グレンとのお買い物。
今回のお話は短いです。
すみません。
皆に頭を拭いてもらって、ぼさぼさになった髪を、トルーノに買ってもらった櫛で整えて、準備完了。
今からグレンとのお出かけです!
いつもと同じように、外出時のお約束を復唱して、レッツゴー!!
今回は、ウェインは寝て過ごす。
アルドとトルーノはまずお風呂に入るらしい。
その後はアルドはお出かけ。何だか真剣な表情。
トルーノは昨日購入した本を読む。と、ホクホク顔。
そんな皆に見送られながら、私とグレンは行ってきます!
「うい。」
短い言葉と同時に差し出された左手。
グレンは耳を赤く染めて、こっちをじっと見つめて、私が手を繋ぐのを待ってる状態。
そんなに見つめられると照れるでごんす。
とは思いつつも、
グレンを待たせる訳にはいかない。
恥ずかしがるのも変だろう!
と、気合を入れてからグレンの手を握る。
すると、グレンの方から《フ~》という溜息のような音が聞こえて、グレンの方を見てみると、安堵の表情でこちらを見ていた。
私が中々手を繋がなかったから不思議に思ったのかも。
勝手に照れて申し訳ない。
「うっし。行くぞ。こっちだ。」
と、グレンは手を強く握り直して、私を軽く引く様な形で、私を隠すように半歩前を歩き始めた。
少し強引な感じがグレンらしい。
行き先も告げずに、どんどん歩いていくグレン。
どこに行くんだろう!?
もしかして、昨日約束した時からお出かけの行き先を考えてくれてたのかな!?
何だか嬉しい!ワクワクする!
そして、少し早歩きの状態で歩くこと数分、グングン歩いていたグレンが突然立ち止まり、周囲をキョロキョロと見渡し始めた。
迷子にでもなったのかと思ったら、
「あー。この辺にありそうなんだがな・・・。あ!あの辺で良いか!うし、カナ嬢。あの店に入るぞ。」
そう告げると同時に私の手を引くグレン。
若干、足がもつれたけど、どうにかついていった先にあったのは・・・。
《雑貨屋さん》
店頭には筆やらコップやら様々な物が並んでいる。
何というか、冒険者御用達の雑貨屋さんな感じ。
「旅の用意を見てて思ったけどな、足りてねぇもんがある。買っといた方が良いかんな。俺が見立ててやるから、ここで揃えちまおうぜ。」
と、私の手を引いて店内へ。
「おー。客かー。好きに見て、、、って!!女!?女じゃねぇか!!おい!!マジか!!オレの店に女が来る日が来るなんて、嘘だろ!?」
と、カウンターに伏してたくせに、突然立ち上がり、叫ぶオジサン。
「るせぇ。勝手に見て回る。騒ぐな。黙ってろ。」
グレンはそれだけ言って、一番奥の棚の方に私を連れて移動した。
私は女王様モードに入る準備をしていたんだけど、グレンがきっぱりと言ってくれて助かった。
と、思いながらグレンの後をついて歩いていると、
「ったく、邪魔してんじゃねーよ。折角、2人っきりなのによぉ。他の野郎どもが集まったらどーしてくれんだよ。」
と、グレンはブツブツと文句を言いつつ、奥の棚に到着。
そこに並んでいたのはコップやカトラリー。
反対側にはランプや筆記用具。
紙の束や、小さいランプ等々。
少し離れた所には毛布のようなものまで置いてある。
「ま、商品の質は良さそうだな。」
と、店内を見ていくグレン。
私は店内を見るよりも、さっきグレンが言った
【2人っきりなのに】
という言葉にドキドキしているんですが!!!
どうしたら良いんですか!?
うおおおおおおおお!!
来たよ!!
天然爆弾!!
照れるよ!!
グレンは気付いてなさそうだけど!!
自分で言った言葉の意味なんて気にしてなさそうだけど!!
一人で赤面とか困るよホント!!
と、内心でワタワタと焦りつつ、顔を伏せてグレンの後をついて行く。
すると、
「カナ嬢。コレとコレ、どっちだ?」
と、差し出されたのは銀の食器一式が2セット。
片方はシンプルで小ぶり。
片方は少し豪華な彫刻がしてあり、分厚め。
「んー。小さい方が使いやすいかな。大きくて分厚いの使いにくいから。」
と、答えると
「んじゃ、コッチな。」
と、大きな竹籠の様な物にフォークやナイフを入れていくグレン。
そしてお次はコップを2種類渡される。
当然の様に渡されるので、少し焦る。
私は、旅の前にこういったものは一通り購入してきているのだ。
「グレン、私、コップなんかはもう持ってるよ?フォークやナイフも。」
と、先日購入済みである事を伝えた。
「ああ、知ってる。けどな、カナ嬢が持ってんのは正直、イマイチな品だ。だからな、なるべく丈夫なの選んでやるから、それ買っとけ。長持ちする方が全然良いかんな。」
と、真剣に筆記用具なんかを吟味しているグレン。
「そっか。私があの店で見た時はコレが一番だと思ったんだけど、確かに、グレンが選んでくれたものの方がしっかりしてるかも。ありがとうグレン。コップはこっちが良い。」
グレンに片方のコップを選んで渡す。
「んにゃ、べつに。礼を言われる事じゃねぇよ。俺が勝手に気になっただけだしよ、他に行く場所探せなかったっつーか、俺がしてやれるのこんぐれぇだしよ。」
と、頬をほんのりと赤く染めながら、早口でまくしたて、羽ペンを選び始めたグレン。
先日、一人で買い物に行った時は、そのお店で一番まともなのを買ったつもりだったけど、
こうやってグレンが選んでくれたのを見てみると、全然違う。
素材自体が良い気がする。
きっと私が行った店は全体的にあまり宜しくないお店だったのだろう。
品質が良くないものを長く使うのは難しいので、こうやって丈夫なのを選んでもらえるのは凄く助かる。
しかも、あまりごちゃごちゃしていない、私好みのシンプルな物を候補に挙げてくれるところから、私が普段使っている物の趣味なんかを把握してから連れて来てくれたのだろう。
そのさり気無い優しさが凄く嬉しい。
そう考えている間に、どんどこ竹籠に品物が入っていく。
グレンのお勧めの品なんかも問答無用で放り込まれる。
最新式の小さいランプなんて【うおっ!ちっせぇ!カナ嬢には丁度いいんじゃねぇか?】で購入決定だ。
ちょっと買い過ぎな気もするんだけど、視界にさえ入れない品もあるから、本当に必要な物だけ選んでくれてるんだろう。
流石、余計な物は買わない、節約出来る男、グレンである。
心から尊敬する。
「こんなもんか。カナ嬢、昨日トルーノから聞いたのと同じように格安になったら、あの毛布も買うぞ。安くならねぇなら、こんぐらいで打ち止めだ。他に欲しいもんはあるか?」
と、聞いてくるグレン。
「あ!買いたい物がある!ちょっと待って!あー、っと、出来れば見ないで欲しいんだけど・・・。」
と、お願いしてみる。
皆に、いつものお礼として何か買って行きたいのだ。
このお店なら、値段も手頃だし、良いんじゃないかと思う。
そう考えていると、グレンは何かを勘違いしたらしい。
「そ、そうか!女の子には女の子の買い物があるよな!男に見られたくねぇもんもあるよな!!俺、後ろ向いてっから!好きに選んでくれ!!」
と、何故か赤面&Uターンからの直立不動である。
何を想像したんだろうか?
とても気になるが、あまり時間をかけるのも申し訳ないので、急いで選びましょう!!
コレが良いかなー。
あれが良いかなー。
こっちも良いなぁー。
と悩むこと数分、スプーンを購入することにした。
実は、オッサン達はスプーンを持っていない。
スープなんかの汁物は自分たちで作らないらしいし、飲める系の物は器から直のみらしい。
なので、誰もスプーンを使っているのを見ていない。
これは持ち手に色が付いていて、それぞれの区別もつくし、良いんじゃないだろうか?
ウェインはオレンジ。
太陽の様に明るくて、元気いっぱいなウェインには明るくてお似合いの色だと思う。
グレンには青。
覇気があって、男らしいイメージなので、この色。
アルドには黒。
大人の男性なイメージなので、シックなこの色。
トルーノには緑。
何でか分からないけど、緑を見た瞬間、渋い緑はトルーノの物。そう思った。
ついでに私の分も購入。
皆とお揃いで欲しかったので。
色はあまり種類がなく、消去法で白。
それぞれ、すごく綺麗な色合いで、大満足。
それらの品を持って、お会計の方へ。
グレンに手を引かれ、少し後ろを付いていく形で到着。
「うおおお!!買うのか!?買うのか!?オレの店で買ってくのか!?安くすんぞ!!半額でどうだ!?」
と、食い気味にカウンターから乗り出すオジサン。
「うるせえっつーの。買う。半額な。じゃ、そっちの毛布も買う。あれで良いんだよな?お嬢ちゃん?」
と、安ければ買うと言っていた毛布について問われたので、
女王様モード突入!!
「ええ。こっちも一緒に。コレは私が厳選した物だから、他の物とは別に包んで。当然、支払いはこの人で。」
と、私が選んだスプーンを店員に渡しつつ、グレンに支払わせると発言しておく。
店のオジサンは【喜んで!!急いで包むんで!!】
と、紙に1つずつ包んでくれた。
そんなオジサンを横目にグレンは不思議そう。
自分はあまり使わないスプーンを5本も買うのが不思議らしい。
オジサンが包んで計算している間に
「よっぽど気に入ったんだな。ま、5本もありゃ、5年は使えるからな。気に入ったもんをまとめ買いすんのも納得か。」
と、呟いていた。
オジサンが全部計算して値段を述べた瞬間、
【嘘だろ?計算し直せ。】
グレンは驚愕の表情でそう言った。
オジサンは【この値段だ。】
と言っていたので、そのままお金を払ってもらったが、
「マジでこんなに安く買えるのかよ。どうなってんだ?仕入れ値はいくらなんだよ。」
と、驚きなのか納得がいかないのか、困惑気味のグレン。
戸惑いつつも、買ったものは全部丁寧に仕舞、私の手を引いて店を出るグレン。
店から出た瞬間の、男共のざわめきなんかはもう、慣れたものだ。
【おい!この店から女の子出てきたぞ!】とか
【オッサンが手ぇ繋いでんぞ!!どーなってんだ!?】とか
【ギルドで騒いだ嬢ちゃんだ!オッサンは護衛だ!】とか
【俺もなんか買う!!】
と、騒ぎながら御来店ー。
そして、全力で客引きする店のオジサン。
それを尻目に私とグレンは速攻、その場を後にする。
その後は特に寄り道することもなく、さっき買ったものについて語りながら、グレンに手を引かれながら宿に向かう。
「お買い物、付き合ってくれてありがとうね、グレン。おかげで良いモノが沢山買えたよ。選び方とか、凄く勉強になったし、凄く楽しかった。ありがとう!」
宿に着く前に、2人きりの間にお礼を言っておく。
皆の前で言うのは少し恥ずかしいから。
「おお!カナ嬢が喜んでくれたんなら良かった。どこに行きゃあ良いか分かんなくて不安だったけどよ、楽しかったんなら良かった。また俺と出かけてくれよな。次も良いもん選んでやるからよ。」
と、嬉しそうに、ニッカリと笑うグレン。
やっぱり、どこに連れて行けば良いか、私の為に悩んで、考えてくれてたんだ。
そう考えると、凄く嬉しい。
私とのお出かけの為に、私に喜んでほしくて悩んでくれたって事だもんね。
凄く嬉しいし、有り難い。
大切にしてもらってるなぁ。
そう実感した。
お礼の気持ちを込めた、私からの贈り物も喜んでもらえると嬉しいんだけど。
夕日の中、グレンと手を繋ぎながら、宿へ向かうその数分が、とても優しい時間の様に感じた。
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今回のグレンとのお出かけですが、グレンはトルーノ程、大人な感じではないので、カナちゃんの歩幅に合わせたりだとか、周囲の店を気にしたりとかはありません。
自分の提案に対して【可】【否】で答えてくれという感じ。
なので、割と強引に引っ張っていきます。
カナちゃんは【気が急くほど楽しみにしてくれてるのかな】と、喜んでおります。
ちなみに、贈り物は何するのか悩んだのですが、ちょっと、とある話をブッ込みたいので、スプーンにしました。
トルーノさんの緑は、寝ぼけたカナちゃんが見ちゃった緑が、色として無意識によみがえったため。
何でかはカナちゃんは分かっていません(笑