オッサン達との旅⑮
オッサン達の怒号
『不細工はお前らだ!クソパーマ!』
が森に響き渡った。
周囲の鳥達が一斉に飛び立ち
バサバサッ!
という鳥の羽音に混ざって
馬鹿パーマ達の
『うひぃっ!!』
って声が聞こえた気がする。
が、私には関係ない。
うん、私は聞いてない。
聞こえてないデス。
オッサン達の殺気が凄い。
まぁ、勘違い系の不細工にオッサンな上にブサイクって言われたし、腸も煮えたぎるよね。
でも、この馬鹿パーマ達は本当にアホなんだと思う。
さっきから、オッサン達に怒鳴られたり、殺気を向けられたりしてビビった声を出しているのに
逃げない。
めげない。
諦めない。
危機察知能力が低すぎるんじゃないだろうか?
今だって
「誰が不細工だコラァ!鏡見てから言えよ!クソガキども!」
ってウェインが怒鳴ってるし
「おい、コラ、不細工パーマ。てめぇら、その面で俺らを不細工っつってんのか?ああ?」
ってグレンはメンチ切ってるし
「馬鹿パーマども、俺らがオッサンなのは事実だし、不細工なのも事実だ。厳つい顔なのも事実だな。でもよ、お前ら、その顔で言える事じゃねぇだろ?なあ、よく、よーく、自分達の顔を思い出して考えてみろ?」
と静かに諭す様に怒ってるアルド
そして、最後に畳み掛けるのが、寡黙な筈のトルーノ。
「いいか?よく聞け。お前らは不細工だ。間違いなく不細工だ。イケメンなんかじゃない。目を覚ませ。お前達は不細工だ。いいか?お前達は不細工だ。イケメンじゃない。いいか?もう一度言うぞ?お前達は不細工だ。」
とトルーノは真剣な顔と低い声で何度も何度も言い聞かせるもんだから、なんだか相手が憐れになってきた。
そんなに不細工、不細工言われるとか・・・。
憐れ、パーマ3人組。
なんて、可哀想に思っていた私が馬鹿だった。
オッサン達にビビりつつも小声で会議していた馬鹿パーマ達は
【オッサン達は《イケメン》な俺達に嫉妬してる】
なんて斜め上の発想に行き着いた。
更に
【俺達が《イケメン》で女の子を取られると焦ったんだ!女の子が無事保護できる様に、取り敢えず、謝っておこう!】
なんてこっちに聞こえる作戦を立てている。
オッサン達は口を開けてポカーンとしてる。
私もポカーンだ。
アホすぎてついていけない。
凄い思考回路の持ち主達だった。
ポジティブ!!
ものすごくポジティブ!!
周囲に迷惑をかけるタイプのポジティブ!!
後ろから
「どんな頭してんだ?カチ割って中身を見てみてぇ」
と呟くトルーノの呆れた声が聞こえた。
その言葉と同時に、
馬鹿パーマ3人組《風のムササビ》は
『俺達が《イケメン》なばかりに嫌な思いをさせてすまない(ぞい)!』
と華麗なる土下座を披露した。
綺麗な土下座だった。
恐らく、沢山の場数を踏んできたのだろう。
華麗に3人揃っての一瞬での土下座。
オッサン達も私も動けなかった。
頭がついていかなかった。
その結果・・・・。
「んあ!脚があるぞい!女の子の脚だぞい!あのオッサンの後ろ!」
私は見つかってしまった。
「チッ!」
グレンの舌打ちが響いた。
さっきグレンがパーマ達を殴りに行こうとした時、動くのは止められたけど脚の位置が若干ずれていたらしい。
私達はそれに気付かなかった。
面倒な展開になった。
オッサン達も私も全員が心の中で舌打ちした。
オッサン達はアイコンタクトをとりながら、打開策をそれぞれ考えているみたいだが、それより先にパーマ達が素早く立ち上がり、離れている私に向かって自己紹介を始めた。
まずは金髪のパーマが
「俺の名前は《バルロ・カリル》!お嬢さん!お待たせしました!俺達が来たからにはもう大丈夫ですよ!」
とニコニコと笑顔で言ってくる
続いて赤髪パーマが
「俺は《アーチス・ホルン》。お嬢さんをこのオッサン達から守る為にやって来ました。俺達がお守りしますので、一緒に行きましょう。このオッサン達とだと不安でしょう?俺達となら安心ですよ」
と微笑んで言ってくる
そして、最後に勘違い大魔王。
黒髪のクルクルパーマは
「俺があの有名な《マシュー・ヌ・ケイザン》だぞい!お嬢さん!俺は冒険者だけど貴族でもあるから安心していいぞい!俺らと一緒に来るといいぞい!」
と胸を張ってほざく。
突然の突っ込みどころ満載な自己紹介に
私の頭は真っ白だったが
「お断りします。」
何も考えられなくても即答していた。
その直後のパーマ達の目の飛び出た蛙みたいな顔に吹き出しそうになった。
【信じられない!】
【聞き間違いか?】
【あり得ない!】
って顔してて、本当に面白い。
が、その顔が見れたのは一瞬だった。
私の即答にホッと息を吐いたオッサン達は、トルーノを私の真横に残して、残りの3人が即座にパーマ達の前に立ち塞がり、私が見えない様に視界を遮った。
そして口々に
「わりぃが退いてくれ。アイツも俺達で良いって言ってんだろ?」
「おう、俺らで問題ねぇよ。アイツが判断したんだ。文句ねぇだろ?」
「悪いが大所帯で移動したくないんでな。手を引いてくれ。」
などとパーマ達に声をかけ始めた。
威圧はしつつも、さっきよりは丁寧な対応になっている。
真横に移動してきたトルーノが難しい顔をしながら
「おひぃさん、ヤバイのに目をつけられた。聞いたことはねぇ名前だが、貴族にはそうそう手を出せない。冒険者に地位は関係ねぇが、貴族に恨まれると面倒事になる。振り切るのも強引に力ずくとはいかねぇ。
最悪、何日か一緒に行動させられるのも視野にいれておいてくれ。
女は貴族にも負けない存在だが、おひぃさんが下手に反論しちまうと、難癖をつけて俺達を引き離しにかかったり、何か仕出かすかもしれん。だから変に食って掛かって余計な面倒な事になるのは避ける。許可もなしに後をつけられても面倒な上に神経を削られる。あいつらは諦めずに勝手についてくるタイプだ。
すまん。勿論、手は出させない。おひぃさんは俺達が必ず守る。約束する。」
そう、私にだけ聞こえるように呟いた。
なるほど。
どんなにアホっぽくても、貴族なら面倒だ。
冒険者は地位も関係無い自由な職だけど、貴族に睨まれるのは得策じゃないだろう。
変に目をつけられると、今後も監視される事になりかねない。
確かに断っても勝手についてきそうなやつらだし。
何かとイチャモンをつけてくるかもしれないし、
オッサン達にも迷惑がかかるかもだし、冒険者としてやっていく上で、妨害なんかも出てくるかもしれない。
そんな面倒な事になるのは避けたい。
ここは腹をくくるしか無いだろう。
どう考えても、あのポジティブな馬鹿パーマ達は諦めないだろう。
面倒だけど。
本当に面倒だけど。
しょうがない。
腹はくくる。
でも、近づかないし、話さない。
変になつかれても困るし、言質を取られるのはもっと困るから。
そう決断して頷くとトルーノは
「すまん。だが、女は貴族にも負けない存在だからな。手は出せないはずだ。それに、俺達がぜってぇに守る。安心していい。
ただ、食事だがな・・・・。
あいつらに気に入られない様に・・・・。
果物だけで頑張れるか?」
と眉毛をハの字に下げて、申し訳なさそうな声で告げてきた。
・・・・・・。
そうだ!!
そうだった!!
誰かと行動=私は食事制限&異臭に耐える拷問タイム
の確定だった!!
私、隣街まで無事に生きていられるでしょうか?