オッサン達との旅⑭
歩きだした私たち。
昨日と同じ様に、みんなから様々な事を教えてもらいながら
時々、魔物を倒して解体する。
解体も少し教えてもらったんだけど、これが中々上手くいかない。
皆はスーって感じでナイフが滑るように動くんだけど、私がやるとつっかえるし、断面がデコボコ。
皮にも肉が付いたまま。
長時間触ったせいで毛並みも悪くなってしまった。
「最初はこんなもんだ。」
とグレンが頭を撫でてくれたけど悔しい。
「これから劣化していくのも含めて買取り額は大分下がるが、勉強料だと思えば安い。不貞腐れるな、嫌になるな。出来ないからと諦めるな。いいな?」
とトルーノが真剣な表情で言ってきた。
確かに、上手くいかなくて悔しかったし、眉間にシワも寄ったと思う。
でも、私は諦めるつもりはない。
こちらに来た時は【解体はお金を払って他人に任せれば良い】と思ってた。
でも、それじゃ駄目なんだ。
皆と同じレベルの冒険者になりたいのだから。
皆におんぶにだっこではなく、自分の力と知識で並んで歩きたいのだから、諦めない。
教えてもらえる事は全て吸収するつもりだ。
だから答えは決まっている。
「もちろん。私は諦めないし、皆が教えてくれる事は全部覚えるつもりだよ。まだまだだとは思うけど、一人で全部解体出来るようになるのが目標だから、今後もよろしくお願いします!」
と返事をして感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
オッサン達は何だか【娘の成長を喜び、感動した父親】みたいな雰囲気を醸し出しながら、頭を撫でてくれた。
その時、ウェインが動いた。
「来るぞ!あっちだ!ん~、ありゃ、人間だな。」
と指差し斧を構えたウェイン
「マジか。あー。めんどくせぇなー。」
と剣を片手に持ち、こちらに近づいて私に背を向けて私の体を自分の後ろに隠すグレン
「カナちゃんは前には出るなよ?グレンの後ろで体を隠せ。良いって言うまで出てくるなよ?いい子にしてろよ?」
と先程のグレンと立ち位置を替わったアルド
「おひぃさん、出来るだけ体を縮めろ。グレンの足に足を合わせろ。出来るだけ息を殺せ。」
と私に背を向けて後ろを警戒するトルーノ
皆が警戒する中、そいつらは現れた。
「あ!ああ!いたいた!オッサン達、歩くの早すぎだぞい!」
馬鹿みたいな台詞と共に現れたバカ、いや、若い男が3人。
金髪のクルクルパーマの不細工
赤髪のクルクルパーマの不細工
そして、先程の台詞を放った馴れ馴れしい
黒髪のクルクルパーマの不細工
なんなんだ?
お前ら、パーマ同盟でも組んでんの?
ってか【オッサン達、歩くの早すぎ】って事は、こいつら何処からか着いてきたって事?
何のために?
訳が分からないんだけど。
オッサン達もそう思ったのか、質問をしていく。
「ああ?何ほざいてんだ?っつーか、誰だよおめぇら!」
ドスを聞かせた声で聞くウェイン
相手の答えを待たずにアルドが質問する。
「お前らは誰だ?俺達の後を付けてきたのか?答えろ。」
冷静に、冷たい声で問うアルド
オッサン達は全員警戒しているし、視線も言葉もキツイ。
なのに、馬鹿なのか、アホなのか、マヌケなのか、そんな空気を読みもせずにバカ達は答えた。
「俺らはD級パーティ《風のムササビ》だぞい!オッサン達が女の子を連れてたのを見てさ、むさ苦しいオッサン達に囲まれてる女の子が可哀想だから、俺らがわざわざ追いかけてきてやったんだぞい!なのにオッサン達、歩くの早すぎだぞい!俺ら寝る時間削ってまで来てやったんだぞい?もっとゆっくり行けよなぁー。」
とクルクルパーマを指に絡ませて話す黒髪パーマ。
そして、『そーだそーだ!』とパーマを指に絡ませて頷く他のクルクルパーマ。
は?
こいつら、本気で馬鹿なの?
【追いかけてきてやった】とか
【寝る時間削ってまで来てやった】とか
語尾の【だぞい!】とか
頭おかしいんじゃない?
オッサン達も同じ考えだったらしい。
小さい声で私とグレンだけに聞こえるようにトルーノが言った。
「おひぃさん、このての奴には話が通じねぇんだ。思考回路がぶっ飛んでる。そんな奴等がおひぃさんを見て付いてきてやがる。もしかしたら面倒な事になるかも知れねぇ。」
不愉快そうな声を出すトルーノ
「だな。既にめんどくせぇけどな。カナ嬢を俺らから救うとか考えてそうだな。バカみてぇな話し方だしよ。脳ミソ溶けちまってんじゃねぇか?あいつら。」
面倒だと身体全体で表現してるグレン
対して、バカ達と向かい合って会話中のウェインとアルドは
「おめぇら、頭おかしいのか?」
本気で残念そうに聞いてるウェイン
「《風のムササビ》なんざ聞いたことねぇな。確かに、俺らはオッサン集団だがな、お前らに付いてくる様に頼んだ覚えはねぇぜ?勝手に後をつけてきやがって、【ついて来てやった】だの【歩くのが早い】だの【可哀想】だのなんだのお前ら馬鹿か?」
と視線をさらに鋭くするアルド
それを気にも留めず、黒髪のクルクルパーマは続ける
「《風のムササビ》を知らないなんて!?ちゃんと最新の情報は仕入れた方がいいぞい!頼まれずとも、可哀想な女の子のために俺らは来てやったんだぞい!感謝しろ!それで、あの子はどこだ?女の子は?どうしたんだ?ハッ!まさか!魔物に襲われたのを置いてきたのか!なんてやつらだ!オッサンの風上にも置けな・・・冒険者の風上にも置けないやつらだぞい!」
とアホな事を言いながら、キョロキョロと私を探しつつ、勝手にヒートアップしていく黒髪パーマ。
更に『なんてやつらだ!』
とそれに続くパーマ二人。
なんか、もう、どこからツッコミを入れれば良いのか分かんない。
何なの?
どうしたら良いの?
そう思ってたら
「っかー!めんどくせぇ!おめぇらみてぇな、話の通じねぇ馬鹿は死ぬほど嫌いなんだよ!この、クソッタレども!あー!むしゃくしゃする!一発ぶん殴らせろ!ゴラァ!」
グレンがキレた。
『ヒッィヤァ!?』
と謎の奇声を発するパーマ達だったが、今はそんなの気にしていられない。
キレたと同時にグレンが前に進もうとするので、慌てて腰の後ろ辺りの服をつかむ。
グレンが動けば私が丸見えになるのだ。
折角隠してもらってて、馬鹿パーマ達も気づいてないのに、これではバレてしまう。
服を掴みながら、小さい小さい声で話しかける
「待って!グレン!お願い!動かないで!」
小さい声でグレンに声をかけながら、何度か軽く服を引く。
グレンはすぐに止まってくれた。
「アホ。ガキどもを馬鹿にできねぇんじゃねぇか?なあ、グレン?」
とトルーノがグレンに声をかけた
グレンは頭をかきながら、
「あー。わりぃ。すまん。俺がアホだった。頭に血が昇っちまった。すまん。」
と言い、然り気無く手を後に廻して私の手を軽く掴みながら、優しくトントンと親指で私の手の甲を叩いた。
良かった。
間に合わなかったら、この変なやつらの前に出てただろう。
そうすれば更に面倒な事になったはず。
最悪の展開にはならなかった。
良かった。
そう思っていると
ビビってたはずの馬鹿パーマは懲りずにまた話始めた。
「ん!んん!いや、置いてきたんじゃないなら良いんだぞい!ちゃんと連れてきてるなら、それで良いんだぞい!で、女の子はどこにいる?女の子のためにも、俺らが居た方が良いと思うぞい!オッサン達に囲まれてるのも可哀想だし、おまけにオッサン達、ブサイクだぞい!あの子も女の子なら、俺らみたいな《イケメン》と歩きたい筈だぞい!」
とクルクルパーマを指に絡ませて胸を張る
馬鹿パーマ。
そして『そうだ!そうだ!』
と同調する残りのパーマ二人。
時間が止まった。
オッサン達も私も目が点になった。
そして、オッサン達全員の怒号と私の心の声がシンクロした。
『不細工はお前らだ!クソパーマ!』