アルドの考え。
グレンとカナちゃんを見送り、トルーノと風呂に入りながら、さっきの事を思い出す。
カナちゃんの髪を交代で拭ってやった。
風呂上がりのカナちゃんは凄く可愛かった。
なんていえばいいのか、直視できない位だった。
咄嗟に頭を拭いてやる事にしたのは、我ながら良い判断だったと思う。
あんな顔、見てられねぇ。
カナちゃんと出会ってから、ドキドキする事の連続だ。
後から来たウェインやグレンは
【頭を拭いてやってるなら、俺も!独り占めは狡い!】
とかいう感情だっただろうから、カナちゃんの顔まで覗き込んでねぇし、俺とトルーノしか見てなかったのは幸運だったと思う。
あの馬鹿コンビだったら、照れたり意識したりして、面倒な事になってたに違いねぇ。
髪の毛が濡れて、火照った顔をしている女の子があんなに破壊力のあるもんだとは思わなかった。
同じ石鹸を使ってんのに、髪も良い匂いがするし。
今まで布で拭った後しか見てなかったから、尚更だ。
あんなもん、他の人間に見せるもんじゃない。
風呂に連れて行かなくて正解だ。
風呂の時間を決めに行った時にカウンターで聞いた、
【女の子が入った後に入りてぇ】だとか【女の子は入ったのか?】とか、カウンターに聞きに来たらしい奴らに感謝だな。
あの気持ち悪ぃ奴らのおかげで、
俺達だけでカナちゃんのあの表情を独占出来た。
その気持ち悪ぃ発言の奴らも、
《女の子=女神》とかいう発言だとか、
《女の子の入った風呂=女神がお使いになった聖水》
とか言ってたらしいしな・・・。
女に近寄れない男共の、なれの果てだと思うと涙が出そうだった。
が、俺達のカナちゃんをそんな目で見た時点でブラックリスト入りだ。
トルーノと2人で、そんな気持ち悪い発言をした相手を聞き出そうとしたが、カウンターの野郎は口を割らなかった。
力ずくも考えたが、ここを追い出される可能性もある。
ここ以外にキッチン付きで5人も入れる宿が見つかるか分からねぇ。
街中でカナちゃんに野宿させるわけにもいかねぇし、俺達がつきっきりで護ればいいと思った。
そこで、トルーノと相談して、宿の連中を最大限に警戒する事と、宿の風呂には入れない事を決めた。
勿論、今後は宿で聞こえてくる会話にも耳を凝らす事に決めた。
カウンターの野郎に【俺の服を洗うから新しい桶をよこせ】と脅して、カナちゃんが入れそうな大きさの桶と手桶の2つをもぎ取った。
んで、部屋に戻ったんだが、俺がカナちゃんになんて言えばいいのか考えてる間に、トルーノが正直に話しちまった。
気持ち悪ぃ発言をそのまま。
俺としても、警戒して欲しいから告げるつもりではあったが、
もう少し別の言い方に変えて、無駄に怖がらないようにするつもりだった。
下手すれば、カナちゃんが男嫌いになるかもしんねぇっつーのによぉ。
トルーノは、カナちゃんに《真実を受け入れろ》《困難に立ち向かえ》みてぇな、スパルタな所がある。
解体した時に【出来ないからと諦めるな】と真剣な顔で言ったのも、
まるで、親父が子供に様々な事を教えてるみてぇだ。
まあ、真実をそのまま告げたおかげで、カナちゃんは周囲の警戒を更に強くしたみてぇだし、俺達への信用も高まったから良しとする。
それと、俺達への依存も強くなったみてぇで上々だ。
俺達はまだ、カナちゃんにとっての父親や兄のような存在でいい。
トルーノ自身は、父親の様に接してる。
ウェイン自身は、兄の様に接してる。
グレン自身も、兄貴の様に接してる。
ちなみに、俺は父親のつもりで接してる。
まあ、カナちゃんへの対応的には母親寄りの父親だけどな。
それでいい。
それでいいんだ、今は。
今は、な・・・。
そんで、このまま家族の様な絆を築いていって、俺達から離れられなくなればいい。
最初は、カナちゃんに言っていた様に、カナちゃんが気に入った良さげな奴らがいたら、俺達は身を引こうと考えていた。
が、今はそんな気は更々ない。
カナちゃんが優しい子だと分かって、俺達の内面を見てくれる子だと分かって、異世界で一人ぼっちな子だと知って、手放せなくなった。
俺達を大切だと思ってくれている事が分かってからは、
手放すなんて有り得ねぇ。
どうしたら俺達の傍にずっといてくれんのか。
そればっかりだ。
んで、俺なりに考えた。
その結果、俺達に依存させればいいと思った。
カナちゃんにとって、この世界の中心が俺達4人とカナちゃんの5人であるように。
その4人の誰か一人がカナちゃんに選ばれても恨みっこなしだ。
その時は父親でも兄貴にでもなってやる。
ずっと俺達4人で囲う様に過ごしていきたい。
他の奴らがどう考えているかは分かんねぇが、俺はこの考えに行きついた。
カナちゃんは今、俺達4人と他人を線引きしている。
他の人間には警戒、最初から疑ってかかっている。
ギルドの女主、パーマ共、更には今回の気持ち悪ぃ発言の奴らには感謝だ。
あいつらのおかげで、カナちゃんは人間を疑い、警戒する事を覚え、学んでる。
俺達はその前、無防備な状態のカナちゃんに優しく接したから、線引きの内側にいる。
変な人間に会うたびに、俺達への信頼と依存が強くなっていく。
有り難い事だ。
嫌な奴だとか、腹黒だとか、んな事どーでも良い。
最悪、俺はカナちゃんに選んでもらえなくても良い。
ウェインかグレンかトルーノを選んでくれりゃ良い。
カナちゃんが幸せに生きられるかどうか、見届けられればいい。
父親や兄貴に納まってでも、傍にいられりゃいい。
勿論、俺を選んでくれる方が嬉しい。
一番は4人全員を選んでくれる事なんだがな。
カナちゃんの世界では一夫一妻らしいし、カナちゃんの中の常識を壊さないと難しいだろうな。
この辺も今後は考えていかねぇとなぁ・・・。
照らし合わせてはいねぇが、他の奴らも大体は同じ考えだろう。
カナちゃんを4人で囲む。
誰も反対はしねぇはずだ。
全員、今の段階では、お互いを出し抜くことは考えてねぇ。
まず、カナちゃんが傍にいる事を最優先にしてる。
気まずくならないように、変に警戒されないように。
これからも地道にコツコツと信頼を得ていこうと思う。
今までは【女とまともに話をする事】自体が無かった訳だし、
俺らが【恋する】なんて有り得なかったし、思ってもみなかった事だからな。
傍から見てるとそれぞれの性格が出てて面白れぇ。
ウェインは恋心に戸惑ってるせいか、時々赤面してたり、大型犬みてぇなアピールしてたり。
トルーノは父親の様な責任感と、女として見てる愛情、半々ぐらいで表現。
グレンは完全に【自分たちの女】という感じなのか、割と分かりやすくアピール。
んで、俺は・・・・。
どうなんだ?
他の奴らほどアピール出来て無くないか?
母親ポジションなのがツライよな・・・。
いや、しかしな。
俺以外の誰が母親役をやるんだ?
誰がカナちゃんの事を気にかけるんだ?
・・・・・。
いやいやいや、俺がやるしかねぇだろ。
他の奴らには、ちっとばかし、荷が重いよな。
トイレの声かけとかな。
まあ、しょうがねぇ。
俺は暫くはカナちゃんの母親役に専念しよう。
そうと決まれば、今から行く場所も嫌とは言ってられねぇな。
恥ずかしくてしょうがねぇが、時間がない。
やるしかない。
頑張れ、俺!
明日はウェイン、その次の日は俺がカナちゃんとデートだ。
それまでには!!
と、自分を奮い立たせ、気合を入れて 俺はとある場所へ向かう事にする。
カナちゃんとの明るい未来の為に、頑張るぜ!!
____________________
グレンとのお買い物が終わって、皆の元へ戻って参りました!!
「ただいま~!!」
「帰ったぞ。」
2人で部屋に入ると
『おかえり!!』
ウェイン、アルド、トルーノの3人がお出迎えしてくれました。
全員、かなり近づいてきてて、それに驚く私とグレン。
3人は
『2人ともおかえり。グレン、【帰ったぞ】じゃねぇだろ?』
と、ニヤニヤ。
ああ、なるほど。
帰ったぞ。は挨拶ではないものね。
昨日みんなで言ってたもんね。
みんなは《おかえり》って言ってくれたんだもんね。
「みんな、ただいま。グレン、おかえりなさい。」
皆の方にまわって皆と一緒にグレンを見る。
きっと、今の私の顔は皆と同じようにニヤニヤしているだろう。
そんな私を見て、何のことだか分かったらしいグレンはグッと息を呑む様な表情をしてから、
「・・・ただいま。」
と、頬を赤く染めながら横を向いて呟いた。
すると、皆は
「おおー!おかえり!」
「照れんな、照れんな。」
「やっと言ったか。」
と、揶揄うような言葉をかける。
すると、恥ずかしさが限界点を突破したらしいグレンが
「るっせー!!ただいまっつったろ!!帰った!!ただいま!!これでも文句あっかコラァ!!これ以上言うなら、今日のカナ嬢とのデートの話してやんねーかんな!!次におめぇらが帰ったら言ってやっかんな!!《おかえりー!おかえりー!》ってよ!!覚えとけ!!」
と、ドスドスと部屋の中に入っていってしまった。
それと同時に、私達は全員、ピシリと固まって動かなくなった。
私の脳内は爆発寸前。
うおおおおおおおおお!!!
だからさー!!
なんで【デート】とかサラッと言えちゃうの!?
グレンさん、実はタラシ野郎ですか??
何人もの女性を落としてきた百戦錬磨の達人さんでござるか!?
拙者、赤面どころじゃなくて爆発寸前でござるよ!?
女性と話したことないとか言ってたけど、実は・・・。
なんてことがあるのでは!?
まさかの疑惑発覚ですぞ!?
・・・・・。
どうなの??
本当の所はどうなんだろう??
ちょっと、ちょっとさ、、、ショックなんだけど・・・。
グレンだけじゃなくて、他のみんなも凄く優しいし、女性に慣れてる気もする・・・。
手を引いてくれたり、私を優先に考えてくれるところなんかも・・・。
他の女の人で慣れてたとか・・・??
って、いかん!!
私は何を考えているんだ!!
皆の言ってる事を疑うなんて!!
皆は女性と話した事はほぼ無いって言ってるし、モテたことないって言ってるし、酷い事も言われたって言ってるし、それを信じるんだ!!
・・・。
いや、あの言葉の数々は酷すぎだから、やんわりとだけ覚えておこう。
涙が出そうになるもんね。
うん。
どっちにしても、皆が私に優しくしてくれることも、護ってくれてる事も事実なんだから、それを信じるだけだよね。
うん、それでいい。
よし、この件はコレで終了!!
そう思った直後、
『悪かった!すまん!謝る!だから勘弁してくれ!!』
と、皆がグレンに謝罪する声で現実に戻された。
皆に謝罪されても、グレンは未だに【フンッ】と言ってそっぽを向いている。
怒ってるというよりも、拗ねてる感じなのが可愛いよ。
本当に横を向いて【フンッ】って言っちゃうオッサン、激カワですよ。
しかも、その周囲で必死にご機嫌取りしてるオッサン達もこれまた可愛い。
【少し揶揄っただけだって!!んなに怒んなよ!?】
【すまん。ふざけ過ぎた。な?このとーり。許してくれ。】
【悪い。反省してる。】
って謝ってる姿も可愛いよ。
って違う、そんなこと考えてる場合じゃない。
これは私も謝るべきだろうか?
私も揶揄ったしね・・・。
よし、謝ろう。
「その、グレン・・・。私も揶揄ってごめんね。グレンに《ただいま》って言って欲しくてつい揶揄っちゃいました。ごめんね。」
私が謝ると、他のみんなも改めて謝罪した。
すると、グレンは一人でへそを曲げてるのが馬鹿馬鹿しくなったのか
「・・・おう、まあ、俺がちゃんと言わなかったのも悪かったし・・・。カナ嬢におかえりって言ってもらえたし、もう良い。もういい、もう良いから飯にしようぜ?腹減った!!飯だ飯!!カナ嬢!!手伝ってくれ!!」
と、荷物を降ろして台所へ向かうグレン。
皆は
【おおー!腹減った!】
【ああ、飯にしよう。俺も手伝う。】
【そういや腹減ったな。助かる。】
と、それぞれグレンに声をかけた。
それに対してグレンは返事の代わりに手を上げた。
その様子にオッサン達はホッとした表情でそれぞれの作業に戻った。
私はアルドと一緒にグレンのいるキッチンへ向かう。
手を洗いながらグレンの顔を見てみたけど、もう怒ってないみたいで一安心。
お米を研ぎながら鼻歌まで歌ってる。
そんなグレンとアルドと一緒に今日も美味しい夕飯作りの開始!
今日は《すき焼き》です。
皆で囲む鍋、やってみたかったんだよね。
ではでは、レッツクッキングー!!
出来上がりました!!
少し甘めの匂いの中で煮える白菜とえのき、お肉にネギ。
う~ん。
やっぱり豆腐やこんにゃくも欲しいな。
今度作ってみようかな・・・。
アルド辺りに相談して試行錯誤すれば何とかなりそうな気がする。
よし、今度相談してみよう。
そう考えながら、ぐつぐつと煮える鍋を机の真ん中に置いて、それぞれのお皿に生卵を割ってあげる。
〆のうどんは簡単に説明しただけで
ウェインとトルーノが作ってくれたので、それも楽しみ!
ウェインが捏ねる横で
【テーブル割るつもりか!?捏ねろ!!ぶっ叩くな!!】
とトルーノからの指導が入っていて、見てて面白かった。
アルドとグレンも大量のお肉を薄切りにしながら笑ってたもんね。
さてさて、用意も出来た所で、みんなで一緒に《いただきます》
と、声には出しましたが、誰も動かず。
私を凝視。
生卵に浸して食べる習慣がないのか、皆は私の動きを恐る恐る観察している感じ。
そんな視線の中、私は卵を掻き混ぜてお肉を浸して大きな一口で、いただきまーす!!
ん~!!うまうま!!
これだよ!!
柔らかくて少し野性的な風味のお肉と甘い割り下と卵のまろやかさのコラボ!!
シャキシャキ瑞々しい白菜も最高だぜ!!
ご飯もモグモグ!!
そんな私の様子を見て、オッサン達の目も輝きだす。
ウェインなんて唾をのむ音がこっちにまで聞こえてくるくらい。
オッサン達は直ぐに卵を解して、お肉をちょんちょんと少しだけ卵に付ける。
まだ完全に浸す勇気は無いらしい。
まずは様子見でしょうか?
さて、口に入れた感想は・・・・?
『ハフ、ハフ、ふまー!!』
うん、熱かったのね。
でも美味しかったのね。
うんうん。
良かった。
喜んでもらえて良かったよ。
でもね、ウェインとグレン、お肉を何枚も重ねて取ろうとしないでちょうだい。
まだ煮てない分が沢山あるから、次も直ぐに煮るから、他の人にも分けて。
トルーノ、えのき気に入ったの?
そう、気に入ったのは良いんだけど、大量のえのきを素麺みたいに啜るのはちょっと止めてほしいかなぁ。
アルド、ウェインとグレンの隙をついて、私のお皿にお肉取ってくれるとか。
このお気遣い紳士め!!
でも、貴方もちゃんと食べてください!!
自分の器に白菜しか入ってないじゃないのさ!!
そんな感じに皆でわいわいと騒ぎながら、食べるお鍋は大変美味しゅうございました。
うどんもトルーノが綺麗に伸ばして、アルドが均一に切ってくれて、グレンが手早く茹でてくれて、モチモチでとても美味しかった。
正直、この人達、うどん屋さんで生きていけるんじゃない?
ってレベルだったよ。
なので、また今度 うどんを作ってくれるようにお願いしてみた。
皆もノリノリで了承してくれて【誰のが一番おいしく出来るか競おうぜ!】なんて話も出て、楽しく食事を終えた。
後片付けは【お手伝いしたい!】のウェインを筆頭に【今日はほぼ、何もしてないからな】とトルーノが。
一緒に洗い物やらお皿拭きなんかをしてくれました。
お鍋とか大きいから本当に助かります。
後片付けを終えて、皆に後ろを向いてもらって着替えやら歯磨きを済ませて寝る準備を終えた頃、グレンから声をかけられた。
「カナ嬢。今日買ったもん、鞄に移しとけ。うら。」
と、自分の鞄から次々にベットの上に出してくれるグレン。
「ああ!持ってもらってたの忘れてた!お金、いくらだった?忘れないうちに支払いたいんだけど、今、計算大丈夫?」
と、グレンに聞いてみる。
すると、
「んにゃ。金はいらねーよ。他の奴らも色々買ってんだろ?俺だけ出さねーのは無しだ。それに、この前も言ったろ?俺は貯め込むタイプの男だからな。こんなん屁でもねぇよ。家買えるぐれぇには金持ってるからな。冒険者になった祝い品だとでも思って受け取っとけ。実際、旅に必要なもんばっか買ったしな。」
と、ニカッと笑って見せるグレン。
家が買えるくらいの金持ちって・・・。
凄い。こっちの家の値段は分からないけども、本当に長く貯金してるんだ。
すごいよ。尊敬する。
それにしても、男前が全開ですよ。
もう、これでもかと。
しかし、待ってほしい。
メリルに口喧嘩で勝った時に【色々買ってやる】と言われたのを断ったのに、こんなに色々と買ってもらってる自分はどうなんだ?
トルーノには櫛や手ぬぐい等を買ってもらっている。
ウェインには口布を買ってもらっている。
なのに、更にグレンにまで大量の旅の必需品を購入してもらうのはどうなんだ?
これじゃあ、私が嫌がってたメリルと一緒じゃないの?
そう考えて返事をしかねていると、勘の鋭いウェインは気付いたのだろう。
「カナ!受け取れよ!俺達が贈ったのは、さっきグレンが言った《冒険者になった祝い品》だ!あの、なんだっけ、メババ?マエバ?ほら、この前の女。あれとカナが違う事、俺達はちゃんと分かってるかんな!これはあれだ、祝い品で、んーと、んーと・・・」
と、唸りながらも必死に言葉にしてくれた。
ウェインの話を聞いたアルドも
「うん。あの女とカナちゃんは違う。こいつらは好意や、一緒に出掛けた嬉しさでプレゼントしてるんだからな。カナちゃんはあの女と違って自分から欲してもいないし、強要もしてねぇだろ?全然違う。ちなみに、俺も初めてのお出かけでは何個か買ってあげたいものがあるからな。受け取ってもらえねぇと困るなぁ。」
と、困り顔のアルド。
「人に物をねだるのは良くないが、贈られた物は別だろう?【贈り物の為に頑張る】のは駄目だと思うが、他人が評価して贈る品は構わないんじゃないか?そんなに深く考えるな。おひぃさんが完全に間違えた考えをした時は俺達が訂正してやる。それに、俺の贈り物もウェインの贈り物もグレンの贈り物も、これから贈られるアルドの品も【2人で出かけた記念品】だ。今回は特別だ。受け取っておけ。贈り物を返されるのは悲しい。男としても辛い。」
と、諭すようなトルーノ。
それらを聞いたグレンも
「それで悩んでたのか。んだよ、俺の贈り物だけ嫌なのかと思って焦ったぜ。あのな、カナ嬢。あれとお前を一緒にすんなよ。あの時の礼は知識や肉体労働で返すって言ったろ?これは俺からの冒険者になった祝い品だ。あの件とは別だ。今回は初めてのデートだから特別だ。今後は物を買い与えるなんて早々ねぇと思うぞ。それともなんだ?あの店に【贈り物を受け取ってもらえなかったから】って俺に返しに行けってか?」
と、眉を下げて悲しそうな顔をするグレン。
皆にそんな顔をされて、断れるわけない。
それに、【2人で出かけた記念品】とか【冒険者になった祝い品】と言われては、受け取らないなんて選択肢は無い。
だって、すごく嬉しい。
皆に助けてもらって冒険者になった訳だし、冒険者になったお祝いだと言われれば、嬉しい。
しかも、【2人で出かけた記念品】だなんて。
嬉しいに決まってる。
この品々を見るたびに、お出かけのことを思い出すって事なんだから。
ウェインの口布は明日のお出かけで使うからまだだけど。
アルドのお出かけもまだだけど。
きっと素敵な思い出の品になるに違いない。
私が皆にスプーンを選んだように、私が喜ぶと思って贈ってくれてるのだから、受け取りたい。
よし。
今回だけ、今回だけ皆のお言葉に甘えよう。
初めてのお出かけの記念品だもんね。
「嫌とかじゃないよ!!えっと、皆が言った様にメリルと同じだと思って落ち込んで悩んだんだけど・・・。今回は皆の言葉に甘えて受け取らせてもらうね。嬉しいよ。凄く嬉しい。一緒にお買い物に行った記念品だと思うと、尚更嬉しい。トルーノも、グレンもウェインもアルドもありがとう。トルーノとのお出かけもグレンとのお出かけも楽しかった。ウェインとアルドのお出かけも楽しみにしてる。本当にありがとう!」
お礼と同時に一度頭を下げる。
すると、皆は
『おう!喜んでもらえて良かった!』
と、笑顔で返事をしてくれた。
「俺は明日だからな!ちゃんと口布して行こうな!俺が贈ったやつ!」
と、こちらが嬉しくなるぐらいニコニコ笑顔のウェイン。
「俺は明後日な。ちゃんと考えてあるから、楽しみにしててくれ。」
と、柔らかい笑顔のアルド。
「うん!楽しみにしてる!!」
そう返事をすると、皆は一人ずつ私の頭を撫でて、歯磨きをしに向かった。
その時、最後に頭を撫でてくれたグレンを捕まえて、私は大切な事を伝える。
「グレン、今日は本当にありがとう。凄く楽しかったし、勉強になったよ。贈り物も凄く嬉しい。ありがとう。それでね、1つだけお願いがあるんだけど、私が選んで買ったアレ。あれだけは自分のお金で買いたいの。じゃないと意味がないから。アレだけは支払わせて。」
そう言って、計算しておいたお金を渡す。
皆への贈り物として買ったあのスプーンだけは、自分のお金で買わないと意味がない。
グレンのお金でも神様からのお金でもなく、この世界で冒険者として私が稼いだお金で買わないと意味がない。
私が倒した魔獣は少なかったけど、皆へのスプーンの代金、このお金は間違いなく、私自身が稼いだお金だ。
グレンは不思議そうな顔をしつつも、頷いてお金を受け取り、もう一度頭をぐちゃぐちゃと少し荒く撫でてから、歯磨きに向かった。
受け取ってもらえて良かった、という安堵感と、皆への贈り物であるスプーンを手に入れた喜びで胸がいっぱいになる。
私はウキウキ気分で買ったものを選別しながら自分の鞄の中に仕舞い込んだ。
その後は、ベットに入って、昨日のトルーノとの時と同じように、今日のグレンとのお出かけを皆にお話しする。
どんな物があったとか、こんなものがあって驚いたとか。
皆の話も沢山聞いて、今日も知らず知らずの間に眠りに落ちた。
私は知らなかった。
私が完全に眠りに落ちてから、
昨日はトルーノが、今日はグレンが
どんなところに行って何を買ったのか、私がどんな素振りだったかを他のオッサン達に詳しく追及されている事を。
同じものを買わないように、嫌がる場所には向かわない様に、皆が情報を共有しているという事を。
更に、私が寝た後、かなり疲れた表情になったアルドに
私の為にアルドが頑張っている事の内容を聞いたオッサン達が、アルドを労い、褒め称えている事を。
私は知らないまま、幸せな夢を見ていた。
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今回のお話の後半の、カナちゃんが【メリルと同じじゃないかと悩む】というお話は、
【断ったはずなのに、物を買ってもらっているのですか?】とのご指摘をいただきましたので追加させていただきました。
今回の贈り物は、【メリルとの口喧嘩に勝ったご褒美】ではなく、【初デートの記念品、初デートの為の必需品】としての贈り物です。
無理矢理感があるかもですが、こんな感じで勘弁してくださいm(_ _)m