オッサンパニック!
今回は短めです。すみません。
ようやく、カナが眠った。
いつもなら俺と同じでソッコーで寝んのによ、今日は嬉しそうに、興奮しながら色んな話をしてた。
中々、布団にも入らねぇから、みんなで取り囲むようにして布団まで誘導したくれぇだ。
しかも、その後も目を輝かせながら、他の奴らに話をねだるんだもんなぁ。
カナの楽しそうな顔を見てたら、ついつい話をしちまった俺達も悪いがよ。
夜遅くまで話をしちまったから、明日、寝不足になんなきゃいいが・・・。
ちと不安だな。
冒険者ギルドでの喧嘩で興奮してたのもあったんだろうけどよ、
トルーノとの買い物がよっぽど楽しかったんだろーな。
ずっとトルーノとの買い物の話だった。
何か分かんねぇけど、腹の辺りがムカムカする。
トルーノだけ特別みてぇで、2人だけの思い出があるんだぞって言われてるみてぇで、ムカムカした。
だが、それ以上に、
寂しかった。悲しかった。
俺だって、俺らだって、トルーノと同じくれぇカナが大事なのによ。
トルーノに置いてかれた様な気もして、何とも言えねぇ、ごちゃごちゃした気分だ。
酒なんかほっといて、俺がカナと行けば良かった。
くそう。
なんで俺は酒なんか、、、、
ああ!
でも、俺が買ってきた口布、あれは本気で喜んでくれてたよな!
自分で言うのも何だが、我ながら良い物を買ったと思う。
女に贈り物なんざしたことねぇ俺だが、あれは見た瞬間に
【カナに買ってやろう!】
って思えた。
だから買ったんだけどな、正解だったぜ。
思ってた以上に喜んでくれてよ、生まれて初めて、【買い物して良かった!】って思えた。
今まで、酒や食い物に使うばかりだったからよ、こんなに満足感を得られた買い物は初めてだ。
昔からグレンに【お前は消え物にばっか金を使うよな】って言われててよ、
それの何が悪いんだ?って思ってた。
でもよ、今日の事で、手元に残る物、形に残る物を買うのも良いなって思えた。
今までは、金はあるなら全部使っちまえって思ってた。
でも今後は、満足感の残る買い物をしてみようかと思う。
っつーか!!
明日はグレンと出かけんだと!
勿論、俺は直ぐに明後日の予約を申し込んだ!
【カナ!カナ!俺、俺、金は使っちまったけどよ、俺もカナと一緒に出掛けてぇ!な!?な!?俺とも一緒に買い物に行こうぜ!グレンの次!俺、グレンの次ぃぃぃぃ!】
俺が手を上げて頼み込むと、カナは笑顔で【勿論!】と言ってくれた。
勢いだけで言っちまったけど、断られなくて良かったぜ。
後になって自分のしたことに恥ずかしくなって赤面したのは内緒だ。
因みに、アルドは次に予約してた。
良かった。カナは全員を平等に扱ってくれるらしい。
全員と出かけてくれるんなら何の問題もねぇ。
腹のムカムカも無くなった気がする。
俺は明後日だからな!
楽しみだぜ!
しかも、俺の買ってやった口布を付ければ、一緒に食品街にも行けるんだからな。
俺、荷物持ちしてやろうと思ってんだ。
ウヒヒッ!
今から楽しみだぜ!!
あ!そうだそうだ!
俺は今日、ピーマンを食えるようになったんだ!
今までのピーマンはぐちゅぐちゅで不味かったんだけどよ、カナが作ったピーマンは美味かった!
驚きだぜ!
今までずっと嫌いだった食いもんが、美味いもんに変わるんだからな!
せいとうのやきやき?せいてうのへきへき?
何だったか、まあ、そんな感じだ。
カナと居ると驚きばっかりだぜ。
美味い飯も食えて、楽しい事や嬉しい事がわんさかある。
今まで、こいつらと4人で楽しく過ごしてきたけどよ、
今はカナも入れて、刺激のある、新鮮な日々を過ごしてるって感じだな。
冒険者として、これからの毎日が楽しみだぜ!
ワクワクドキドキ、刺激的な日々が俺達を待ってる!!
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寝る前、そんなことを考えてたウェイン。
今日の喜び、
明日、明後日への希望を胸に
幸せな気分で布団に入ったはずだった。
なのに・・・・。
翌朝、4人のオッサンは危機に陥る。
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朝、俺達はカナ嬢が起きる前に活動を始める。
カナ嬢は寝つきも良く、寝起きも良い。
が、俺達が声をかけないと起きない。
多分、慣れない生活に身体がついていかねぇんだろう。
本人は明るくついてくるが、普通なら、男でもへばる冒険者の道だ。
カナ嬢が一人で生きていける様に、身体を鍛える意味も込めて、速度はそこまで緩めていないし、初心者には厳しい日々だろう。
が、カナ嬢には頑張ってもらわねぇと。
カナ嬢より俺達の方が先に死ぬだろうからな。
カナ嬢が一人でも冒険者として生きていける様に、様々な事を教えて、身体を鍛えてやる。
俺達でも辛いと思うような冒険も、カナ嬢一人で余裕に出来る様になってもらうのが理想だ。
じゃねぇと、俺達が死んだ後、カナ嬢が他の誰かに支えられて生きる事になるかも知れねぇって事だ。
それはいただけねぇ。
腹が立つ。
カナ嬢は俺達の女の子だ。
他人が入り込む隙なんざ叩き潰してやんよ。
ウェインやアルド、トルーノがどう考えてるかは分かんねぇが、
俺はカナ嬢が他の人間を頼る姿は見たくねぇ。
心が狭いのは承知の上だ。
俺は元々、パーティーメンバー以外には近寄りたくもねぇし、慣れ合うつもりもねぇ。
他人なんざ信用出来ねぇ。
そんな奴らにカナ嬢を渡す気も、仲良くさせる気もねぇ。
兎に角、今日の買い物では【周囲の人間に気をつける様に】ガッツリ言い聞かせておこう。
そう考えながら全員で着替えを始める。
カナ嬢が眠りについている、この時間帯に着替えておかねぇと。
野外なら2人づつで着替えるが、この狭い空間で、そんなに時間をかける訳にはいかない。
ガサゴソと音を出し続ければ、声をかけないと起きないカナ嬢でも起きるかもしれねぇ。
気を付けねぇと・・・。
だから、全員で一斉に速攻で。
そういう話になった。
声をかけて起こさない限り、起きないカナ嬢なら大丈夫だと思った。
で、それぞれで着替えを始めたんだが・・・・。
「ん~?」
と言う、寝ぼけてるような声が聞こえた。
俺達オッサンには出せない様な、柔らかく甘い声だった。
全員が【バッ!!】と凄い勢いで声の元に顔を向けると、目を擦りながら、ボーっとしてるカナ嬢が・・・。
「うわあああぁぁぁぁ!!」
と、叫び、脱いだ服を掻き集め、前を隠すウェイン。
お前は乙女か!!
と言ってやりたかったが、
俺だって上半身裸だ。
兎に角、落ち着いて、脱ぎ掛けた服を着ようとして
ビリビリ~!!と引き裂き、服を一枚、布きれにした。
トルーノは
「危なかった!!!!!!!!」
という言葉と共に、ズボンをカチャカチャ。
おいおい、危なかったな。
パン一はなんとか阻止したらしい。
そんな中、流石のアルド。
シャツは脱いだままだが、タンクトップとズボンを着用した、なんとか見れる状態でカナ嬢の目線を塞ぐようにベットに座り、声をかける。
「ん?どうした?まだ起きるには早いぞ?もう少し寝てて大丈夫だぞ。な?もう少し、寝てような。」
と、子供に言い聞かせるように頭を撫でて、横になるように促している。
半目状態で、寝ぼけた表情のカナ嬢を見る限り、多分、今なら夢だったと言い聞かせられるだろう。
そうだ。
頑張れアルド!
これは夢だったと、そう思わせるんだ!
頑張れ!
カナ嬢は野郎の半裸なんざ見てねぇ!そう思わせるんだ!
頑張れアルド!!
と思っていると、カナ嬢がブツブツと小さな声で話し始めた。
「・・・だ・・・ゆめ?・・にく・・・からだ・・うで・・・。さわりたい。きんにくいいな。かっこいい。ふっきん・・・・。いいかな・・・。」
とか、なんとか。
そう言った次の瞬間、全員が絶句した。
カナ嬢がアルドに抱き着いたからだ。
「うきゃー。かたい。きんにく。よろしい。はいきんも、いいね。うん。うん。むはー。うでもかたいー。」
と、アルドの胸元に頭をぐりぐりと押し付け、甘える様な声で、言いながら。
両手でアルドの全身を撫でまわすカナ嬢。
まさかの行動に、全員が呆気に取られていると、正気に戻ったらしい、アルドが
「ん゛ぬ゛ぁぁぁぁ!!!」
と、得体の知れない奇声を発して、仰向けに倒れた。
その時、アルドが白目をむいていたのは気のせいじゃないだろう。
アルドが倒れたもんだから、カナ嬢も上に乗る様な形で、倒れ込んだ。
それにまた驚いて、俺はシーツで身体を隠して、カナ嬢を引き離しに行く。
それを見たトルーノも、アルドを起こそうと走って来てくれたんだが、残念な事に・・・・。
「あー。みどりだー。しぶいねー。」
と、俺が身体を支えて起こしてるカナ嬢から可愛い声が・・・・。
振り向いてみると、ズボンが下がって、パンツ丸出しのトルーノが・・・・。
「あ・・・・。んな゛あぁぁぁー!!」
と叫んだトルーノは
ズボンをこれでもかとハイウェストに上げて、プルプルと震えていた。
顔面をこれでもかと赤くしているその姿に、俺がかけられる言葉は無かった。
俺は、とにかく、今の状況を何とかしようと思い、未だに固まっていたウェインに声をかけて地に伏したアルドの様子を見てもらう事にした。
俺はカナ嬢を抱えてベッドに戻る。
この惨状を見せないように、ベッドで横にしてやって、布団をかけてやる。
ベットに座り、背中を軽く、リズムよく叩いてやりながら
「寝とけカナ嬢。コレは夢だ。寝ろ。忘れるんだ。」
と、呪文のように唱えてやる。
だんだん、半目だったカナ嬢の瞬きが増えてきた。
ようやく眠ってくれるかと思ったのに
後ろから聞こえてくるウェインの声がウルセエ。
俺は仕方なく、カナ嬢の視界を完全に塞ぐ様に、盾になるつもりでカナ嬢のベッドで横になり、背中を優しく叩きながら、呪文を続けた。
忘れてやってくれ。
あの二人の為にも。
忘れるんだ、カナ嬢。
そう願いを込めた。
そんな思いが通じたのか、カナ嬢は完全に目を閉じた。
そして、次の瞬間。
「うむうむ。グレンのそいね・・・」
と、俺に対しての爆弾を投げつけてきやがった。
「んん゛!!」
俺はその場から飛びのいた。
違う!
違うんだ!
添い寝のつもりじゃなかった!
そんなつもりじゃなかったんだ!
同じベッドで寝るつもりなんて無かったんだ!
違う!
俺は、ただ単に、夢だと思わせようとしただけで!!
俺は聞いているかも分からねぇ、アルドやトルーノに必死に言い訳した。
野宿の時とは状況が違う。
この状況でカナ嬢との添い寝をしようとするなんて、他の奴らに恨まれること間違いなしだ!
違う!
違うぞ!
俺は必死だった。
その後ろで、ウェインが俺達を遮りながら
カナ嬢の背中を優しく叩いて必死に眠りに誘っていたのは後で知った。
俺の声で起きそうだったのを、フォローしたウェイン。
あいつ、やる時はやる男なんだ。
頼もしい男だぜ。
だがな、勘が良いくせに、なんでカナ嬢が起きるのを察知できなかったんだよ。
狩りの時以外でも、勘の良さを発揮しろ。
俺はあいつにそう言いたい。
その後、俺達が全員冷静になり、きちんと着替えを終えて、カナ嬢を起こすことになったのは昼近くになってからだった。