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親が転勤族で小さい時はしょっちゅう転校してましたー、というのはわかる。何か仕方ない感じもするし、すげぇ自然だと思う。
でも、高校だぞ?
それなりに努力して成績上げて、ようやく入ったとこだぞ?
家から近い公立高を受けて、ハラハラドキドキしながら、合格した時はもう本当に嬉しくて、その夜は家族三人でケーキ食って喜びあったのに。
あの努力とドキハラと喜びの証であった高校生活。それがたったの一年で別の学校に転校というのは如何なものだろうか。
というか、去年は高校受験、今年は編入試験、と、うっかり二年連続で入学試験を受けなければならなかった自分がとても可哀想な気がする。しかも来年は大学受験ときたもんだ。
(まぁでも仕方ねぇよな)
廉次の脳裏を、恥ずかしそうに、でも幸せそうに笑う母の顔が過ぎった。
今まで廉次と兄の二人を女手一つで育ててくれた母親が、この度再婚することになったのだ。
気丈な人で、弱音も吐かず、働いて働いて何一つ俺たち兄弟に不自由な思いをさせたことがない、すげぇ人。
その分、下手な男よりも我慢強くて有能なものだから、結構美人なくせに男にモテず、本人もどこか男を敵視していたようで浮いた話が一つもなかったのだが、やはり、強くて有能な女は、さらに強くデキる男と巡りあうものらしい。
挙動不審な母を問い詰めたところ、外資系大手企業の支部長との交際が発覚。
「でも、私はあなたたちが成人するまでは、このままを維持しようと思うの」
真剣な表情でそう息子たちに告げた母親に、当の息子二人は「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げた。
「アホじゃねぇの?あんたくらい可愛げのないしっかりした女と付き合ってくれる物好きを、俺たちを理由に逃すなよ」
と兄。
「そーだよ、確かに俺たちまだ大人じゃねぇけど、母親に好きな人ができたからってどうこーなっちまう程ガキでもねぇよ」
と俺。
そして勢いに乗って、相手の男性と食事会になだれ込み、あれよあれよという間に入籍。最も多い苗字で常に五位以内にランクインする「高橋」姓とバイバイして、見たことも聞いたこともない「青柳」姓にコンニチハ。
…格好良くねぇ?青柳って。
や、別に高橋が嫌いだったわけじゃなくて、母方の実家の人たち、皆良い人ばっかりだったし。まぁ、画数が多いのは面倒くさいなって思ったけどさ。そのくらい。
とにかくこれで、ようやく母親が幸せになってくれる!って俺たち兄弟はひっそりと祝杯を上げたもんだ。
そのくらい、あの人は子どもに苦労させなかった。自分一人でがっつり頑張ってたんだ。だから、あの人がようやくその辺の主婦と同じような生活を手に入れられるのを喜んだ。
ん・だ・け・ど・よー。