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「いや、全然かまわな…」
一歩、中に入って廉次は固まった。
一目でわかるほど、かっきりと部屋は半分にわけられていた。
右半分には、段ボール箱が二つ、衣装ケースが一つ。窓際に机と椅子、あと、家で廉次が愛用していた一人掛けソファが置いてあった。
左半分は、…なんだろう、洗濯物…のような、本…紙類…のような…。とにかく様々な物が混然一体となって、高低差を作りながら奔放に積み上げられている。
「いやぁ、慌てて片付けようとしたんだけど…。なんとか青柳のスペースは確保したんだけど、俺んとこがまだ片付いてなくて。悪い。汚くて」
(よ、寄せただけだろ!)
片付ける、片付けないの問題ではない気がする。
絶対、この人、自分の荷物、寄せただけだ。
廉次はとりあえず、部屋に入って扉を閉めた。
俺、荷物少ないから、こっちのスペース少し貸してやろうかな。いやいや早まるな、こういうのは初めが肝心だろ。甘い顔してなめらたりしたらヤだし。
「…と、とりあえず、部屋、片付けますか。…お互いに」
「だな」
いろいろなことに関しての明言を避け、廉次は手始めに自分の荷物を片付けることにした。
体は疲れていたが、今この時、勢いにのってやってしまわないと、このまま床にぶっ倒れてしまいそうだ。
そうして廉次は、同室のイケメンさんと、黙々と掃除に取り掛かったのだった。
それから二時間後。
「だぁからトラさん!下着類はこうやって、小さく丸めて収納しろっつうの!かさ張るだろうが!」
「え、こう?」
「そうそう」
もともと荷物が少ない廉次は自分の片付けを早々に終え、いつまで経っても一向にモノが片付かない泰虎の手伝いを始めていた。
「よし、服は全部クローゼットに納まったな。洗濯物はあと20分で終わるから、その間に、紙だの本だのかたしましょう」
「廉ちゃん、一休みしよーよ」
「…えー、こういうのって一気にやっちまわねぇと、なかなか終わんねぇっすよ?」
「廉ちゃん、甘いの好き?」
おい、人の話聞け。お前の片付けなんだぞ?
そう思いつつも廉次は口を開いた。
「…嫌いじゃない、けど」
そう言うと、泰虎はぱあっと顔を輝かせた。
「良かった。実はおやつにプリン、作っといたんだー」
「へ?」
おやつにプリン。
「え?え?トラさんってプリン作れるの?」
「ん。俺、得意なんだよねー。お菓子作り」
廉次は、こくん、と唾を飲み込んだ。
「すげぇ」
プリンって、買うものだと思ってたよ。手作り。手作りかあ…!
なぜかクローゼットの中にある、小さめの冷蔵庫から取り出されたプリンに、廉次の目は釘付けだ。