お風呂パニック。
朝起きたら、既に日が高い お昼でした。
ん~と、なんでだ?
いつもなら、もっと早く起きれるんだけどなぁ?
いつもより疲れてたのかな。
と言うか、いつもなら起きるのが遅くなっても皆が起こしてくれるのに・・・。
どうしたんだろう。
今、お昼って事は朝ごはんはどうしたんだろう?
と言うか、なんで私を起こしてくれなかったの?
そして、なんで皆は挙動不審なの?
【もうこんな時間!?寝過ごした!!ごめんね!!おはよう!!直ぐにご飯・・・・】
【『起きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』】
と全員が絶叫し、隣の部屋から怒号付きの盛大な壁ドンをされた。
そう、起きて声をかけた瞬間から
オッサン達、挙動不審でした。
全員が全員、挙動不審でした。
これ、もしかして私が何かしてしまった系ですか?
何かマズイ寝言でも言ったんだろうか?
それとも、私の寝相が悪くて、ベットから落ちそうになってるのを助けるのが大変だったとか?
いやいや。
確かに昔は和室に布団の生活だったけど、そこまで酷い寝相じゃないでしょ。
・・・・多分。
良く分からないけど、取りあえず声をかけてみよう。
今後の対応は皆の反応を見てからでも遅くないもんね。
「えっと、みんな、お腹空いてるよね?お昼ごはんのリクエストとか・・・・」
と、聞いてみると
『な、な、何でも!大丈夫デス!』
なんて、何とも怪しい、変な返答をしてくるオッサン達。
大丈夫って何ですか?
何でも食べれるから何を作っても良いよって事かい?
それとも、昨日は何もなかったよ!問題ないよ!気にしないで!大丈夫!
って事ですか?
そんな気まずい風な対応をされると、
昨日、何があったのか気になる。とても気になるけど・・・。
聞いたが最後、目も合わせなくなりそうなオッサン達を目の前にすると、怖くて聞けない。
なので、ここは聞かないでおこう。
自分でもビビりだとは思うけど!!
仕方がないよね!!
オッサン達が目も合わせてくれなくなったりしたら、泣ける!!
もしかしたら何かの機会に言ってくれるかもしれないしね。
【お前、寝相悪いんだぜ~(笑)】
みたいにさ。必要なら言ってくれるよ!!
言わないって事は私に聞かせなくて良い事なんだよ!!
と、自分に言い聞かせる。
取りあえず、今はご飯を作りましょう!!
気分を変えてね!!
この雰囲気も何とかしたいからね!!
「ご、ご飯にしよう!ご飯作るよ!!ほら!!ね!みんなも手伝って!!」
気を引き締めるために少し大きな声を出してみる。
すると、皆も覚醒したのか、踏ん切りがついたのか、
『お、おお!そうだな!腹減った!飯にするか!』
と、皆も集合した。
皆で作るなら何が良いかな?
と、考えたのだが、ウェインが挙手した。
「カナ!カナ!俺、ハンバーグ食いてぇ!!デケェのが良い!!」
と、嬉しそうに目を輝かせている。
「じゃあ、ハンバーグにしよう!折角だし、皆で作ろうか。あ、ソースはトマト風味でも良い?」
以前作ったのは照り焼きだったので、トマトソースでも良いか聞いてみると、トマトで良いらしいので、早急に行動!
「飯は炊けてんぞ。ミンチなら任せろ。」
と、お釜を指さし、包丁を構えるグレン。
流石のグレンさんです。
相談するよりも早く動く男。
その行動力、男らしくて素敵です。
「ありがとうグレン!ご飯を炊いててもらえると、おかずを作るだけで良いから凄く助かるよ!お言葉に甘えて、お肉のミンチもお願いして良い?」
と、難しいお肉のミンチはグレンにお願いする。
玉ねぎを剥いてみじん切りにするのはトルーノにお任せ。
レタスとキュウリとトマトを洗って切るのはウェインにお任せ。
マヨネーズを作るのはアルドにお任せ。
私は皆の周りをグルグルと回りながら手や口を出す。
そして、下ごしらえが完了したら、後は・・・・。
「皆でまぜまぜ、こねこねするよ~♪」
と、楽しくなってきた私。
ボウルなんかは無いので、大きな鍋の中に大量の具材を入れていく。
ミンチ肉、卵、玉ねぎ、塩、コショウを入れたシンプルなハンバーグ。
皆で順番にコネコネ。
皆もどんどん楽しくなってきたらしい。
泥団子を作る少年の様に、笑いながらお肉を捏ねていく。
ある程度混ざったら、キッチリ5等分する。
そのうちの一つ、私の分を自分が食べれる大きさにする。
そして、その余った分を他の4つに均一に分ける。
コレで生地はOK。
後は焼くだけ。
皆にそれぞれ自分の分を丸めてもらい、平らにして真ん中を凹ませ、フライパンに並べていく。
そうしてハンバーグを焼いている間に、私は目玉焼きを作る。
ハンバーグは焼き目も大事ですが、中に火を通すのも大変なので、その辺を特に注意。
裏返したら必ず蓋をして弱火。蒸し焼きにするのを忘れずに。
そして、ハンバーグが焼きあがったら、それぞれの丼ぶりに好きにご飯を盛ってもらい、ハンバーグを載せ、ケチャップをかけ、半熟な目玉焼きを上に乗せ、サイドにはレタスやキュウリやトマトを添えて、マヨネーズをかけて、
皆で作った【ロコモコ丼】の完成!!
『おお~!!』
なんて、皆は拍手しながら大袈裟なくらい騒いでる。
喜んでもらえて良かった!!
やっぱり、皆で一緒に作ったりするのも楽しいよね。
今度、お鍋とかしたいなぁ。
なんて思いつつ、皆で一緒に食します。
「うんめぇぇ!!肉汁もじゅわじゅわで~モゴモゴモゴ!!」
と、口いっぱいに頬張るウェイン。
「この卵もトロトロでウメェ。うめぇ。」
と、卵の黄身をハンバーグに絡めて食べるグレン。
「丼ぶり一つで食えるってのも良いなぁ。」
と、丼ものの良さに惹かれるアルド。
「・・・・・美味い。皆で作るのも良いな。」
と、小さく呟きながらも、モグモグと咀嚼を続けるトルーノ。
皆、美味しそうに食べてくれて嬉しい。
トルーノの言うように、皆で料理するのも楽しかったので、近いうちにまた皆で料理したいと思った。
こんな風に色々な事に挑戦しながら、楽しい時間を共有していくのって素敵な事だよね。
これからも皆で一緒に色々な事に挑戦したい。
食後、皿洗いする!!とウェインが手を上げた。
そんな、やる気満々なウェインを見てか
グレンは沢山炊いたご飯の残りをおにぎりにすると言い、
アルドとトルーノは宿の方に私が入るお風呂の時間の交渉に行ってくれた。
元々、夕方や夜は込みそうだから、昼が良いんじゃないかって言ってたんだけど、起きたらすでにこの時間だからね。
2人は急いで交渉に行ってくれたのだ。
ありがたいです。
そして、私はお風呂に入る為の用意を終えて、今はウェインの隣でお皿拭きをしているのですが、
ウェインが可愛い。
ウキウキウキウキと、俺、お手伝いしてる!!
みたいなテンションのウェインに微笑ましくなる。
こんなに嬉しそうに後片付けを手伝ってくれるなんて、良い旦那様になるよね、ウェイン。
日本では、こんなにウキウキとお皿洗いしてくれる男性なんて居ないでしょうに・・・。
グレンも。
綺麗な丸型の大きなおにぎりを、鼻歌交じりで握ってくれる男性なんて珍しいでしょうに。
アルドとトルーノも、わざわざお風呂に入れる時間を調整する為に宿に交渉してくれる男性も貴重でしょうに。
何でこんなにイイ男達が私の目の前に揃っているのか・・・。
そうぼーっと考えていると、部屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは・・・。
大きな桶と小さな手桶を持ったアルドとトルーノだった。
『・・・・・ん?』
私とウェインとグレンの声が揃った。
なんだ?
突然、桶なんか持ってきてどうするの?
「あー、その、カナちゃん。その、なんて言ったらいいか・・・。その、な、風呂なんだが、入れなくなっちまってな。」
と、困り顔なアルド。
「・・・代わりに、新品の、桶を借りてきた。これでも結構な大きさはあるからな、ここに湯を張って、この部屋で入ってもらう。じゃなきゃ、風呂は諦めねぇと・・・。」
と、苦悩顔のトルーノ。
え?
お風呂には入れなくて、ここ、この部屋で桶にお湯を張って入るの?
確かにそこそこ大きい桶だけど、深さも膝くらいまでだし、入れない事は無いけど、子供用のビニールプールに入る感覚じゃない?
いや、不満がある訳じゃないんだけどさ、私の両隣が噴火する直前の山みたいに真っ赤になってるけど、大丈夫?
お風呂に入れるというか、お湯で身体を流せるのは有り難いんだけど、この部屋でやるのが・・・。
と言うか、皆はその大きさの桶じゃ入れなくない?
立ったまま上から流す方式にするの?
難しくない?
と疑問で頭がいっぱいになっていると
「待て。な、なんで、ここでなんだ?なんで桶?」
と、真っ赤になり、キョドキョドと目線を彷徨わせるウェイン。
「確かに、キッチンの排水溝から水が捨てられるけどよ、なんで、ここでカナ嬢が、ふ、風呂に、は、は、入る、、んだよ。」
と、真っ赤になりながらモゴモゴと突っかかりながら話すグレン。
そうだよね。
シンクに排水溝があっても、キッチンと寝室もつながってる部屋なんだから、大きな桶で5人も連続で入ったら、流石に湿気が籠るよね?
しかも、私がここで入ってる間はみんなどうするの?
ドアの前で待機ですか?
それ、廊下を歩く人達から注目の的じゃない?
って感じだし、なんで、どうしてこうなったの?
「え~っと、私的には問題ないんだけど、湿気とか溜まらないかな?お湯は大鍋で沸かして桶に入れて入れば問題は無いよね?でも、昨日はそんな話なかったのに、どうしたんだろうね?急にお風呂が壊れたのかな?」
そう。
昨日、泊まる時にはそんなことは言われなかった。
お風呂の場所なんかは教えてもらったけど。
ちなみに、お手洗いは、職員用の個室をアルド+αが付き添いで来てくれているので問題ない。
ドアの前で待たれるのは恥ずかしいが、背に腹は代えられない。
来てくれた2人はなるべく大きな声で話をしてたりしてくれるし、その時は本当に皆が皆、紳士である。
と、お手洗い事情はこの辺にして、お風呂がなぜ使えないのか、だ。
オッサン達が使うには、この桶じゃ小さいでしょう。
もっと大きいのなかったの?
と考えていると
「あー、、、そのな、、入れないのはカナちゃんだけでな、風呂が壊れたんじゃなくて、その、なんだ。あれだ。う~ん。」
と、悩みだしたアルド。
辛そうだし、無理に話さなくていいよ、と言おうとしたら、トルーノが口を開いた。
「おひぃさんが入った後に入りてぇ奴らがいるらしい。店主に問い合わせがあったそうだ。【女の子は入ったのか?】ってよ、気持ちワリィ。良いか、おひぃさん。この宿では絶対に一人になるなよ?直接本人に危害を加えない、一緒に入りたいなんて言わない。だが、残り湯を使うくらい許されるだろうなんて堂々と発言しやがる屑がいるみてぇだからな。すまんが、この桶を使ってくれ。」
と、顔をゆがめるトルーノ。
え、なにそれ。
笑えない。
普通に気持ち悪いよ。
私が入った後に入りたいとか、それを店主に確認するとか、なにそれ怖い。
私は高速で首を上下に動かす。
『んだそれ!!!』
と、キレたのは前衛コンビ、流石の阿吽の呼吸。
「ごめんな。気持ち悪いよなぁ。こんな話、本当は聞かせたくなかったんだけどな、宿でも気を抜かずに警戒もしてほしい。もし、桶で入るのが嫌なら、いつもと同じ布で拭く方法だけだ。風呂も満足に入らせてやれなくてごめんな。」
と、申し訳なさそうなアルドが頭を撫でてくれた。
「いやいや、アルドやトルーノが悪い訳じゃないし、謝る必要なんてないよ?代案の桶まで持ってきてくれて有り難いよ。むしろ、持ってくるの大変だったでしょう?ごめんね。布で拭くのも限界があるし、皆には申し訳ないんだけど、ここで桶で入れたらいいな。と思ってる。良いかな?」
と、皆にお伺いを立てる。
すると、
「ああ。」
「勿論。」
と言うアルドとトルーノ。
「む、むう。」
「あ~、なあ。」
と、変な返答のウェインとグレン。
やっぱり止めた方がいいかな。
湿気こもるだろうし、キッチンで桶でお風呂に入られるのは嫌なのかもしれない。
そう思い、入らないと言おうとした次の瞬間、アルドとトルーノがウェインとグレンをそれぞれ引っ張り、何やら耳元で話を始めた。
すると、
『分かった。カナ(嬢)!ここで入れ!』
と、ウェインは桶をキッチンに運び、グレンはお湯を沸かし始めた。
2人に突然の心境の変化について行けないんですが、入って良いの?
だとしたら凄く助かるんだけど。
日本人の女の子としては、お風呂に入れないのは中々の苦痛である。
「入って良いの?ありがとう!」
と、お言葉に甘えてお礼を言うと、皆は
『おう!』
と、笑顔を見せてくれた。
本当に、優しいオッサン達が勢ぞろいだよ。
涙が出そうだ。
なんて感激していると、アルドが鞄の中から巨大な布を取り出した。
何をするつもりなのか・・・。
と思えば、キッチンと部屋の境の辺りに、布を張り始めた。
まるで垂れ幕である。
そして一言、
「カナちゃんには悪いんだがな、この布の前で、トルーノに護衛してもらおうと思う。」
って・・・。
えぇぇぇぇぇっ!?
なんで、ちょ、待って!!
全裸でお風呂に入るのに、この布越しにトルーノがいるって事だよね?
ちょ、待って待って!
それは、恥ずかしいなんてもんじゃないよ!!
なんでそうなったんですか、アルドさ~ん!?
「ちょ、まっ、なんでそうなった!?」
と、必死に聞いた。
今の私はサルも驚きの赤面中だろう。
だって、だって、恥ずかしいでしょう!!
と、必死になっていると、
「カナちゃんが嫌がるのも分かる。でもな、もし、もし、な、隣の奴が壁壊して入ってきたらよ・・・。対応出来る奴が一人ぐらいいねぇと困るだろ?あ、俺は扉の前で待機してるからな。何かあったら叫んでくれな。ウェインとグレンにはカナちゃんが風呂に入ってる間は風呂に行かせる。」
と、説明された。
いや、確かに、隣の人が壁をブチ破ってきたらヤバイけども、そんなのかなりの低確率じゃあ・・・。
いやいやいや。
でも、私の使ったお湯を求める様な変態もいるんだ。
気をつけるに越したことはない。
背に腹は代えられない!
恥ずかしいけど、毛穴から血が出そうな程恥ずかしいけど、ここは素直にお願いしよう!
トルーノもそんな役回りは嫌だろうけど、お言葉に甘えて、お願いしよう!
ごめんねトルーノ!!
「その、ごめんね、皆。・・・お願いします。」
と、私は頭を下げた。
『気にしなくていい。』
皆は声を揃えてそう言ってくれた。
が、皆も私と同じように赤面していた。
これ、さっきまでの気まずい空気、再び!って感じじゃない?
昨日の私、何をしたの!?
駄目だ!!聞きたくない!!
そして、やっぱり恥ずかしいよ!!
一枚の大きな布越しに男の人がいるんだよ!?
恥ずかしいぃぃぃぃ!!!!!!
でも、でも、でも、服を着たまま布で身体を拭くのには限界がある。
不潔なのは病気になりやすいともいうし、出来れば、入れるときに入っておきたい。
この街に何日いることになるのかは分からないが、
街にいる間に、出来るだけの予防はしておきたい。
冒険者である以上、今後は野宿も多くなるだろうし、次の街に行けるまで時間がかかるかもしれないし。
なので、皆には申し訳ないとは思うけど、お願いすることにした。
今日の夕飯は豪勢にステーキにでもするからね!!
と、夕飯に気合を入れることを心の中で約束する。
そして・・・・・。
無事に入浴終了です。
本当に温かくて、筋肉もほぐれて、
誠に最高な時間でございました。
いやぁ、疲れも取れて、良かった。良かった。
トルーノに入浴が終わったことを告げると、トルーノがドアの前にいたアルドを呼んだ。
そして、アルドが
「カナちゃん、上がったのか?着替えたか?もう布を取っても平気なのか?」
と、言ってくれたので、大丈夫だと返したのだが、
何度も何度も
【布を取るぞ、取るぞ、本当に取っちゃうぞ?良いのか?大丈夫か?】
と、コントの様に聞き返してきたのが面白かったのだが、実際にアルドが布を取ると
『ブッフゥー!!!!!!』
と、2人は何故か噴出した。
ちょ、唾が飛んで来たよ!?
どうしたの!?
と、思っていると、
「カナちゃん、髪、ちゃんと乾かそうな。」
と、真っ赤な顔をしたアルドが前から頭をタオルで拭ってくれた。
その恐る恐るという感じの手つきになんだか嬉しくなる。
大事にしてもらってる感じと言うか、女の子扱いされてるというか、なんだかくすぐったい気分になる。
そんな風にアルドに甘えて髪を拭ってもらっていると、
いつの間にか部屋を出ていたらしいトルーノが、ウェインとグレンをお風呂から連れ戻してきた。
すると、
次々に選手交代。
私の頭を全員が拭ってくれた。
髪が渇いたころには、なんでか皆は凄く満足気で、笑いあってた。
タオルでゴシゴシと拭ったからか、毛先がボワボワになったけど、心までホカホカとあったまった様な、幸せだと、そう思った瞬間だった。