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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
6章 王都の日常?編
116/196

116話 鰻が登ったその先は

 俺は景品の並んだ台の直線上に立つ。


「『任せとけ』たぁ、射的のしゃの字も知らない素人が軽く物を言ってくれるじゃねえか」

「知ってるぜ。『しゃ』ってのはこう書くんだ」


 インテリマッスルな俺を馬鹿にするんじゃねえ。

 俺は指で空中に大きく『しゃ』と書いた。


「な、知ってただろ?」

「そう言う意味じゃねえんだが……まあいいだろう、とれるもんならとってみな!」


 そう言って、男は倒れていたかばのぬいぐるみをさりげなく当初の位置に戻す。


「俺はなぁ、女に良いカッコしようとした男が景品とれずにスゴスゴと帰っていくのを見るのが何よりの楽しみなんだっ! そのために店を出してると言っても過言じゃないほどになぁっ!」


 熱が篭った口調で語られたのは、それと不釣り合いなまでにくだらない理由だった。


「控えめに言って相当悪趣味ですね……」

「おうおう、もっと言ってくれ。罵倒が俺の心を癒してくれる!」


 店主は「来い! 来い!」と全身で罵倒を欲しがる。


「人間のクズね」

「うっひょぉー! 来るねぇー、ズバッと! 気持ちいいー!」

「近寄らないでください」

「あんたのその蔑むような目、最高だ! 生きててよかったー!」


 店主の人間性に大いに問題がある屋台だな……。




「よし、いくぜ」


 俺は自然体を意識して、身体から力を抜く。


「なんだ? 兄ちゃん、変わった魔法を使いそうだな」

「その目に刻み付けてやるよ。筋肉魔法の神髄をな」


 俺はそれだけ言うと、神経を拳に集中させた。

 目をつぶり、呼吸を整える。

 何も考えず。何も意識せず。


「……ふう」


 無心になった俺は、台に並ぶぬいぐるみを見やった。

 拳を引き……そして、放つ。


 ――その瞬間、辺りに轟音が響き渡った。


 俺の拳が生み出した衝撃波は、台の上に並んだ景品どころか台ごと全てを吹き飛ばした。

 うん、まあまあ良い一撃だったな。


「……な、なんだそりゃあ……」


 店主は呆気にとられながら、先ほど言っていた不正防止のための二つの魔道具を見る。

 そして驚愕に顔を歪めた。


「魔法でも、能力でもねえだと……!?」

「来年までにもう一つ魔道具付け加えといたほうがいいぜ? 筋肉魔法用のをな」


 俺は男に忠告をする。

 魔力を使わない魔法――それを警戒していなかったことが、この男の敗因だったな。




「やるじゃない! 見直したわユーリ!」

「上手くいったようでよかったです。下手したら屋台ごと壊してしまうんじゃないかと気が気じゃありませんでした……」


 二人が俺の元にやってくる。

 そして店主もまた、青ざめた顔で俺のところにやってきた。


「こ、これ全部はさすがに……。な、なんとかなんねえかな?」


 なるほど、たしかに全部持って帰ってしまってはこの男の商売もあがったりだろう。

 少し話し合う必要がありそうだな。


「フィーリア、アシュリー。話を付けるから、二人はどっかの店でも見ててくれ。俺はあとで匂いをたどって追いつくから」


 二人を引き留めておくのも心苦しいしな。

 二人には新年のお祭りを楽しんでほしい。


「に、匂いをたどってくるんですか……?」

「それは勘弁だから、あたしたちはあそこで待ってるわ。丁度歩き疲れてきたところだったし」


 アシュリーが近くの小さな広場を指差した。

 椅子が並べられているだけの簡易的な広場に数人が休んでいるのが見える。


「わかった」


 俺がそう言うと、二人は広場へと向かっていった。




 残った俺は、店主と二人話し合う。

 店主は冷や汗をかきながら俺に頭を下げてきた。


「さすがに全部取られちゃ商売にならねえんだ。何もタダでとは言わねえ。金は払うから、買い戻させてやくれねえか?」

「全部はいらねえよ。金もいらないから、景品を二つだけくれ」


 大体、こんなにあっても処分に困るからな。

 俺がただ腐らせるよりは、ここの店主が使った方がまだ有意義だろう。


「ほ、本当か!? 兄ちゃん良い奴だな!」

「俺に感謝するなら、もう少しひ弱なやつにもとれるようにしてやれよな」


 さすがにフィーリアでもとれないというのは設定として明らかにやりすぎだ。

 アイツは魔法に精通しているエルフで、しかも冒険者として最上位のSランクだぞ。

 フィーリア以上の魔法使いなんて王都にも数えるほどしかいないはずだ。いや、もしかしたらいないかもしれない。


 それを聞いた男は、黙って拳を握りしめる。


「……………………くっ、しょうがねえ。これからはもう少し制限を緩くする。約束するぜ」


 長い沈黙の後に、男は目じりから煌めく何かを流してそう言った。

 どんだけ男に恥かかせたいんだコイツは……。






 俺は景品のカバのぬいぐるみを持ち、二人の元へと戻った。


「ほらよ」


 アシュリーにぬいぐるみを渡す。


「あ、ありがと……」

「おう」


 アシュリーは口をとがらせながらも、きちんとお礼を言ってきた。

 こういうところはちゃんとしてるのか。

 そう思ったのが顔に出ていたのか、アシュリーはつんとそっぽを向いてしまう。


「か、勘違いしないでよね! 別にこんなので餌付けされたりしないんだから!」


 なるほど、ちょろいフィーリアとは別ってわけだな。


「ただ好感度がグングンと鰻登りなだけなんだからね!」


 ちょろいじゃねえか。




「うん! 見れば見るほど可愛いわね、このぬいぐるみ!」


 アシュリーは嬉しそうにぬいぐるみを抱えている。

 そこまで喜んでくれるなら俺としても頑張った甲斐があるというものだ。


「ちなみに好感度はどこまで上がったんだ?」

「うーん、プラマイゼロまでかしら」


 ……鰻登りでプラマイゼロって、俺は今までどんだけ嫌われてたんだよ……。


「まあ別に今までも嫌いなわけじゃなくて、フィーリア姉と仲良いのがズルいなぁと思ってただけだしこれからは仲良くできそう……って、あれ? なんでショック受けてるの? 好感度は本当にプラマイゼロだし、このプレゼントは心の底から嬉しくて感謝してるわよ?」


 心底不思議そうな顔をして、顔を覗き込んでくるアシュリー。


「……俺、お前のことちょっと嫌いになったわ」

「え、なんでよぉっ!?」


 ……まあ気に入ってくれたのは良かったから、良しとするか。

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