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126話 小悪魔ウォルテミア

 昼過ぎ。

 昼食をとり終えた俺たちは、たわいもない会話を繰り広げていた。

 話題が一段落したところで、ババンドンガスが新たな話題を切り出す。


「そういや知ってるか? 昨日Sランクの依頼が発布されたらしいぜ」

「何!? それは本当か!」


 俺は思わず身を乗り出す。

 Sランク依頼など、俺がSランクになってから一度も聞いたことがないほどの激レアな依頼だ。


「ああ。なんでも水都関係らしい。俺はAランクだから詳しくは知らねえけどな」

「ユーリさん、しきりにそわそわするのやめましょう」

「だってよぉ、Sランク依頼だぜ? そわそわのそわそわだろうが!」


 そんなの聞かされたら、もうそわそわが収まんねえぜ!


「怖気づきはしても、そわそわするのはおかしいです」

「そういえばあたしも受けたことないわね、Sランク依頼」

「じゃあ一緒に受けるか?」

「あれ? いつの間にか受けることが決まってる……!?」


 人生は即断即決が基本だからな。

 俺が受けるだけで別にフィーリアは受ける必要はないのだが、自分も受ける気でいるようだ。

 やる気があるようで何よりである。

 まあ、俺たちは一蓮托生だしな。


 アシュリーは悩むように顎に手を当て、ちらりとフィーリアの方を向いた。


「そうねー……水都関係っていうのが火魔法メインのあたしには不安材料だけど……でもフィーリア姉と一緒に依頼を受けられるなら、受けようかなあ」

「なら早速ギルドに行ってくる! うぉぉ、待ってろよSランク依頼ぃぃっ!」


 俺は一目散にギルドへと駆けた。

 おかげで無事に三人でSランク任務を受注することができたのだった。

 備考欄に『水魔法か風魔法、もしくはその両方が使えると望ましい。ただしどんな場所・環境でも生きられる自信があるならば不問』と書いてあったが、俺は自信があるので大丈夫である。

 教えてくれたババンドンガスには感謝だな。






 依頼を受注した俺が意気揚々と砂浜に帰ってみると、何やらチャラそうな男たちがネルフィエッサにちょっかいをかけていた。

 これは俺が止めた方がいいか……?

 と思っているうちに、トゲトゲの金髪が動き出す。


「お姉さん超美人じゃん! 良かったら俺たちと――」

「悪いな、コイツは俺の連れだ」


 ババンドンガスはネルフィエッサの腰に手を回し、自分の方に引き寄せた。

 二人の腰が触れ合う。


「そういうことですから、他のご婦人をあたってくださると嬉しいですわ」

「ちぇっ」


 チャラい男たちはズコズコと引き換えしていった。

 それを見てババンドンガスは肩を撫で下ろす。

 そして一瞬躊躇した後、ネルフィエッサの手を取った。


「お前から目ぇ離すと危ないからな、俺の手離すな」

「……ええ、わかったわ。頼りにさせてもらうわね」


 ……なんかいい雰囲気じゃないか?

 二人とも見つめ合ってるし。


 そして誰も俺が帰ってきたのに気付いていない……。


「ただいま帰ったぞ」

「お、おお、帰って来たのかユーリ。丁度良かった、俺たちはもう帰ろうと思ってたんだ。そんで、依頼はとれたのか?」

「ああ、問題なくな。後日詳しい説明を聞きにギルドに来てくれだとよ。感謝するぜババンドンガス」

「ハハッ、大げさだぜ。そんな大層なことはしてねえよ」


 そう言ってババンドンガスは歯を見せて笑う。コイツは本当にいいやつだな。

 ババンドンガスには当分頭が上がらなそうだ。


「あたしにとっても初めてのSランク任務、気合い入れて行かなきゃね……!」

「緊張してきました……。面倒な依頼じゃありませんように……」


 アシュリーは腕を構え、フィーリアは天に祈った。

 そんなに身構えることでもないと思うんだけどな……と言いつつ、俺もテンション上がっている。

 だってSランク依頼だぜ? 絶対楽しいだろそんなもん。


 俺は砂浜に腰をおろし、足を延ばす。

 すると、視界のど真ん中に二人の繋がれた手が入って来た。


「にしても、お前らいい感じだな。付き合ってんのか?」

「うわっ、デリカシーなさすぎですよユーリさん!」

「ちょっと神経を疑うわね……。あんたの頭はどうなってんの?」


 え、俺そんな変なこと言った?


「いや、付き合うというか何というかだな……」

「お兄ちゃんとネルフィさんは、くんずほぐれつ」


 言葉を濁すババンドンガスを遮って、ウォルテミアが言う。


「う、ウォルちゃん、どこでそんな言葉を……」

「子供は大人の思っている以上に博識。私も然り」

「つーかそんなことしてねえから!」

「……お兄ちゃん、私お姉ちゃんが欲しい。ネルフィさんとか、いい感じ」


 そう言いながら、ウォルテミアはぴょこんと立ち上がる。


「突然どうした?」

「お兄ちゃんが誰かと結婚したら、その人は私にとってのお姉ちゃんになる。……お兄ちゃん、私お姉ちゃんが欲しいなー。ネルフィさんみたいに優しくて、ネルフィさんみたいに気がきく人だとなおいいなー」


 そしてババンドンガスに甘えるように体重をかけた。


「いつの間にか天使が小悪魔になってやがる……!?」

「ウォ、ウォルちゃん……私、恥ずかしいから……」


 そう言ってネルフィエッサは紅潮した頬を手で隠した。

 それを下からジーッと見つめるウォルテミア。


「……せくしーさに、かわいさが加わった。今のネルフィさんは、最強」

「もう帰ろう! そうしよう! 俺たちはもう行くけど、お前ら絶対勘違いすんなよ! く、くんずほぐれつとか、そんなことしてねえからな!」

「大人はすぐに誤魔化す。お兄ちゃんとネルフィさんは、ズルい大人……」


 ウォルテミアはババンドンガスにずるずると引きずられていく。

 引くずられていく最中でさえ無表情なウォルテミアの顔が印象に残った。


「なんか面白い人たちねー。……あれ?」

「く、くんずほぐれつ……」

「く、くんずほぐれつ……」

「二人とも顔真っ赤ってどういうことよ……。そんなんでこの先大丈夫なの……?」


 く、くんずほぐれつ……。

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