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朝から。

起きたら男の人の分厚い胸板が目の前にあって

心臓が止まるかと思った。

人生初の体験でございます。はい。


一瞬で頭が真っ白になり、

目線を右斜め上にあげてグレンの顔が見えた瞬間には驚きで心臓が飛び出るかと思った。


ドゴドゴ煩い心臓を落ち着かせながら考えて(ようや)

昨日、臭いから守る為に皆が色々してくれた事を思い出した。

その時にグレンが代表して抱えてくれたんだった。

皆が食べ終わったら移動するだろうから起こしてくれって言ったと思うんだけど、気を使ってくれたんだろうなぁ。

起こさないように抱えて移動するなんて面倒だっただろうに。

でも、精神的に疲れてる時に睡眠が長くとれるのは有り難い。

精神的にはまだ疲れてる感じがするけど、身体は軽そうだ。


という現実逃避はここまでにして。

私、動けないんだけど、どうしたら良いの?

思ってたよりもガッチリと腕がまわっているのですが。

横腹に手が組まれてるんですが・・・。

これ、お腹の肉がバレバレだよね?

そして、もう少し上に来てたらヤバイ感じの奴だよね?

すごく気まずくなるやつだよね?

これ、どうやって起こしたらいいの?

それとも寝たふりして、グレンが起きるのを待つべきなの?

どれが正解なの?

教えて!神様!



・・・・・・。

よーし、寝たふりにしよう!

秘儀!

【私は何も見なかった】

でいこう!


なんて考えていたら、頭上から


「ん゛」

という擦れた男性特有の低い声と吐息が聞こえた。


更には右側の額にザラリとした(ひげ)が当たり、ドキドキするなんてもんじゃない。

自分の心臓の音がうるさい。

目を閉じて寝たふりをしようとしてるのに、(まぶた)痙攣(けいれん)する。


握りしめた手汗が半端ない!

モテない女子代表の私には厳しいよ!

誰か助けて!

・・・・パーマ達以外で!

オッサン達の誰でも良い!

私を助けて!

今の私は鼻息の荒い、変質者みたいだから!

誰でも良いよ!

助けてくれたら、今度、お肉を進呈させていただきますから!!!!!


と願ってみると願いが通じるどころか、

グレンが額に頬ずりしだした。


違う!違うよ!

動いてほしいのは貴方の頭じゃない!

この逞しすぎる両腕を離してほしいのよ!

もしくは他のオッサンに起きてほしいのよ!


と再度、念じてみる。


が、またしても不発に終わる。

しかも、今度は


「んあ゛ー。ねみぃ。ぬくい。」

とか耳元で囁くように声に出しながら、更にぎゅうっと抱き締められた。


ちょ、ちょっと待って!

違う!グレン、お前じゃない!

頼むから動かないで!

結構、締まってる!

腹部が結構、締まってる!

女の子を抱きしめる力加減じゃない!

落としにかかってるに近い!

別の意味で鼓動が早くなるから!


思わずお腹に力を入れて堪えていると誰かが近づいてくる気配がした。


「グレン。グレン、起きろ。お前は朝飯作っちまえ。その間、俺がカナを抱えてるからよ。うら、交代しろ交代」

といつも声がうるさいウェインが小さな声でグレンの肩を揺する。

それと共に揺さぶられる私。


そして起きたグレンは


「んあ?あ?あー、あー、・・・・うおお!」


と最初は寝ぼけていたのか、不機嫌そうにウェインを睨んでいたみたいだけど、

おそらく、私を腕の中に抱えてるのに驚いたんだろう。

最後のうおお!は叫び声になっちゃってる。


今だ!起きるなら今しかない!

このタイミングで、この音量を耳元で聞いたのに寝てるとか無理ありすぎるからね!

よし!起きるぞ!


「おはよう。グレン、ウェイン。あ、グレン、抱えてくれてありがとう。ウェインも、水浴びまでして近くにいてくれてありがとうね。」

と起きて声をかけてみる。


私は普通に挨拶したつもりだったんだけど、

グレンとウェインは

『すまん!起こすつもりはなかったんだ!声でかくてすまん!まだ早ぇのに!』

とかなんとか二人で同時に喋ってる。

うん。

私、そんなに沢山の言葉を同時に聞かせられても対応できないよ?


と放心状態でいると

後ろから2人を軽く小突き、


「何言ってるか分かんねぇぞ。お前ら、もう少し静かにしろ。パーマ達が起きちまうだろうが」

と呆れたようなトルーノの小さい声が聞こえた。

続いて


「おはよう。カナちゃん。よく眠れたか?パーマ達はまだ寝てっから、少し早いが食事とか身の回りの支度とかしちまおうな。」

と私を持ち上げ、グレンの腕から救出してくれたのはアルド。


おおう、やっとドキドキ地獄から解放された。

ほっと一息。

あ、そうだ。

昨日の事をアルドとトルーノにもお礼を言わないと。


「アルド、トルーノ、水浴びとかパーマ達対策をしてくれたのグレンから聞いたよ。ありがとう。嬉しかった。」

とお礼を言う。


すると、

『いやいや、全然、大丈夫だ。気にすんな。俺たちが勝手にやったことだ』

とこちらもアルドとトルーノが同時にこんな感じの事を言ったが、

さっきの2人と同じ流れになりそうだったので


「ありがとう。今日も一日、迷惑かけると思うけど、よろしくね。」

と話をぶった切ってもう一度お礼を言う。


すると、二人そろって照れたのか頭を掻きながら

『おう。』

と少し赤くなった顔を横に逸らされた。


お礼の言葉に照れて顔を赤くするオッサン、萌えます。

朝から眼福。

ごちそうさまです。


なんて考えてると、

さっきまで煩かったウェインとグレンが居なくなってた。

いつの間に居なくなったのか。

全然分からなかった。

多分ご飯の準備に行ったんだろうね。

その後、私はアルドに連れられて、グレンが料理している場所の風上。

臭いが気にならないところで水を汲み、顔を洗ったり、体を布で清めたりした。


少しすると、グレンとウェインがこちらに来た。


「アルド!お前、飯食って来いよ!トルーノが見張りしてるから、早くしてやれ!んで、カナ!お前の果物持ってきたぞ!」

と褒めて褒めて!と尻尾を振る大型犬に見える、ウェイン。


「俺らはもう食った。水浴びも済んでっから、後は俺らに任せろ。」

と果物ナイフをグルングルン回し、アルドを帰したグレン。


って、え?

また水浴びしたの?

昨夜は抱っこしてもらうし、しょうがないと思うけど、今から歩くし、そんなに近寄らないし大丈夫だよね?


「ねえ、朝は水浴びしなくても良いんじゃない?そんなに近くにいる訳じゃないし、服に着いた臭いなんて少しだし、歩いてれば臭いも飛ぶでしょう?」

疑問に思ったので聞いてみる。

もしかしたら、何かほかに理由があるのかもしれないし。


そう思ってのだが、なんだか様子がおかしい。

2人とも顔を合わせて言いにくそうな顔をしてる。

口火を切ったのはウェイン。

手をワタワタ動かしながら


「あー、っとな、臭いは時間が経てば飛ぶかもしんねぇけどよ、カナは《クサい》と思うんだろ?」

と、変な顔をしてる。


まあ、臭いよね。

食べた後とか、冷えたのが近くに置いてある程度だと、全然我慢できる臭さだけど。

調理中と温かいのは兵器だよね。

最初の頃はまだ大丈夫だったけど、一度口に入れてあの味を知っちゃってるから、過剰に反応しちゃうし。


「うーん。まあ、臭うとは思うけど、そこまで近づかないし大丈夫じゃない?」

と正直に答えると


「んや。カナ嬢に臭いと思われるより水浴びの方が何倍もマシだ。」

と真剣な表情で答えるグレン。


あー。

まあ、そうだろうね。

一緒に行動する女の子から

【このオッサン臭い】

なんて思われながら道中を一緒に行きたくないよね。


うん。

分かったから、ウェイン、自分で【クサい・・俺、臭い?】なんて呟きながら切なそうな顔しないで。

落ち込んでる大型犬に見えるから。

頭撫でてあげたくなるから。


「そっか、なるほど。もう少しすれば少しは慣れると思うんだけど、今はまだ厳しいから助かるよ。寒いのにごめんね。ありがとう」

とお礼を言うと


「いや、全然!大丈夫だ!さみぃのは我慢できるけど、カナに《クサい》って思われたら泣ける!だから良いんだ!」

となぜか必死に首を振るウェイン。


「それな。カナ嬢に心の中で【こいつクセェ】なんて思われてると思っただけで落ち込む。」

と想像したのか落ち込んだグレン。


ちょっとフォローしとこう。


「確かに、食事は苦手な臭いというか、刺激臭だけど、みんながクサいなんて思わないからね?食事した後のみんなでも、食事の残り香がクサいだけで、皆がクサいんじゃないからね?」

といってみると


『おう!』

という元気なお返事を二ついただきました。


うん。

大変素直でよろしい。

ついでに、元気なオッサン、可愛いよ。

なんか、この二人は同じ属性だよね。

ギャップのあるオッサンっていうか、少年の心があるっていうか、可愛いところがある。

癒されるよ。


そんな二人に癒されつつ、グレンに果物を剥いてもらって、ウェインが持つ皿に乗ったのを食べ進める。

正直、果物なんてそんなにお腹に溜まらないし、すぐにお腹が空く。

でも、がーまーんー。

この世界の冒険者は食パンにでも涎垂らすくらい鼻がいいみたいだし。

あのパーマ達に隙は見せないぜ!

2、3日、ダイエットしてると思えばいいのさ!

と無理やり自分のお腹を説得する。


果物を食べ終わって、たっぷり時間を取ってから他のみんなの元へ合流する。

駆け寄ってくるパーマ達。


「お嬢さん!おはよう!朝ごはんは食べたって本当?」

と朝から元気いっぱいのバルロ。


「おはようございます。まだなら今から作りますよ?」

とオッサン達を全面的に信用してないらしいアーチス


「おはよう!今日も一日頑張ろう!俺達がついてるから大船に乗ったつもりでいると良いぞい!」

と朝から鬱陶しいマシュー


お前らと居ると泥船に乗った気分だけどな。

とは口に出さず

女王様モード発動!


「朝食なんてとっくに食べたわ。ほら、行くわよ!さっさとしなさい!」

と昨日と同じように先頭を歩くように指示する。


パーマ達は何か言いたそうな顔をしていたので、面倒なことになる前に先手を打っておく。


「先頭で魔物を倒すんでしょ?じゃなきゃ、一緒に行動する意味ないものね?私を護れない人間を連れてる必要なんてないものね?」

と言ってやると


『任せて!』

と先頭を歩き始めたパーマ達。



オッサン達はため息を吐きつつ、昨日と同じ陣形で歩く。

昨日と同じようにパーマ達が話しかけてきては、アルドが撃退。

その繰り返し。

んで、時々現れるゴブリンやらウルフを

ポーズを決めながら大げさに倒していくパーマ達。

そんな風に歩いていると、


「来たぞ!構えろ!」

と響くウェインの声。


先頭を歩くパーマ達が反応するよりも早いウェインの危機察知能力には脱帽だ。

即座にオッサン達は守備の構えになる。

グレンとウェインが前に出て、トルーノとアルドが私を連れて少し後ろに下がる。

そして、


《5匹のオーガ》


が現れた。


おお!

オーガは初めましてだ。

本当に人間っていうか、鬼に近い感じなんだなぁ。

姿かたち、斧の構えとかも。

正直、オークやらワイバーンよりも倒しにくいかもしれない。

人間に近いから後味悪そう。

とか悠長に考えてたんだけど、

オーガが現れた瞬間、パーマ達は大騒ぎ。


「うそっ!なんでオーガが!!どうしよう!!」

「なんだとっ!クソがっ!」

「お、お、お、オーガだぞいぃぃ!!せん、戦闘準備ぃぃぃぃ!!」


なんて震える手で剣を握り、構えるパーマ達。


え?

そんなに強いの?

そんなにビビる程ヤバイ相手なの??

とオッサン達に確認しようとしたら、目に入ったのは

ハテナマークを頭上に浮かべたオッサン達だった。


オッサン達は

【あいつら何言ってんだ?】

【んなに強かねぇだろ?】

【嘘だろ・・・?】

【・・・・・?】

って反応。


そうだよね。

オーガってそこまで強いイメージじゃないんだけど。


色々考えてる間にオーガがこっちに向かってきた。

完全に襲い掛かる気満々で。

斧を振りかぶりながら走ってくる。

それに対峙しているパーマ達は・・・・


「どうしよう!無理だよぉ!」

なんて泣きそうになってるバルロ


「大丈夫だ!出来る!俺なら出来る!」

なんて自分を励まし始めたアーチス


更には

「オッサン達!お嬢さん!俺たちが一匹仕留めるから、残りは頼んだぞい!!」

と、ほざくマシュー



っておい!!!

待てこら!!

おかしいだろ!

5匹中、3人で1匹倒すから、残りの4匹を倒せってか?!

しかも、私も数に入れてるよね?!

私にも戦えって言ってるよね?

自分たちは3人で1匹なのに、私とオッサン達の5人で4匹倒せってか?!

と女王様モードで文句を言ってやろうと思った。


が、


次の瞬間、

ウェインとグレンがパーマ達の前に躍り出た。

そして、そのままオーガ5匹を相手に2人で戦っていく。

あっという間に2匹を倒し、どんどん傷を負わせ追い詰めていく。

そんな中、2人の間を縫ってこちらに進んで来ようとしたオーガが1匹。

私たちの前にはパーマ達がいた。

パーマ達は先ほどの約束の一匹を倒しに、そのままオーガに向かって行くのかと思いきや、

くるりとこちらに振り向き、走った。

私たちの横をすり抜けていくパーマ達。


そう、パーマ達は

【逃げた】


私達を置いて、歩いてきた道を全力で引き返した。

武器を片手に持ちながら、もう片方の手を精一杯振りながら、奇声を発しながら、全力ダッシュで逃げやがった。

すごい逃げ足の速さ。

オーガなんて止まって見えるくらいだった。


私もトルーノも、アルドも横を通り過ぎていったパーマ達に

『は?マジかよ・・・。』

って顔になった。

呆れて何も言えない状態ってこんな感じなんだね。


グレンとウェインは残りの1匹を倒したところ。

こちらに向かってくるオーガは直ぐそこ。

私は直ぐに剣を構えようとしたが、その前にオーガの首が飛んだ。

隣にいたトルーノの鎖鎌がオーガの首を刎ねたらしい。

静まり返る私達。


既にパーマ達の姿は見えない。

その時、皆の心が一つになった。

【今だ!全力であいつらから離れるぞ!】

と。

そして、私達はパーマ達に呆れるよりも、感心するよりも、怒るよりも先に、全員が走ってその場を後にした。


オッサン全員が走る際にオーガを拾い上げ、走りながら拡張鞄に押し込んだのは流石冒険者だと感心した。

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