オッサン達との旅⑰
私に【オッサン達】と呼ばれて
切なそうな顔でしょんぼりしているオッサン達は可愛かった。
哀愁漂う感じがグッときた。
思わず叫びそうになった。
《違う!演技だから!【オッサン達】なんて呼んだのは女王様の演技のせいだから!そんな顔しないで!》
と全力で撤回したかった。
パーマ達が居るから我慢したけどね。
これさ、女王様になるのが大変なんじゃなくて、オッサン達を言葉で傷つけるかもしれないってことの方が大問題じゃないですか?
ねぇ、今まで築き上げた信頼が無くなったりしないよね?
【そんな事を平気で言える女だったなんて】
とか幻滅されない?
元の世界とこの世界の常識の差が分からないから、下手な言葉も言えなくない?
軽蔑されそうで怖いんだけど?
でも我が儘な女王様の演技をしなきゃいけないんでしょ?
大丈夫なの?
思うことはたくさんあるし、
女王様がどんな感じなのかもイマイチ分からないけど、やるしかない!
私、今から《ベジタリアンな我が儘女王様》にジョブチェンジします!
切な顔のオッサン達に囲んでもらって、パーマ達をガードしてもらいつつ、今後の陣形を決めていく。
アルドがパーマ達の目の前に移動して話を始めた。
「さっさと決めてさっさと進むべきだろ?お前らも協力しろよ?俺らは嬢ちゃんの横と後ろを固める。お前らは前を行ってくれ。」
地面に丸を書きつつ全員の位置を説明するアルド
しかし、この案にパーマ達は納得しなかった。
「何でさ!これじゃあ、お嬢さんとお話し出来ないじゃない!ダメ!ダメ!ダメ!」
と嫌々と首を振るバルロ
「納得出来ませんね。俺達がお嬢さんの横を護りますよ。オッサン達はずっと一緒にいたんだから、俺達に譲ってくれても良いでしょう?」
と微笑みながら地面の丸を足で消したアーチス
「嫌だぞい!前から話しかけるのは大変じゃないか!後ろを向きながら歩くのは大変なんだぞい!」
と怒ってますポーズのマシュー
は?
話しながら歩くつもりなの?
楽しくお喋りしながら、歩くつもりなの?
前になったら後ろを向いて歩くつもりなの?
コイツら本物のアホ?
パーマ達の言葉でオッサン達の額に血管が浮き出たけど、アルドが話を続ける
「いやいや、折角、D級パーティである《風のムササビ》がいるんだから、目の前でその活躍が見てみてぇんだよ。襲ってくる魔物をどんな風に相手していくのか、俺らも参考になるしよ。《男は背中で語る》って言葉があんだろ?嬢ちゃんに良いところを見せるチャンスでもあるんだがなぁ・・・・。まあ、嫌ならしょうがねぇか。俺らがバッサバッサと魔物を倒すからよ、後ろで魔物が来ないかどうかの見張りしてくれよ。」
と顎に手を添えながらチラリとパーマ達を見るアルド
パーマ達はお互いの顔を見合わせて
『やる!俺達が前衛だ!』
とヤル気満々になった。
上手い。流石アルド。
いつもウェインとグレンの前衛二人を言いくるめるのに慣れてるだけある。
素晴らしい手腕です。
そしてパーマ達はチョロい。
そして決まった陣形はこちら。
前方をパーマ達が3人
2列目はアルドと私とウェイン
3列目はトルーノとグレン
私達はパーマ達が何かを仕出かした時の為の特殊陣形だ。
ウェインが勘で危機を察知しつつ、
会話はアルドが主体で舵をとりつつ、フォローしていく。
グレンは何かあったらすぐに私を後ろに引き寄せ、トルーノは常に後ろ全体を警戒。
パーマ達はお祭り騒ぎだけど、私達は通夜の様だ。
楽しくも何ともない苦行の旅の始まりだ。
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歩くこと3時間。
パーマ達は屍のようになっていた。
最初はやたらと元気に、こっちをチラチラと見ながら話しかけてきたのだが、
その度にアルドが
【あの薬草は何の効果があるんだっけな?】
【あの木の実を食べる時の注意点ってなんだっけな?】
【オークを倒す時のコツってあるか?】
【装備を選ぶ時のこだわりはあるか?】
【隣街でのオススメはあるか?】
【他国に行ったことはあるか?】
【オススメの魔具はあるか?】
【好きな食いもんはなんだ?】
【趣味はあるか?】
【剣はやっぱ両刃か?】
【故郷はどこだ?】
【後で手合わせは出来るか?】
【なあ、そのパーマは地毛か?】
等々、質問攻めにした。
もう、部外者のこっちが
《本当にそんな事を知りたいのか?》
って聞きたくなる位のどうでもいい内容をガンガン聞いていく。
噂話が大好きなオバサンよりエグい。
パーマ達が律儀に答えるとそこからさらに話を広げて、自分の話を始める。
【俺の若い頃は・・・・。】
と続き、パーマ達が新しい話に入ろうとする時にまた質問する。
更に植物や魔物、天候などの冒険者としての常識的な質問にパーマ達が間違えると、ぐうの音も出ないくらいに言い返す。
まさに言葉で叩き伏せる。
それの繰り返し。
3時間。
こっちをチラリとでも見ようものなら、アルドから多種多様な質問が繰り広げられる。
おかげでパーマ達はぐったりとしながら、今では大人しく前を向いてただただ歩いている。
振り向くことも無い。
後ろから
「えげつねぇ・・・。俺ならとっくにトンズラしてるぜ?あれ。」
とグレンの呟きが聞こえた。
それに対して
「話が大好きなオッサンの振りをして心を折るとはな。エグいな。俺には真似できねぇ。」
と頷いたトルーノがいた。
小声でのやり取りだが、ギリギリ私達には聞こえている。
当然、アルドにも聞こえている。
恐る恐るアルドを見た私とウェインは即座に目をそらした。
アルドはゆっくりと首だけで後ろを振り向いてグレンとトルーノに向かって
「俺の代わり、やってみるか?なあ、お前ら?」
と微笑んだ。
目が全く笑ってなかった。
顔には青筋がたっていた。
そりゃそうだ。
好きでもない、いや、どちらかというと嫌いに部類される苛つく奴等に絶え間なく話しかけ、話題を広げて相手の考えを先読みしつつ、相手が口を開く瞬間には次の話題を問いかける。
それを3時間。
こんな事がアルド以外に出来ようか?
いいや、出来ない。
というかしたくないだろう。
私とウェインはアルドから目を逸らし、互いに目だけを合わせて頷き、見なかった事にした。
後ろでは顔を青くしながらグレンとトルーノが
【違げぇよ!】
【そんなつもりじゃねぇ!】
【誉め言葉だ!】
【賛辞だろうが!】
と小声で必死に言い訳をしているが、
アルドは完全に無視して前のパーマ達に声をかけた。
アルドが声をかけた瞬間に肩が跳ねたのは見間違いではないだろう。
完全にアルドの声がトラウマになっている気がする。
恐る恐るこちらを振り向くパーマ達に
「休憩にしようぜ。まだまだ余裕はあるだろうがよ、今後のルートの相談もしてぇし。魔物が現れたときの対処法も軽く決めときてぇし。な?」
と言ったアルドにパーマ達は首が取れるんじゃないかと思うくらい何度も何度も頷いた。
ちなみに、アルドが言った
【な?】
は
【お前らも同じ意見だよな?良いよな?】
ではなく
【俺の考えが分かるよな?従うよな?】
の
【な?】
に聞こえたのは私だけでは無いはずだ。
アルド以外の誰も言葉を発する事なく、休憩に入った。
私はこの隙に果物で腹ごしらえをしなければならない。
が、正直、果物で足りる訳がない。
アスファルトで舗装されてない道を歩くのだ。
ずっと平坦なわけでもない道を。
チートで体力面では問題ないとはいえ、お腹がすく。
オッサン達程とは言わなくてもエネルギーの消費が多くてお腹がすくのだ。
果物なんて腹には溜まらない食べ物なんだから、泣きたくなる。
肉が食いたいよ。
と少し切ない気持ちになりながら、グレンとウェインに囲まれて果物を食べることにした。
トルーノとアルドはパーマ達を自分達の目の前に座らせて、飲み物を飲ませながら
今後のルートの確認、今の速度から割り出される野営地点の確認、魔物が現れたときの対処法なんかを相談し始めた。
相談というか、私の方に意識が向かない様に質問攻めにしてるみたいだ。
助けてくれてる二人に感謝しつつ、急いで鞄から林檎を取り出した。
早く食べないといけないので、そのまま林檎にかじりつこうとしたら、横から手が伸びてきて私の手から林檎を取り上げた。
その手を追って目線を上げると
呆れた顔をしたグレンと目があった。
「切ってやっから待ってろ。女王様が丸かじりはマズイだろ?他のも俺に渡せよ?全部食いやすい様にカットしてやっからよ」
とグレンがすごい早さで一口サイズに切ってくれた。
ウェインはいつの間にか、まな板に使う葉っぱを持っていて、グレンが切る果物を葉っぱに乗せて隣で持っていてくれた。
それを食べる私。
これは!!
まさに女王様!!
グレンに食べたい果物をカットさせて
ウェインに果物の乗った皿(葉っぱ)を持たせて侍らせる!!
私、女王様だ!!
うはー!!
と思いつつも、私、根っからの日本人なので
恥ずかしい思いと申し訳ない気分で一杯です。
美味しい果物なのに味がしないよ・・・。
そっとパーマ達がこちらを見ていないのを確認してから
《私の為に動いて当然よ!》
と作ってある表情はそのままに
小声で
「二人共ありがとう。そこまで気が回らなかった。」
とお礼を言っておく。
二人は褒められた子供の様な顔をして
『おう!俺らも役にたつだろ?大船に乗ったつもりでいろ!護るからよ!』
と言ってくれた。
ウキウキ顔の可愛いオッサンを前に、緩みそうになる頬に気合いを入れて女王様の表情を作り、黙々と果物を食べていく。
やっと果物を食べた終えた後、ウェインがトルーノに目で合図を送る。
するとすぐに
「そろそろ行くぞ。水分も取った、休憩もした、予定も立てた。問題ねぇな。よし、行くぞ。」
とトルーノが立ち上がった。
その言葉を聞いてアルドも
「だな。急がねえと野営地に着かねぇだろ。行くぞ。お前らも、ちゃっちゃか前を歩いてくれよ?」
と立ち上がりパーマ達に笑顔で語りかけた。
パーマ達は
「まだお嬢さんと話してない!」
「もう少しゆっくりと交流しても良いんじゃないですか?」
「まだお嬢さんと仲良くなってないぞい!」
と口々に文句を言い始めた。
が、
青筋を立てたアルドが
「あのな、お前らが今から嬢ちゃんに話しかけて仲良くなるのを待ってたらよ、野営地に向かうのが遅くなるだろうが。んで、日が暮れて危なくなった道を嬢ちゃんに歩かせるのか?お前らの私利私欲で夜行性の魔物がどんどん出てくる危険な道を嬢ちゃんに歩かせるのか?お前ら、それでも男か?嬢ちゃんの安全とどっちが大事なんだよ。」
と男としてのプライドを抉る様な正論を述べた。
パーマ達は無言で私を見た。
私は思わず顔をしかめて
「最低」
と口に出していた。
パーマ達は必死に
「行こう!すぐに行こう!」
「行きましょう!話は後程ゆっくりと出来ますから!お嬢さんの安全には変えられませんから!」
「お嬢さんの安全が第一だぞい!急げ!」
とドタバタと準備をして先頭にたった。
その後ろでアルドは
「フンッ!クソガキが」
と小声で言った。
「すげぇ・・・。俺、アルドは怒らせないように気をつけるわ」
とビビる大型犬の様なウェイン
「俺も。下手につつくと倍返しじゃねぇかよ。」
とビビるグレン
「俺も遠慮してぇな。正論での倍返しだしな。口で勝てる気がしねぇ」
とビビるトルーノ
アルドの大活躍により、今はまだなんの問題もない。
が、この後は《夕食》が待っている。
まだまだ不安は尽きない。