贈り物の《スプーン》
普段からの感謝&みんなからのプレゼントのお礼として、贈り物の《スプーン》を用意してから、渡す日を今か今かと待っていた私。
全員とのお出掛けを終えた今、まさに絶好のチャンス!!
今日のお昼ご飯は私が一人で作ります!!
と、勢いよく挙手&宣言し、台所に立つ私。
グレンからの【手伝うか?】や、アルドからの【一人で大丈夫か?】発言や、立ったり座ったりと落ち着きのないウェインの様子や、本を逆さにしているトルーノが気になるけども、集中集中!!
皆に贈りたい《スプーン》を使う食べ物で、老若男女問わず大好きなあの逸品!!
【カレーライス】
を作ります!!
ご飯の炊き方はグレンに教わってるので、難なくクリア。
出来上がりに時間がかかってしまうけど、お昼にはまだまだ時間があるし、大丈夫!なはず!!
時間があるとはいっても、スパイスの調合とか、試行錯誤なんてしてる時間は無いので、今回は私の世界から持ってきた《カレールー》を使って作る事に。
ひき肉タップリのキーマカレーや、あっさりしっとりのチキンカレーも良いけど、今回は大き目のゴロゴロお肉を使って、甘い脂身も美味しいポークカレーならぬ、オークカレーに決定!
お肉の焼ける匂いに涎が出そうになるけど、我慢!
野菜の具は小さめにするのが、私流。
皆、初めての匂いがするからか、ソワソワしてるのが背後で感じられて、少し焦るけど、煮込みは出来る限りじっくりと。
その間に、カレーとの相性抜群、ポテトサラダも作ります。
お味噌汁も出来たし、完成!!
ウェインのお腹の音も丁度聞こえて来たし、ギリギリセーフ!!
ご飯は出来上がってるし、スプーンは一本ずつ、洗ってリボンを結んでプレゼントらしくしてみたんだけど・・・。
皆が喜んでくれるか、今頃になって不安になってきた。
皆にとって、スプーンは今まで使って無かったものだからね。
不要だったものだからね・・・。
いやいやいや、大丈夫だ。
皆は優しいから、別に必要じゃなくても喜んでくれるだろうし、そこそこ使ってくれるはず。
多分。
あーーーーーーーー。
なんだか、どんどんドキドキしてきた。
ちゃんと渡せるかな?
一人、鍋の前でうんうんと唸りながら悩んでいると
「カ、カナー?出来たのかー?あ、いや、まだまだ待てるんだけどよ!良い匂いしてるしよぉ、そろそろかもと思ってな。どうだ~?」
と、急かしているのではない、と必死にアピールしながら、チラチラとこちらを窺うウェインが大型犬に見えるのは私だけじゃないと思う。
頭をワッシャワッシャと撫でてあげたい思いに駆られるが、スキンヘッドだからツルツルなのよね・・・。
ツルツルの頭を撫でられるのってどんな気分なのかな?
今度、やってみようかな?
流石のウェインも怒るかな?
なんて考えてると
「邪魔すんなよ。飯抜きになんぞ。お前だけ。」
と、ウェインを揶揄うグレン。
「落ち着け。カナちゃんは全員分、平等に盛ってくれるから大丈夫だ。大人しく座ってろ。」
と、グレンの言葉で落ち着きを失くしたウェインに声をかけるアルド。
「逸る気持ちは分かるけどな。おひぃさんのペースがあんだ。急かすな。」
と、ウェインを一喝するトルーノ。
皆からお小言を貰ってシュンとするウェインは小声で
「カナ、邪魔してごめん・・・。」
と謝罪して項垂れながら着席。
何だか背中が小さく見える!!
可哀想になってきた!ウェイン!
これ、渡せるかどうかなんて悩んでる場合じゃないよね!
渡そう!カレーは出来てるし!ご飯炊けてるし!
よし、行こう!女は度胸だ!!
「大丈夫だよ!丁度、出来た所だから!待たせてごめんね?ウェイン!運ぶの手伝ってくれる?」
と、落ち込んでいるウェインにお願いすると
「おう!」
と、食い気味に立ち上がったウェイン。
いそいそとこちらにやって来て、お盆の上に乗ったポテトサラダとお味噌汁を運んでくれた。
ウェインに声をかけると同時に、他の皆も読んでた本やら、広げてた謎の物体やら、そろばんもどきを仕舞い込み、此方へ。
カレーを盛り付けて、渡してみると、鼻を動かしながら、
【うおおおおお!初めての匂い!】
と、大盛り上がり。
そして、皆で席について、食べる直前。
ここからが、私にとっての大一番!
「あのね、ご飯の前に、私から渡したい物があるの。その、いつもお世話になっているお礼と言うか、お出かけに連れて行ってもらったお礼というか、何と言いますか、感謝の気持ちというか、その、皆でお揃いの物が欲しいなぁ。なんて思いまして、それでですね・・・・。」
うがああああああ!!!
なんだか恥ずかしくなってきた!!
手に持った《スプーン》がやけに重く感じるんですけど!
しかも、皆、口を開けて、リアルにポカーンって感じの顔してて、誰も何も言わないし《スプーン》を凝視してるしで、もう、何というか一人で脳内パニック!!
そんな空気の中、
「お、おひぃさん、それ、その、手に持ってる奴、俺、いや、俺たちに?俺たちにか?」
と、目をくりくりパチパチと動かすトルーノ。
「カナちゃんが、俺たちに買ってくれたのか?俺の、選んでくれたのか?」
と、何度も確かめるアルド。
「ん?ん?カナが?俺に?くれんの?それ?俺に?」
と、ハテナマークが頭をブンブン高速回転してそうなウェイン。
「それ、この前の・・・・。真剣に選んでたやつじゃねぇか・・・。5本も買うなんて変だとは思ったんだよなぁ。俺たちのか、あー、くそう、やられた。」
と、顔を覆うグレン。
「皆でお揃いが欲しいなと思って、スプーンは持ってないみたいだから選んだんだけど・・・。使いにくかったらごめんね。えっと、ウェインが《オレンジ》でグレンが《青》でアルドが《黒》でトルーノが《緑》で、私が《白》。5本、5人でお揃いのスプーン、です・・・。どうぞ・・・。」
兎に角、全員に色を説明して、一人一人の手にスプーンを渡していく。
皆、受け取る瞬間にビクッとするのは驚いてるからだよね?
嫌がってるとか無いよね?大丈夫よね?
なんて心配していると、突然
【う、うおおおおおおおおおおー!!!!!】
全員で絶叫。
驚く私。
更に
「るっせーぞ!!!」
なんて隣からの壁ドン付き。
それでも、治まることなく口々に言葉にならない言葉を喋っているオッサン達。
あれ?
もしかして、この世界での別言語だったりする?
オッサン同士は頷いたりしてて、通じてるみたいなんだけど。私も混ざりたい。
何を言ってるか良く分からないけど、テンション高いし、お互いのスプーンを褒め合う様な動作をしてるから、多分、喜んでもらえたんだよね?
そう考えたら、安堵のため息が漏れた。
自分でも想像以上に緊張していたらしい。
緊張したし、悩んだけど、買って良かった。贈って良かった。
【喜んでもらえて嬉しい。】
胸いっぱいに暖かい空気が満たされてる感じで、ホワホワしていた。
良く分からない言語を聞きつつ、ホワホワした頭で、皆が落ち着くのを待とうと考えたけど、
突然、オッサン達が号泣し始めた。
ウン、私がお嫁に行く?
嫁に行く事になってしまった私との、最後の晩餐?
花婿抹殺計画?
ウン、取りあえず、現実に戻っておいで。
スプーン1本でそこまで妄想が進むとか、凄いなオッサン達。
大丈夫、カナさんは皆と一緒がいいよ~。
カナさん、ずっと一緒にいるよ~。
だから、現実に戻って来て。
出来るだけ早く。
なかなか皆が現実に戻ってこないので、カレーが冷める事を強調して、強制的に食事の時間にした。
「皆!カレー冷めちゃうから!喜んでくれるのは嬉しいけど、食べてからにしよう!私も皆とのお揃いで嬉しいから、後でお話に混ぜて!!お揃いのスプーンで食べれるように、今日はカレーにしたんだから!!」
と、お皿を掲げると、ハッとした様な表情で、それぞれのお皿に向き合うオッサン達。
「カナ、スプーンありがとう!!すげぇ嬉しい!!いただきます!」
「カナ嬢、あんがとな。嬉しいわ。大切にする。いただきます。」
「カナちゃん、俺達の為に、わざわざ選んでくれてありがとうな。今までで一番、嬉しい贈り物だ。本当にありがとう。いただきます。」
「おひぃさん、有り難く使わせてもらう。いただきます。」
皆は、それぞれの思いを口にしてから、カレーを口に運んだ。
「うめぇぇぇぇぇ!!!嬉しいし、美味ぇし、俺、今日が命日じゃねぇのか!?大丈夫か!?俺!?」
と満面の笑顔で食べるウェイン。
他の皆は
【・・・・。】
ん?あれ?思ってたのと反応が違うんだけども?
「あー、なんだ、その、思ってたよりも、辛ぇのな・・・?」
と、スプーンを甘噛みしてるグレン
ん?辛い?
え?そんなに?
あれっ????
私、中辛で作ったはずなんだけども??
まさか、、、、、
「グレン達、辛いの苦手だった!?」
「ん・・・・。ちっとだけ、な。食えるから、大丈夫だ。次はもう少し甘めに頼む。」
と、苦笑いのトルーノ。
そして、無言で動かなくなったアルド。
いやいやいや!!!!
ダメでしょ!!
アルドさん、食べれないでしょ、根性とか言ってるけど、無理でしょ、そんなの!
「あー、アルドは甘党だったっけか・・・。」
って、豆板醤買う時点で教えてくださいよ!ウェインさーん!!!!!!!
「ちょ、ちょっとだけ食べるの待って!!他の具材入れて、マイルドにしてみるから!!」
と、オッサン達のお皿を取り上げて、カレールーだけ小鍋に移す。
林檎と蜂蜜を追加して、焼いたコーン、ひき肉、角切りのジャガイモ、チーズなんかも混ぜて、上には半熟の目玉焼きを載せて、どうだ!!
【おおおおお!!!美味ぇ!!】
「卵の黄身がまろやかでウメェな!」
「ああ、林檎と蜂蜜の甘みと風味が爽やかでいい。」
「チーズとコーン、良い仕事するな。」
と、なんとか皆笑顔でたべはじめてくれて、ホッと一息。
すると、
「ちょ、ちょ、俺も!俺もそっちが良い!!辛ぇのも美味ぇけどよ!そっちの方が、なんか豪華になってる!カナ!俺のも!豪華なやつにしてくれ!!」
とのお言葉をウェインよりいただきましたので、ウェインのも他の皆と同じ仕様の甘めの豪華版カレーに変更。
辛さは減ったけど、ウェインも大満足らしく、本当に良かった。
まさか、オッサン達が辛いの苦手だったなんて、思いもしなかったから、正直驚いた。
カレールーの中辛って、そんなに辛くないよね?
甘いすき焼きも大好評だったし、割とお子様舌なのかもしれない。
兎に角、次回のカレーは甘めに。
辛い物を作る時は、味見してもらう事。
これは忘れない様に脳内にメモしておこう。
そんなこんなで、いつもの様に、大量のおかわりを終え、すっかり綺麗になった鍋を洗おうとすると、俺たちがやるから。
と、休むように言われたので、お言葉に甘えることにした。
一人で自力で料理するのって、大変な事なんだと、改めて気づいた。
いつもはグレンやアルドが手伝ってくれるから、さっさっさ、ちょいちょいちょいで終わるけど、一人だと全然思ったように進まない。
大男4人分+私の分なのが大変なのもそうだけど、素材を切るだけでも時間がかかるし、正直、炒めるだけでも腕が痛い。
何回魔法を使ってやろうと思った事か。
今後、私一人で作るのは時間と体力に余裕がある時だけにしようと思います。
その後、洗い物を終えた皆と色々お話をした。
御夕飯はウェインとの約束で豆板醤炒めも作るけど、他の物も作るから安心して!と力説してみたり、
夜には今日買ってきた服のファッションショーをしたいことを告げた。
この世界で浮く様な着こなしだったらマズイからね。
皆にチェックしてもらわないと。
と言ったら、ソワソワしだしたオッサン達が、なんだか可愛い。
トルーノなんて、今から着替え用の布を貼ろうとしてるけど、早い早い。
夕飯の後の話だから。
今、布貼ったら、夕飯時にキッチン使えないからね。
なんて、皆で笑いながら午後はまったりしようとか話してた。
皆、笑顔で話しながら、何時までも私の贈ったスプーンを磨いてるのが、凄く嬉しかった。
次は、またスプーンを使うプリンを作りたいと思う。