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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
6章 王都の日常?編
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104話 合同依頼

 翌日。俺とフィーリアはギルドへと急いでいた。

 今日は待ち合わせをしているのだ。


「ぎりぎり間に合いそうだな」

「よかったです。起きたときにはどうなることかと……」


 フィーリアが息を切らせながら今朝を振り返る。

 今俺たちが走っているのは、一重にフィーリアが寝坊をしたからに他ならない。

 普段のフィーリアに不満はないが、この寝起きの悪さだけは何とかしてほしいものだ。



 扉を開けてギルドの中へと入ると、金髪の男女が揃って俺たちに視線を送ってくる。ババンドンガスとネルフィエッサだ。

 二人の印象は真逆であり、ババンドンガスは陽気そうで、ネルフィエッサは大人びている。

 ババンドンガスが明るい金髪で、ネルフィエッサが落ち着いた紫紺色の長髪であることも、感じる印象に多少なりとも影響しているのかもしれない。


 俺たちは二人の元へと近づく。

 何を隠そう、今日の待ち合わせ相手はこの二人なのだ。


「どうした、随分とギリギリだったが。何かあったのか?」


 世間話がてらにそう尋ねてくるババンドンガス。


「何と言いますか、その、まあ色々ありまして……」

「フィーリアが寝坊したんだ」

「なんで言っちゃうんですか!?」


 なんでと言われても、だって実際そうじゃないか。


「クスクス。意外だわ、お寝坊さんなのね」

「うぅ……私のイメージが……」

「最初に会った時は気が付かなかったけど、フィーリアちゃんって意外と残念だよな」

「もうやだぁ……」

「フィーリアは意外じゃなくて真っ当に残念だぞ」

「もう、ユーリさんはこれ以上喋らないでください……!」


 上目遣いで凄まれてしまったので、俺は大人しく黙ることにする。




「じゃあ、早速行くか?」


 ババンドンガスが背後にある依頼板を親指で指差して言う。

 昨日話が盛り上がった俺たちは、一緒に依頼を受けてみることにしたのだ。


 なんでも、ババンドンガスは色々な相手と良く合同で依頼を受けているらしい。

 今回はネルフィエッサが勘を錆びさせないために久しぶりの戦闘系の依頼を受けるということで、実力の確かな相手を探していたようだ。

「Sランクになったお前たちなら全く不安はねえし、頭を下げてお願いしたいくらいだ」と言われたフィーリアが「えへへ、それほどでもありますよぅ」と相変わらずのチョロさを発揮したために、今回の合同依頼が決まった。


 まあ、俺もフィーリア以外と協力して依頼を受けることは滅多にないからな。アシュリーと三人で数回行っただけだ。

 こういう機会に経験しておくことで、臨機応変に対応する能力が磨くことができるはずだ。

 そう言う意味で、俺は今回の依頼に対するモチベーションは高い。


「あれ、そういえばウォルテミアちゃんはどうしたんですか?」

「ウォルちゃんはやりたいことがあるらしくて、今回は別行動なの」

「兄としちゃとてつもなく心配なんだが、あいつは俺の操り人形じゃないからな。あいつが一人で依頼を受けたいというなら止めはしねえさ。とてつもなく心配ではあるが。……とてつもなく心配ではあるが」


 凄い心配そうだな。

 今までに見てきた溺愛具合だと、こうなるのも不思議じゃないが。


「まったくもう、ババンドンガスったら……。ウォルちゃんが受けたのはスライム狩りの依頼なのよ? どう見積もってもいいとこDランク、基本Eランクの依頼だし、Bランクのウォルちゃんなら大丈夫に決まってるでしょう。自慢の妹をもっと信じてあげなさい」

「そ、そうだな。そうだよな。気持ちを切り替えねえと!」


 ババンドンガスはバチバチと自分の頬を叩く。

 そして赤く腫れた頬を上げ、俺たちにニカッと笑いかけてきた。


「お前らと一緒に依頼受けんの初めてだよな? 楽しみだぜ!」

「今回はお二人ともよろしくね? 戦闘系の依頼は久しぶりだから、足を引っ張ってしまったらごめんなさい」


 ネルフィエッサが言う。

 どうやら久しぶりの戦闘系の依頼に、僅かに気負っているようだ。

 同行する仲間として、こういうときは安心感を与えてやらねばなるまい。


「案ずるな。俺に任せろ」

「あら、頼もしいわね。頼りにさせてもらうわ」


 そう言うネルフィエッサに、俺は筋肉を解放し、自分の胸を力強く叩く。

 膨れ上がった胸筋は、見る者に地に根差した大木を見ているかのような安心感を与えるのだ。


 ネルフィエッサは突如肥大化した俺の筋肉に瞠目していたが、フィーリアやババンドンガスが当たり前のような顔をしているのを見てこういうものなんだと納得してくれたようだ。

 彼女は、筋肉が声高に主張しているパツパツの上半身を見ながら呟く。


「す、凄い身体なのね……」

「鍛えたからな」

「ここだけの話、身の危険を感じたらユーリさんの影に隠れるのがオススメです」

「たしかに俺の体なら大抵の魔法は無効化できるしな」


 時に何よりも鋭い矛となり、時に何よりも強固な盾となる。

 それが筋肉なのだ。




 俺たちは依頼の中から依頼を見繕い、依頼の場所へと向かうことにした。

 ネルフィエッサが受けられる上限ギリギリの、Bランクの依頼だ。


 地竜車に乗り込み、目的地へと向かう。

 少しすると、王都から少し離れた郊外へとたどり着いた。


「おっ、あそこだな。行くぜ皆!」


 着くや否やババンドンガスは地竜車から飛び降りるように地面に降り立ち、興奮を抑えきれないかのように走っていってしまう。


「元気ですねー」

「彼は賑やかなのが好きだから、皆といるだけで楽しくなっちゃうみたい」

「単純なやつだ」

「ユーリさんが言えたことじゃないですけどね」

「お前もな」


 そこに見えてきた店には、太く大きな文字で「穴のないドーナツ」と書いてあった。

 今回の依頼は『ドーナツ店の警護』だ。

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