白いブラウス
ずっと続くと思っていたから。
私は貴方といる時間に何の疑問も持たなかったの。
[その匂いはいつの日か]
いつもと同じ朝を迎える。
暖かい日差しの中、人通りの少ない駅で待ち合わせる。コンビニに寄るのも習慣で。
同じ商品のペットボトルを持って、ガムとかグミを添えてレジに出す。
貴方の選びきれなかったお菓子は、私が片方買って貴方とわけあって。そんな毎日が楽しかった。
優しい二人だけの朝。静かな住宅街を抜けて、学校に向かう。
だけどいつからだろう。少しずつすれ違っていく。
朝もいつしか一人になって、貴方と違う飲み物を買って。気付かない間に好みの大人になった貴方は、私の知らないお菓子を食べていた。
だけど私が空気を昔に戻したくてあげたお菓子を、貴方は嬉しそうに笑って受け取ってくれた。
「ありがとう、俺これ好きなんだ」
その優しい初めての嘘、私は分かっていたよ。許せなかった、嘘を吐くならもっと酷い嘘にしてほしかった。
ずっと傍に居られる、そんな幻想を抱かせるような嘘なら要らないのに。
昔から隣は貴方だけだって決まってた。今思えば下らない思い込みなのに、あの頃の私たちは愚かにもそれを信じていたの。
そんな油断も許されるくらい、ずっと一緒にいた。何をするにも二人だった。
そう思っても仕方なかった。距離は常にゼロで。
笑えばすぐ笑い返してくれるところに私達は居た。
誰もが羨む二人だったのは、いつの日まで?
なんとなく気付き始めたのは、別れる数ヶ月前。
カウントダウンは始まった、いつ終わっても仕方ないような状況まで来てしまった。
どこから間違ったのかなんて、今までを振り返っても分からない。
ただ確かなのは、未来なんてないってことだけ。
二人、海岸沿いをデートと称して嘘吐いて
歩いていた時、私は笑って告げた。
「先のことは分からない。だからそれより、思い出に浸りたいな」
貴方に少しの反抗。
全部分かってるよって、言葉の裏で伝えた。
会話も少なく、ただぼーっと波寄せる海を見つめた。
時折吹く潮風が、髪をさらっていく。日が落ちかければ、夏でもそれだけ寒くなる。
貴方は軽く羽織っていたブラウスを、私の肩にかけた。
「それ、着て帰っていいから。風邪引いたら大変だろ?」
そのブラウスからは、ほんのり貴方の匂いがした。余計に胸が締め付けられる。
馬鹿……。
心の中で呟く。優しくしないで、忘れられない思い出が増えてしまう。
「ねえ、ここには誰も連れてこないでね。私達だけの場所にして」
最後のお願い。
貴方はよく分からない笑みで頷いた。
もう貴方の優しさにも、我が儘にも振り回されることはない。
「幸せになってね」なんて言えるほど私は大人じゃないから、そんなこと願わない。
貴方の傍にいれなかった、残酷な運命恨むだけ。
貴方も私に「幸せになれ」なんて言わなかった。こんなとこはまだ二人似てるんだね。
さよならを届けに行く途中、一番大事なものを手放す決心を拾った。
きっと大丈夫だから。思い出浸りつつも、前を向くから。
だから今だけは貴方のブラウスに顔を埋めて、少しだけ泣いてもいいかな。
いつかこの匂いも、思い出と一緒に掠れていくんだろう。
とある曲をモチーフにしたお話です。