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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
1章 始まりの街編
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12話 人は見た目によらない

 買い物を終えた俺たちがギルドへと向かっていると、大通りに人だかりができていた。

 俺の鼻はその人の輪の中心に物騒な匂いを嗅ぎ取る。


 血の匂いだ。


 間違っても街の真ん中でしていい匂いではない。

 人だかりができていることからしても、何かあったのは間違いないようだ。

 何があったのか探ろうとしていると、金髪のとんがり頭が視界に入った。

 この前素材を売ったやつだ。

 あいつは……誰だったか。思い出せないまま、あちらは俺たちに気づいて近づいてくる。


「おうお前ら。こんなとこであうとはな」

「お前は……爆発頭じゃないか」


 俺は名前を思い出すことを諦めた。

 相変わらずウニみたいな頭してやがるし、たしかこんな感じの名前だったはずだ。


「ババンドンガスだ! ったく、名前くらい覚えろよ。インパクトある名前だろうに」

「名前より頭のインパクトが強すぎるのが悪いな」

「お前の記憶力の欠如を俺のせいにするな!」


 ババンドンガスは突っ込みを入れた後、ちらりと人だかりの中心に視線を移す。


「何があったんですか?」

「どうにも殺人事件らしいな」

「殺人、ですか……?」


 殺人。物騒な響きである。

 数日街で過ごしてきた所感ではこの街の治安は悪くないと思っていたのだが、どうやら全くその通りでもないらしい。

 ババンドンガスは険しい顔をして口を開く。


「ああ。近頃この街で無差別に人が斬りつけられる事件が勃発しててな。その犯人は『死神』と呼ばれてるんだが、そいつがどうにも手ごわいらしくて騎士団も手を焼いてるって話だ」

「強いのか。それは良いことを聞いた」


 全身の血がたぎる。

 最近強敵との戦いがなかったからな。ぜひとも戦いたいところだ。


「……お前ら、名前は?」


 そんな俺たちの様子を見ていたババンドンガスは静かに問うてきた。


「ユーリだ」

「フィーリアです」

「気配でわかるぜ。お前ら相当強いだろ? だけどくれぐれも油断だけはしないほうがいい。年長者からのアドバイスだ」


 ババンドンガス、いいやつじゃないか。頭を馬鹿にしてごめん。


 だけどこれだけは言っておかなきゃな。

 俺はババンドンガスに「チッチッチッ」と指を振る。


「忠告はありがたく受け取っておく。……だがな、人間の俺はともかくフィーリアはエルフだぞ? 見た目通りの年齢だと思わない方がいい」


 その言葉にババンドンガスは慄き、フィーリアを凝視する。

 上から下まで一通り眺めたババンドンガスは、震える唇で声をつむぐ。


「こんなに可愛い子が俺より年上にはとても思えないが……まさか、百歳とかいってんのか……?」


 ほう、いきなり三桁の大台に乗せるとは度胸がある奴だ。

 ――しかしまだ甘い。


「そんなもんじゃないだろうな。これほど人を(たら)し込む術を覚えているんだ。俺の予想では、四桁は軽く――」

「十七歳ですから! 失礼なこと言わないでくださいっ」


 フィーリアが怒り声で俺たちの会話に割りこんだ。


「……というか、初対面の時にユーリさんには年齢言ったと思うんですけど?」


「むぅ」と言いながらプンプンと怒っているフィーリア。

 それもそれで絵になっているのは凄いところだが、怒られるのは御免こうむりたい。


「ババンドンガス。お前、女に年齢を聞くなんてデリカシーってもんがないのか?」


 俺はババンドンガスに罪を押し付けようと画策してみる。


「お、俺が悪いのか!?」

「ユーリさんが悪いです」

「そうだな。悪かった、すまん」


 しかし無理だった。現実は非常である。




 その後も少し話していたが、ババンドンガスは途中で話を遮った。


「おっと。悪いが俺はこれで失礼するぜ。妹が心配なんでな」


 ババンドンガスには妹がいるらしい。

 こんな事件があったのでは心配になるのだろう。


「妹さん思いなんですね」

「ああ、ウォルテミアは俺の人生の生きがいだな」

「そ、そこまで……」

「こうしちゃいられねえ。ウォルテミアが待ってるからな、俺は帰る」


 そう言い残し、ババンドンガスはウォルテミアというらしい彼の妹のもとへと走り去っていった。


「妹思いのいいやつだな」

「そうですね。ちょっと行き過ぎな気もしますけど……」


 たしかに生きがいとまで言うのは中々普通じゃないな。

 ちなみに俺の生きがいは筋トレである。


「さて……と。死神とやらに会いに行くとするか」

「えっ、今からですか!?」

「じゃないと犠牲者が増えるかもしれないだろ」

「それは……正論ですね。ユーリさんには珍しく」


 俺だって他人のことを考えることくらいできるんだぞ。

 まあ、戦いたくて待ちきれないって思いもないわけではないが。


「でも会いに行くって言ったって、どうやって行くんですか?」

「俺を誰だと思ってる。この鼻が犯人の居場所を教えてくれるんだ」


 俺は自分の鼻を指で触る。


「被害者の血の匂いがする方角を追えば、その先に犯人がいる」


 そう言い切った俺に、フィーリアは感心したようにパチパチと手を叩いた。


「おおー。本当にすごく敏感な鼻ですね」


 フィーリアは顔を俺の顔に近づけてくる。正確に言うと俺の鼻に。

 可愛いんだからそういうことはしないでほしい。


「……というか、いつもはアレなのにこういう時は頭回るんですね」


 アレって何だ。


「いつも回ってるぞ。俺はインテリだからな」

「またまたー、冗談は顔だけにしてくださいよぉー。私思うんですけど、普段のユーリさんには知性が足りません。時代は知的キャラです。つまり私ですね!」


 そう言って胸を張るフィーリア。

 俺はそれを横目で見て、すぐに視線を外す。


「お前は胸筋がたりない。もっと鍛えろ」

「む、胸は関係ないじゃないですか! ユーリさんのバカっ!」


 フィーリアは貧相な胸を隠すように自分を抱いた。


 俺はそこで会話を打ち切り、匂いの追跡に集中する。

 死神か……どのくらい強いか楽しみだ。

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