走って着いた先。
私とオッサン達は走った。
本来なら隣町に行く予定だったのだが
行き先を知っている
【あのパーマ達が追って来るかもしれない。】
という考えから、進路を90度変更して山を越えることにした。
山を越えた先の街なら大丈夫だろうという全員が納得した結果だった。
オッサン達は隣町に行きたかったのでは?
という疑問もあったのだが、オッサン達曰く
『特に行き先は決めてねぇんだ。ギルドがありゃ良い。そのまま他の街も通って、どんどん旅してこうぜ』
との事で、このまま山を越えた先のギルドに向かう事になりました。
が、
想像していたよりも大変だった。
山越え、なめたらいかん。
チートだから体力あるし、体も強くなってるんだけど
周りの木々に視界が邪魔される感じとか、斜面をずっと走るのが妙に疲れを感じたりとか
慣れていないせいか、どうしても精神的な疲労がたまる。
そんな私を オッサン達は励ましつつ急かした。
まあ、あのパーマ達が追ってこないとは限らないから急がなければならないのは分かるんだが、
事あるごとに
【俺が担ぐか?】
って聞かなくて大丈夫だよ、ウェイン。
心配は嬉しいんだけど、この斜面を担いで走られるのは怖い。
なので自力で頑張ります。
遅くならないように、迷惑をかけないように頑張って斜面をダッシュ!!!!
そしてついにやってきた!
お待ちかねの普通の食事の時間です!
待ってました!
果物じゃない普通の食事!!
今日のメニューは照り焼きハンバーグ!!
グレンにご飯を炊いてもらって、アルドにお肉をミンチにしてもらう。
そして私は捏ねる&味付け!
サラダも作っちゃうよ!
スープはピリ辛の豆スープ!
ヒャッホーイ!
熱々の白米さんと照り焼きのハンバーグさん!
考えただけで涎が出る!
涎はたらさないように注意しつつ、急いで、急いでご飯を作っていく。
オッサン達は既にそわそわしております。
分かるよ。
お腹空いたもんね。
良い匂いだもんね。
お醤油の煮詰まる匂いは神だ!
とワクワクしながら作り上げました!
オッサン達は涎を拭いつつ、既に一列に並んで茶碗を差し出しているのですが、ちょっと待って!
私にもどんぶり茶碗をください!
米山盛りで!
そしてみんなでお食事タイム。
相変わらずの食事風景ですよ。
ウェインは
「ガツガツ!んまい!モグモグ!」
と食べながら話し
グレンは
「あー。うめぇなー。マジでうめぇ。」
と同じ言葉を繰り返しながら食べ進め
アルドは
「うんうん。やっぱりカナちゃんのご飯がいいな。美味いし嬉しい。」
と感慨深そうにご飯を噛み締め
トルーノは
「・・・・・・・・・・。」
と目を見開き、ただひたすらに食べ進める。
ああ、この食事風景が懐かしく温かいものに感じる。
素晴らしいね。
普通が一番だ、と強く実感しました。
そしてご飯の時間も無事に終わり、ウェインに剣を教わり、体を拭いて新しい服に着替えてから就寝なのだが、
着替える時の見張りを押し付けあうの、止めてもらって良いですか?
地味に傷つくから。
【お前やれよ】
【いや、お前が】
って言いながらさ。
別に見張りなんてなくても良いのにね。
着替えなんて直ぐだし。
まあ、そんなことを言えばアルドやトルーノから保護者目線でのお叱りが来そうなので、お口にチャックですけど。
うむ、早くしてほしい。
あ、決まりました?
はーい。
今日の生贄はトルーノに決定ー。
すぐだから、ちょっとの間、我慢しててね。
と心の中で合掌しつつ、早着替え。
腕を組んで仁王立ちしているトルーノの後ろ姿は男らしさ満点です。
眼福、眼福。
さて、さっぱりとした後は寝るだけです。
アルドが言うには、明日頑張れば、明日の夜には街に着くだろうとの事なので、今のうちにしっかりと眠って疲れを取りたいと思います。
なんて考えてたら朝でした。
いつも思うけど、私、寝つきが良過ぎませんかね?
警戒心はどこに行ったの?
思ってるよりも疲れてるのかな?
とホワホワしている頭で考えていると
「カナー!起きたか?!飯にしてくれ!腹が減ったー!」
とウェインが騒ぐので即起床。
「おー起きたか。おはようさん。カナ嬢は相変わらず、寝んの早ぇのな。」
と笑うように話すグレン
「おはよう、カナちゃん。疲れは取れたか?ぐっすり眠れてたみてぇで安心したけど、山登りは初めてだろ?足なんかは大丈夫か?」
と朝からお母さんみたいに心配してくれるアルド
「おひぃさん、おはよう。」
と言葉少なに、頭を撫でていくトルーノ
うんうん。
やっぱり素敵なオッサン達だよね。
この安心感。
あのパーマ達とは段違い。
最初に出会えたのがこの人達だったことに改めて感謝。
出来立てホカホカの朝ごはんもたんまり食べて、いざ出発!
昨日よりも緩いスピードで山を登っていく。
下りはあっという間に着くらしい。
斜面を歩くコツ、斜面の厳しいところにしか生えないような薬草を教えてもらいながら行く。
休憩をはさみつつ、時々ひょっこりと現れる魔物をブッ倒し、グングン進んでいく。
そして山頂に着いた時、
【ぐぅぅぅぅ~】
という音。
「んあ、12時だな。っしゃ!飯にしようぜ!」
とお腹を擦りながら告げるウェイン。
流石、12時ぴったりに鳴る腹を持つ男。
と、感心しつつ、グレンとアルドと共にご飯の準備。
しようとしたら
木からぶら下がるミノムシが目の前に・・・。
目の前に、ミノムシ
ミノムシが・・・目の前に・・・
「んぎゃああああああああ!!!!!」
嘘だろ!?
なんで目の前、数センチの位置に降りてきてるんですかミノムシさん!
しかも顔面に長さで止まるとか、お前、本当に何なのさぁぁ!!!
パニックになる私の叫び声を聞いて、アルドとグレンは直ぐに振り返り、私の方を見た。
剣を抜きかけた二人だったのだが、私が騒いでいるのがミノムシだと知って唖然としていたが、アルドが私の手を引いて、ミノムシを回避させてくれた。
「カナちゃん、ミノムシ苦手なのか?」
と頭を撫でながらアルドが聞いてきた。
「違う。別に虫が嫌いとかじゃなくて、ただ、急に、目の前に、顔の凄く近くに虫が現れるのって驚くのよ。」
いくら虫が苦手ではないとはいえ、口に入りそうな近さに虫がいるのは遠慮したい。
あー、ビビった。
鳥肌立っちゃった。
そんな私に苦笑しながら、グレンは
「まあ、虫が苦手じゃねぇ女なんて聞いたことねぇしな。もし、また苦手なもんが現れたらすぐに声かけろ。取り除いてやる。ま、戦闘の時はそうはいかねぇがな。」
と頭をわしわしと撫でてくれる。
あービックリした。
そう思っていると
『どうした!!大丈夫か!!』
とウェインとトルーノが息を切らして現れた。
おおう。どうしよう。ダッシュで来てもらって申し訳ない。
まさか、ミノムシさんがこんなに大騒ぎになるなんて。
ちゃんと四人に謝罪しておこう。
「ごめんなさい。目の前にミノムシが現れて驚いただけなの。驚かせてごめんね。」
謝罪すると、ウェインもトルーノも
『気にするな』
と言ってくれた。
皆、口々に
【虫はなぁ、急に飛んで来たりするからな】
【俺、目に入った事あんぜ】
【口にも入ったりするからなぁ】
【俺も好かん】
と虫が好きなオッサンが居なかったことに安堵する。
もし、虫好きなオッサンが居たら、わざわざ見せに来たり、虫の話とかされそうで怖いからね。
オッサン達の虫トークを聞き流しながら、ご飯の準備を始めた私とグレンとアルド。
いつものようにグレンにはご飯を炊いてもらい、アルドにはお肉を切ってもらう。
が、
肉を切り終わったアルドが小さな袋に手を入れようとしているのが目に入った。
その袋からは異臭が漂った。
「アルド!?何してるの?!何、その袋?!」
袋を開けた途端に臭うその刺激臭に驚き、全力でアルドを問い詰めた。
私の迫力に驚いたアルドは、一歩後ろに下がりながら、
「んえ?あ、ああ、悪い!つい、いつもの癖でな。いつもはこの《腐り止めのスパイス》を入れんだ。」
と見せてもらったのは、まさに悪臭の塊の粉!
これで理由が分かった!
今まで、なんで新鮮な肉を使っていてもこんなに刺激臭の食事になるのかと疑問だったけど、コレが原因だったんだ。
詳しく話を聞くと、この《腐り止めのスパイス》は何にでも振りかけるスパイスらしく、
塩や胡椒よりも頻度が高い。
肉だけじゃなく、魚、ご飯、パンにも入れるから驚きだ。
この世界での塩の様な存在らしい。
新鮮な肉や魚にも振るので、腐り止めと言うか、単純に味付けとしても重宝されているらしい。
こが必須スパイスなら、何もつけないで食べたほうが何倍も美味しいと思うけどな!!
でも長年にわたって【これを振っておけば間違いない】と言われていたんならしょうがないか。
にしても、この匂いはねーよ。
今すぐにその袋を捨ててほしいくらいだ。
まあ、今はお腹を空かせているウェインが、ご飯を今か今かと待っているので、ここで話は終わり。
「取りあえず、アルド、グレン、そのスパイスは今後使用は禁止ね?良いね?」
私の言葉に2人は壊れたおもちゃの様に縦にゆっくりと頭を動かし、頷いた。
よし。
了解は得た。
今後、我らの食卓でこの匂いに出会うことは無いだろう。
あー良かった。
安心安心。
では、さっそく、ご飯を作りましょう。
分厚いお肉はステーキで。
スープは芋たっぷりで。
どんぶりに葉野菜をドーン。
その上に肉をドーン。
その上にタレをみょーん。
で出来上がり!
うんうん。
今日も上出来だね。
オッサン達も美味しそうに喜んで食べてくれてるし、幸せだなぁ。
私、一生、オッサン達の飯炊き係として生活してもいいかも。
こんなに美味しそうに食べてもらえるなら作り甲斐あるし、嬉しいし、幸せだし。
なんて考えつつも、ご飯は終了。
ご飯の後片付けを他の人たちに任せて、
「カナちゃん、出発の前にその辺の散歩いくか?」
と、私にトイレに行くか?と問いかけてくれるアルド、マジで紳士。
他の人間が聞いてても良いように、散歩とか言ってくれて、本当に紳士。
アルドにお願いして見張りをしてもらい、その後、無事に合流。
そしてまた歩きます。
歩きます。
時々、現れるのはオークとゴブリンがほとんど。
それとウルフも何匹か。
比較的多い気がするんだかどなぁ。
「おひぃさん。山の中は平地よりも魔物が多い。特にここは人があまり通らないからな。魔物を倒す人間が少ねぇって事だ。強いのもいるのかもしれねぇからな、気を抜くなよ。」
といつものように山登りの心得を教えてくれるトルーノ。
なるほど。
人が通らないから魔物が多いのか。
まあ、本来行くはずだった道が一般ルートらしいしな。
あのパーマ達のせいで苦労してるかと思うと腹が立つな。
とは思いつつもグングン歩きます。
そして、遠くに見えてきました。
街?
木で出来た門があって、門番もいるみたいなんだけど、古くてなんだか暗い感じ。
「カナちゃん。あそこから街の中に入るんだけどな、約束のおさらいしとこうか。一、異世界の事と魔法の事は内緒。もしくは俺らに相談。二、外で使う鞄はカモフラ鞄のみ。俺たちの部屋、及び、俺たちが許可した時は神様鞄も可。三、食事は俺たちの分だけ、部屋で作って食う。他の奴らに出すのは駄目だ。あ、後、俺たちの側からは離れ無い事。いいな?」
と子供に言い聞かせるかのように繰り返すアルド。
「それぐらいで良いだろ。おひぃさんは馬鹿じゃねぇから大丈夫だ。んで、おひぃさん、申し訳ねぇんだが、ワイバーンを神様鞄から少し出してもらっても良いか?この間のオーガもだが、少しでも売って金を作っておきてぇ。おひぃさんは金持ってねぇだろ?おひぃさんが自由に使える金がねぇのは不便だろうからな」
とトルーノが言ってくれたんだけど
「出すのは全然かまわないよ。ハイ、これ。でも、言わなかったっけ?私、お爺ちゃん神様から貰ったお金が大量にあるよ?人生、遊んで暮らせるくらいには。」
うん。
お爺ちゃん神様がくれたパープルのお財布にはまだまだたくさんの金貨銀貨がございます。
それとは別に普段使いの財布にも金貨銀貨ががっぽがっぽである。
それを聞いて口を開けてポカーンとした状態のオッサン達。
いち早く、正気に戻ったウェインが
「マジかっ!?もしかして俺達よりも金持ち?!え?!」
となんでか慌てているウェイン。
それに対して
「そうか。流石だな。神様は抜かりがない。なら安心だな。カナちゃん、分け前は5人で平等にで良いか?カナちゃんが金を持ってないなら全部カナちゃんにと思っていたんだが、それでいいか?」
と聞いてきたのはアルド。
「勿論。私は全然使ってないのが沢山あるし、大丈夫。むしろ、パーティの資金に入れて、そこから私の宿泊費とか出してほしいな。」
と頼んでみる。
「ああ、金の詳しい話は後でな。飯処で・・んや、宿で飯でも食いながら話す。まず、全員、肉を仕舞うぞ。」
と鞄を開いたのはグレン。
そしてみんなで鞄に肉を仕舞い、歩きながら今後のご説明。
まず、宿を探す。
部屋の一つ一つに簡易キッチンのついている、比較的しっかりとした場所の確保。
風呂があれば更に良し。
出来れは、5人で一部屋。
ここでオッサン達は
『何もしないから!!!!』
と顔を真っ赤にして叫んだけど、今まで一緒に野営をしてきた仲でしょうが。
今更、疑ったりしませんよ。
続いて、ギルドに行って私の冒険者登録&オッサン達のパーティに加入の手続き。
そのあとはオッサン達の鞄から出す魔物の換金。
それが終わったら、部屋に戻って、街での過ごし方についてのお勉強。
だそうで、中々にハードスケジュールです。
既に夕暮れですからね。
急がないと!!!
と門のところへ急ぎます。
そして、またですか。
門番は私の顔を見て、
「お!女だ!」
って言ったかと思えば、他の門番を呼び集めた。
おい、私は客寄せパンダか?
とちょっと不愉快に思っていると
オッサン達がすぐに壁になってくれた上に、
【俺たちの女だ。寄るな。】
と声を揃えてくれてキュンとした。
惚れちゃうじゃないかぁぁぁぁぁ!!!
キュンってしたよ!
オッサン萌えの扉が全開バッチコイ!
なんて思っちゃうよ!
もう!
なんて乙女思考全開にしていると、
オッサン達と門番の言い合いが始まった。
「俺たちがそこのお嬢さんにこの街を案内するぜ!もうすぐ夜だからな!安全のためにも!」
と門番が言えば、
「いらん。俺らがいく。不要だ。」
とオッサン達が返し、
「俺達と食事でも」
と門番の一人が言えば
「俺達との約束がある。一生分のな」
とオッサン達が返す。
「お前ら、ずっと一緒にここまで来たんだろう!?なら、少しくらい譲れよ!」
と門番が言えば
「うらやましいか?そうか。だろうな。だが、譲らん。」
とドヤ顔のオッサン達。
ねえ、こんなことしてる時間がもったいなくない?
早くしないと宿が無くなるんじゃないの?
あ、思わず、ため息が出てた。
私のため息に、オッサン達全員がこちらを振り向き、少し顔を赤くして、
「い、急ぐか。宿がしまっちまうからな。通行料はいくらだ?」
と全員分をアルドが一括で強引に支払い、ウェインとグレンが門番を睨んでいるのをトルーノが引きづって街の中へ入っていった。
私はアルドの隣をキープしつつ、街の中を見て歩く。
前の街よりも暗くて、なんだか冒険者の街って感じ。
これは気合を入れていかないと。
迷子になったら面倒ごとに巻き込まれそう。
そう考えていたら、思わず、アルドの服の腰の辺りを掴んでしまった。
私に引っ張られてアルドが立ち止まってしまったので
「あ、ごめん。」
と慌ててアルドの服から手を離すと
「うら!」
と目の前に大きな手が現れた。
手から視線を上げてみると、少し赤い顔のウェインと目が合った。
「初めての街で緊張してんだろ?迷子になっても大変だしよ、手、引いてやるから。ん。」
と再度手を差し出してきた。
あの、ウェインさん?
赤い顔をして手を差し出されると、凄く照れ臭いのですが。
いつもの豪快さで勝手に繋いでくれると嬉しいんだけど。
決定権は私にある。
みたいで照れるんですけど。
そして、照れてるオッサン可愛いよ!!
なんて邪心を抱きつつ、有り難く、ウェインの手を取らせていただきます。
「ありがとう。ウェイン。これで迷子にはならないね。」
と、出来るだけ平常心を装って話しかけたのに、
「お、おお、おおう!そ、そう、うん、だな!迷子だな!俺!」
とか真っ赤になって訳分かんなくなってるこのオッサン、どうしたら良いですか?