オッサン達との旅⑫
剣の使い方を教えてくれるのはウェイン。
なんだけど、
ウェインって勘で動いてそうだからね。
ちょっと不安です。
剣を用意して私なりの柔軟体操をして待っているのですが、少し離れた所でアルドとウェインが話し合ってます。
なんでしょう?
アルドが言う言葉にウェインが首を振ってる。
何か問題でもあったのかな?
と思っていたらウェインがアルドに首を振ったままこちらにやって来ました。
「カナ!お前が選べ!《怪我をしない様に鍛える》のか《怪我をして強くなる》のと、カナの好きな方を選べ!俺は、俺らが居なくてもカナが一人で剣で戦える様にしてやりてぇと思ってる。が、お前はどうだ?怪我しても、泥にまみれても強くなる気はあるか?ねぇなら適度に教えてやる。」
真剣な顔で問いかけてくるウェイン
そりゃもちろん
「強くなりたい。大怪我しても泥にまみれなっても。一人で戦える力が欲しい。だから、全力で私を鍛えてください。よろしくお願いします!」
決意と共に頭を下げた私を見て、
ウェインは嬉しそうに、でも真剣な顔で頷いて
「うっし!分かった!カナが生きるためだかんな!俺が全力で鍛えてやんよ!任せとけ!」
胸を張って勢いよく胸元を手で強く叩いたウェイン。
結構いい音したね。
バンッ!
って。
流石オッサン達の中で一番の筋肉の持ち主。
もしかして、私もあんな風にムキムキマッチョに?
いや、今はそれは考えないでおこう。
兎に角強くならないと。
オッサン達に守られなくても大丈夫な様に、いざという時はオッサン達を守れる様に。
少しでも強くなっておかないと。
そして始まった《ウェインの剣術講座》
「よし、まずは体造りが大事なんだが。暇な時には腹筋なんかの筋トレする事だな。今日は俺が見ててやるから素振りしてみるか。剣を構えてみろ」
真剣モードのウェインに従って剣を構える。
さっき戦った時にも見てもらったから、剣の握りと構えはこれで合ってるはず。
構えてみると後ろからウェインの両手が伸びてきた。
左手で剣の柄を軽くもって、右手で握り手の位置を調節される。
更には右足に右足を引っかけられて、少し右にずらされる。
「ん。まあ、こんなもんかぁ?戦ってる間に自己流になるとは思うがな。これが基本だかんな。一応覚えとけ。んで、次は素振りな。上から下、左から右。体重をかけて、取り敢えず50回ずつな。ほれ、始め!」
ウェインが手を叩くのと同時に素振りを始め、何度も何度も注意を受けて、手直しをされて、必死に素振りを繰り返した。
素振りが終了した時には既にかなりの時間がかかってしまって、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
体力には全然問題はないのだが、
汗もかいたし、そろそろ寝た方が良いとトルーノからのお言葉があったので、今日はここまでになった。
「んじゃ、今日はここまでな。まあ、剣筋も悪かねぇし、スピードもあるしな。もう少し体重を乗せられるようになるのと、攻撃を避けるっつーか、相手の攻撃を読むのが鍛えるべきところだな。うし、お疲れさん!よく頑張ったなカナ!」
と頭をグリグリと撫でてくれるウェイン
「稽古してくれてありがとう!ウェイン!でも、頭がもげそうだから、ちょっと力弱めて欲しいかな」
うん。
グリグリが強くて頭が持ってかれそう。
「あ、あのさ、汗をかいたから拭いたいんだけど、どうしたら良い?魔法でやるべき?水で濡らした布で軽く拭くだけでも良いんだけど」
と相談してみると、
顔を真っ赤にして口をパクパクしたウェインがいた。
ん?なぜに?
ウェインは口をパクパクしながらトルーノの方に走っていった。
そしてトルーノに私を指差して何かを伝えている。
するとトルーノはぎょっと驚いた顔をして少し考え込み、アルドの方に走っていった。
その二人を見てグレンがウェインに近づいて何か聞いている。
あ、グレンもアルドもこっちを見て真っ赤になった。
だから何よ!?
と不思議に思っていると職人気質コンビのアルドとトルーノが何かを話し合って私の方に近づいてきた。
顔が赤いままのアルドが
「あ、あのな、カナちゃん。汗をかいたのは分かるんだがな、突然何が起こるか分かんねぇからよ、水浴びとか、服を脱いで布で体を拭くのは無理なんだ。魔法も止めといた方がいい。すまねぇな」
と説明された。
トルーノも頷いているけど
「えっと、さすがに水浴びはしないよ?魔法も無しで大丈夫。服は脱がずに布で体を拭くのは有り?服は脱がなくても体は拭けるでしょう?」
なぜ服を脱ぐ方向に話が進んでるのか、不思議でならない。
男の人は汗を拭う=裸
なのかい?
「あ!ああ!そうだよな!いや、わりぃ!それで大丈夫だ!服を着たままで布で体を拭くので!」
と耳も首も顔面も真っ赤にしてアルドが言う。
更に
「あーんじゃ、一応、俺達で見張りをする。俺とアルドの背中越しにやってくれ。あいつらにも背中向けさせるからよ。」
とトルーノは追加案まで出してくれた。
そして真っ赤になったオッサン達に背中を向けられながら、服を着たまま水で濡らした布で軽く体を拭くことに成功した。
「もうこっち向いて大丈夫だよ?皆、ありがとうね!さっぱりした!」
汗でベタベタしていたから、本当に助かった。
さっぱり気分爽快だ!
オッサン達は無言で何度も何度も頷いているんだけど、大丈夫だろうか?
ちょっと不安になるんだけど。
「あー、あー、そろそろ寝るか?今日はカナ嬢以外でいつものローテで見張りで良いだろ?」
と急に早口で話題転換をしたグレン
「だな!そうだな!カナは寝てて良いぞ!明日にでも見張りについて教えてやるかんな!」
と必死に同意してるウェイン
「あ、ああ!それが良いな!今日は大変だったしな、周りは気にしなくていいから、カナちゃんはゆっくり休みな。」
とどこかぎこちないアルド
「おう。おひぃさんは起きなくて良い。朝になったら起こしてやるから。ゆっくり寝てな。おやすみ」
と横になる様に勧めてくるトルーノ
あー。
あれか?
この世界の女の人に目も合わせてもらえなかったオッサン達には
後ろを向いていたとはいえ、酷な事でしたか?
なんか、ここまで意識されると凄く恥ずかしいのですが。
これはフォローを入れるべきか?
それとも、既に話題を変えて寝る様に勧めて来てるのだから、知らないふりをして寝るべきか?
・・・・・・・。
いや、話を蒸し返すのも何だし、余計気まずくなりそうだから黙ってよう。
「ありがとう!お言葉に甘えて先に寝るね!こっちで良い?」
出来る限り何も無かったかのように振る舞って聞いてみる。
「あ、ああ!大丈夫だ!そこでいい!んで、ちょっと待ってろ!」
と言って私の後ろの方に背中を向けながら寝転んだグレン
「俺はこっちだな」
と私の前の方に背中を向けながら寝転んだのはトルーノ
「じゃ、俺はこっちな。」
と少し離れた所で寝転んだアルド
「おう!おやすみ!よく寝ろよ!!」
と火の番を始めたのはウェイン
私を守る様に周りに皆が囲んでくれる事をありがたく思いながら、
「おやすみ」
と横になりながら、みんなに挨拶すると
オッサン達は口それぞれに【おやすみ】
と照れ臭そうに言いながら目を閉じた。
今日は本当に大変なことが沢山あった。
精神的にも疲れた。
でも、皆が守ってくれた。
大変だったけど嬉しかった。
やっと長かった一日が終わる。