序幕『光』
「運命」とは何か?
――それは、”出逢い”によってはじまり、動き出す。
一人の少年と少女が出逢うのは
「運命」の導きなのだろうか。
――ここから、動き始める物語。
「お姫様。お前をさらいに来た――」
それは、夜の朝日、といえばいいだろうか。
闇は、生まれて初めて『光』を浴びた。
息もできない程の爆風が、少女の髪を彼方へと連れてゆく。
その髪は、異様なくらいに長かった。
眩い光と風を受け、薄桃色の髪は宙を泳ぐ。
赤の瞳は瞬きを忘れ、足は力を失い、床に座り込んだまま動けなくなっていた。
そもそも何が起こったのか、少女には見当もつかなかった。
起こっている事は一体何か、今のこの感情に名前があるなら、
教えてほしい――
光というものは皆無――窓のない部屋。
ここは、分厚く固い石壁に閉ざされた部屋だった。
少女はこの、常夜の世界のなかで囚われるように、暮らしていた。
この部屋の暗闇を、生きる世界の全てだと信じていたのだ。
それは一瞬にして、爆音とともに覆る。
まさに、青天の霹靂――それは少女にとって、夜に太陽の光が差し込んでくるかのような、予想もつかない出来事だった。
少女の目の前に浮かぶのは、黒い人影。立ち込める煙の向こうに何者かがいる。
得体の知れない感情が湧いてくる。――恐怖や絶望の類だろうか。
突然の出来事に言葉が出るはずもない。
分厚かった壁が一瞬で吹き飛び、少女の世界は反転した。
何かが爆発した音に驚くのは、当然だ。驚くなというほうが無理な話である。
打ち震える少女に、人影は手を差し伸べた。
「俺は、お前を解放するために来た」
男の声とともに黒いマントの姿が見えると、起こっている事が何かなど、少女にとってはもうどうでもいいことだった。
少女の瞳は、赤色の宝石のように光を湛えたまま、目の前の人物から逸らされることはない。
これから起こる出来事に対する、期待と希望しか見えないような表情だ。
――この景色を、夢にまでみたのだから。
「この手を取るかどうか、お前が決めるんだ」
少女に意思を問う。
「自由が欲しいか? それとも――」
その問いに対する答えは、次の言葉を聞くまでもなく決まっているだろう。
――
巡り合わせか、悲劇か。
導かれた者たちの運命は、希望か絶望か。
それを決めるのは、物語の結末次第。