焦るオッサン達。
俺たちは今、難関に立ち向かっている。
どうしたら良いのか、さっぱり分かんねぇ。
誰でも良い、助けてくれ。
正直、泣きそうだ。
俺、ウェイン、グレンにアルド。
全員が同じ心境のはずだ。
誰でも良い、突破口を見つけろ!!
そう思ってるはずだ。
デカい図体したオッサンが4人、あたふたオロオロとしている様は周囲から見たら爆笑もんだろう。
だが、今はそんなことどうでも良い。
おひぃさんの機嫌が悪い。
誰でも良い。
何とかしてくれ!
そもそも、こんな事になっちまったのは
メレレだかメララだか言う女と、その連れのガキ共のせいだ。
今すぐに連れ戻して土下座させて、腕の1、2本折ってやりてぇくれぇだ。
チクショウ。
いや、過ぎた事を怒っても仕方ねぇ。
兎に角、今の俺がすべき事は、他の奴らが必死におひぃさんに話しかけている間に
何でおひぃさんの機嫌が悪ぃのか、大至急、考える事だ。
よし、まず、ガキと女が おひぃさんに目を付けたらしいところまで遡ろう。
まず、俺達は女の存在に気付いておひぃさんを隠そうとした。
が、外から見て既に目を付けていたらしく隠せなかった。
そこで、何かあったら抱えて逃げるつもりで おひぃさんに会話させた。
下手に逃げると怪しまれる。
ある程度話をさせて、不機嫌になったふりでもさせて逃げようと考えた。
んだが・・・・。
ガキどもが剣に手をかけて おひぃさんに殺気を向けた。
この時点で俺達は戦闘態勢に入った。
剣を抜くなら本気で首を落としてやるつもりだった。
だが、話は変な方向に動いた。
女は おひぃさんを
俺達【生きる価値の無いブサイクなオヤジ】を連れて歩く女だと笑った。
おひぃさんを馬鹿にする言葉は許せん。
だが、それが俺達の話になると別だ。
事実、俺達は女達から見たら総じて【生きる価値の無いブサイクなオヤジ】だと評価されるようなオッサンの集まりだ。
今までの女達からの言葉をどれほど好意的に受け取っても、【ブサイクな厳ついオヤジ】以上にはならねぇ。
飯屋のババアにさえ、酷い言葉をかけられるのが俺達だ。
ああ、そうだ。
おひぃさん以外で俺達をまともに扱ってくれた女なんて居やしねぇ。
そんな俺達を連れてるせいで、おひぃさんが馬鹿にされた。
頭をブチ割られるくれぇの衝撃だった。
俺達は、おひぃさんを護るとか言って旅をして。
結果、おひぃさんの株を下げてたんじゃねぇのか?
おひぃさんは強い。
魔法が使える。
鞄もすげぇのがある。
料理も美味い。
俺達の方が荷物じゃねぇのか?
おひぃさんは顔も可愛い。
素直で感謝も謝罪も出来る。
顔の良い強い男が寄ってくるに決まってる。
異世界から来たのを知ったからって、俺達が傍にいる事が本当におひぃさんの助けになるのか?
俺達がおひぃさんの安全を邪魔してるんじゃねぇのか?
今だって、ブサイクでオッサンな俺達を連れていているせいで馬鹿にされたんじゃねぇか。
俺達と居るのは迷惑なんじゃねぇか?
頭の中を色んな言葉が渦巻いた。
他の奴らも同じだったんだろう。
全員、情けねぇ泣きそうな面して
出てきた言葉が全員揃って
『すまねぇ。俺達のせいで馬鹿にされて・・・。』
おひぃさんへの謝罪だった。
迷子みてぇな顔してる おひぃさんを
何も知らねぇ、護るべき弱者だと決めつけて
護りたいなんて言って、おひぃさんだけの英雄を気取って。
自分自身の一方的な考えが恥ずかしかった。
情けなさでいっぱいになった。
んだが、
なんでか、おひぃさんが女の胸倉を掴んで啖呵を切ってた。
驚いた。
おひぃさんは今までにも
【俺達を好き】だとか
【俺達を信用してる】だとか
【俺達が優しい】だとか
凄く好意的な言葉が多かった。
でも、それは他の男共への牽制やら勢いで言ってる部分も大きいと思ってた。
まあ、嘘ではないだろうし、確かな好意も含まれてると思うと嬉しかった。
それが、
【年上の方が良い】
【俺達の体が素敵】
【俺達が可愛い】
《俺達を最高に良い男》
なんて褒めちぎる。
鼻血が吹き出るかと思った。
こんなに赤面したのは人生で初じゃねぇか?
心臓が痛いぐらいにドコドコと動きやがる。
間違いねぇ。
こんなの生まれて初めてだ。
俺以外の奴らも全員、真っ赤な余裕の無ぇ面で、おひぃさんと女の喧嘩を見守った。
っつーか、何も言葉が出なかった。
下手に声をかけて、おひぃさんにこんな顔を見られたくなかった。
だから、俺達はいつでも動けるように、武器に手を置きつつ、言い合いを見守った。
その後も、おひぃさんの口からは淀みなく、俺達への賛辞が飛び出す。
俺は照れる様な事が苦手だ。
だから、恥ずかしくて耳を塞ぎたかったが、いざという時に動けないのは困る。
頑張って耐える事にした。
が、おひぃさんの身体についての言い合いの時には意識を逸らすのに全力を注いだ。
む、胸が、どうのこうのってよ、思わぬ単語が出てきて驚いた。
俺達は全員、同時に顔を逸らした。
勿論、逸らした視線の先にいた、真っ赤な顔で鼻を抑えてる野郎共には全員で殺気を送っておいた。
【私のオッサン達】なんて言われてニヤけたりもした。
その後も おひぃさんの口からは
【俺達に護ってもらってる。】
【俺達の足手まといにならないように頑張ってる。】
なんて言葉が出てくる。
そうか。
おひぃさんはそう思ってくれてたのか。
そう、安堵感でいっぱいになった。
俺達に護られてる。
そう認識してくれてる事が嬉しかった。
俺達は荷物じゃない。
俺達の一人相撲じゃなかった。
必要としてくれてたんだと、安心した。
俺達が一緒に行動してたことは間違いじゃなかった。
そう言われたみてぇで嬉しかった。
そんな中、うるせぇガキ共の声が響く。
俺達を罵倒する言葉がドンドン出てくる。
ほぼ事実だ。
だから俺は特に何も思わなかったんだが、
おひぃさんは違ったらしい。
さっきよりも勢いが良い。
俺達の今までの行動の全てをしっかりと受け取ってくれていた。
オッサンが可愛いの理論は俺も疑問だったが、【愛おしい】と思っていると聞きゃぁ、何も言えねぇ。
こんなオッサンの俺達を【愛おしい】なんてよ。
初めて言われた単語だ。
ありえねぇだろ。
人生で、生まれて初めて俺の脳内に響いた言葉だ。
ただただ、鼓動が早まって顔に熱が集まる。
それだけじゃねぇ。
おひぃさんは【俺達が馬鹿にされた事】に怒った。
自分が女に馬鹿にされた時よりも、俺達が馬鹿にされた方が明らかに怒ってる。
自分が侮辱されるよりも、俺達が侮辱される方に腹を立ててる。
もしかしてよ、俺達、考えてたよりも
おひぃさんに愛されてるんじゃねぇのか?
想ってもらってんじゃねぇのか?
駄目だ。口元がにやける。
顔が赤くなるだけじゃねぇ。
にやける。
これはヤバイ。
赤面したオッサンのニヤニヤした面なんて見せたくねぇ。
必死に顔を戻そうとした。
が、こんな面したことねぇから、戻し方が分かんねぇ。
ヤバイ。
おひぃさんがこっち向く前に戻さねぇと。
なんて考えてたら、おひぃさん一人で女と連れのガキ共を全員撃退しちまったらしい。
おひぃさんが
【よっしゃっぁぁぁぁ!!!勝った!!!!】
なんて勇ましい雄叫びを上げた。
俺達は互いの顔を見合わせて焦った。
どいつもこいつも、だらしねぇ、にやけた面をしてやがる。
こんな顔、おひぃさんにゃ見せたくねぇ!
男の沽券に係わる!
結果、俺達は急いで顔を隠した。
絶対におひぃさんがこっちを振り向くと思ったからだ。
そんで、おひぃさんを待たせて、全力で顔を元に戻した。
平常心を取り戻すのがあんなに苦労するもんだとは・・・・。
勉強になったぜ。
20分位経って、全員がようやく顔を元の状態に戻したとき、
まだ おひぃさんは怒ってなかった。
ああ、間違いない。
いつもとは違いはしたが、怒ってたわけじゃねぇ。
怒ってはいねぇが、いつもとは違う。
落ち込んでるみてぇな、そんな感じだった。
そこで、少し困った風にグレンが言った。
【待たせたな。すまん。あー、そうだ、後で服を買ってやる!な?だから機嫌直せ!】
同じように、少し困ったアルドが言った。
【ああ、待たせちまってごめんな。詫びに、俺からは魔石を贈る。だから機嫌直してくれ。な?】
同じように、両手を大げさに動かしながらウェインが言った。
【すまん!時間がかかっちまって!あー!あー!俺は、俺は、そうだ!肉!肉買ってやる!】
俺も同じだ。
待たせた事を詫びて、書物でも買ってやるって言った。
その後だったか?
おひぃさんの機嫌が悪くなった。
さっきまでは落ち込んでる様な、元気がねぇ感じだったのが、軽く不機嫌になった。
んで、俺達は理由が分からなくてワーワー騒いでる。
それが今の状態だ。
何が悪かった?
まず、少し待たせたくらいで元気が無くなったのはなんでだ?
おひぃさんは待たされることに対して、んなに過敏じゃねぇはずだ。
そんな事で落ち込む おひぃさんじゃない。
雄叫びを上げた時は元気いっぱいだった。
気分も上々。
俺達の目の前まで来て、
俺達にウキウキと声をかけて・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
ああ。
そうか。
俺達が全員、自分にかかりっきりになって、誰一人として話を聞かずに放置した。
何か話しかけてきても、
【ちょっと待て】【頼むからそっとしといてくれ】と返した。
こっちの世界で啖呵を切るなんて初めてで不安だっただろうに。
誰も【大丈夫だ】だの【良くやった】だのと声をかけなかった。
それで拗ねたのか。
口喧嘩で勝って、俺達と自分の評価を護れて。
嬉しかったんだろう。
雄叫びをあげるくれぇに。
そんな気も知らず、俺達は意気揚々と話しかけてきたおひぃさんを放置した。
それが元気が無くなった、拗ねた原因だ。
だとしたら、その後に機嫌が悪くなったのはなんでだ?
服を買ってやると言った。
魔石を、書物を贈ると言った。
肉、肉はまあ、嬉しかねぇだろうが、本来のおひぃさんなら喜んで受け取るはずだ。
お礼も言って、ウェインの気持ちを無駄になんてしねぇ。
なのに何でだ?
贈り物だぞ?
嬉しいだろう?
服だぞ?
高価な魔石だぞ?
書物も貴重だぞ?
何が悪い?
他に何かいいものがあったか?
普通の女なら喜ぶ・・・・・。
ああ、そうか。
分かった。
それで機嫌が悪くなったのか。
俺は未だに必死に支離滅裂な言葉を話しかけてる奴らに割って入った。
そして、おひぃさんの頭を撫でてやった。
俺を見つめるおひぃさんに言ってやる。
「お疲れさん。見事な撃退だったな、おひぃさん。力になれなくてすまん。良くやった。頑張ったな。あれで大丈夫だ。正解だ。照れクセェ言葉が満載だったが、まあ、なんだ、その、嬉しかった。放置して悪かったな。」
おひぃさんは目を見開いた後に無言で頷いた。
安全な口喧嘩だとしても胸倉を掴んでの気合の入った言い合いは
本人も知らない間に全身を強張らせてたんだろう。
おひぃさんの身体から力が抜けていったのが目に見えて分かった。
そこで、更に言葉をかける。
これは、俺たち以外の野郎には聞こえない様に音量を下げて言ってやる。
「おひぃさん。贈り物は全部無しだ。おひぃさんは【他の女とは違ぇ】もんな。贈り物の為に頑張った訳じゃねぇもんな。あんな事で贈り物なんて求めるおひぃさんじゃねぇよな。けどな、嬉しかった分の何かはしてやりてぇ。後で知識やら肉体労働の頼みがありゃ言ってくれ。」
そう言ってやると、おひぃさんは凄い勢いで顔を上にあげた。
どうやら、俺の考えが合っていたらしい。
顔を徐々に赤く染め上げて、目を泳がせてる。
おひぃさんは
【他の女へのご機嫌取り】
と同じ扱いをされた事に納得がいかなかったんだろう。
元々、怒ってたわけでもなく、
話を聞いてもらえなくて、ちょっと拗ねてただけだったのに、
他の女に対している時と同じように、理由も分からねぇのに【取りあえず】で物で釣ろうとする俺達。
今まで敵対していたメララだかメリリだかっつー女に媚びる男と同じ行動を、
おひぃさんにした俺達。
そりゃ、不機嫌にもなるわな。
おひぃさんは贈り物なんて求めてねぇ。
ただただ、純粋に話を聞いてほしかっただけだ。
褒めてほしかっただけだ。
他の奴らにも耳打ちしてやる。
『ああ!』
ウェインとグレンの声が揃う。
【なんてことだ・・・。】
片手で顔を覆ったのはアルド。
そこからは怒涛の勢いだった。
【良くやった!凄かったぞ!俺もビビったぐれぇだ!】
なんて おひぃさんの頭をまぜっかえすウェイン。
【おお!やるじゃねぇか!カナ嬢!強ぇな!上出来だ!】
と背中を叩くグレン。
【気づかなくてごめんな。もう大丈夫だ。カナちゃんのおかげで助かった。ありがとう。】
とウェインにグチャグチャにされた頭を撫でてやるアルド。
おひぃさんはさっきの俺達みてぇに真っ赤になってやがったが、
完全に肩の力が抜けたんだろう。
顔を完全に伏せて
アルドに撫でられる頭も、グレンに叩かれる背中もそのままに、俺とウェインの服を握って
【頑張ったよ。皆は良い男だからね。】
なんて言いやがる。
その言葉に、オッサン達がまた赤面したのは言うまでも無いだろう。
まあ、言った本人も真っ赤な顔を隠すために下向いてたから問題なかったが。
不意打ちは止めてくれ。
心臓がもたん。
_____________________________
時間はかかったけど、オッサン達に褒めていただきました。
最初、放っておかれた事にちょっと拗ねてたら、なんでか物を貢ぐみたいな話になっていって。
別に物が欲しい訳じゃないし、
拗ねてる理由を聞いてもくれずに、貢ぐって言われて。
理由が分からなくても、取りあえず物を与えておけば何とかなると思われた事にショックを受けた。
私がそんな女だと思われてると思うと、なんだか悲しくなった。
でも、トルーノを筆頭に全員から褒めてもらえた。
良くやった。って言ってもらえた。
嬉しかった。
頑張ったから。
喧嘩なんてしたことなかったから、いっぱいいっぱいだったけど、撃退出来て、褒めてもらえて嬉しかった。
でも、トルーノの言葉で
拗ねたことも、機嫌が悪くなったことも全部筒抜けで、
【他の女と同じ扱いじゃ嫌だって事だよな?】
って言われたみたいで、恥ずかしかった。
自分を特別扱いして欲しい。
他の女と同じ扱いじゃ嫌だ。
そう考えてるなんて、恥ずかしい独占欲みたいな部分が丸裸になった気分で、恥ずかしかった。
同時に、トルーノから軽く説明されて納得した。
皆の基準はこの世界の女なのだから、仕方のない事だと。
私ももっと大人にならないといけない。
そう考えさせられた。
んで、なんやかんやと色々とありましたが、現在、魔物の買取をお願いしております。
冒険者同士の喧嘩には基本は口出しをしないギルドの職員の方々。
先程の騒ぎの後も、受付の男性に
【お疲れ様でした。カナさんのパーティーの加入も済ませておきましたのでご確認ください。】
なんて苦笑いで言われただけだった。
買取のカウンターでは、オッサン4人の鞄から出された
ワイバーンとオーガ。
因みに狩ったやつ全部ではない。
そんなに沢山、普通の鞄には入らないから。
量は少ない。が、上物。
カウンター内は大騒ぎ。
からの、計算開始。
一人の職員が持ってきた表をアルドとグレンが即座に計算していく。
特に不正なんかも無い値段だったらしい。
2人とも何も言わずに頷いた。
そしてそのまま、お金を持ってくる。
かと思いきや、その場で
「3割はパーティーに貯める。2割は5人で等分で個別に貯めてくれ。残りはそのままでいい。」
グレンがギルド職員さんに言う。
3割をパーティー資金に貯金。
2割を個別の口座に貯金。
残りは手取りで5人で分ける。
らしい。
ギルドの職員さんがその通りに貨幣を数えてくれている間に、ウェインが説明してくれた。
「ああ、カナは初めてだったっけか?俺達のパーティーでは、毎回の儲けから何割かをそのままパーティー資金に入れんだ。その中から全員の宿泊代やら武器の代金を出す。毎回稼いだ金額を見てからグレンが何割か決めてんだぜ。俺は計算苦手だかんな。この辺は全部グレンに任せる。」
と。
更に
「ついでに言うとな。個別に貯める分は何かあった時の為に個人名で貯めとく。冒険者は何時、何があるか分かんねぇからな。手足が無くなっても生きてけるようにだ。コレには基本、手を付けねぇ。んで、残りの宿で分ける分は完全に自分のもんだ。好きに使う。何に使っても誰も文句言わん。更に貯蓄するのも良し。豪遊するもよし。好きにする。」
とトルーノが補足する。
なるほど。
宿泊代や武器の購入の為にパーティー全体で貯める分。
何かあった時の積立の為に個人口座に平等に貯める分。
後はそのまま受け取って、平等に分けて、食事やらお酒やら趣味のお金として個人で好きに使う。
そのお金は自分の口座にプラスで貯めても良いし、全部使っても良し。
そういう事ですかね?
凄いな。
グレンが毎回 何割を蓄えに回すか決めて、全員分をまとめて貯金してくれるのね。
冒険者って毎日豪遊気味なのかとか思ってたけど、想像よりもしっかりと将来を考えているらしい。
・・・まあ、オッサン達だけかもしれないけど。
なんて感心していると、お金を受け取ったアルドとグレンが戻ってきた。
そして、そのまま冒険者ギルドの外へ誘導される。
グレンとウェインが先を歩き、私の隣をアルドとトルーノが歩く。
「金を手に入れたまま冒険者ギルドに長居するとな、酔ってる奴らに集られる。直ぐに金を仕舞って、とっとと出てくに限る。」
グレンが先頭を歩きながら言う。
皆も昔何かトラブルがあったのか、苦笑いしてる。
にしても、少し意外だったことがある。
パーティー資金に関して決定権を持っているのがグレンだった事だ。
私としては何となく、グループを率いてる、
・・・というか、保護者っぽいのはアルドで、金銭関係、計算に強いのはアルドなイメージだった。
失礼かもしれないけど、グレンが計算に強いのはちょっと意外だった。
「グレンって計算に強いんだね。スパッと計算したりするの凄かった。私、そんなに計算得意じゃないから羨ましい。」
正直に感想を伝えると、グレンから苦笑いが返ってきた。
ん?
賛辞を送ったつもりだったんだけど、なんで苦笑?
「そりゃあな。仕方ねぇーかんなぁ・・・。他の奴らがヘッポコでなぁ・・・。」
更にはため息までつくグレン。
そして、目を逸らす他の3人。
あれ?
誰も反論しないって事は、他の3人はマジでヘッポコなの?
私が驚きでいっぱいなのが分かったのだろう。
グレンが補足してくれる。
「いや、別に他の奴らが計算が出来ねぇ訳じゃねぇ。計算は出来るんだがな、全員、金遣いが荒い。全員、手持ちは全部使う主義。おかげで若い頃は貯蓄出来なくてな。俺が説教かまして、金が入ったら真っ先に、個別とパーティーに金を入れる決まりを作った。
ウェインは酒と食いもん。宵越しの金は持たねぇ主義でな。一日で使い切ることも多々ある。
トルーノは本の虫。本は高ぇからな。図書館通いやら欲しい本の購入やらで使い切る。
んで、一番の大問題野郎。アルド様のご登場だ。
アルドはな、薬草やら魔具の研究、購入が酷くてな。節約の為に薬草本は立ち読みやら、図書館に通うトルーノに読んでくる様に言いつけやがるし、どうしても欲しい薬草や魔具は【どれほど俺達の為になるか】を熱弁してパーティー資金からの援助を頼みやがる。それがまた、本当に役に立つ、少し値の張る物ばっかりで無下に出来ねぇ。正直、金銭に関してはめんどくせぇ野郎、第一位だ。
まあ、全員、自分の金遣いの荒さを自覚してんし、俺に計算を任せる事にも文句言わねぇし、パーティー資金やら個別の貯金にも絶対に手を出さねぇから、その辺は良いけどな。」
と疲れた様子のグレン。
皆は
『ハハハハハ、・・・・すまん。』
なんて反省状態。
どうやら事実らしいです。
思わぬ一面を発見ですな。
「アルドが一番しっかり貯め込んでるかと思ってたから意外だったなぁ。
皆、全部使い切る辺り、豪快で冒険者って感じだけど、貯金するって決めたのは素晴らしい事だと思う。日銭暮らしだったらちょっと大変だもんね。これからは私のも一緒にお願いします。」
私はグレンに軽く頭を下げた。
私も計算は得意じゃない。
さっきのグレンみたいに素早い暗算は絶対に無理だ。
ちゃんとお願いしておこう。
んで、気になってたことを聞いてみよう。
「・・・・・で?グレンは?お金、何に使うの?」
私は今、興味津々な顔をしているだろう。
グレンは少し目を見開いてから
「あ~、酒と、、、、調味料、、、、服、、、、あ~、・・・・ほぼ貯金。みみっちい男だろ?」
少しバツが悪そうに目を逸らした。
ああ、なるほど。
グレンはそんなに物欲が無い人なのかもしれない。
もしくは、貯金することが苦にならず、割と楽しんで貯めれる人。
冒険者には珍しいのかもしれない。
「そんな事ないよ!凄く大切な事だよ!お金は腐らないんだし、何か欲しいものが出来たり、それが高い物だったりしたら必要になるもの。無くて困る事はあっても、有って困る事なんてないでしょう?今、使う必要がないなら貯めておいて正解だよ。私はそう思うし、貯金が出来る人は尊敬するし凄いと思う。」
そんな私の言葉に
「そ、そうか?冒険者のくせにって笑われることも多いからな。やべぇな。嬉しいわ。」
なんて照れてるグレン。
もしかしたら、今まで煙たがられたり、笑われたり、難癖つけられたりしたのかもしれない。
元の世界であれば、ちゃんと貯金の出来る男の人なんて貴重だった。
まあ、私の周りだけかもしれないけど。
私も貯金は苦手な方だ。
手元にあれば
使っても良いかなぁ~。
なんて考えてしまう方だ。
割と物欲も強い。
苦も無く貯金できる人、本当に尊敬する!
そう思って何度も頷いていると、
他のオッサン達がどよ~んとした空気を発し始めた。
「貯金が出来ねぇのは、ダメ男、か?俺、今、無一文・・・・。」
とオロオロしてるウェイン。
「俺、もしかして、最低野郎?・・・・は、ははは」
変な汗出てませんか?なアルド。
「・・・・・・・。」
無言で財布の中を覗き込むトルーノ。
おおおおおおお!?
ちょ、ちょっと待って!
私も貯金は苦手だから!
ダメ男だなんて言ってないよ!
最低野郎なんて言ってないよ!
お金数えなくていいよ!
グレンをフォローしたつもりが、他のオッサン達にダメージを与えちゃったよ!!!
「わ、私も!貯金苦手だから!欲しいものを買うのは苛々発散になるし、欲しいものがあるのに買わずに後悔するのも嫌でしょう!?欲しい物なら買っても良いんだよ!というよりも、自分のお金なんだから好きに使っていいの!貯金はちゃんとしてるんだし!良いんだよ!使って!」
私が言い終わると同時に、グレンが
「だな。俺は欲しい物もねぇし、貯金してるけどよ、別に貯金できる人間が偉い訳でもねぇだろ。お前らは知識やらなにやらを買ってんだしな。・・・まあ、ウェインは楽しんでるし、良いだろ。今まで通りで問題なかったんだしよ、好きに使え。」
と言った。
『・・・そうか。』
と、納得したんだか何だか、皆、一応落ち着いたらしい。
その後、素晴らしく上機嫌なグレンと
『これからは考えて買い物しよう。』
と呟くオッサン3人を引き連れて、無事に宿へ戻りました。
トルーノさん、主人公を可愛いと言っていますが、主人公ちゃんは普通の顔面の子です。
ただ単に、今まで邪険にしか扱われなかったオッサン達にとって、
【女=オッサン達を見て嫌そうな顔をした女】
だったので、普通の状態の女の子はそこそこ可愛く見えます。
特に主人公ちゃんはオッサン達に笑顔とか見せますから。
そりゃ、睨んでくる女よりも、笑顔で目を合わせてくれる女の子が可愛く見えますって。