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勝ちか負けか。

私の脳みそは人生で一番気合の入った回転を見せている。

現在進行形で。

今から更に、メリルとやらの厚化粧女に向かって言葉の刃をぶつけていくのだ。

一瞬でも怯んでいる隙は無い!

頑張れ!私の脳みそ!

そんなに沢山の罵詈雑言は知らないけれども!

これは絶対に負けられない戦いなのだ!

優しくて逞しくて可愛くて素敵なオッサン達を《生きる価値のないブサオヤジ》呼ばわりした、この女とヒョロ男共に言葉で制裁を!!

と気合を入れていると、厚化粧女、もとい、メリルから言葉が飛んできた。


「よく聞きなさいよ!クソガキ!私は冒険者であり、このチームのリーダーをしているの!!私は強くて美しいの!!あんたみたいなヒョロヒョロとした胸の小さい、女の魅力が足りてないガキが何を言っても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないのよ!!ああ、ごめんなさい!そんなに貧相な身体じゃ、若い男なんて捕まえられないわよね?ブサオヤジ共が限界なのよね?酷な事を言っちゃったわね?ごめんね?ガリガリちゃん?アハハッ!」

なんて笑いやがる我が敵。


え?冒険者なの?この人。

ってか、ブサオヤジ言うなっつーの、このクソババア。

自分がナイスバディだからって、勝てそうなことで私を馬鹿にしてきたな。

よし、全力で言い負かす。

私は負けない!


「ブサオヤジじゃないっつーの!!オッサン達はイイ男ですぅぅぅぅ!!!!オバサンに男を見る目がないだけですぅぅぅぅ!!!確かに、私はあんた程、身体のメリハリは無いけどね!女としての柔らかさは充分だし、肌の白さ、それから肌の張りには自信があるわよ!《わ・か・い》からね!それにね!あんたはその強調した大きな胸と私の胸を比べたいんだろうけど、大事なのは大きさじゃなくて形ですから!それと、胸は脂肪だから!肉の塊なんだから!年取れば、垂れ下がるんだから!数十年後に勝つのは私よ!

というか!女の身体を気にするような変態野郎、連れて歩く気しないんですけど!気持ち悪い!

私のオッサン達は胸の大きさなんて小さい事を気にするような器の小さい男じゃないのからね!ハッ!」



「んなっ!誰がオバサンよ!?脂肪!?垂れ下がる!?ふざけんな!クソガキがっ!!大体、服装だって男みたいな恰好しちゃってさ!あんた、その若さで女捨ててんの!?」

顔を真っ赤に鬼の形相で怒るクソババア。



「ぶっは!男みたいな恰好?当然だっつーの!私は冒険者なんだから!私はね、自分の身を自分で護れるほど強くない事を誰よりも分かってんのよ!オッサン達に護ってもらってるって事を理解してるのよ!だからこそ、皆の足手まといにならないように、男みたいな格好でも何でもして強くなれるように努力してるんじゃない!だから、私のこの格好は私にとっての最良の選択なのよ!

というか、あんたがそんな格好してる方が気になるんだけど!胸元の開いたコルセットとスリットが入ったロングスカートみたいな恰好で、いざという時に全力で走れんの!?本当に冒険者なわけ!?」



「男共に護らせるのが当然でしょう!?私は冒険者として、この男共の士気を上げてやってるんだからこの格好が良いのよ!!というか煩いのよ!化粧も満足に出来ないガキが!」


あ、やっぱり、自分では戦わない系の人でしたか。

周りに護らせてるのね。

化粧ね。。

化粧・・・。


「化粧ってさ、肌が衰えるでしょう?そんなに塗りたくって何を隠してるのよオバサン。そんなに厚く塗っちゃって。劣化が進むよ。可哀想に。

というかね、さっきから気になってたんだけどさ、目の上に何を付けてるの?二重にするようなの付けてるよね?変に瞼が上がっててさ、瞬きする度に《半目(はんめ)》になっててバケモノみたいなんだけど・・・。そんな風になっちゃってる事、誰も教えてくれなかったの?そのせいで、あんたよりも周りの男共が別格な美人に見えるんだけど。どう考えても、自分よりも若くて美人な男共を連れて歩いてる可哀想な厚化粧女にしか見えないんだけど。あんたドエムなの?

・・・もしくは、そいつらがそうなってるのを知ってて故意に教えなかったって事だよね?そいつら本当に仲間なの??」


気の毒そうに聞いてあげる。

アイプチみたいなやつなんだろうけど、瞼が変に上がってて、瞬きの度に白目で半目になってて、ガチで怖い。


メリルは驚愕の表情で口を開けている。


よし!心に大きなダメージを受けてるらしい!

いいぞ!ここで一気に畳みかけよう!

と思った次の瞬間、


『やめろ!メリルを馬鹿にするな!』


とメリルのお連れ様から言葉が飛んできた。

曰く、

【顔も手も傷だらけの醜いオッサンじゃないですか。僕たちよりもイイ男なんて、有り得ません。訂正してください。】

【何が逞しいだよ!ただの筋肉馬鹿じゃないか!】

【服装にも気を使えない、連れの女に恥をかかすような男共じゃないか!目を覚ませ!】

【オッサンの何が可愛いんだよ。真っ赤になるオッサンなんて気持ち悪い。】

【メリルはバケモノじゃないもん!そこそこ美人だもん!僕が一番可愛いけど、メリルもまあまあ可愛いもん!】

とな。


おうおう、言ったな?

お前ら、オッサン達の悪口を言ったな?

うし!その喧嘩買ったぞ!

っし!息を深く吸い込んで巻き舌気味に一気にいっきまーす!!


「ハアァァァァァ?!何言ってんの?!あんたら本気!?正気!?

まず、お前!!

傷だらけ?!当然じゃない!!冒険者なんだから!ここにいる他のオッサン共も見てみなさいよ!傷だらけでしょうが!この傷は、今まで沢山の死線をかいくぐってきた証でしょうが!長く生き抜いてきた、鍛えぬいた、己と仲間の力で強く進化してきた、男として、人間として、大切な過程の一部でしょうが!この傷は冒険者としての誇りよ!あんた達みたいな傷や痣が一つも無い綺麗な身体の冒険者なんて、弱いのばっかり相手にしてきた男にしか見えないわよ!コレが、長年を生きてきた男の深みの一部だバーカ!黙ってろ!


次にお前!ただの筋肉馬鹿?!何言ってんのよ!あんた、さっきの話聞いてなかったの!?馬鹿なの!?人の話もまともに聞けないの?!理解できないの!?私はオッサン達を信頼できる、安心できる、純粋で、優しい、紳士なオッサン達って言ってるでしょうが!ただの筋肉馬鹿にそんなこと出来る?!出来ないでしょうが!私の事を尊重してくれて、豊富な知識を持ってる、尊敬できる人生の先輩達なのよ!人の話を聞いてないお前が一番の馬鹿だ!黙ってろ!


次にお前!服装に気を使えないって・・・・。あんたは冒険者をなんだと思ってんのよ!そんな煌びやかなヒラヒラした服着て!連れの女性に恥をかかせない様に!とか言いながら、自分の自己満足の為なんじゃないの!?そんな動きにくい服装でさ、本当に戦えるの!?戦う気あんの!?それに引き換え、うちのオッサン達は水浴びを毎日して、体を清潔に保ってるし服もちゃんと洗ってるわ!私の為にお花の香りがするように気を使ってくれたりするくらいなんだから!ヒラヒラギラギラしてる長い服着てる馬鹿を連れて歩くより、良い匂いのする清潔な人間を連れて歩く方が何倍も誇らしいっつーの!黙ってろ!


次にお前!男のお前に真っ赤になるオッサンの可愛さを理解してもらうのは難しいかもしれないけど説明してやるから良く聞け!!まず!女は男の意外な一面にドキッとするもんなのよ!通常とは違う姿、想像とは正反対の姿にドキドキ、キュンキュンするもんなのよ!普段は強気な女の子がいたとして、その子が自分の前でだけ真っ赤になったり、泣いたりしたら嬉しいでしょう?可愛いでしょう?愛おしいでしょう?護りたいでしょう?私にとって、それがオッサン達の真っ赤になる姿って事!この可愛さは理解してもらえなくても良いのよ!私だけが知ってれば良いんだから!私だけが独り占めするんだから!私にとって愛おしくてたまらない姿なんだから、お前に馬鹿にされる覚えはない!黙ってろ!


最後に、お前!

・・・・そこそこ美人?まあまあ可愛い?

・・・・・。

うん。お前みたいな仲間を見下してる馬鹿は論外だわ。この人間のクズが。一生黙ってろ。」



よしっ!!

全部言えた!!

詰まらずに全部、言いたいことが言えたよ!!

やれば出来る子なんだよ私!

誰か褒めて!!


言い切った達成感に浸る私。

辺りに広がるのは一瞬の沈黙。


そして、ついに。

頭の垂れた、目の前の若い5人組の男共から

すすり泣く声が聞こえてきた。


っしゃあ!!!

勝った!!

泣かせてやった!!

とガッツポーズの私。


対してメリルは


「ちょっと!!そこそこ美人、まあまあ可愛いって何よ!!お前!!私は最高に美人でしょうが!!そうでしょ!?パッチーン!!

あんた達もなんで泣いてんのよ!!ちょっと!私が馬鹿にされてんのよ!何か言い返しなさいよ!あんた達!!」


とそこそこ美人発言の少年の頬を平手打ちし、

他の男共に詰め寄ってるけど、男共からの返事は泣き声みたいになってるだけで言葉になってない。

メリルも味方が役に立たない状況だと理解したのか、どんどん泣き声交じりに。


「ちょ、ちょっどぉ・・・。なんでぇ・・・。う・・うわぁぁぁぁん!!年下のぐぜにぃぃぃ!!なんで言い返ずのよぉぉぉぉ!!だまっで、言われでなざいよぉぉぉぉ!!なまいぎよぉぉぉぉ!!ばがー!!ばがぁっぁぁっぁ!!!!」


という泣き叫びと共に去っていった。

その後ろを服の袖で涙を拭きながら、フラフラと覚束無い足取りでついて行くのは若い男5人組。





「よっしゃっぁぁぁぁ!!!勝った!!!!」


その背後で、興奮のあまり、握った両手の拳を天高くつきあげ、雄叫びを上げる私。

そのまま、小躍りしそうな程高揚した気分でオッサン達の方を振り向いた。


が・・・・。


オッサン達は全員、両手で顔を隠していた。


ああ、ごめんね。

怒りに我を忘れてまたやっちゃった。

褒めると照れちゃうんだよね?

耳が真っ赤だもんね。

自分たちの良さを語られるなんて、ある意味、公開処刑だもんね。

ごめんね?

でもね、

両手で顔を隠すとか、恥じらう乙女みたいで凄く可愛いよ。

うん。

やっぱりコレ。

コレだよねぇ。

コレが可愛いんだよ。

うん。やっぱりこのオッサン達、可愛いなぁ。


と思いつつ、声をかける。


「あのさ、みんな・・・」


『ちょっと待ってくれ!!』


「あ、はい。」


被せてきた全員の声が揃ってました。

はい。

大人しく復活を待ちます。

でも、早く回復して欲しい。

んで、褒めてほしいです。

今回の私は頑張ったと思うよ。

うん、自分でも言っちゃうくらいに。

頑張ったと思うよ?

だから、ご褒美に褒めてください!

オッサン達の目の前に立ちつつ、オッサン達が復活するのを、忠犬の如く、今か今かと待つ私。





そんな私を見つつ、周囲のオッサン達は

【凄かったな。初めて見たけどよ、女の喧嘩って怖えぇ。】

【人間の口ってあんなに動くんだな・・・。】

【女の子にあんなにベタ褒めされるとか、あのオッサン共、何者だ?聖者か?】

【メリルが泣いてんの初めて見たぞ。】

【あー、あの若い奴ら、顔が良いから女にあんな事言われたこと無いだろうからな・・・。立ち直れるの

か?】

【俺らと違って今まで女にはそこそこ優先される人生だっただろうに。】

【一気に地獄を見たな。あいつら。まあ、若けぇし、何とかなんだろ。】

なんて酒盛りを始めていた。




オッサン達がまともに話をしてくれるようになるまでに思ったよりも時間がかかり、

私が拗ねるのは20分後だった。

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