オッサン達との旅③
ボロッボロに泣いたおかげか、
慌てるオッサン達に慰められてか、
ずいぶんと心が軽くなりました。
泣いたのは恥ずかしかったけど、泣き止んだ私を見て、皆がホッと息をついたのが、本当に心配してくれてたのが分かって嬉しかった。
今後の事は後で話すことにして、取り敢えず、皆がオークやらベアーを解体してくれるそうです。
「お!んだよ、ベアーまでいるじゃねぇか!首下スッパリ切れてんな。魔法か?すげぇな!」
と何故か楽しそうに解体してるウェイン
「おー、マジで何体も入んだなぁ。その鞄。」
と鞄も観察しつつ解体してるグレン
「だなぁ。すぐに腐る内臓もそのままだし、本当に時間停止なんだなぁ。すげぇわ。」
と鞄の性能に驚きつつも解体してるアルド
「毛皮も綺麗だし、傷も少ねぇから高値で売れそうだな。」
とベアーの毛皮を見つつ周囲を警戒するトルーノ
あっという間に全ての解体が終わり、全ての肉や毛皮を閉まった所で、休憩にすることになった。
血の臭いが無くなった辺りで座って休みます。
この間に緊急会議をするらしい。
「異世界云々は信用出来るヤツ以外には話さない方が良いんじゃねぇか?」
とウェイン
「魔法がかかってる鞄を人前で使うのも要注意だな。一般的なのを用意してよ、無くなりかけたら、そん中に魔法鞄から補充してくのが良くねぇか?」
とグレン
「攻撃魔法を含め、時間が進められんのも、色んなもんを作れんのも内緒の方が良いだろうなぁ。」
とアルド
「俺達から離れるな。」
とトルーノ
なんか、詳しい意見を出してくれてる人に混ざって命令が聞こえた気が・・・。
「トルーノ、それは大前提だろ?」
と言ったアルドに頷く前衛コンビ
「それもそうだな。」
と何だか納得した様なトルーノ
意見を纏めたのはオッサン達の中では一番の常識人、アルド。
「カナちゃんが俺達から離れないのは大前提として、基本を決めるぞ?
まず、異世界云々は基本は誰にも話さない。話したい相手が現れたら俺達に相談。俺達もそいつを判断するし、説明には必ず俺達を同席させる事。」
「鞄は普通の拡張鞄をカモフラージュとして持つこと。人前で使うのはそのカモフラージュ鞄のみだ。んでもって、もし、中身が無くなる時や入りきんねぇ時は誰も見てねぇ所で、補充・移動させる事。人目があんなら諦めろ。もしくは俺達に相談。」
「魔法が使えるのは俺達以外には誰にも言わねぇ事。攻撃魔法だけじゃなく、鞄やら草木の成長やら色んなもんが作れんのも。全部が全部だ。もし、伝えたい相手が出来たなら、俺達に相談。説明には俺達も同席。」
「心配事やら分からん事があったら、その都度相談な。ウェインとグレンは勘が良いが、難しく考えんのには向いてねぇからな。相談すんのは内容に合わせて相手を考えてくれな。」
と、これが基本になるらしい。
皆が言っている事には納得なので頷いておく。
ついでなので、お願いをしてみる。
「分かった。皆から離れない。何かあったら、必ず皆に相談する。
あと、鞄なんだけど、皆にも持っててもらって良い?普通の拡張鞄を渡すから、それぞれ一つずつ持っててもらいたいんだけど」
「んあ?持つのは構わんが、高価な品だぞ?俺達に渡して良いのか?ってか何でだ?」
と不思議そうなグレンに説明する。
「私が作る鞄だから値段なんて気にしなくて良いよ。理由は、米や野菜を食事の時に使いたくても、私が持ってきた食材は普通の拡張鞄には全部入らないから。私一人が沢山の拡張鞄を持ってるのは変でしょう?でも、皆が分散して持っててくれれば、問題ないでしょう?分散すれば全部の鞄に空きが出来るから、残りは個人で好きなものを入れてもらって構わないし」
そう。
私が持ってきた食材。
普通の拡張鞄には全部入りきらない。
調味料を醤油や砂糖や塩等に厳選し、野菜も普通の拡張鞄でも平気な腐りにくい物に厳選しても
パンや米、今後調理していくオークを考えると、入りきらない。
だから、皆にも協力してもらう。
皆で分散して持てば、それなりに空きも出来るだろうし。
空いた分は好きに使ってもらうって事で。
一応、オッサン達の分のご飯も作るつもりだから、最低でも米や調味料は分散して持ちたい。
肉はその日狩ったのでも良いけど。
皆も考えて納得したのか
『分かった。任せろ!』
と全員で賛成してくれた。
話し合いも無事に終了し
折角の休憩なので、水を飲んだりしながら、調理パンを皆に渡してみる。
「これ、私が作って持ってきたパン。この世界の人達の味覚に合うかは謎なんだけど、良ければ食べてみて」
と昼前なので一人一つ渡してみる。
「んだ?コレ?パン?何で柔けぇんだ?上に乗ってんの何だ?」
とハテナマークが大量発生なウェイン
「ってか、まだ熱いぞ。コレ。ふかふかだし。」
と手に取って不思議そうなグレン
「確かに見たことねぇな。これがパンか・・・。どうなってんだ?異世界」
と直に触って呆れた様な顔になったアルド
「なぁ、ヨダレが止まんねぇんだが。なぁ、お前らも。ヨダレ。垂れてんぞ?」
と匂いを嗅いでいるトルーノ
おい、オッサン達。
喋る前にヨダレ拭け。
全員だ。
ヨダレ垂らしながらパンに触るな!
頼むから!
「皆、お願いだからヨダレ拭いて。上に乗ってるのはチーズだよウェイン。熱いのは保温専用の鞄に入れてきたからだねグレン。アルド、どうなってるって聞かれても困る。異世界ではコレがパンなの。私はこの世界のパンはパンとは認めない。トルーノ、注意してくれたのは嬉しいけど、まだ出てる。拭いて。ヨダレ。拭いて。」
取り敢えず、全員にヨダレを拭かせつつ説明する。
「冷めちゃうから、温かいうちに食べてみて」
と再度勧めると
「おう! ガブガブ モグモグ うめぇ!!」
おおう、想像通りだよ、ウェイン。
一番に食べるとしたらウェインだと思ってた。
そして、噛んでる途中で叫ぶのも予想通りだよ。
本当に。期待を裏切らないオッサンだね。
うん。口閉じて。飲み込んでから喋ろうね?
思わず生暖かい目で見ていた私に
「カナ、これ、このパン?本当にパンか?
すげぇな!すげぇ旨ぇよ!ふわふわ柔らけぇし、ちーず?もトロトロで塩気もあって、野菜はホクホクしてて、初めて食うぞ!こんなうめぇ食い物!!」
とキラキラとした少年の様な目をして、凄い勢いで話してくるウェイン。
うん。近い。近いよ、ウェイン。
あまりの勢いに、皆に助けを求める様にオッサン達に視線を送ってみると
誰一人として此方を見てない。
皆、
「うめぇ。マジか。うめぇ。んだよコレ。」
「うわー。すげぇな異世界。うわー。」
「モグモグ・・・・。モグモグ・・・・。」
ぶつぶつ言いながら、顔を緩ませてパンを食ってる最中でした。
おい。やめろ。オッサン達。
手まで舐めて物欲しそうにこっち見んな!ウェイン
そんな仔犬みたいな目をしてもダメだ!
アルドの残りの一口を狙うな!グレン
目付きがヤバイ。お前は猛獣か!
最後の一口を食べるか残すかで悩むな!アルド
グレンが狙ってるぞ!それに冷めると不味いから!
私の鞄を見つめるな!トルーノ
出さない。出さないからね!
負けない!私は負けないよ!
残念そうな顔をするオッサン達に見詰められようとも!
お昼前ですから!
渡すわけにはいかない!
「おひぃさん、取り敢えず、旅の途中で食べるパンが温かいのは普通じゃねぇからな、人前では出さねぇか冷めるの覚悟で普通の拡張鞄に入れとけ。」
そっか。確かに。
温かいパンは変だもんね。
でも、調理パンで冷たいのはちょっと嫌だなぁ。
食パンも作ったんだよなぁ。
あれなら冷めてても大丈夫だよね。
さっきのお肉でスープを作って、パンを浸して食べる。
うん。良いんじゃないかな。
「分かった。調理パンは冷めると不味いから、人前で食べるのは、普通の拡張鞄に入れて冷ました食パンにする。さっきのオークをスープにして食パンを浸して食べるのは平気だよね?」
と聞いてみると
「俺達、食パンが何なのか分かんねぇからな?」
そうでした。ツッコミありがとうグレン。
「コレなんだけど。さっきの調理パンとは違って特別に味は付けてないから、スープとの相性も良いんじゃないかな。」
出した食パンに集まる視線。
そして、ヨダレ。
おい、オッサン達。
頼むからヨダレは垂らすな。
食パンでさえヨダレが垂れるって何なの?
どんだけメシマズな世界なの?
食いてぇ?気になる?良い匂い?
聞こえてるよ、オッサン達。
でも、私は負けない!
「調理パン食べて腹拵えしたばっかりだし、今食べると昼食が入らなくなるでしょ?お昼にスープも一緒に作るから、食べてから判断してくれる?」
聞いた次の瞬間
『っしゃあ!女の手料理!』
ってそこっ!?
異世界の料理じゃなくて《女の手料理》が嬉しいのね!?
うん。なんか、本当にオッサン達が可愛く思えてしょうがないよ。
うん。
ウェインなんて小躍りしてるしね。
ってか、皆で万歳するのやめて。
誰も見てなくても恥ずかしいから!