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128話 いざ、水都へ

 数日後。

 俺たちは水都へと向かうため、飛竜に乗って海岸へとやってきていた。


 ここで水都への案内人と待ち合わせをしているのだが……お、あれか?

 それらしき人影を見つけた俺たちはそちらに近づいていく。

 そこにいたのはカメのような魔物に乗った若い男だった。


「お待ちしておりました。本日は私が皆様を水都までご案内させていただきます」


 男が頭を下げ、俺たちも返礼した。

 カメの後ろには、数人は優に入れそうな大きさの泡が砂浜に打ち上げられている。

 砂浜に接しているにも関わらず、泡はある程度形を保っていた。しかも中にイスやら何やらが備え付けられているのが見える。


「それで、これに乗ればいいのか?」

「はい、バブルフィッシャーが吐いた泡を集めたものですので、耐久性は折り紙つきです。このマガメ車にお乗りください。本日はよろしくお願いいたします」


 バブルフィッシャーとやらがなんなのかは知らんが、中にイスも入っているし、砂浜に打ち上げられても割れないしで、耐久性はたしかにありそうだ。

 砂浜に上がってしまっている巨大な泡に乗り込む……というか入り込む。

 泡は割れずに、ぷにんという感触と共に俺たちの身体を迎え入れた。

 それを確認した男はカメ型の魔物――マガメを操り水中へと進みだす。

 周りの景色がどんどんと水に埋もれていく。


 気づいたときには、俺たちの身体は完全に水中にあった。

 海という広大な水の塊の中、俺たちは泡という小さな箱に詰められて先へと進んでいく。


「うわぁ、魚が泳いでますよ」

「これは凄いわね。まさかこんな風に水中を楽しめるなんて思ってなかったわ」


 二人は楽しそうに外を眺めている。

 たしかにこんな経験は滅多に出来たものではないだろう。

 しかし、俺の頭の中を占めていたのは別の事柄だった。


「なあ、外で運転してるけどあんたは大丈夫なのか? 呼吸とか」


 御者の男は当然だが泡の外でマガメを操っている。

 見たところ呼吸をするための何かを持っているようにも見えないし、どうやって呼吸をしているのだろうか。

 ……もしかして、ずっと呼吸を止めているのか? だとしたら仲良くできそうだ。

 俺は期待を込めて男を見る。


「私でしたらお気になさらず。フグの魚人なので、水中でも呼吸できるんです」


 そう言って男は泡の外で俺の方を向き、プウッと身体を膨らませた。

 その全身からトゲトゲした棘が飛び出してくる。


「フグの魚人……? 魚人ってのはそんなに細分化されてんのか?」

「そうですよ。親と違う種類の魚人になることも普通らしいです」


 俺の疑問に答えてくれたのはフィーリアだ。

 ……なんか、浮気しやすそうな種族だな。いや、これは偏見か。


「魚人ってズルいわよね。それってもう一つの能力みたいなものでしょ?」

「そうですけど、その分地上ではかなり動きが鈍くなりますからね。一長一短かと思います」

「ふぅーん、そうなんだ。魚人もいいことばかりじゃないのね」


 男の言葉に納得した様子のアシュリー。

 御者の男はちらりとフィーリアを見て、言葉を続ける。


「そういう話でしたら、森に住むエルフは魔法を扱うのが上手い分、身体は弱くて森の外では疲れやすい人が多いと聞きますね。それも森の外にエルフがあまり出てこない一因なんだとか」

「……そうだったのか、フィーリア?」


 そこそこ一緒にいるがそんなことは初耳である。

 だとしたら、俺に付いて来れてるフィーリアってもしかして凄いやつなのか?


 俺の視線に気づいたフィーリアは器用にパチリとウィンクしてきた。


「私が実は凄いんだってことがわかりましたか? 存分に感心してください」

「あたしは最初からわかってたわ! いぇーい!」

「さすがアシュリーちゃんです! いぇーい!」


 なぜかハイタッチをし始める二人。仲が良いようで何よりだ。


 そんな二人を見ながら俺は思う。

 まあ、人は皆生まれた時点で平等じゃないからな。

 持ちうる武器をどれだけ磨けるか、それが大事なのだ。


 俺は自分の腕をみつめる。気づけば随分と鍛えたものである。

 絶えず鍛えていけば、俺のように魔力が無くても筋肉魔法が使えるようになったりするのだ。

 俺と同様に、フィーリアもアシュリーも人知れずたくさん努力してきたのだろう。

 そういうやつと関われるということはもしかしたら凄い幸運なのかもしれないな。


「うわ、なんかユーリさんが満ち足りた顔をしてます」

「そういうことだ、わかったか?」


 どうせ透心で心覗いてるんだろ?


「え、何の話かさえわからないんですけど……」


 フィーリアが不審そうな顔をする。

 なんでこういう時に限って透心使ってねえんだ。

 使え使え、どんどん俺の心を読め。俺はいつでも歓迎だぞ。






 数時間が経った頃、御者の男が俺たちの方を振り返る。


「そろそろ水都が近くなってきました。ところで皆さんは適応石はお持ちですか?」

「適応石? ……知りませんね」


 答えたのはフィーリアだ。

 もちろん俺も知らない。


「ご存じないようでしたら説明させていただきますね。皆様のイスの下の収納スペースに入っていますので、良ければご覧ください」


 言われた通り椅子の下を探ると、小さ目な黒い石が何個か入っているのを見つけた。

 半透明な石で、光を反射している。大きさは親指の爪ほどだ。


「その石が適応石と呼ばれる石でございます。この適応石、見た目はただの石なのですが、その効果は優れもの。肌に触れるように身に着けておくだけで、深海、火山、空の彼方……どんな場所でも呼吸が可能になるという代物でございます。効果の持続時間は場所にもよりますが、水都近辺ならこれ一つで一時間ほどでしょうか」

「そりゃすげえ」


 この小さい石ころみたいのを持ってるだけで一時間呼吸が出来んのか。


「何個か肌に触れるようにつけておくといいですよ。まあ呼吸ができるだけなので、深海でしたら水圧で死にますし、火山なら熱で死にますし、空の彼方なら気圧で死にますが」


 ままならねえな……。

 案内役の男は淡々と言葉を発する。


「ですので呼吸以外は皆様方各自で対応していただくことになりますが、問題ありませんか? 一般的には水都近辺の水圧ならば、Bランク相当の風魔法で全身を包むか、同ランクの水魔法で水を自分から遠ざけるかの二通りならばほぼ確実に身を守れるかと思われます」

「なるほど、それで『風魔法か水魔法、もしくはその両方が使えることが好ましい』って条件に書いてあったんだな」

「はい。そこから依頼内容をある程度逆算した賢い冒険者の方もいらっしゃったのではないでしょうか。Sランク任務になりますと、そのようなことも盛んになされると聞いております」


 依頼内容が極秘にも関わらず、ババンドンガスが水都関係ってわかってたのはそういうことだったのか。

 アイツ見た目の割に頭いいらしいしな。とはいってもインテリマッスルの俺には敵わないと思うが。


「私は風魔法があるから大丈夫ですね。水魔法も使えますし」

「あたしも一応両方使えるから問題ないわ」

「俺も筋肉魔法があるから問題ない」


 よし、全員問題ないな。

 もちろんこのあたりは事前に確認済みだ。

 わざわざ声に出したのは確認の為である。


「き、筋肉魔法? 随分と珍しい魔法……魔法?をお使いになるんですね」

「ああ、まあな。筋肉魔法は魔力を必要としない、新時代の魔法なんだ」

「は、はあ……? ……?」

「ユーリさん、案内役の方を困らせるのは止めてください」

「困らせたつもりはないんだが……」


 見ると、案内役の男は俺を見てしきりに首をかしげていた。

 何をそんなに混乱しているんだ……?


「それにしても、適応石なんて便利なものがあったんですね。私全然知りませんでしたよ」


 フィーリアは適応石を手の平の上で転がしながら顔を近づけて観察している。


「あたしは数回使ったことあるわね。使ってる感覚もないほど自然に息できるわよ。むしろ自然すぎて補給し忘れに注意ね。急に呼吸できなくなるから」

「おっしゃる通りです。高位冒険者の方はどうしても過酷な環境でかつ長期間の依頼が多くなりますから、適応石の交換を忘れて寝ている間に死亡しているケースも毎年起きているようです。ぜひともお気を付け下さい」

「なるほど、気を付ける」


 戦って死ぬならともかく、そんな死に方は絶対ごめんだからな。




 それからまた数時間後、男が再び俺たちを振り返る。


「お待たせいたしました。もうすぐ到着です。あちらが水都になります」


 俺たちを乗せたマガメ車の向かう先には、自然がそのまま残る周囲とは一線を画す光景が広がっていた。


 灰色の土でできた建物に、辺りを明るく照らす街灯。

 俺たちの目前に広がっているのは、海中に不釣り合いな人工の香り漂う街――今回の目的地、水都であった。

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