宿とギルドへ。
すみません。
文章を一部変更させていただきました。
顔を真っ赤にしながら、
「迷子だな!俺!」
なんて言ったウェインに対して、
「おめぇが迷子かよ。大丈夫か?カナ嬢。なんなら、俺が引いてやっても良いぜ?」
とニヤニヤしながら聞いてきたグレン
「お前らうるせえよ。俺の服を掴んでていいんだぞ?カナちゃん。」
とニコニコしながら言ってくれたのはアルド
「おひぃさん、俺にしとくか?」
と何事も無かったかのように声をかけてきたのはトルーノ
そして
「っざけんな!俺が繋いでんだろ!手!譲れよ!空気よめ!」
と真っ赤な顔で怒るウェイン
そんなウェインを揶揄ってるのが丸分かりなオッサン達。
ふふふ。
仲良いなぁ。
ウェインは赤くなりやすい・・・・ってか、スキンヘッドだから真っ赤なのが分かりやすいし、
反応が素直だから、揶揄って楽しいんだろうなぁ。
私は、時々、こんな風に少年みたいになるオッサン達が可愛くてしょうがない。
何だか、オッサン萌えの扉を開いてから、
今までは全く感じた事が無い《母性》みたいなのを自分の中に感じる時がある。
ご飯を作ってるときに期待の目で見つめられてる時とか
ご飯を食べてる時の風景とかは言わずもがな。
時々、下品な話しちゃってる時とか
着替えの見張りを押し付けあう時とか
ちょっとした事でションボリしちゃう時とかでも
【ああ、もう、しょうがないなぁ。】
と思いつつ、可愛い、愛おしいとか思っちゃう。
まあ、流石にこのオッサン達のお母さんになるつもりは無いけども。
微笑ましいというか、面倒見てあげたくなる感じがする。
うん。やっぱり一緒に居たいなぁ。
オッサン達が嫌がらない限り、ずっと付き纏おう。
今、心に新たに決めました マル
可愛いオッサンは国宝だと思うよ。
この世界で希少だと言われている女なんかよりもずっと貴重な存在だよ。
大切にしなきゃ罰が当たるよ。
そんな風に考えつつ、オッサン達と仲良く言い合いをしているウェインと手を繋いで街を歩いていく。
さっきまでと違って、なんだか安心する。
大きくて温かい手が落ち着く。
そして、アルドが周囲の人間に《条件に合う宿》の聞き込みをしながら歩くこと5分。
宿に到着しました。
おわー。
なんというか、うん。
異世界の冒険者の宿なんだろうね。
しかも、男しか泊まらないであろう宿。
ボロボロで小汚い。
ここに泊まるのか・・・。
野営の方が良いと思う私は間違っているだろうか?
そんな事を考えているのが顔に出ていたのだろう。
「あ~、カナちゃん、言いたいことは分かるけどな、ここぐれぇしかないみたいなんだよ。5人まとめて入れて簡易キッチンついてるところ。」
と困った様な表情で告げてくるのはアルド。
「キッチン無しか2人部屋なら他にもあるらしいけどな、キッチン無しは問題外。2人なのは安全面で却下だ。諦めろ。」
と私の頭をワシワシと撫でるグレン。
「分かってる。皆と一緒でキッチン有りには代えられない。平気。住めば都っていうし。」
と自分に言い聞かせる私。
そして中に入っていくと、やはり注目を集める。
【女だ】
というざわめきが広がる。
あ、クサい。
おおう、臭い。
汗臭いというか、泥臭いというか、宿でお風呂入ってないの?
って感じの臭さ。
ちょ、宿ってこんなに臭いの?
出鼻くじかれた気分だよ。
ウェインは何も気にならないようで、そのまま宿屋のカウンターの男の人に
「おい、あんちゃん、キッチン付きで5人部屋あるか?」
と聞いた。
男の人は凄く驚いた顔をしていて、口を何回も閉じたり開いたりを繰り返し
「あ、ああ、一応、まだあるけど・・・、まさか、そこのお嬢さんも一緒だったりしないよな?あんた達とそこのお嬢さんが一緒だったりしないよな?」
と何故かしつこく聞いてきた。
「そのまさかだ。あ?何か文句あるのか?」
と額に血管を浮かび上がらせたグレンが問い
「護衛が一緒の部屋に泊まるのは当然だろう。」
とトルーノがフォローする。
それに納得がいかなかったのか、カウンターの男の人が私に聞いてきた。
「あの、この人達と一緒の部屋で本当にいいんですか?一人部屋もご用意出来ますし、お嬢さんなら料金はタダで構いませんよ?女性が泊まった宿となると拍が付きますからね。」
なんて丁寧な言葉で言ってるけど、お断りだ。
一人で泊まるとか恐怖でしかないよ。
虫とか出たらどうすんの。
変な奴が来たらどうすんのさ。
なので、お決まりの女王様モード発動!
「護衛なんだから同じ部屋で良いのよ。と言うか、私が誰と泊まろうとあんたには関係ない事でしょう。余計なお世話よ。それに、初めて来る宿で不用心にも女一人で泊まれっていうの?アホじゃないの?ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとしなさいよ。」
今回は正論だと思うので、特に心は痛まない。
いつもは心が痛むし疲れるし大変なんだけどね。
「さっさとしろよ、どんどん機嫌悪くなっていくぞ?良いのか?」
なんてカウンターの男に耳打ちしたのはアルド
それに合わせてみんなが頷くから、私も両腕を組んで足で床を何度か叩き、苛々している雰囲気を出す。
それらの行動に、カウンターの男はへらへらと笑い、揉み手をしながら
「あ、はい、分かりました。スグにご案内させていただきます!」
そう言ったかと思えば、台帳に何かを記入し、アルドに料金を請求。
アルドが全員分を纏めて払ったのを確認してから、宿内の案内をしてくれた。
と言っても、部屋とキッチンを使うための薪置き場と水汲み場だけだったりする。
それでもまだ後をつけてくる勢いだったのでグレンが無理やりカウンターに戻らせた。
そしてみんなで部屋に入る。
結構綺麗な部屋で、そんなに広くも無いが、困りもしないだろう。
竈は古いけどちゃんと掃除はされてるみたいだし、隣の水瓶も綺麗だ。
入って直ぐに机と椅子があり、その机の奥にベットが6つ。
左に3、右に3。
そしてその奥に簡易キッチン。
トイレやお風呂は共同らしい。
女性用は無いらしいので、オッサン達に着いてきてもらって、見張り番をしてもらうしかない。
申し訳ないし、不便極まりないなぁ。
なんて考えていると
「ジャンケンだ!」
と握りこぶしを振り上げるウェイン
「おう!こいや!俺が勝つ!」
と同じようにグーを作るグレン
「それしかねぇよなぁ。」
と苦笑しながらもグーを出すアルド
「勝ったやつから決めてくぞ。良いな?勝負だ。」
と淡々としているトルーノ
寝る場所決めのジャンケンが始まった。
結果は・・・・。
『っしゃあああああ!!!』
ウェイン&グレンの前衛コンビの勝利。
素晴らしい勘を最大限に使って一人勝ちしたウェイン。
勝負強さを発揮して、何十回ものあいこの上で勝利したのはグレン。
『カナ(嬢)!こっちだ!』
とニコニコの笑顔で私を2人の間のベットに呼んだ二人の背後に尻尾の幻覚が見えた気がした。
なんだか、勝ち取ったぜ!みたいな誇らしげな顔をしていて可愛い。
大型犬みたい。
頭撫でたいなぁ。
大人の男の人だし、嫌がりそうだからやらないけど。
「それじゃあ、2人ともよろしくね。何かあったら起こすかもしれないから覚悟しててね?」
と二人の間のベットに荷物を置きながら話しかけた。
『任せろ!』
声を揃えてそう宣言する2人は頼もしい。
その後ろでちょっと つまらなそうな顔をしつつ、テンションの高い2人に呆れているアルドとトルーノがいるのが面白い。
荷物を置いた後は少し休憩して、ギルドに登録に行く。
その時に、オッサン達のパーティーに参加登録させてもらって、魔物を換金する。
今の時間帯は少し混むらしいので、時間をずらす為にも少し休憩です。
私の鞄から出来立てホカホカの調理パンを出して、アルドが入れてくれたお茶と一緒にいただく。
皆からの【美味い!】との賛辞を聞きつつ、身体を休める。
「あー、なんか疲れたな。このまま寝ちまいてぇ。」
騒ぎつかれたのか、目を擦りながら、眠そうなウェイン
「俺もねみぃー。このままグダグダしてぇー」
とベットに横になったグレン
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。ギルドでは何があるか分かんねぇんだからな。引きづってでも連れてくぞ。文句ねぇな?」
と二人に告げるアルド
それに対して二人とも
『お~、わーってるー』
なんて揃えて返事するんだから、この前衛コンビは阿吽の呼吸なんだと思う。
因みにトルーノは無言でお茶をすすってる。
なんともお茶が似合う渋い男である。
なんだか、今までの野営と違って部屋にいるからか、皆が素な感じで癒される。
緊迫感も無いし、のびのびとしてて良い。
まったりする。
全員で同じ家で暮らせたらこんな日々を過ごしていけるんだろうなぁ。
なんて考えていると
「カナちゃん、そろそろ平気か?時間的には頃合いだと思うんだけどよ。」
と私の身体を気遣ってくれるアルド
「あ、うん。もう大丈夫だよ。私も眠くなってきたし、早いとこ行って終わらせちゃおう。」
出かける準備を終えて、皆でギルドに向かう。
荷物はすべて持っていく。
侵入者を防ぐ為か、アルドが笑顔でドアに何か仕掛けをしていた気がするのは気のせいだろうか・・・?
そして、私たちは宿を後にしてギルドへ向かった。
行く際に
【迷子になったら大変だからな。手を繋ごうか】
とアルドに手を引いてもらったのは、子供扱いじゃなくて女性扱いだからだと信じたい。
__________________________
到着しました。
この街でのギルドに。
中にはそこそこの人がいた。
コレで全然混んでないなんて・・・。
混んでる時には来たくないな。
と冷や汗を流しつつ、カウンターに向かう。
私のギルド登録をするためなんだけど・・・。
周囲からの視線が痛い。
ここでもか。
女女女ってうるさいよ。
そんなに女が珍しいのか!
って言ってやりたいけど、珍しいんだったわ。
肯定の返事しか返ってこないだろう。
でも、地味にストレス溜まるわ。
こんなにジロジロと、上から下に見られて。
私が苛々しているのが分かったのか、ウェインとグレンが周囲の視線を遮るように私の前に立ってくれた。
そして私の両サイドを固めるアルドとトルーノ。
大柄なオッサン達に囲まれて、私の姿は見づらくなったのだろう
ざわつきが止み、私たちの歩く音だけが響いていた。
無事にカウンターに到着。
女性ではなくて優しそうな若い男性だった。
良かった!女の人じゃなくて本当に良かった!
私は安心していたんだけど、オッサン達の目つきは厳しいままだった。
カウンターの職員は私たちに気付き、声をかけてきた。
「あ、いらっしゃいませ。ご用事はなんでしょうか?」
穏やかそうな人だ。
「こいつの冒険者登録、それと俺らのパーティーへの登録だ。」
アルドが私を指さして説明する。
その時に初めて私の存在に気付いたらしい、職員の男性は
「わ、女性ですか。珍しいですね。」
と驚いたのち、私に
「冒険者は危険を伴う、命を懸ける仕事です。それでも大丈夫ですか?」
と問われた。
ついつい、丁寧に答えそうになったんだけど、ここでも女王様モード発動!
「そのぐらい分かってるわ。理解した上でここに来たんだから問題ないでしょう。早く登録してちょうだい。」
私の雑な返答に気を悪くした感じも無く、
「分かりました。では、この水晶の上に手を置いて、名前、年齢、職種を宣言してください。犯罪者でもない限りそのまま登録されます。」
と差し出してきたのは占いとかに使いそうな水晶。
手を乗せて
「カナ。18歳。剣士。」
そう述べると同時に水晶は淡い水色の光を放った。
冷たかった水晶が温かくなって、手のひらに熱を移している感じだ。
発光が終わると職員の男性から
「登録が完了しました。・・・こちらの方々のパーティーに参加ご希望だという事ですが、カナさんはそれで宜しいのですか?当ギルドとしては、少ない女性冒険者を護る措置として、もっと上位の冒険者パーティーに参加できるように掛け合う事も可能です。また、女性がいるパーティーもございますので、そちらの方に入れるように話を通すことも可能です。本当にこちらの方々で宜しいのか、今一度お考えください。」
と真剣にお話をされた。
この人は真剣に心配してくれているらしい。
脅されてたり、騙されたりしていないか、他の好条件のパーティーにも話をしてあげるから自分で選べ。
と、最後の決断をする時間をくれてるってことだよね、多分。
でも、私には関係ないけど。
「大丈夫よ。私はこの人達が良いの。この人たち以外は嫌なのよ。他の人間じゃダメ。信用出来ない。このメンバーが良いの。他の人間と組むぐらいなら、冒険者じゃなくて一人で寂しく農業でもやるわ」
と返事をしたら、後ろにいた見知らぬオヤジ達がざわついた。
「農家の嫁希望か?!」
「マジか!うちの3男の嫁に!」
「うちの!」
「うちに!」
って違うよ!!!!
なんでそこだけ強調して聞いてんだよ!!
聞き耳を立てるんなら、全部聞いとけ!
話が変な方向に行きそうなので、修正しておく。
「もし、この人たちと冒険者が出来ないなら、一人で、一人で農業するわ。一人で寂しく農家として生きて死ぬわ。生涯一人で。それぐらい、この人達が大切なのよ。この人達が良いの。他はいらない。この人達が好きなのよ。」
「そうですか・・・。分かりました。カナさんがそう決めたのであれば問題ございません。こちらの方々のパーティーへの加入で宜しいですね?」
と職員さんは納得してくれた。
「そうよ、早くしてちょうだい。」
私の言葉に頷き、作業を開始した職員を横目に、オッサン達を見てみると
顔が真っ赤だった。
ああ、ごめん。
なんか、気合入りすぎて好きとか言っちゃった。
周りもざわついてるし、ごめんね。
恥ずかしかったよね。
申し訳ない。
そう、先ほどから一言も発していないオッサン達は、カナが言った
【自分たちじゃないと嫌だ】
【他の人間はいらない】
【自分たちが良い】
【自分たちが好き】
との発言に照れ、赤くなった顔とにやける口元を必死に抑え、叫びたくなるのを抑えるのに苦労していた。
無事に登録が終わりそうで良かった。
そう、安心して気を抜きそうになっていた、その時
突然、冒険者ギルドの扉が開いた。
そこから現れた存在と大騒ぎになるなんて、その時の私は知らなかった。
グレンさんのお留守番は無しです。
混乱させてしまい、申し訳ございません。