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異世界勇者の魔力覚醒杖-エクシードギア-   作者: 幻想海 蒼空
第1章 異世界冒険譚の前奏曲-プレリュード-
6/8

#5.月夜に響く子守歌-ララバイ-

 操縦室のドアを開けた先は当たり前だが先ほどと特に変わったところはない。

ちょっと天井が低いのが気になるが、やっぱり操縦室だった。

 むしろいきなり猫なんぞが乗ってた時にはビックリして抱きしめてモフモフしたくなる。


 

「なんだい……そんなに頭撫でないでくれ……」



 エミリアの頭をわさわさと撫でながら、ここからの景色を見る。

 真っ黒な空に真っ黒な海、水平線はおろか、何も見えないと言った方が妥当である。

 それより、エミリアの頭をわさわさとしていると、それに比例して爽やかなシャンプーの香りが舞い上がる。

 こんな俺の住む世界から遠く離れたこの世界でも、女の子はいい匂いなんだな。

 なんか変態感丸出しだが、俺はいたって平常運転だ。

 おい誰だ。お前はいつでも変態だろとか言ったヤツ。



「おっ、君が噂の新人君かい?」


「え、あ、はい」



 喋りかけてきたのは、この組織では初めてお目にかかる男の人だ。

 真っ黒とも言える髪は短く丁寧に揃えられている。

 歳は多分自分よりも上だろう。少しオトナな雰囲気が滲み出ている。



「ああ、突然話しかけて悪かったね。俺はシエナ・ルビエル。この船の艦長さ」


「あ、俺は…」



 ここで少し言葉に詰まってしまう。

 この世界ではエミリアやルナ姉からは“ユータ”と呼ばれている。

 だから本名を名乗るべきなのか、あだ名を名乗るべきなのか分からなくなってしまった。

 確かにここはディネクティアという別世界だから、ユータでもいいのかもしれない。

 でも、俺は風島悠汰だ。それ以上でもそれ以下でもない。


「何を恥ずかしがっているんだい?この子はユータだ」


「そうか、よろしくな、ユータ」


「あ、よろしくです艦長」


「おう!」


 結局エミリアに先を越されたが、なんだかんだ艦長と握手を交わす。

 笑顔を見せ、しっかりと俺の手を握る艦長の手からは、確かに周りをまとめる包容力を感じた。



『こちら機関室!魔力充填完了したよ』



 耳元の機械(?)から聞こえた声は今まで聞いたことはなかったが、やっぱり若い女の人の声だった。



「了解した。だがな、この艦橋には問題がある」


「問題?」


「いや、艦長と新入りと衛生長しかいないやん」


「そういやそうだね、あとの子たちはどこに行ったんだろう?」


「さあな」



 そういえば、ここにいるのはエミリアと艦長と俺だけだ。

 確かに副長とかもいないし他の人たちもいない。

 流石に艦長ひとりで航海から戦闘までできないだろう。

 いくら魔法が使えるからと言って、なんでもできる訳では無いというわけだろうか。



「すいません遅れましたぁっ!」



 バタンとドアを開け入ってきたのは金髪の女の子だった。

 目はクリクリとしていて綺麗な緑色。背は俺と同じくらいで、髪の毛をポニーテールにしている。

 いや、顔は中性的であるため男の娘にも見えるが、スカートを履いているので、女の子なんじゃないかな?



「おいおい、一応緊急収集なんだぜ…」


「お風呂入ってたら遅れちゃって」


「ま、レディはお風呂長いしな」



 えへへ。とはにかむ謎の少女は、こちらを見るなり少し目を見開く。



「君が噂の別世界の人?」


「お、おう、ユータだ。よろしくな」


「私はリムル。気軽にリムって呼んでね!」


「うん」



 体を動かすたびにぴょこぴょこ動くポニーテールが、なんというか動物の本能的に気になる。



「うし、航海長さんは来たな」


「あとのふたりも来たみたいだよ」



 エミリアが指さした先には言葉通りにふたりの少女が……というか同一人物がふたりいる。

 ふたりとも髪は淡いピンク色のボブで、同じピンク色の瞳と金色の瞳のオッドアイ。

 違いといえば、オッドアイが左右逆というくらいだ。



「みんな揃ってるわね。そういえば、新しい子も来たんでしょ?」


「お姉様。遅れたんですから謝らないと」


「ごめんなさいね。ちょっと取り込んでいたもので」


「少し盛り上がり過ぎちゃって……」



 どうやら軽々しくしているのが姉で、しっかりしているのが妹らしい。

 姉は右目が金色で、妹は左目が金色だ。

 なにを盛り上がったのかは知らないが、妹は汗びっしょりであった。

 すたすたと姉の方がこちらに近づいてきて、俺の方を見る。



「ウチはオリシス・ハルビート。砲術を専門としてるわ。ホントは炎の玉とか作ってぶっぱなしたいけど、ちょっとした電気しか扱えないからね。こんな無駄にデカい船だけど砲門は結局性能良くないゴミクz──」


「私は副長のミコンです。見た目でわかると思うけれど、オリシスの双子の妹です。ミコって呼んでくださいね」



 ミコと名乗る少女は口が閉じないオリシスを(物理的に)押しのけた。

 この後俺も自己紹介したが、さんざん名乗ってるから全カットだ。

 艦長のシエナさんに副長のミコ、航海長のリム、砲術長のオリシス、そして俺とエミリア。

 俺とエミリア以外の計4人が揃ったところで、艦橋組の完成ということらしい。



「よし、全員揃ったな」


『機関室は私ひとりですし、他のメンバーからも集合したと報告を受けましたよ』



 艦長はよし、と頷くと壁にかけてあった白い帽子を取ると自身の頭に深く被せ、ツバをあげる。

 その姿はまさしく一船の艦長であり、全責任をとる覚悟と意思をもった大きな背中に頼りがいを感じた。



「全員持ち場につき、出港用意!」



 艦長の指示で、おのおのが自分のいるべき場所につく。

 ミコは舵を手でしっかりと握りしめ、艦長と副長は前を見渡せる艦橋の前部へ移動する。



『船底のロック解除します』


「おう」



 耳元から声が聞こえるとガクンと船が揺れ、少し下に沈んだ。

 その後も少し揺れを感じることから、さっきまではロックされて発艦できないようになっていたらしい。

 それを聞いた艦長は少し頷くと、もう一度帽子を整えた。



「両舷前進微速!百九十度ようそろ。目標、アシーナ島」


『両舷前進微速~よ~そろ~』



 舵に取り付けられたメーターが「微速」に合わせられる。

 ちなみに「ようそろ」というのは「了解した」や「問題ない」という意味で復唱されるらしい。

 異世界でなんでこんな日本の言葉が使われているかはツッこんではいけない。

 きっと俺が艦艇もののアニメを見すぎたせいで変に訳されてしまったのだ。

 決して作者の趣味ではない、断じて。



「『方舟(ノア)』発進!」



 ガタンという揺れを感じると、少しずつ周りの景色が動き始めた。

 科学が発達しないこの世界でも、慣性の法則は成り立つらしい。


 ん?ちょっと待てよ。

 なんか流れで自然にこの船に乗ってることもおかしいが、この船なんで見た目が駆逐艦なんだ?

 俺たちの世界、地球とはまた違った世界であるディネクティア。

 ならば何故地球で幾千の戦いをしてきたこの日本海軍の軍艦が、この世界にあるというのだ。

 この世界で開発されたにしては似すぎている。



「おっと、勘のいい奴は嫌いですよ……」



 バキッという鈍い音とともに、後頭部へ衝撃が伝わり、空が低くなり視界が滲み始め、少しずつ意識が遠のいていく……ことは一切なく、隣でエミリアがこちらの顔を見つめていただけだった。



「なんだよ、心読むなよ!」


「いや、なんとなくわかったんだ。私たちの距離が近づいた証かな?」



 エミリアは少しうつむいてぼそっと言った。

 その顔は少し赤みを帯びていて、なんだか照れくさそうだ。

 女の子にそんな顔をされてしまったが最後。

 俺だって男の子なのだから、さすがにドキドキしてしまう。

 あ、でも俺は由梨一筋d(以下略

 つまるところ、何て返せばいいかわからなくなった。



「えっ…あ、その……」


「まあ、ちょっとした冗談はおいといてだね」


「じょ、冗談なのかい!」



 数秒前までの赤面はどこへ行ったのやら、普段のクールビューティーないつものエミリアに戻っていた。



「なんだい?期待していたのかい」


「い、いや、そんなことないぞ」


「……そうか」



 少しこちらを睨んだ気もするが、きっと気のせいだ。

 やっぱりすぐにいつものエミリアに戻ると、眉間に拳を当てて、ゆっくりと語りはじめた。



「この世界の主軸となるのは魔法だ。魔法を使えば空なんて簡単に飛べる人もいるだろうね。でも、やっぱり長時間の魔法の連続使用は身体にかなりの負担がかかるんだ。海の警護を任された私たちはなんといっても1回の移動距離と時間が長いんだ。」


「おう、それで船を使ってるんだな。でも、このデザインはどっからとったんだ?」


「うん、三年前のことだけど、君と同じようなとある異世界人がいてね。その人の持ってた本にこんな船が描かれててね。それからとったんだ」



「え、でもそれって──」


『レーダーに敵影あり!』



 耳元から女の人の声が聞こえる。

 その慌てているような口調からは、これから何か始まることを予感させるには充分だった。



「きやがったか」


「ああ、まだ登場人物全員紹介できてないのに」



 敵影報告に一切動揺せず冷静につぶやく艦長は、帽子をもう一度深くかぶり直す。

 エミリアはなにかよくわからないことを言っていたが、きっとどうにかなるだろう。



「さあ、ユータ。俺たちの敵さんがいらっしゃったみたいだ。準備はいいか?」


「いや、準備も何も」


「まあたしかに、しかも俺たちは援護しかしないけどな」


「え?」



 すると、右後方、つまり右舷側からゴゴゴゴというような微細な振動を感じた。

 少しその振動が続いた後、その振動は止み、船内は静寂を取り戻す。



「見てきなよユータ。これが俺たちの戦いだから」


「あ、はい!」



 こっちだよ。と手招きをするエミリアに導かれ、船内を走る。

 廊下の突き当たり、重い金属のドアを開けたその先は、船の甲板。


 穏やかで涼しい風が吹く漆黒の闇夜。

 その風とは裏腹に、月は真紅に染まっている。

 そして船の右側から見える海原。

 その遥か先、水平線に近い、そんなような距離。

 それでも確かに見えるのは、謎の影。

 夜の黒さでは決してない、名状しがたいもの。

 この距離でも身体が拒否するように震える。


 穏やかで爽やかで、それでいておぞましい海にさざめく波の音だけが、静かに響く。

それはまるで子守歌のように。


まず、更新遅くなってすみません!

ちょびっとずつ気の向くまま書いてた結果がこれです。多分これからも不定期更新だと思いますが、よろしくです!


そういえば、みなさまに顔を出すのは初めてかも知れませんね。とある自分の小説のヒロインと何故か名前を被らせた蒼空です。以後お見知りおきを…

ところで、チェックしてもらった友達の1人に言われたのですが「名前がリ○ロっぽい」と。

作者は残念ながらリゼ○は知らないので関係ないと思います。というか影響されたのならば、は○ふりだと思いますね。


まあ、こんな雑談はいいとして、ここまで読んでくださった方はありがとうございます!

のんびり頑張っていこうと思ってます!

蒼空先生の次回作にご期待ください……(2章へ続く)

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