オッサン達との旅②
さてさて現れましたのは、ウルフ系の魔物が6頭。
こちらに来てから初めて見るタイプの魔物です。
魔法でちゃっちゃと片付けようと戦闘態勢に入った私を見て、オッサン達が口々に止めに入りました。
「俺がやる!」
既にヤル気満々なウェイン
「俺の動きをよく見とけよ、カナ嬢」
と剣を構えたグレン
「カナちゃんは今回は参加しねぇ方が良い。ウェインに巻き込まれるからな。」
と私を引いて下がるアルド
「ウェインは斧だかんな、グレンの動きを見とけ。」
と言いつつ周りを警戒するトルーノ
あ、そうだったね。
魔法は隠しつつ、剣をメインにしていく予定なの忘れてた。
まだまともに剣を振るった事が無いから、グレンの動きを観察して、どこを狙うのかとか剣の振り方とか見とけば良いのかな?
と思っていたら、早い早い。
ウェインはウルフの頭をカチ割るし、グレンは首を切ったり、脇腹を裂いたり。
思ったよりグロいぞ。オッサン達。
でも、なんとなく使い方の参考にはなった。
こちらの剣は切り裂くんじゃなくて、叩き切る感じ。
刃が鋭い訳じゃなくて、若干、筋力に頼った切り方に近い気がする。
時には小さいモーションで突き刺し、時には遠心力も利用して叩き切る感じかな。
私のは細い剣だから、あんまり力業には向かないっぽいんだけどね。
突き刺す感じがメインになるのかな?
それとも、グレンの剣よりは刃が鋭いのかな?
なんて脳内会議をしていると、オッサン達はそれぞれウルフの解体を始めた。
「え?皆、もしかして解体も出来るの?」
驚いている私に皆が驚いた。
「そりゃそうだろ。要らねぇ部位は置いてかねぇと、邪魔でしょうがねぇぞ?」
とハテナマークが頭上に見えてるウェイン
「最低でも内臓は置いてかねぇと、臭いがヤバイぞ?」
とこちらも不思議そうなグレン
「鞄に入る量にも限界はあるしなぁ。最悪、魔石だけ取るってのも有りだけどな、そん時はちゃんと埋めねぇとダメだぞ。アンデッドになるかんな。」
と詳しく説明してくれつつ、手を動かすアルド
「燃やしても良い。おひぃさん、解体は初めてか?気分は平気か?大丈夫そうなら見とけ。」
と周囲を警戒しつつ、私の心配をしてくれるトルーノ
「解体を見るの初めて。血はそこそこ平気だし、どうせ慣れなきゃいけないから見とく。」
ってか、昨日、獲ったのがあるんだけど、どうしよう?
昨日、草原から町に向かう間に狩った奴ら。
ベアーとかオークとか。
でも、この世界は無限鞄も時間停止鞄も無いからなぁ。
話しちゃっても良いのかな?
魔法の一環って事にしちゃえば平気かな?
《時間停止の魔法を掛けた上で大容量な鞄に入れておいた》とかにしとけば可能な気がする。
自分では捌けないし、お店で頼むにしても時間が経ちすぎてて不可能になりそう。
なら【昨日、倒した】っていう今がタイミングだと思う。
よし、言ってみよう。
「あのね、昨日獲ったオークとかがあるんだけど、どうしたら良い?自分じゃ捌けないから時間停止魔法を掛けた上で大容量鞄に突っ込んだヤツなんだけど・・・」
『・・・・。』
全員、こちらを凝視。
「時間停止?んなの出来んのか?」
不思議そうなウェイン
「大容量っておい・・・」
驚いた顔のグレン
「一晩中魔法をかけ続けてんのか?解体前のオークが複数入るレベルの鞄?」
呆れた様な顔のアルド
「・・・。」
考え込んだトルーノ
あ、ヤベ。しくったっぽい。
冷や汗が背中を流れ落ちる。
この空気、どうしたら良いの?
助けて。おじいちゃん神様。
口を開いたのは寡黙なはずのトルーノだった。
「おひぃさんは町の中を見て鞄の存在がどんだけ高価か分かってんだろ?」
困惑しつつも頷く私。
「普通の鞄でもかなり高ぇ。それがオークが丸々複数入る大容量となりゃ、想像も出来ねぇ値段だろうな。しかも、魔法が珍しいのも話してあんだ。なのに時間停止なんて聞いたことがねぇ魔法を使えるってよぉ。その二つを俺達を信用して話してくれてんだ。俺は詳しくは聞かねぇ。
・・・・けどな、これだけは約束してくれ。俺達以外の存在が近くにいる場合、こんな事は話すな。その鞄の存在を気付かれるな。俺達以外には魔法関連の事を打ち明けるな。じゃねぇと俺達にゃ守りきれなくなっちまう。」
と真剣な顔をして告げられた。
周りの皆を見てみると、
「そうだな。他の奴等にバレたら、ぜってぇ、カナは狙われる」
と珍しく真剣な表情のウェイン
「ああ。俺達は4人しかいねぇからな。大人数で来られりゃ、勝てねぇ。」
と顎に手をあてて頷くグレン
「そうだな。そうだ。貴族なんかのお偉いさんにバレた日にゃ、俺達じゃカナちゃんを守りきれなくなる」
と焦りしたアルド
「だろ?おひぃさん、俺達と一緒に行動すんなら約束してくれ。俺達は利益のためにおひぃさんを狙う様な奴等におひぃさんを渡す気はねぇからな。」
私を見つめるトルーノ
受け入れてくれるのか。
皆の驚き具合から【やらかした!】って思ったのに。
詳しい話も聞かないって。
どうしよう。
もう、全部話しちゃいたい。
異世界から来たって事も。
正直、このオッサン達以上に信頼出来る、頼れる人達なんて現れない気がする。
正直に全部話したい。
このオッサン達に嘘をついてるのが凄く辛い。
全部話して、私を信頼してほしい。
頼ってほしい。そう思う。
よし、全部話そう。
信じてもらえないなら、そこまでだ。
後で記憶が曖昧だった。とでも言えば良い。
とにかく、今はオッサン達に全てを話したい。
「皆に話したいことがあるの。私の魔法と鞄以外にも。実はね・・・・・・」
私は全て話した。
おじいちゃん神様がこちらの世界に送ってくれた事。
女に関わると苦労する事。
チートの事。
魔法の事。
鞄の事。
皆、目を丸くして驚いてた。
信じてほしい。
受け入れてほしい。
嫌われるのが怖い。
そんな気持ちで必死な私に対して、ウェインが口を開いたのは私の話が終わってすぐだった。
「なるほどなぁ。だからか。」
ウェインは何度も頷いている。
他の皆は不思議そうな顔をしてる
「なるほどって何がだ?」
アルドが聞いたらウェインは不思議そうな顔で答えた
「カナは異世界から来たって話だ。納得だろ?珍しい筈の魔法が使える女。子供だってぇのに一人で町に来た。旅の服装でもねぇ。武器も持ってねぇ。変な所で常識がねぇ。俺達を嫌わねぇ。
それによぉ。会った時からずっと《迷子のガキ》みてぇな顔してやがる。だから俺はカナをほっとけなくて、隣町に連れてく案を出したんだぜ?お前らもだろ?カナが寂しそうな、不安そうな《迷子のガキ》みてぇな顔してるから、助けてぇんだろ?手を引いてやりてぇんだろ?」
そう続けるウェインに皆が驚いた顔をする
「おめぇ、ある意味すげぇよな。勘が良いっつーか、なんつーか。ここまで単純化されっと、すんなり理解出来たぞ。」
と頷き感心してるグレン
「本当になぁ。ウェインの野生の勘も、単純な思考回路もすげぇな。でも、確かに納得だな。ウェインが言った以外にも、カナちゃんが傲慢なワガママ女じゃねぇのでも納得出来る。」
と呆れつつも言葉を付け足すアルド
「確かに。《迷子のガキ》な。異世界でだとは思わなかったがな。アルドの言ってるのも納得だ。この世界でこんなに素直に気軽に礼を言う女は居ねぇ。傲慢でもワガママでもねぇ、女。しかも迷子のガキ。自分達の顔を理解してる俺達でさえ、自分達で守って連れて歩きてぇ訳だ。」
と寡黙な筈が喋る喋る。トルーノ
思ってた展開と違うけど、受け入れてもらえたのかな?
「信じてくれるの?こんな、突然の夢物語みたいな話を?受け入れてくれるの?」
『おう!カナ(嬢、ちゃん、おひぃさん)が言うんだ。信じる。』
「それに辺鄙な村から来たっつーのより、異世界から来たって方が納得だな。」
「それな。」
「この世界の女との違いは一目瞭然だしな。」
「話を聞いたら全部納得だったな。」
なんて言いながら、私の頭を撫でる皆。
【寂しかったろ?】
【不安だったろ?】
【怖かったろ?】
【頑張ったな】
【偉いぞ】
【もう大丈夫だからな】
【独りじゃねーぞ?】
なんて言ってくれる。
私は
【ありがとう】
を嗚咽の混じった声で何度も何度も必死に伝えた。
この世界に来て、初めて泣いた瞬間。
私は優しいオッサン達に囲まれながら、この世界で独りじゃない事を知った。