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BLUEMAP-青い世界の物語-  作者: 石榴石
~囚われの少女~『上』
9/30

第七幕『千一夜の夢』

 ランプに灯った一本の火。その火が消えると、私の一日は終わり。

――ただ火の消えゆくのを見つめながらその日を終える。

 そんな夜を何千夜と過ごしたのだろう。

 一本のろうそくは、私の舞台照明。

 暗闇の中で唯一、私を見てくれていた存在だった。

――凍える夜は指先を温めて、寂しい夜は揺れる火に慰められる。

 その火の生み出す影は、数々の物語を生んだ。

 それによって私は、幾夜となく癒された。

 自分に与えられた、ただ一つの光。色々な物語を教えてくれたその光は、一本のろうそくは、どれほど私の支えとなっただろう。

 しかしそれにも、別れの時がやってくる。



――



 “レナ・オレリア”――姫と同じ名を名乗った少女は、最後のその夜、なかなか眠れないようだった。

 あれからさらに夜が更け、もうすでに明かりは消えていた。


――どうせなら最後は、最高の夢を見たい。

 でも。もしかしたら、今日に限って何も見られないかもしれない。

 暗闇の中で目だけは冴えていて、明日自分が死ぬという事実と向き合わざるを得なかった。

 考えるだけでも恐ろしい。けれど、今はどうしてもそんな事ばかりを考えてしまう。

――命が尽きた後はどうなるのだろう。永遠に夢の中を彷徨うのだろうか。


 明日は永遠の夢が始まる。

 どうせ生まれ変われるのなら。次は、自由に空を飛べる鳥になろう。それなら命も惜しくはない。

 こんな人生なら、失っても何も嘆くことはない。惜しむべき命もどこにもない。

 在っても無くても変わらない。そんな人生は、一体どんな風に終わるというのだろう。

 果たして私は鳥になれるのだろうか。未練を残したままの魂は、この世に浮遊し続けてしまうのだろうか。

 そう。在るのか無いのか分からない、こうして生まれた世への未練を残して。


 考えるのは最期の瞬間の事ばかり。明日はどんな結末を強いられるのだろう。

 民衆たちの晒し物にされ、首を胴体から切り離されて。

 木の箱に詰められ、無数の剣に刺し貫かれて。そうしてその骸は、見たこともない恐ろしい魔物の餌にされるのか。

 狂った脳裏が映し出す映像に、恐怖どころかひきつった笑いさえも沸いてくるようだった。


 膝を抱え、顔をそこに突っ伏した。

 死ぬという恐怖を前に、少女は泣いているのだろうか。

 泣きたいのだろうか。

 それともそんな感情さえ、もはや消え失せてしまったというのか。

 自分自身が感情を殺すのは、とうの昔に慣れたはずだった。

(ああ……私が死んで、誰か悲しんでくれますか?)

――悲しんでくれる?

「誰が……」

――それは一体……誰が。

 祈りとも願いとも言えないような、そんな皮肉を少女は呟く。誰に言うでもなく、自らを嘲笑うかのように。


 少女は思う。望んでもないのに生まれる事を強いられ、勝手に奪われるというのか。

「何て自分勝手なの?」

 吐き捨てる。

「命とは何ですか? 運命とはどこまで勝手なのですか!?」

 天に嘆く。

 そして少女は嘲笑した。

「ああ、神様……。運命によって私を弄び、掌で命を転がし、そして握りつぶす。それで満足でしょうか? さぞ滑稽な事でしょう? こんな姿を見て、お笑いになっているのですか?」

――そうだというなら、それも本望。それでも、暇つぶし程度でしかないのだろうけれど。

 そう思う事で自分に暗示をかける。

「せめて――それならせめて、あなた様の涙を下さい」

 心の底にある、隠しきれない感情が湧き上がってくるような気がした。

 彼方の空を仰ぎ、恵みの雨を待ち望む。勿論雨などは見たこともないのだが。

「一滴ばかりで構いません。花のように短い人生を演じた私へ、一滴ばかりの憐れみを」

(淡く、優しい。終わりのない夢をください……)

 少女は何かを求めてか、虚空へ手を伸べる。

「お望みとあれば。今すぐにでも、あなたの元へと飛んでいきたい」

――姿を鳥に変えて。

 生まれ変われるのならば。何も知らない、不自由や自由でさえも知らない、罪深き鳥の姿に生まれ変わりたい。


 少女の手のひらにあったのは、一滴のしずく。



――



 そうしてさらに夜は更け、空には赤く燃える火が登ろうとしていた。


 その頃王宮には、何やらざわざわと風が吹き始めていた。

「女王様、大変です! ――」



                              -第八幕へ-


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