#4.闇夜に揺蕩う幻想曲-ファンタジア-
夜の町は昼間とは大きく姿を変え、人影はいっさい見当たらない。
俺とエミリア、ルナ姉の吐く息が澄んだ冷たい空気中に少し白く舞うだけ。
町に響くのは俺たちの呼吸音のみで、静寂を保っている。
赤い月からの光はほとんど届かなくて、微かに見える道の輪郭をたよりに、何処へ向かうかも知らずに彼女たちについていく。
「いったいどこに向かっているんですか」
「私たちの機動要塞さ」
「機動要塞!?」
「ほら、見えてきたよ」
エミリアが指さした先にあったのは────
艦艇だった。
俺の趣味のひとつにプラモデルがある。
車や飛行機、ロボットなど色々なものに挑戦してきたが、一番のメインは艦艇である。某有名ブラウザゲームの影響と某海洋高校アニメの影響で結構ハマっている。
つまり何が言いたいかというと、いつも俺が作っているような船がそこにはあった。
軍艦色と呼ばれる色のボディに、大きな連装砲。大きさから見るに駆逐艦だ。駆逐艦は艦艇の中では小さい方だが、人間からすれば充分巨大なのです。
そんな艦艇が、小さな島のようなところに停泊している。
小さな島は多くが緑に囲まれているように見えるが、その港部分にはかなり大きな建物が建っており、その建物は普通の民家と違う……まるでコンクリートのような固い建材で建てられてるようだ。
「……訳が分からなくなってきたぞ」
「とりあえず時間が無いからな。すまないが来てくれ」
俺はルナ姉に背中を押され、島に建てられた建物に入っていった。
****
ガラス製の自動ドアを抜け、ホテルの受付のような空間を筆者に描写させる暇もなく駆け抜ける。
そして、廊下のような場所の突き当たりの部屋に入る。
白い壁に白いタイル張りの床、そして長いテーブルにパイプ椅子が並んでいる。
会議室と例えれば想像がつきやすいだろうか。
そんな部屋の中には俺たちの他に4人の人影がある。
「遅いぞ、ルナ、エミ」
「ちょっと取り込み中だったもので」
入ってきた俺たちに鋭い視線を向けるひとりの少女。
歳は俺と同じか、俺より少し上か。少し青みを帯びた暗い色の髪は肩甲骨あたりまで伸びていて、その髪が右目を隠している。瞳は水色に輝き、その口調からも冷酷さを物語っている。
おそらくこのグループのリーダーだろう。
いったいなんのグループなのかもわかっていないが。
服装は、周りの人にも言えるが、日本のセーラー服にとても似ている。
4人のうちひとりは男性で、その他は女性である。
それぞれの描写については、そのキャラクターとの会話の時にするとしよう。(べ、別に面倒臭いとか、そういうんじゃないんだからねっ!)
「まあ、いい。 ヤツらも動き出している。早速作戦開始だ」
「了解したぞ」
「いこうか」
リーダー(仮称)、エミリア、ルナ姉や他の人に続いて部屋を出る。
部屋を出てすぐ右に曲がると、そこにはガラス製の自動ドアがあった。
入口も自動ドアだったが、アレと似ている。
ただ違ったのは、ドアを出た先の景色だった。
「───凄い……」
見上げるほど大きな艦橋と、連装砲。
そして軍艦色に煌めく船体。
先ほど遠くから見たのとは別物にも感じる艦艇。
先頭部には「N490」とナンバリングされている。
ドアから出た先の道からその艦艇に乗り込む。
足をマストにつけると、それは本当に水面に浮かんでいるのだと確信できる。
艦橋構造物 (操縦室のある建造物)の横のドアから中に入ると、さっきの建物のような内装の場所に出る。
ただし、天井や幅は少し狭くなっており、ここが船の中であることを感じさせてくれる。
階段を上り、左に曲がり、突き当たりの部屋に入る。
広さはそこまで広くなく、全員が入ると少し狭い。
辺り一面ガラス張りになっており、そこからは暗く静まり返った海がよく見える。
羅針盤と舵輪、そして通信設備。
通信設備と言っても、電話ではなく、大きめの公園などでたまに見かける「一方から声をだすと、もう一方から聞こえる管」のようなものだ。
神奈川県は横須賀市。三笠公園でみた戦艦三笠。
あの艦橋で見たような景色が今目の前に広がっている。
現実ではないような、不思議な感覚が俺を襲う。
しかし、目の前にあるものは紛れもない現実なのだった。
「総員、配置につけ!」
そういうとリーダーは俺を見る。
そして少し考えてから口を開けた
「自己紹介がまだだったな。私はリゼレッタ・フィリップス。この隊の隊長だ。
お前はエミと一緒にいてくれ」
「は、はい……」
そう言うとリゼレッタ隊長が部屋から出ていき、それに続いてルナ姉ともうひとりの女の子も出ていった。
リゼレッタ・フィリップス。
フィリップスというのはエミリアやルナ姉と同じ姓だ。
ということは、見た目からだが、リゼレッタ隊長はふたりのお姉さんなのだろうか。
でも、ふたりはどちらも髪の毛が水色に近いが、リゼレッタ隊長は青なのだ。
うーん……
「ユータ、私たちも行くよ」
「お、おう……てか、どこに?」
「この船の案内さ」
エミリアに手を引かれ、引かれるままについていく。
先ほどの階段をおり、すぐの部屋に入る。
保健室と書かれたそこは、学校で見るようなごくごく普通の保健室だった。
ベッドがあり、椅子と机があり、お薬なんかも置かれている。
椅子に座らされた俺の目の前にはホワイトボードとエミリア。
何故か赤い眼鏡をかけていた。
とっても似合っていて知的ロr……とっても真面目な感じがするよ、まる。
「さあ、授業をはじめよう」
「ふぇ!?」
****
「そもそも君はディネクティアについてしらないじゃないか」
「そういえばそうだな」
俺が知っていることと言えば、科学じゃなくて魔法が発達してるよってことくらいだ。
しかも実際に見た魔法は件のドS行為だけだ。
それだけで何故俺は納得しているのか、そもそもなんでこんなに平常心でいられるのか、自分でもわかっていないのだ。
そういう意味では、こういう授業はいいかもしれない。俺にとっても、読者様にとっても。
「君は魔法使えるのかい?」
「いや、全く……。てか、使えたら驚かないしね」
「それもそうだね。じゃあ、魔法についてからだね」
魔法とかはここで実際に見るまではアニメやゲームの中でしか見たことは無い。
魔法、それは聖なる力だったり未知への冒険だったり勇気の証だったりするのだろうか。
「人は誰しも魔力を持っている。 その魔力を具現化したもの、それが魔法だ」
「ちょっとちがったなー」
「なにとだい?」
「いや、予想と」
ほう、と頷くエミリア先生。
「ごく稀に、具現化する能力を持たない者がいる。私たちはブランクと呼んでいる」
「俺もその類ってことか」
「まあ、そういうことになるね」
「じゃあ魔法使えない感じ?」
「うん」
「えー……」
「Σ(゜д゜lll)」こんな顔をしている自分がいた。
いや、だって折角なら魔法使いたいじゃない。こんな機会多分二度と来ないのに。
でも、それは夢の話だったというわけか。
まあ、地球では魔法なんて使えないのだから当たり前と言えば当たり前だけど。
「だが、そんな人の為に開発されたのが魔道具さ」
「魔道具?」
「例えば調理したりする時、火を使いたい。しかし、私は回復属性の魔法しか使えない。そんな時に使うのさ」
「ほうほう」
つまり、地球でいうガスコンロや電話など、科学的なサムシングで世の中を便利にしているモノたちってことか。
確かに、回復属性で魚は焼けない。むしろ生き返りそう。
「魔法についてはわかったよ。じゃあ、この船はなんなんだ?」
「この船は軽型戦闘用航洋艦アドミラルギーク」
「アドミラルゥ……」
「この船は水面を翔る世界最大級の魔道具と言われている」
「魔法で動くんかい……」
よく考えればそりゃそうだ。
この世界は魔法世界であって科学世界じゃない。燃料なんかはないのだろう。
「むしろ、君の世界はどんな世界なんだい?」
「俺の世界ねぇ……」
「ああ、結構興味があるんだ」
いざ、自分の世界はどんな世界と聞かれるとよくわからない。日常の世界は日常の世界であって、そこに定義を求めるのは哲学者の人たちだけだろう。
しかし、その「日常の世界」から追い出されたとしたら?
凡人の俺が、日常の世界の定義を語るなんてことは、案外難しいものなのだ。
「ま、まあ。魔法は全くないけど、その代わりに科学が発達してるよ」
「科学が……ほうほう」
興味深そうに頷くエミリア先生。やはりこの世界では科学は発達していないらしい。
「まあ、発達してないところとの格差は大きいし、化学兵器が戦争で使われたりして多くの人が死んだり、結局は戦争が何処かで起こる。
だから、真の平和とは言えないんじゃないかな?」
「君の世界も大変なんだね」
「そうだね」
と、エミリアが何か思い出したように顔をはっとさせる。
そしてポケットから何かを取り出し、俺に渡す。
「これ、音感コネクションだ。略して感こ──」
「ちょっとまて。それは誰が名付けた」
「それは……姉さん」
「ヲッ!?」
絶対に某人気ブラウザゲームからとってるだろそれ!てかなんで知ってるんだよ!あれは地球の娯楽だよ!
まあしかし、エミリアにはなんの罪も無いので、音コネを受け取って耳につける。
「これどうやって使うんだ?」
「ああ、それはね……」
数分で、使い方をマスターすることは出来た。
というかめっちゃ簡単でめっちゃ難しかった。
手順は、話そうと思っている相手のことを考えながらボタンを押すだけ。
とっても単純だが、魔法慣れしていない俺には難しかった。
「じゃあ、とりあえず私にかけてみてくれ」
「わかった」
エミリアのことを頭で考えればいいんだよな。
エミリアエミリアエミリアエミリアエミリアエミリアエミリアエミリア……
うわお!とっても変態っぽい!
そしてぽちっとボタンを押す。
すると地球製の電話と似た発信音が流れる。
「prrrrrr……お、繋がったみたいだね」
「ホントだ。もしもしエミリアさーん」
「う、うん……じゃあきるよ」
プツッと音が切れた後、何故かエミリアが紅潮していた。
「どした?」
「い、いや……エミリアと呼ばれるのはどうも……」
表情があまり変わらないエミリアの貴重な赤面シーンである。
だが、それがいい。ギャップという概念は本当に萌える。
「本名で呼ばれるのは……こう、意識してしまうというか……」
「じゃあ、なんて呼べば?」
「エミ……エミで頼む」
「わかったよエミ」
なんてラブロマンスみたいな雰囲気なのだろうか。由梨一筋の俺でも流石に気分が高揚してしまう。
「そろそろ出発するみたいだから、操縦室に戻ろうか」
「わかった」
もときた道をエミとふたりで戻り、操縦室のドアを開けた。