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132話 狂っているのは世界か、それとも。

 一夜明け、朝。

 今日は水都で依頼を受けようということで、早くからギルドへとやってきている。


 水都では珍しい非魚人の俺たちに好奇の目が集まるが、どうということはない。

 そもそも俺たちは火都の方でも注目の的だったからな。

 フィーリアはエルフだし、アシュリーは最年少Sランクだし、俺は人の目を惹きつけてやまない素晴らしい肉体を保持しているし。

 そういうわけで、奇異の目に晒されるのは結構慣れっこなのである。


「なるべく楽な依頼がいいですよね、怪我したらあれですし」


 依頼が張られた板を眺めながらフィーリアが言う。

 しかし、俺はそれには賛成できない。


「いや、むしろ戦闘系の依頼の方がいいと思うが」

「なんでよ? また戦いたいってだけ?」

「いや、水中での戦闘経験はないからな。地上と勝手も違うだろうし、慣れておくに越したことはない」


 そもそも今回のSランク依頼が今までの依頼と一番違うところは環境だ。

 それに慣れることなく本番を迎えることは避けたい。

 ならば、ある程度難易度の高い依頼を受けておくことが必要になるのではないかと俺は思うのだ。

 あと戦いたい。理由とかそんなん抜きにして強いやつと戦いたい。


 俺の意見を聞いた二人は無言になってしまった。


「なんだ? 俺変なこと言ったか?」

「いえ、正論を言われて驚いてます」

「まさかユーリの意見を採用する日が来るなんてね」

「お前ら俺を何だと思ってやがる」


 俺はインテリ! インテリマッスルなんだぞ!






 そういうわけでBランクの依頼を受けた俺たちは、腹ごしらえにギルド近くの食事処へとやってきた。

 朝飯がまだだからな。腹が減っては戦は出来ぬのだ。


 ここは水都では数少ない非魚人用の食事処らしく、店の中は空気で満たされている。

 店に入ったフィーリアとアシュリーは身体に纏っていた魔法を解いて、肩を回した。


「んんーっ。……ずっと魔法使いっぱなしって結構きついわね」

「これに加えて攻撃魔法もってなると、魔力消費がかなり多くなりそうですね。しっかりコントロールしないと……」

「なんか大変なんだな」


 俺がそう言うと、フィーリアは俺の顔から視線を下ろして身体を見てくる。


「こういうときだけはユーリさんの身体が羨ましくなりますねー」

「おっ! じゃあ今度一緒に筋トレしようぜ」

「熟慮に熟慮を重ねた結果、今回の申し出は辞退させていただきますね?」


 全然熟慮してねえだろ。即答じゃねえか。




 注文してしばらく待つと、小さな白いまんじゅうのようなものが数十個乗った皿が出てくる。

 こちらに来てから数日経ってわかったが、どうやらこれが水都の主食であるらしい。

 味自体は素朴というか、他を活かす味だ。

 俺はまだ食べたことがないが、それ自体に味が付いたものもあるらしく、バリエーションは多いようだ。


 食事をしていると、アシュリーの行動に目が留まった。

 まんじゅうになにやら赤い粉をパラパラとかけている。

 いや、パラパラどころじゃねえな。元の白い部分が見えなくなるくらいの勢いだ。


「なあアシュリー、なんだそれ?」

「これ? これは赤い粉末よ。無味無臭でなおかつ赤いの」


 ……なんだそりゃ。


「そんなもんわざわざかける意味あんのか……?」

「あるわよ。かけると赤くなるじゃない」

「それで?」

「? それだけだけど?」


 さも当然というようにアシュリーは言い放つ。

 マジかよ。どうなってんだこの小娘。


 フィーリアはフィーリアで、黙々と食事に集中している。

 一口ごとに目をつぶって咀嚼しては、しばらく顔を緩ませる行為を繰り返している。

 食道楽なのはわかるが、集中しすぎてて話しかけづらい。


「……」


 食事をしながら俺は考える。

 なんで俺の周りには変なやつしかいないのだろうか。

 二人にはもう少し俺を見習ってまともになってほしいところだ。




 食事も終わり、店を出て扉を閉める。

 ――そんなときだった。

 リン、という鈴の音と共に意識下に入って来た一人の男に、俺の神経は即座に反応する。


 恐ろしく白い肌をした男だった。

 腰には鈴のついた幾本もの刀を差し、それでいて身のこなしは軽い。

 着物を着ているとは到底思えないほどだ。

 ただこの場所へと入って来る、その動作がすでに武人としての男の格をこれでもかと表していた。


 コイツは、強い。

 俺は歩くことも忘れ、店の出入り口でただただ男を凝視する。


 それに気づいたのか、近づいてきた男もこちらを見た。

 男の黒い瞳に俺の姿が反射する。

 歓喜に肌が粟立つ。頬が吊り上がる。

 俺は襲い掛かりたい衝動を必死で押さえつけるのに必死だった。


「……すまない、退()いてくれぬか?」

「あ、ああ。悪いな」


 俺が退くと、男は先ほどまで俺たちがいた店へと入っていく。

 俺は閉められた扉を見つめた。


「ユーリさん? どうかしました?」

「いや……なんでもねえ。強そうなやつだなと思ってよ」

「今の人? ああ、たしかに強そうだったわね」


 アイツは誰なのだろうか。

 あんな強いやつに会っちまうとあれだな。


「気持ちが昂るなぁ! なあフィーリア!」

「急にテンション上がるのやめてもらっていいですか」

「水都にいる間にアイツと戦うんだっ! もう匂いは覚えたからな!」


 鼻を鍛えていて良かったとこれほど強く思ったのは始めてだぜ!


「うわぁ、ユーリさんがストーカーになろうとしてる……。一応言っておきますけど、そんなことしたら駄目ですからね?」

「はいダウトっ! 戦うための追跡はセーフだろ!?」

「そんな特別ルールはありません。ストーカーはストーカーです」


 フィーリアに完全否定され、俺は狼狽える。

 たしかにストーカーは駄目だ、許されない行為だ。

 だが、戦いを挑むためのストーキングが駄目だと!? この国ではそんなふざけたルールがまかり通るのか!?


「ふざけてやがる、なんて国だ!」

「ストーカーは世界共通で駄目ですよ」


 世界共通……!?


「く、狂ってやがる……! こんな世界間違ってる。なあフィーリア、そうは思わねえか?」

「間違ってるのはユーリさんで、狂ってるのはユーリさんの頭です。どう考えても」


 ほうほう、なるほどな……。

 フィーリアの気持ちを聞いた俺はニコリと笑顔を浮かべた。


「やっぱりフィーリアもそう思うか!」

「!?」

「いやー、フィーリアが賛同してくれると正直嬉しいぜ」

「ゆ、ユーリさんには何が聞こえてるんですか……?」

「ありがとよ。俺を分かってくれるのはお前だけだ。これからも一緒に頑張ろうな、フィーリア!」

「怖い怖い! ユーリさん怖いです!」


 やっぱりフィーリアは最高のパートナーだぜ!


「アイツの居場所を探すのは諦める。正直口惜しい気持ちはあるが、それ以上にフィーリアがすごく心に響く言葉を言ってくれたからな。あんな言葉をかけられたら、もう居場所を追跡するなんてことをやるわけにはいかねえよ」

「ユーリさんの中の私は一体どんな素晴らしい言葉をかけたんでしょうか。後学のためにも是非教えて欲しいところなんですが……」

「よし、依頼頑張ろうぜ! 行くぞ二人とも!」


 俺は清々しい気持ちで駆けだした。

 だが、二人は追いかけてこない。後ろで何か話している。


「フィーリア姉ってよくユーリといつも一緒にいられるよね。あたしもうドッと疲れたんだけど……」

「良いところもたくさんありますし、少なくとも悪い人ではありませんからね。……疲れるのは同意ですけど。ユーリさんと付き合うコツは、何事にも動じない鋼の心を持つことです」


その会話を盗み聞きした俺は、二人の方を振り返る。


「俺と付き合うだけでそんな心構えいらないだろ。それじゃまるで俺が問題児みたいじゃないか」

「なるほど。自覚はなし、と」

「おい! ……ったく、そんなこと言ってると置いてっちまうからな?」

「置いてくって、あんた場所知ってるの? 依頼書はフィーリア姉が持ってるのよ?」

「……知らねえ。くそっ、騙された!」

「誰も騙してないわよ……」


 仕方ないので、二人のペースに合わせて歩く。


「危ねえ危ねえ、あやうくフィーリアになるとこだったぜ」

「私になる? どういう意味ですかそれ?」


 意味が通じなかったらしく、フィーリアは首をかしげた。

 そのまま少し考えて、パッと何か思いついたような顔をする。


「あ、可愛くなるてきなことですか?」


 どういうことだそれは。


「違う違う、俺は迷子のことフィーリアって呼んでるんだ」


 フィーリアが森で迷ったのが俺たちの出会いだからな。


「いつまでそれ言うんですか!?」

「? なんで迷子がフィーリア姉なの?」

「ああ、それはな。最初に俺たちが会った時、フィーリアが森で迷っ――」

「わーわー! ユーリさんは黙ってください! あと迷子のこと私って言うのも禁止です!」


 禁止されてしまった。

 仕方ない、フィーリアに従うとするか。

 なんせ、あんなに心に響く言葉を言ってくれたフィーリアの頼みだからな。


 俺たちは三人並んで歩きながら、依頼の場所まで向かうのだった。

一巻の書影が公開になりました(下にあります)!

めちゃくちゃカッコいい表紙です!

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