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異世界勇者の魔力覚醒杖-エクシードギア-   作者: 幻想海 蒼空
第1章 異世界冒険譚の前奏曲-プレリュード-
3/8

#2.出逢いの輪舞曲-ロンド-

「えっと……はい?」


「だから、この世界はディネクティアと呼ばれている」


「デ、ディネクティア……」



 多分、今だかつて地球人が足を踏み入れたことがないであろう秘境。

 もしかしたらひとりくらいいたかもしれない。

 地球とは違い、科学ではなく魔法が進んだ世界。

……何故か、聞き覚えのある名前だったことを、今の俺は気にしていられなかった。



「君がどこから来たのかはわからないし見当もつかない。

でも、君がここに来たというのは、何かしらの意味で意味のあることだったに違いない。

この世界は少しずつ闇に蝕まれ始めている。

もしかしたら君は……」



 エミリアが俺に向かって手を伸ばす。

 俺は完全に理解した訳じゃないし、納得した訳でもない。

 でも、やらなくちゃいけないことは沢山あるはずだ。

 帰る方法を探すこと、そして何よりも……


「由梨……」


「ん? どうしたんだい?」


「俺を見つけたとき、俺くらいの女の子はいなかったか?」


「いや、いなかったよ……もしかして、一緒に来たのかい?」


「多分、そうだよ……」


 忘れていた訳ではない。

 聞くのが少し……ほんの少しだけ怖かった。

 でも、その不安は的中していた。


 倒れていたのはきっと俺ひとり。

 多分、エミリアがいなかったら不安に押し潰されていたに違いない。


「大丈夫、きっと見つかるさ」


「っ!」


 全てを理解してくれたかのように微笑むエミリア。

 無表情のなかに、少しだけ表れた微笑みだけでも、彼女の優しさは伝わってくる。

 俺は声も出せないまま、頬を伝う温かな何かを感じていた。


 泣いている暇なんてない。

 こうしている間にも、由梨に何か起こるかもしれない。

 どうしようもなく困ってしまった時は、とにかく笑うんだ。

 きっと、未来は明るいのだから。


「おうっ!」


 差し出されたエミリアの手をしっかりと握りしめて立ち上がる。

 もう振り返らずに前を向いて、沢山の笑顔をあげる。

 英語でNever say neverだ!



「さあ、いこうか」


「ああ」



****



「うおぉ……」



 目の前に広がっていたのは……そうだな

 簡単に言えば、海に浮かぶ町だった。

 木の道路と民家の間には太陽──太陽かどうかはわからないが、上には太陽みたいな恒星がある──の光を浴びて水面きらきらと揺らめいている。

 そして頭上には雲がいい感じにある晴天の空。

 都会の薄汚れたものとは違って、空気もおいしい。



「ここが私たちの町、ザブウェーニエ」


「ザブウェーニエ」



 俺の知識でこの意味を訳すならば、「忘れ去られた町」だろう。

 ザブウェーニエはロシア語で「忘却」なんて意味がある。

 そう聞こえたということは、この世界の言葉でも同じような意味なのだろう。

 むしろこの単語を知っていた俺を褒めてほしいものだね。


「この町は他の国の記憶からは消えた町」


「消えた?」


「ああ、この町は"秘密"を知っている者が集まり、それを伝承する所。

だからこそ、排他的で鎖国的な場所になっているんだ」


 この町が海に浮かぶ理由。町は多分そこそこ大きい、しかし、船も見当たらなければ、港さえない。

 確かに鎖国的な町だった。


「その秘密って?」


「それはまた後でにしようか、目的地についたからね」


 エミリアが指差した先にあったのはレンガの家。

扉の上には可愛くデフォルメされた文字で「Cafe Eau de Toilette」とかかれた看板があり、ウサギが描かれている。

……一瞬メイド喫茶かと思ってしまった自分を殴りたい。

 でも殴ったら痛いから嫌だな。

 あ、エミリアに殴ってもらえばまたすぐ回復させてもらえるかもって、これじゃ俺がまるで変態じゃないか!


「どうしたんだい、そんなににやけて」


「いや、なんでもないっす」


「そう、それならいいけど……」


 少しジト目なエミリアさんはドアノブに手をかけ、回す。

 キィという音と共に扉が開かれ、そのなかに広がっていた風景は────



「おかえりにゃさいませ!まいはにー!」


 白黒を基調としたフリフリのいわゆる「童貞を殺す服」を着た女の子。

 顔はどこかエミリアに似ているが、エミリアよりは年上な感じがする。

 髪は同じ淡い水色で、肩甲骨あたりまで伸びている。

 頭にはフリルの付いたネコミミカチューシャをつけ、スカートの下からはくるりとした尻尾が伸びている。


 ……メイド喫茶じゃねええええかよおおお!


「何やってんだい姉さん……」


「エミちゃんを待ってたに決まってるでしょう」


「なんでそんなに私に会いたいんだ……」


「そりゃあもう大事な大事なトキメキだもん」


 この台詞からだけじゃわからない情報を教えよう。

 エミリアのお姉さんと思われる人はエミリアを後ろからホールド。

 そしてあろうことかエミリアの胸をまさぐっている。

 それについて言及しないあたり、エミリアは普段から日常的にやられているようだ。


 ちなみに、俺はゆるゆりしたほのぼの姉妹をまじまじと眺めている。

 ほのぼのしてるなぁ……

 いや、邪な気持ちは一切ないよ。

 別に(性的に)可愛いなぁとか、(性的に)触れあってるなぁとか、ひとりで勝手にむんむん萌えてたりしてないから!



「どうしたんだい、そんなににやけて(2回目)」


「いや、なんでもないっす(2回目)」


「あー、はーこの慎ましい感じがたまらんのですよねぇー!」


 と、妹の胸をまさぐっていかにも幸せそうにイっちゃっている姉御さんがこっちに視線を向ける。

 ただしまさぐりはやめない模様。


「あ、どうも」


「ん?弟でもできたの?」


「なんでだよ……」


 さすがにもう、つっこむ気力もなかった。


「これは私の姉のルナリア。見ればわかるね?シスコンだ」


「そう、あたしはルナリアよ。妹は運命の相手が現れるまで誰にも渡さないわ」


「お、俺は悠汰です」


 運命の相手が現れたら離すのかい。

 そんなつっこみが頭に浮かんだものの、やっぱり言う気力は生まれなかった。


 というか、少しずつ変化してきたのはエミリアのほうだった。

 片目をぎゅうっと閉じ、ぷるぷると震えている。

 息づかいも心なしか荒くなっていた。


 いやまて、まだ色々はやい。

 まだお天道様(てんとさま)は俺たちの真上にあるし何よりも、まだお色気シーンを出すにはページが早すぎる!


 ふんふんと吐息を漏らすエミリア。

 それを知ってか知らずにか、ルナリアはまさぐりを止めない。


「ふぁっ……ちょっ、ねえさ…んぁっ !?」


 エミリアの肩がピクッと震え、艶かしい声を発する。

 ダメだ!これ以上は運○さんに怒られてしまう!

脳で考えるよりも先に体が動いてしまった。


「ちょっとまったぁ!」


「うおぅっっ」


 ドスッという音と共に、重力を感じた。

そして顔──特に顎のあたりに妙に柔らかなものがある。

ふにっとしていてもちもちもで、吸い込まれるような感触。

まさか……


「お前……どこを触って……んん……」


「うわぁぁぁ!!ごめんなさいぃっっ!!」


 慌てて退()こうとした俺を、すかさずルナリアさんが抱き締める。


「ふぇっ!?」


「なんだお前……可愛いじゃないかぁ……」


 瞳がハートになり(もちろん比喩である)、息を荒げるルナリアさん。

本能的にヤバイと思ったのだが、案外力が強いもんで抜け出せない。


「いいか、今日からあたしのことお姉ちゃんって呼ぶんだぞ」


「お、お姉ちゃん……」


「んあ~かわいいぃぃ~」


 すりすりと頬を擦り付けてくるルナリアさん……改めルナ姉。

ほっぺ柔らかいな…………っ!

べ、別に変な意味じゃないんだからねっ!

背中に当たってくるふにふにの双丘とか、全然気になんないから!


いやまあ、こうしてルナ姉と出会った。

そして、シスコン∪ブラコン誕生瞬間である。



******



「それで、ユータはどこから来たのだ?」


「えっと……地球」


「そうか地球か。知らんな」


「……近いです」


「よいではないか」


 椅子に座って話している……所まではいいのだが、何しろ近い。

 俺はルナ姉に右側から抱きつかれている。

 右肩に当たっているのは相変わらず柔らかいモノ。

 近いせいでそのいい匂いとかが鼻腔を刺激し過ぎて辛い。昇天しそう。


 それから、さっきのこととかの話をし、好きな食べ物とか他愛もない話をして過ごした。

 そして思ったのは、ルナ姉もエミリアもとってもいい人だということだ。

 ……ルナ姉は少しやばいところあるが。



「もう日が暮れるね」


黄昏時(トワイライト)か……今日は何も無いといいが」


「そうだね」



 太陽は水平線にかかり、反対側の空は闇に染まり始めている。

 ルナ姉の言葉から、いつも何かあるらしいが、さっきの雑談では何も話されていない。

 ただ、ふたりの顔が……特にルナ姉が神妙な面持ちをしたので、いいことではないのだなと思う。


「まあ、帰ろうか」


「そうだな、ではふたりとも行くぞ」


「えっ!?俺もですか!?」


「何か問題があるか?」


「いや、だって、俺はルナ姉たちとは赤の他人なわけで……」


「何を言っている。ユータは私の弟ではないか。可愛い弟を見捨てるわけが無かろう」


 何この人かっこいい。マジで濡れるわ。

 少し妹に対しての愛が重いだけで、この人は凄い人なんだなと思う今日この頃。


「さあ、帰るぞ」


「はい!」


 この後滅茶苦茶手を繋いで帰った。


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