしたことを同時に知らされてな。親友としての自分に不甲斐なさを覚えたよ」


 それを聞き、敵意はないと判断したのか、フィーリアはようやく俺の前から退いた。

 ……そもそもフィーリアより俺の方が身体が丈夫なんだけどな。


「まあ、受けてくれなくても良い。私は明日一日中ここの入り口で待っている」


 最後にそう告げ、男は俺たちに報酬を渡したのだった。









 そして翌日、朝。

 フィーリアたちの部屋へと行こうとしたが、その前にフィーリアたちが俺の部屋へとやってきた。


「いくんですか?」

「当たり前だろ。あんな強いやつが自分から戦おうって言ってるんだぞ? 戦わないなんてありえないだろ」


 俺も丁度そのことを説明しに行くところだったのだ。

 二人は今日は別行動してもらおうと思ってな。二人の実力なら俺がいなくても特に支障はないだろう。


 しかし、どうやらフィーリアは俺が男の元へ行くことに反対らしい。


「でも、本当は復讐目当てなのかもしれませんよ。それだったら危なくありません?」

「それならそれで別に良い。俺がアイツの親友を殺したことは事実だしな。自分で蒔いた種だ、きちんとけじめをつけるさ。……それにアイツが復讐目当てなのなら、多分お前はもっと必死に止めてくれるはずだ。アイツの心、覗いたんだろ?」


 あの時フィーリアは戦闘態勢に入ってたからな。確実に透心を使ったはずだ。

 俺の答えに、フィーリアは呆れたように小さく息を吐いた。


「本当、こういう時だけ鋭いですよね。……やっぱりついて行ってもいいですか? 私なら回復魔法を使えますし、邪魔はしませんから」

「そうだな……いいんじゃないか?」


 俺がそう答えると、フィーリアは準備をしに一旦部屋へと帰っていく。


 残ったアシュリーは、特に表情を変えずに言う。


「あたしは一人で簡単な依頼でも受けてるわ。あんまり気軽に首突っ込んでいい問題じゃなさそうだし」

「そうか」


 そしてそのまま部屋に帰ろうとしていなくなり――数秒かからずまた戻ってきた。


「いい? あたしはそこまでじゃないけど、フィーリア姉はあんたのこと心配してくれてるんだからね。あんまり心配させすぎないようにしなさいよ」

「おう、わかった」


 アシュリーはそれだけ言って、今度こそ部屋へと帰って行った。






 水中ジャングル。

 周りはゴツゴツとした地面で囲まれているというのに、我関せずといった顔で緑豊かな水中植物が繁茂している場所だ。

 そのジャングルと地面の境目に、男は胡坐をかいて待っていた。

 その仕草からは粗暴な印象は受けず、感じられるのは研ぎ澄まされた集中力だけだ。


「……来たか」


 目を閉じていた男は、俺たちの接近に近づいて目を開けた。

 黒い瞳が真っ直ぐに俺を捉えてくる。


「まずは感謝を。ありがとう」


 男は俺に頭を下げた。

 刀に着いた鈴がリン、と音を鳴らす。


「私はイサジという。水都で師範として剣術を教えている」

「俺はユーリ、冒険者だ。あ、こっちはフィーリア。凄い回復魔法の使い手だから、手足の一本くらいまでは治せるぜ」

「邪魔はしませんので、近くにいてもいいでしょうか」


 俺たちの言葉に、イサジは小さく口を開けて頭を掻いた。


「ああ、そこまで気が回っていなかった。私の方こそよろしく頼むよ。まあ、軽く力量を知りたいだけだ。フィーリア殿の出番はないとは思うが」

「そうであることを願っています」


まあ、俺としても残念ながらあまり本気でやるわけにはいかない。

フィーリアも心配してくれているようだし、数日後にはSランク依頼も控えているからな。

イサジが復讐に駆られて俺を殺しに来たりしない限り、あくまでも軽い手合せ程度だ。


「では、やろうか」


 その言葉と共に、イサジから闘気があふれ出る。

 それに触発されるように、俺も筋肉を解放した。


「ああ、いつでもいいぜ」

「では――参る」


 イサジが刀に手をかけ。

 俺が拳を構え。


 戦いが、始まった。

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