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「すっげえ!」
小さなガラスの器に、綺麗なプリン様が鎮座なされている。
「トラさん、すげぇ。ちょーうまそう」
きれい!売ってるのみたい!と興奮MAXで連呼し続けている廉次に、泰虎は「はい」とスプーンを渡した。
「そんなすごくねぇよ」
笑いながらなんでもないことのように言う泰虎に、はしゃぎすぎたかな、と廉次は控えめに「でもすごい」と返した。
「手作りお菓子なんて、クッキーとチョコしか食ったことない」
それも学校の女子が作った、めちゃ固クッキーとバレンタインの義理チョコ。
「いただきまーす」
「どうぞ」
言いながら泰虎はもう食べ始めている。
プリンを掬って口に運ぶ。
口に広がる、カラメルのほろ苦さとカスタードの仄かな甘み。
「…!」
廉次の目がキラキラと輝いた。
「…うまー」
これを、本当に作れる人間がいるなんて。感動だ。
一気に食べてしまうのがもったいなくて、少しづつ口に運ぶ。
(やっぱりすごいって、トラさん)
「うまそうに食うねー、廉ちゃん。甘さとか、どう?一応控えめにしてみたんだけど」
「ちょうどいいっす」
たぶん、もっと甘くてもそれはそれで美味しいだろう。もちろん、この甘さでも大変うまい。廉次のツボをつきまくりだ。
「疲れてたからかな、甘さが体にしみいる」
(手作りのお菓子っていいよなー。愛、感じるわー)
じーん、としてスプーンをくわえながら言うと、泰虎は笑顔になった。
「作ったかいがあるね。気に入ったなら、また作ってあげるよ」
「マジっすか!」
「マジマジ」
「やったー」
泰虎は空になった器をシンクに下げると、子どものように喜んでいる廉次を視界の端におさめ、口角を上げた。
(ピュアピュアだなー。さすがは亜紀さんのお墨付き)
目に狂いはないようだ。
(これなら引き合わせても大丈夫かな)
「ごちそうさまっす」
食べ終えた廉次が、同じように器をシンクに持ってくる。
「そういえば、トラさんってドラムも叩けるんですか?」
部屋を振り返りながら言う廉次に、泰虎はにっこり笑った。
部屋の隅には、ドラムセットが、そこだけ綺麗に片付けられている。
「ん。中二の時にもらったんだ。歓迎会の時に会うと思うけど、隣と上に住んでる奴らと去年からインストバンド組んでんだー」
ま、組んでるっていっても文化祭で出し物の一環として出るくらいなんだけど、と少し苦笑混じりに答える。
(お菓子作れて、ドラムも叩けるってハイパーだな)
「…でさ。聞かれたついでで悪いんだけど、相談があります」
感心していると、少し言いにくそうに泰虎が口を開いた。
「ドラムって、なかなか動かせないんだわ」
それは…そうだろうな。廉次はこくんと頷いた。
「それで、練習を、ここでやってたんだけど、さ」