喧嘩。
すみません、前回のお話ではグレンはお留守番でしたが、こんなに大事なシーンでいないのはどーなのよ!と前回のお話を変更させていただきました。
なので、グレンさん、参加です!
瞬間移動の達人ではございません(笑
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私は今、胸倉を掴み合い、罵声を浴びせる喧嘩をしている真っ最中だ。
今にも殴り合いの喧嘩に発展しそうなくらい、ピリピリとした空気を纏いながら全力で対峙する。
こいつだけは許さん。
オッサン達がドン引きしようがなんだろうが、絶対に負けない!
そうなった理由、それは・・・・。
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他のパーティーへの加入を勧める職員に話をつけ、
無事に登録が終わりそうで良かった~。
なんて、安心して気を抜きそうになっていた、その時
突然、冒険者ギルドの扉が開いた。
そこから現れた存在がこの騒ぎの元凶である。
扉を開けて現れたのは世間一般でいう、美青年が5人。
全員、顔だけ見れば、乙女ゲームにでも出てきそうな位キラキラとした顔をしている。
何というか、お前ら、武器よりも美容に金かけてない?
って感じである。
まず、先頭を行く2人。
片方は肩までのユルふわパーマで泣きぼくろがセクシーな印象を与える、女性に優しそうな青年。
片方は短く綺麗に刈り込んだ髪、切れ長でありながらも誠実さがにじみ出る青年。
後ろの3人は
長いサラサラの髪を後ろで結んでいる、万人受けしそうな所謂、王子様フェイスの青年。
ショートカットで無機質な目が冷たい印象を与える細身の青年。
肩につくくらいの内巻き気味の後ろ髪とパッツンな前髪が幼い印象の少年。
恐らく、全員がそれなりに金持ちなのだろう。
若いくせに腰から下げている剣は高そうな、いかにもな年代物。
鎧も重厚でキラキラに磨き上げられている一品。
更には、弓やら鞄なんかも清潔感のある、一目で上質だと分かる品の数々。
まるで盗賊に【狙ってください】と言っているみたいだ。
そして、何よりも驚いたのが
その5人に守られるかの様に歩き、登場したのが
【一人の女性】
だった。
女性は綺麗なウェーブのかかった薄い色の金髪に、女の私から見てもナイスなバディ。
口元は綺麗な赤に染まっていて、微笑み、妖艶に弧を描いている。
化粧は濃いめ、おそらく30代だと思われる。
大人の女の色気がムンムンな感じのお姉さんである。
私にこんな色気は無い。
外人の金髪おねぇさんと、黒髪で幼く見える日本人の違いの差を考えれば分かるだろう。
チクショー!
なんだか負けた気分だ!
勝負をしたわけじゃないけども、女として負けた気分だ!
周りの男共は口笛なんか吹いちゃってさ。
私の時はそんな反応じゃなかったくせに!
騒がれても嫌だけど、ここまで差をつけられるとイラッとするから女って面倒だよね!
ほんと!
自分でそう思うわ!
・・・・・。
オッサン達はどうだろう・・・?
もし、皆が、
ウェインが、グレンが、アルドが、トルーノが、あの女性に見とれてたらどうしよう。
鼻の下を伸ばしていたらどうしよう。
頬を染めてたりしたら、どうしよう。
怖くて振り向けない。
女性に免疫のないオッサン達だもん。
私と一緒に居るとはいえ、あんな女性を目の前にしたら・・・・。
そんな風に考えて落ち込んでいると、突然、後ろに手を引かれた。
「カナ、俺達の後ろにいろ。カナは女との相性が悪ぃんだろ?顔は見せねぇようにしとけ。」
そう言って、私を引き寄せたウェイン。
「ウェインの後ろに居る俺の後ろにいろ。いいな?前に出るなよ?」
と、ウェインと二重の壁になって、私を更に後ろに下がらせるグレン。
「カナちゃん、女には存在を知られない方が良い。今までの経験から言ってもそうだろ?何かあればすぐに動けるようにしておいてくれ。」
と心配そうにしながらも、私の横に立って私を隠してくれるアルド。
「大丈夫だ。何があっても俺らが護る。」
と、斜め後ろに立ち、頭を撫でてくれるトルーノ。
嬉しかった。
オッサン達は私の味方だ!
色気は無くても、オッサン達はあの女よりも私の味方だ!
良かった!
勝った!!
うおぉぉぉぉぉぉぉ!!
やったぁぁぁ!!
叫びたい!!
そんなウキウキ気分で安心していたんだけど、世の中、そんなに甘くはなかった。
「隠れてるみたいだけど、通りから見えてたわよ?お嬢ちゃん?」
普段聞く事の無い、高く透き通るような女性特有の声が響いた。
一斉にこちらを向く他の冒険者達。
そしてこちらを見つめている女と連れの青年達。
心境としては
【こっち見んなバーカ!】
である。
本当に、なんで見つかっちゃうかなぁ・・・。
【女に関わると碌な事がない】のだから、これも何か問題に発展しそうなんだけど・・・。
面倒だなぁ・・・。
隠れていたい。
なんて思ってたんだけど、今から走って逃げるには、夜間の全く知らない街を走り回ることになる。
下手をすれば、森を走ることになる。
周りもざわざわしてるし、さっきまで普通に姿を現してたんだから、隠れ続ける訳にもいかず。
トルーノに
「何かあれば抱えて走る。」
と背中に手を当ててもらえ、
アルドにも目で合図をした上で、ウェインとグレンを盾にしたまま、横はアルドで塞ぎつつ、横から少しだけ顔を出す。
「なに?急いでるんだけど。」
一応、女王様モードで聞いてみる。
すると、
『なんだその態度は!!メリルに対して失礼だぞ!お前みたいな女が口答えするな!ただじゃ済まさないぞ!!』
と声を揃える青年達。
剣に手をかけて殺気立っている。
もーやだー。
本当にメンドクサイ。
今までの経験から言って、こいつらは まともな奴らじゃない。
宗教か!!って位に入れ込んでる人間だって事。
まあ、口は悪かったかもしれないけどさ、そんなに目くじらを立てる事か?
そんなに殺気立つことか?
剣に手をかける事か?
なんなの、本当に。
勘弁してくれ。
こういう輩は関わらないに限る。
今までの経験から言ってそうだ。
スルーしながら、適当に頷いておけばいい。
謝るのではなく、その女性は凄い人なのねーと褒める方向で行けばいい。
皆、自分の誇りを褒められて嬉しくない筈がない。
適当に褒めて乗り越えよう。
と、ため息をついた私。
私は忘れていた。
この世界はそんなに簡単な世界じゃなかった。
今までの経験が当てはまる訳がないのだ。
そう、私の耳には唸り声が聞こえていた。
「ああ?んだと、コラ。クソガキが。」
と威嚇しているウェイン
「てめぇらこそ、カナ嬢に、んな口きいて生きてられると思うなよ?あ?」
と殺人宣言しちゃってるグレン
「調子に乗るなよ?ガキが」
と短い言葉に怒気を含ませるアルド
「抜いてみろよ。首が飛ぶぞ?」
と鎖鎌に手をかけているトルーノ
私は目をパチパチと何回も瞬きさせる。
あれ?
目立たない方向で行くんじゃないの?
普段は大人しい、職人気質なお二人さんも
ヤッチャイマス。
的な雰囲気なんですけど。
あれ?
これ、私はどんな対応をすればいいの?
【良く言った!】
とか褒めるべき?
怒ってくれるのは正直に嬉しいんだけど、一触即発の状態で女王様モードで何言えってーの?
【力の差を見せつけてやれ!】
とか?
ちょ、アルドさーん、戻ってきて!
フォローしてー!
と冷や汗を流す私は、言葉の鈍器で殴られた。
「ブッハ!何、あんた、若い女のくせに、そんなオジサン達を引き連れていい気になってるの?笑える!そんな、ブッサイクな、生きる価値も無いオジサンを連れて歩いてるなんて!!アハハハハ!女ならもっと高みを目指しなさいよねぇ~!あんた並みにブサイクな女でも、もっとまともなの捕まえられるでしょうに!何?もしかして、何か弱みでも握られてるの?悪いこと言わないわ、そんなブサイクで年喰いなオジサンは捨てて、もっと若くて使えるの連れて歩きなさいよ!じゃないと、あんたも可哀想に見えてしょうがないから!ハハッハ!ブサオヤジのハーレムとか!あんたどんだけ悪趣味なのよ!あー可笑しい!
見なさいよ!そっちと比べて!!私の連れてる男達!!イイ男ばっかりでしょう?コレが私の実力、女の特権の最高例よ!
ま、あんたには無理かもしれないけど~。」
なんて私の目の前に来て笑う女。
それに合わせて
『確かに!身の程を知っておけよ、ブサオヤジ共!』
なんてドヤ顔で馬鹿にする青年達。
ぐわんぐわんと揺れる頭で、
理解できなかった。
こいつらは何を言ってるんだろう?
ナニヲイッテルノ?
理解できない。
オッサン達に答えを求めようと、皆の顔を見てみると、皆が目線を下げていた。
『すまねぇ。俺達のせいでカナ(嬢、ちゃん、おひぃさん)が馬鹿にされて・・・。』
なんて申し訳なさそうな顔で、私に言う。
ナニヲイッテルノ?
なんで、オッサンたちがあやまるの?
あの女どもは、私を?
いや、オッサン達をばかにした?
馬鹿にしたの?
私の、オッサン達を?
あの女とその連れの男達が?
オッサン達を馬鹿にした?
それで?
オッサン達は私に謝ったの?
【オッサン達のせいで私が馬鹿にされた。すまん。】
って?
冗談でしょう?
ねぇ、何かの間違いでしょう?
なんで謝るの?
なんで、悔しそうな顔をしてるの?
なんで、しょんぼりしてるの?
ねぇ、なんで・・・・・。
そこにいるクソ女のせいか。
そこにいるクズ野郎共のせいか。
あんなクズの為に、オッサン達が悲しんでるのか。
そう理解した瞬間、私は女の胸倉を掴んでメンチを切っていた。
「黙れ。つーか、何言ってんの?あんたこそ本気?長年生きてる年増女のくせに、男の良し悪しも分かんないなんて、目が腐ってるんじゃないの?よく聞きなさいよ?男はね、若さでも顔でもないのよ!男はね、優しさとか包容力とか男らしさとかが大事なのよ!あんたの連れてる男共みたいな初対面の人間の悪口言うようなクズ、信用出来ない男代表じゃない!
男は年を重ねたほうが包容力、安心感もあるし、熟した男の良さが出て最高じゃないの!
それによく見なさいよ!この長年に渡って鍛え抜かれた肉体!極上でしょうが!見てるだけで幸せでしょうが!良く見なさいよ!外套の上からでも良く分かるでしょう!?ついつい触りたくなる位、肉厚で逞しい身体!
それに比べてあんたの連れてる男達!よく見てみなさいよ!ひょろっひょろのあんたよりも細い身体しちゃってさ!筋肉が足りなくて鎧が浮いちゃってるじゃない!しかもなによ、その服装!闘う気あんの!?どう考えても、見た目重視でしょうが!ヒラヒラしてる余分な布ばっかり沢山ぶら下げてバッカじゃないの!?それに比べてどーよ!!私のオッサン達の身体!この分厚さ!筋肉の盛り!硬い鋼の様な身体!
こんな体で護られて御覧なさいよ!胸キュンどころじゃないわよ!毎回毎回、死ぬほどキュンキュンしてるわよ!
しかもね、このオッサン達は優しくて、逞しくて、強いだけじゃないのよ!
【か・わ・い・い】んだから!
いい!?よく聞きなさいよ!?皆はね、私みたいな、ちんちくりんが【好き】って言っただけで真っ赤になっちゃう位、純情なのよ!?
【オッサン】って言うだけでションボリしちゃうし、【一緒の部屋で寝る】なんて話が出るだけでアタフタしてて可愛いんだから!!
どうよ!!このギャップ!!渋くて、厳つくて、逞しいオッサンがこんなに可愛くてイイ男で、こっちはもう、胸がドキドキよ!トキメクなんてもんじゃないわよ!
それに比べてそっちはどーよ!?
顔はイイかもしれないけどね、やたらとキラキラしてて、あんたより美人揃いじゃないのさ!そんなキラキラ美人野郎を連れて歩いて、惨めな思いして楽しいの!?あんたドエム!?
私はね、このオッサン達をこの世界で唯一信じてるの!あんたの連れてるクズに興味なんざ全く無いわよ!
私の仲間は最高の良い男達なんだから!一昨日来やがれバーカ!!!!!」
私は一気にまくし立てた。
女の顔は呆気にとられた顔から、徐々に真っ赤な鬼婆の様な顔になっていった。
そして、私の胸倉を掴んで、言い返してきた。
「誰が年増よ!!このクソガキ!あんたこそ、馬鹿言ってんじゃないわよ!!良く考えなさいよ!どう見ても私の勝ちでしょうが!イイ!?耳の穴かっぽじってよく聞きなさい!!男は・・・・・・・・・!!!!」
と、私は絶対に負けられない喧嘩をしている。
だから私は知らなかった。
その後ろで、ドエム女の連れてる青年たちが女達の迫力に涙目になっている事や。
ウェイン、グレン、アルド、トルーノが今までの比じゃない位、鼻血が吹き出そうな位に真っ赤になって、私を見つめている事や。
周囲のオッサン達が私の発言を聞いて
【頑張れ!女の子!】
【よっ!オッサンの希望の光!】
【やっちまえ!オッサンマニア!】
なんて叫んでいたことを。
私はまだ知らない。
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オッサン達は、自分たちの見た目のせいで
【カナ】が馬鹿にされることが何よりも申し訳なく感じております。
一般的に言う、
「私、こんなにブスなのに、彼の彼女で良いのかな?」
なんていう悩みを常に抱えているのと同じです。
オッサン達は恋愛とかしたことないので、基本、乙女思考です。
ついでに言うならば、カナの口が悪くても気にしません。
女の子に免疫無いから。
ありがちな
「女の子はふわふわで優しくて~」
なんて夢も見てないのよ。
知らないから。