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130話 未知の物体と依頼の説明

 応接室のような部屋で、俺たちは隻脚(せっきゃく)のギルド長、エウオサと向き合う。

 エウオサは魔法で水圧から身を守っているフィーリアとアシュリーをチラリと見、そして机の中を漁りだした。


「空気を入れましょうか」


 昨日宿で見たのと同様の機械を取り出したエウオサは、それを起動させる。

 見る見るうちに部屋の中は空気で満たされた。


「さあ、掛けてください」


 エウオサは俺たちをソファへと促す。

 俺たちはそれに従いソファへと腰掛けた。


「わざわざこちらの楽な環境に合わせて頂き、ありがとうございます」

「いやいや、こちらが呼んだ上にお待たせしたんです。これくらいは当然ですよ。ああ(きみ)、人数分の紅茶を頼む」


 部屋の扉に控えるギルド嬢に指示を出す。

 迅速な動きでどこかへ消えたギルド嬢は、しばらくすると赤茶色の液体が入った水風船のようなものを持って部屋に帰ってきた。


「こちら、紅茶になります」


 そう言って水風船を手渡される。

 たしかに中身は紅茶のようだが……。


「これ、どうやって飲むんだ?」

「あっ……申し訳ございません!」


 ぺこぺこと頭を下げるギルド嬢。


「ああ、すみません。この部屋に空気を入れるなんて滅多にないものだから、私もうっかりしていた。彼女の不手際を許してやってくれるとありがたいです」

「す、すぐにお取替えいたしますので!」


 そう言ったギルド嬢に待ったをかけたのはアシュリーだった。


「そのままでいいんじゃない? なんか面白そうだし」


 それには俺も同感である。

 これ捨てちゃうのももったいないしな。


「で、これはどうやって飲むんだ?」

「えっ!? い、いいんですか……?」


 チラチラとエウオサの顔色を窺うギルド嬢。

 そんな彼女の様子に、エウオサは軽い笑みを浮かべた。


「彼らが良いと言っているなら問題なしとして良いでしょう。飲み方を教えてさしあげなさい」

「で、では……この飲玉(いんだま)には一か所少し赤いところがあります。まずはそこを見つけてください」


 俺たち三人が見つけたのを確認すると、ギルド嬢は次の説明へと移る。


「そうしましたら飲玉を咥えてその部分を舌で軽く押していただくと、その部分から中身が出てきます。離すと止まります」

「なるほどな……」


 俺は言われた通りに水風船のような飲玉を咥え、押してみる。

 すると口の中に紅茶の味が広がった。

 若干小さくなった飲玉から舌を離すと、紅茶が出てくるのも止まる。これは面白いな。


「地上の飲み物より若干ドロドロしてますね」

「ああ、それは他の方からも良く聞きますね。……さて」


 エウオサがソファから身を乗り出す。

 それを依頼内容の説明だと感じ取ったギルド嬢は部屋から退出し、俺たちも気持ちを再度引き締めた。


「今回頼みたいのは、祠に棲みついた聖魚の討伐だということはすでに聞いておられることと思います」

「はい、火都の方で説明をいただきました」


 エウオサにフィーリアが肯定を返す。

 エウオサは小さく一つ頷いた。


「であれば私はもう少し詳しいお話をさせていただきましょうか」


 そう言ってエウオサは依頼内容の背景について説明を始めた。

 要約するとこうだ。


 祠は普段誰も入れないように魔法で封がしてある。

 それが何かによって破られていたのが分かったのが四ヶ月前。

 祠に入るために様々な手続きを終え、二ヶ月前秘密裏に中を確認してみると、聖魚と思しき魔物を発見した。

 しかしこれに戸惑ったのは水都ギルドだ。

 すでに魔物は祠の出入り口よりも大きくなっていて、外に出すことはできない。

 かと言って、祠という神聖な場で聖魚という神聖な生物を討伐するということになれば、それは水都住人の大きな反感を招く。


「そしてもっとも大事なことは、この依頼を確実に受けてくれる冒険者が思い当たらないことです」


 エウオサはそう言い、紅茶を口に含んだ。


「もし依頼内容を聞いて『それは魚人としての矜持に反する』などと言って今の内容を吹聴されては、ギルドの失墜は免れない。なにしろとても罰当たりな行為ですからね」

「それで『ならばいっそ外部から』ってことであたしたちが呼ばれたってわけかしら?」

「そうなります」


 それに異を唱えたのはフィーリアだった。


「でもそれだと、魚人でもない部外者が神聖なる聖魚を殺す……ってことになりますよね。私たちに相当な非難が集中することは目に見えています。……いえ、非難どころか命を狙われる危険さえあるのではないですか?」

「はい。ですから『祠に聖魚などいなかった』ことにします」


 平坦な声でそう口にするエウオサだが、意味がわからない。

 エウオサは補足するように言葉を継ぎ足す。


「あなた方には秘密裏に聖魚を討伐していただければ、それを私たちギルド上層部だけで処理します。要は、細切れにして聖魚が存在したという事実自体を隠蔽するということです」


 そこでエウオサは一度言葉を切った。


「これはまあ、聖魚に対して侮辱の極みともいえる行為です。私だって正直この立場でなければ、金銭をいくら積まれたとしてもやりたくはありません。なので聖魚を細切れにすると伝えると、ますます魚人の中には依頼を受けてくれる人材などいなくなるのです。ですからあなた方に頼むしかなく……」


「さらに、とても図々しい話ですが、慎重に慎重を期すために二つほどお願いがあるのです」と言うエウオサ。


 普通の冒険者として来たと思わせるため、数日にわたって依頼を受けること。

 また、観光目的も兼ねていると思わせるため、可能な限り楽しんでいる雰囲気でいること。


 この二つが追加条件なようだ。

 わざわざこの時間まで待たされたのも、俺たちがギルドの奥に入っていくところを他の冒険者に見られると繋がりを疑われるからだったらしい。

 追加条件に関しては、どちらも元々しようと思っていたことだし何の問題もないだろう。


「さまざまな手回しがありますので、決行は約二週間後になると思います。……この依頼、受けて頂けますでしょうか?」


 エウオサの口から懇願するように発されたその言葉に、俺はフィーリアとアシュリーの顔を見る。

 俺はハナから受ける以外の選択肢はないが、今の話を聞いてコイツらがどう思ってるのはわからないからな。


 俺の視線に気づいたアシュリーはコクンと頷き、フィーリアも数拍溜めた後同じように頷いた。

 二人の意思を確認した俺は、代表してエウオサに言う。


「エウオサさん。今回の依頼、受けさせてもらう。俺たちに任せとけ」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 エウオサは思わずといった様子で両手を伸ばしてくる。

 その手を取り、俺たちはガッチリと握手を交わした。





 別れ際、エウオサは俺たちに手書きの地図を渡してくる。


「最後に、聖魚についてもっとも詳しい学者……いえ、元学者のドゥーゴくんの住所を教えておきます。彼もこの計画の加担者ですので詳しいことを話しても問題はないですが、小さな娘さんがいるのでそちらには知られぬようくれぐれも気を付けてください」

「あの、元学者というのは……?」

「彼、今はもう研究をやめてしまっているんです。ただ何年経っても彼の後を継げる学者が出てきていないので、彼に協力してもらう以外にない状況なのです……」


 数年前に研究を止めたにも関わらず、未だ代わりの出てこない学者か。

 きっと凄え頭の良いやつなんだろうな。

 ってことは、筋肉もさぞかし凄いことだろう。期待が高まるぜ。

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