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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
1章 始まりの街編
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13話 死神と呼ばれた男

ブックマークが1000件を超えました。本当にありがとうございます!

 俺は街を右往左往しながら少しずつ血の匂いの濃い方へと歩みを進めていく。

 ただ一つだけ、俺には気がかりな事があった。フィーリアについてだ。

 俺が死神の匂いを追いかけ始めてから、フィーリアはずっと無言を貫いている。

 俺が集中しやすいようにということなのかもしれないが、それにしては表情が暗い。


「フィーリア。さっきから思いつめているように見えるが、どうかしたのか?」


 考えても俺に人の気持ちはわからない。

 ならば聞いてしまおう、ということで、俺はフィーリアに率直に聞いてみることにした。

 俺の質問を受けたフィーリアは二、三度視線を泳がせてから、その瑞々しい唇を開く。


「……私、邪魔になると思いますか」


 邪魔……? どういうことだろうか。

 フィーリアの言っている意味がよくわからない。

 俺はフィーリアを邪魔だと思ったことなど一度もないのだが。


「私も魔法には自信がありますけど、正直戦闘に関して言えばユーリさんよりは……弱いです。付いていって足手まといになったりしないでしょうか」


 続けて語られた言葉で、やっとフィーリアが何を言いたいか理解する。

 自分が足手まといになることを心配していたようだ。


「俺とお前はパートナーなんだから、足手まといになるかどうかなんて気にしなくていいぞ。それにフィーリアはかなり強いし、死神とやらがよっぽど強くなければ足手まといになんてならないんじゃないか?」

「……随分と嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。頭でも打ったんですか?」


 フィーリアは思いつめたような表情を止め、わざとらしくふざけた口調で自分の頭を叩いてみせる。


「本心を言ったまでだ」

「ユーリさんの気持ちはわかりました。……じゃあ私はよっぽどのことがあるといけないので、その場から少し離れたところで見守ってますね」


 結局戦闘には参加しないことに決めたらしい。


「それでいいのか?」

「はい。……それとも私がいてほしいですか?」


 そう言って、「にひひ」とからかうような笑みを見せるフィーリア。

 俺は「ハッ」と軽く鼻で笑って答えの代わりにする。


 強い奴と戦おうとしないのは俺には到底理解できないが、それを責める気はない。

 フィーリアが戦わないってことはつまり、俺がタイマンで戦えるってことだからな。


 会話が終わったところで俺は集中し、再び死神の匂いの残滓を辿り始める。


 ……この道は通っていないようだな。こっちか。

 進むにつれだんだんと匂いが濃くなってきた。少しずつ距離が縮まってきているようだ。


「こっちだ。付いてきてくれ」

「わかりました」


 俺は慎重に匂いを辿って行く。

 そして匂いが間違えようもないほど強くなったところで一旦立ち止まる。

 匂いは廃墟のようなさびれた建物へと続いていた。


「あの廃墟の中に死神はいるようだ。フィーリアはここで待っててくれるか?」


 戦闘に巻き込まないためには廃墟の外で待っていてもらうのが一番だろう。

 俺の提案にフィーリアはコクリと頷いた。


「わかりました。……お気をつけて」


 フィーリアの言葉に「ああ」と返事をし、俺は廃墟へと向かった。











 廃墟の中は埃が充満していた。息を吸うたびに埃が鼻を通って肺までやってくるのがわかる。

 視線を動かすと、隅には蜘蛛の巣も作られている。

 どうやら死神は元からこの建物に住んでいたわけではないようだ。一時的に身を隠すための場所といったところだろう。


 俺はしんと静まった室内に足音が響かないように慎重に歩を進めていく。

 開けた空間に辿り着いたところでビリビリと痺れるようなプレッシャーを感じる。

 まるで喉元に剣先を突き付けられたかのような、鋭い圧力だ。

 こりゃあ、微塵も油断できないのが相手だな。


 俺は部屋の中央にたたずむ男を睨んだ。


 男は全身に黒い着物を着ていた。

 この辺りでは見ない服であるその着物は、まさしく侍と呼ばれる者たちが着る装束であった。

 黒髪も相まって、黒一色の男は本当に死神のようだ。

 男は凄まじい存在感を放っていながら、それでいてどこか儚く、まるで一瞬目を離したらいなくなってしまいそうなほど淡く脆いという印象を俺に与える。


「あんたが死神か?」


 男はこちらを見る。

 線が細いながらも引き締まったその体とは不釣り合いの青白い顔は、まさに死神のようだった。


「いかにも。自ら名乗った覚えはないが、市井(しせい)ではそう呼ばれているようだ。……それで、貴様は?」

「俺はユーリ。強い奴と戦いたくてな。あんた、俺と戦わねえか?」


 掠れた声の死神に戦闘の意思を確認する。


「好都合だ。私は何人(なんびと)たりとも拒みはしない。咎人共に平等な死をくれてやろう」


 死神はそう言ってゆらりと刀の鍔に手をかけた。

 その身体から発せられる圧がより一層鋭利なものになる。


 こいつは予想以上だ……!

 面白え。ここまでの圧を受けたのは今までの人生でも片手で数えるほどだ。

 こいつには最初(ハナ)っから全力でいかなきゃヤバいな。

 俺は歓喜に震えながら筋肉のリミッターを解除した。

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